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 今日のデートの待ち合わせ場所はナタリーのアパート。エミリオが迎えに来てくれるのを待ちながら、ナタリーは玄関の姿見で身だしなみをチェックする。

 本日のコーデは、白のブラウスの上にベージュのワンピースを重ね着したもの。腰紐をぎゅっと結び、同じ色のヒールを履いて、耳には前のデートで買ったルリマツリのピアスをつけている。いつもの鮫ピアスは封印で、フェリシアおすすめのトレンドカラーのリップを薄く塗った。


 そんなナタリーを見たエミリオの反応は……。

 呆然とナタリーを眺めて数秒後、顔をボッと赤くして慌てたように胸を張る。


「ナタリー君、綺麗すぎる!!やはり君は太陽のように眩しく私の目を潰しかねないほどの輝きを放ち――」


 得意のナルシスト技で切り抜けようとしているらしいが、内容はめちゃくちゃで、いつもの秀逸さはどこかへ消えてしまっている。


「エミリオ先輩、落ち着いてください。ほら、深呼吸して。今日はエスコートしてくれるのでしょう?手を繋ぐのも好きですけれど、エスコートされるのもどきどきしますね」


 微笑んでそう告げるナタリーに、エミリオは余計に顔を赤くして固まる。


「……ナタリー君は正直すぎる」

「エミリオ先輩こそ、私みたいに思ったこと口にしたって良いのに」


 ナタリーそう言って、手で顔を抑えて項垂れるエミリオの腕をさらりと取った。



◻︎



 エミリオお勧めのブティックでドレスを眺める。


「どれも綺麗で迷っちゃいますね」

「気に入ったのがあったら教えてくれ」

「うーんと、逆にエミリオ先輩が気になるドレスはありますか?」

「私が?」


 目を見開くエミリオに、ナタリーは頷く。


「エミリオ先輩に選んで貰ったものなら間違いないだろうし、何より選んでもらえるのが嬉しいんです」

「そしたら……いや、でも…………いや、これが良い」


 エミリオが躊躇いながらも手に取ったのは、裾になるにつれ深い紺色から空色になるエンパイアラインのドレスだ。


「綺麗……。何だか、空の移り変わりみたい」


 感動するナタリーに、ナルシストモードに切り替わったエミリオが言う。


「エンパイアラインのドレスは他のドレスよりお腹にゆとりがある。ナタリー君は食いしん坊だからこれが良いだろう!」

「ちょっとエミリオ先輩、定員さんに聞こえたらどうするんですか!」


 珍しく立場が逆転して、エミリオにナタリーは翻弄される。

 確かに出会った時、ナタリーがエミリオに放った最初の言葉は、食べ物が欲しい、だったけれど。


「お客様、お目が高いですね、そしてパートナー様のことを気遣われるそのお心とっても素敵です!」


 とっくに背後で控えていた店員の女性は、品のある笑顔で目の前のカップルを眺めていた。

 ドレスを選んでくれと言ったのはナタリーで、エミリオはそれに応えてくれた。だからナタリーは恥ずかしがりながらも、ドレスの採寸に向かった。

 残されたエミリオに、店員は満面の笑みで言う。


「お客様、独占欲が強めなんですね」


 自分の考えが明け透けだったと気づき、エミリオはつい自嘲する。


「私は、彼女の前でだけは、いつも余裕のない男になってしまうんです」


 例えグラデーションであっても、自分の目の色と同じ色の入ったドレスだ。きっと祝賀会では周囲に”そういう目”で見られる。そして、それを期待している自分がいる。


「余裕のない男、大いにアリだと思います!それって愛ゆえですよ、愛ゆえ!」


 店員はどうにもナタリーと似たタイプで、思ったことをずばずば言うらしい。店員にさえナタリーの気配を感じる自分は、かなり重症だと思いながらエミリオは笑みを返してソファに座る。


