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 マクシミリオンの誤解が解け、フェリシアに会いに行こうと思うナタリーだが、翌日は元よりエミリオとの二回目のデートの約束が入っていた。

 

 デート場所は、王都から一時間程度馬車を走らせたところにある港町。新鮮な魚介はもちろん、商都として世界中から集まる様々な物資が露店で売られており、イベントも開催されている賑やかなところだ。

 賑わう街中を二人並んで散策しながら会話を交わす。エミリオは騎士団の後輩の話や趣味の読書の話などで、ナタリーを楽しませてくれる。


「騎士団の中で恋人の誕生日に何を贈るか議論になったことがあって、ピアスやネックレス、ブローチに香水、花束など様々なものが挙がった。その中で一人、ダンベルと答えたものがいて……」


 エミリオは思い出し笑いで笑窪を浮かべている。


「実際に贈ったことがあるらしい。反応はどうだった聞くと、案の定ビンタを食らったと。男同士の贈り物だと力説している者もいたな」

「老若男女問わず大人気の騎士団の方々にとっても、女心は難しいものなんですね」

「そりゃそうさ。ちなみにナタリー君だったら恋人に何を貰いたい?」

「うーん」


 ナタリーにとっての恋人は、お試しとはいえエミリオが初だ。

 異性に何かを贈られた経験などないから、よく分からない。


「……お花とかですかね。いやでも、私はズボラなのですぐ枯らしてしまうかも。普段使いできるアクセサリーなら、毎日身につけられるし好きな人の存在を感じられて嬉しいのかな?」

 

 考え込んでいると、ふとエミリオが足を止める。ちょうど露店のアクセサリー店に通りかかったところで、彼はナタリーにあるものを見せてきた。


「こんなのは?」


 彼が手に取ったのは、青い花のデザインのピアスだ。

 ナタリーはその可愛いらしさに思わず目を見開いた。


「かわいい!ルリマツリみたいですね!」


 ナタリーはピアスをまじまじと見つめる。エミリオを想起させるルリマツリの花にそっくりなピアスだ。…………正直、かなり気になる。


「兄ちゃん、嬢ちゃんにプレゼントしてやったらどうだい?恋人に花のピアスを贈るっつーのは、俺の祖国ではプロポーズなんだわ!」


 露店商のおじさんは思い出をしみじみと振り返りながら言う。


「俺もその昔は妻に贈ったものさ。可愛らしいポピーの花のピアスを。兄ちゃんたち、それ買ってくかい?今買うなら一割だけ負けてやろう」

「今すぐ買います!」


 声を上げたのはナタリーの方だ。


「ナタリー君!?」


 驚くエミリオを振り返ってナタリーは言う。


「欲しくなってしまったので!」


 いそいそと財布を取り出す。値段は気にしない。


「兄ちゃんが贈るんじゃなくて、嬢ちゃんが買うのかい?まぁいいが、随分男前な嬢ちゃんだな!」


 おじさんは驚きながらも、言い値より三割負けてくれた。

 支払いを済ませて商品を早速耳につける。花が風に揺れる重さを感じて、ナタリーの胸が高鳴った。


「似合いますか?」

「当然だ!この私の美的センスに言わせれば君ほどそのピアスを魅力的に身につけている者はいない!」

「ふふ、嬉しいです。あっ、あっちのお店にもピアス売っているんですね」


 ふと、向かいの露店のピアスにも目が留まる。そして、ビビッと脳天を貫くような素晴らしいデザインのピアスを見つけた。


「まぁ!サメデザインのピアスなんて初めて見たわ!かわいい!ちょっと見てきますね!」


 ナタリーは思わず向かいの露店へと小走りで向かう。

 残された露天商とエミリオは、その後ろ姿をぽつりと見送る。

 ふと、露天商がエミリオに話しかけた。


「面白い嬢ちゃんだな、兄ちゃん」

 

 その声に振り返ったエミリオは、ふっと微笑んだ。


「素敵だろう?」

「兄ちゃんも男前だし、お似合いじゃないか。頑張れよ!」

「ありがとう。――ああそうだ店主、私はこちらを頂こう。これで足りるかい?」


 気付けば、エミリオは別のピアスを手にしている。そのまま驚く露天商にさらりと硬貨を払い、エミリオは颯爽と去っていく。


「これはこれは……」


 露店商は、硬貨が手渡された手のひらを広げたまま、眩しいものでも見るかのように、ナタリーに追いつくエミリオの背中を見つめた。



◻︎



 ナタリーはご満悦だった。


「かわいいピアスが二つも買えて大満足です!普段使いはサメの方にして、お花の方は大事な日に付けることにしようかしら……」


 どう使い分けるか悩むところだ。


「いや、逆にしよう。逆もちょっとアレだが、サメの方は……なんというか独特だから、気の置けない仲の人たちと会う時にした方が……」


 ところどころ言い淀みながらアドバイスをくれるエミリオ。だが彼のセンスの良さは昔から知っているから素直に言うことに従おうと思っていたところ、ふと、ナタリーはエミリオの耳にゆらゆらと揺れるものがあることに気づく。


「エミリオ先輩もピアス買ったんですね。よくお似合いです!」


 エミリオのピアスは、紫の石がついたシンプルなデザインのものだ。彼の白金の髪の毛によく映えている。


「アメジストですか?綺麗な紫色!」

「バイオレットの花の色によく似たものだ。この私によく似合うだろう!」


 長らくお目にかかることのなかった、ナルシスト版エミリオ・バルテルトが目の前に現れる。

 ナタリーは昔のノリのように彼を褒めちぎった。

 

「ほんとによくお似合いです!格好いい!エミリオ先輩って、バイオレットがお好きなんですか?」


 そう尋ねたナタリーに、エミリオは少し間を置いて答える。


「……バイオレットは、君の瞳の色だろう」

「あっ」


 そういえば、ナタリーの瞳の色はバイオレットだった。


 ――私の瞳の色を選んでくれたということ……?

 

 自覚すると、途端顔が熱くなっていく。嬉しさと恥ずかしさとで胸がいっぱいで、自分は今絶対に変な顔をしているに違いない。

 そんなナタリーを見て、エミリオの顔も真っ赤に染まっていく。


 二人して続く言葉が出てこない。


 沈黙を打ち破ったのは、ぐるぐると鳴ったエミリオのお腹だ。

 さらに顔を赤くした彼は、照