 ――ああ、もう彼女に会いたくなってきた。


 つい先程までそばにいたし、この後すぐに再会できるのに、どうやら待つ気概はどこかへ消えたらしい。

 エミリオは支払いを済ませ、待合室で茶を飲みながらナタリーの帰りを待った。



◻︎



 ドレスは採寸が正式に済んでから郵送してもらう形となり、次はエミリオのタキシードを……と思ったら、どうやら騎士団は祝賀会では軍服を着る決まりらしい。

 ドレスはエミリオに贈ってもらう形となってしまったので、ナタリーは何としてでもお返しをしたいと考える。


「……うーん、ブローチ、万年筆、ネクタイ?」

「ナタリー君、何を考えているんだ?」

「先輩への贈り物です。お返しがしたくて、何が良いかなって」


 考え込むナタリーに、エミリオは「いや」と首を横に振る。


「君とデートできている。それだけで私にはもったいないほどのご褒美だ」


 エミリオは、いつもは緊張しいだが、たまに素の状態でさらりととんでもないことを言う。

 ナタリーは不意打ちに顔を真っ赤にした。


「っ!そりゃあ、私だってそうなんですよ。だからそれはお返しに入りません」

「えぇ?そしたら、そうだな、先ほど候補に挙げていた万年筆なんかは良いな。仕事中もナタリー君を感じられる。他にはブローチも良い。式典ではブローチの着用くらいは許されるから。我儘言うとどこかに君の色が入ったものが希望だなぁ。あとはハンカチやスカーフなんかも良い!君とお揃いでつけられたら素敵だ!」


 力説するエミリオに、ナタリーはまた食らってしまう。どうしてこの人はこう、ふとした瞬間に素直になるのか……。


 結局ナタリーは、街中を歩いている中で目に入ったショーガラスに展示されていたブローチを買うことにした。

 花モチーフの、小さな紫が所々散りばめられた金のブローチだ。

 自分のルリマツリのピアスと対照的でかなり良いのではないかと思った。

 エミリオも気に入ったのか、大事そうにブローチの入ったビロードの箱をしまう。

 目的の物を買い終えた二人は、近場のカフェで休憩することにした。



◻︎



 人通りがよく見えるとあるカフェのテラスで、大好物のタルトを食べながら休憩していると、ふと「ナタリー!」と自分を呼ぶ声がした。

 顔を上げると、数歩離れたところにミシェルが立っている。隣では旦那さんが子供を抱き抱え、お腹の膨らんできた彼女に連れ添っている。

 ナタリーはエミリオに一言断ると、立ち上がって彼女の元まで向かった。


「偶然ね、ミシェル。今日は家族でお出かけ?」

「ベビー服を見に来たの。今は買い終わって、王都図書館へ向かうところよ」


 ミシェルは、図書館に新たに設置した読み聞かせ部屋で、息子のカシム君に絵本の読み聞かせをしてあげるつもりだと言う。


「カシムも一緒に絵本を読むお友だちができて、この頃すっかりご機嫌だわ。ナタリーの方は?」

「私はエミリオ先輩とデート中よ。祝賀会用のドレスとか色々買っていたの」

「まぁまぁ!」


 ミシェルは席に残るエミリオの存在を確かめると、彼に軽く会釈をし、満面の笑みをナタリーに向ける。


「すごく幸せそうね。前のナタリーだったら式典なんて絶対出なかったんじゃない?これも彼のおかげって訳?」

「それはもちろん……うん」

「ふふ、正直でよろしい。今回私は祝賀会には参加しないけれど、遠くからあなたとエミリオ様に祝福を送っておくわ!おめでとう!」


 ミシェルはそう言うと、旦那さんの腕の中で早く図書館に行きたいと主張する息子に苦笑し、「それじゃあ、また」と去っていく。

 ナタリーも彼女たちを見送って席へと戻った。


「一人にしてすみません」

「いやいや素敵なご友人じゃないか。おめでとう、なんて嬉しい言葉をかけてくれて」

「そうですね。彼女とは掴み合いをした仲ですから、何だか感慨深い気がします」

「掴み合い……」


 エミリオはそのシーンを想像したのか、苦笑する。

 ミシェルとの出会いの話をきっかけに学院時代の懐かしい話が盛り上がって、しばらく経った頃。

 今度はエミリオの方が声を上げた。


「ジャンじゃないか!」

「副団長!ナタリーさんも!偶然っすね!」


 ジャンは身なりの良い服に包まれて、その手に大きな袋を握っていた。

 エミリオの視線が袋にあると気づいたジャンは、すぐに説明をしてくれる。


「筋トレグッズを買ったんです。新作のプロテインも同期が美味かったというので試しに買ってみました。騎士団の休憩室に置いておきますね!」


 ジャンは、最近は騎士の仕事に精を出しているようだ。一度坊主にした髪の毛が今は少し長くなって、爽やか青年に戻りつつある。


「デートの邪魔しちゃアレですから、俺はもう行きます!俺がいうことではないですけど、お二人とも仲良くね!!」


 元気よく手を振って帰って行ったジャンに、ナタリーは「大型犬みたい……」と呟く。

 その隣でエミリオもその通りだと苦笑した。


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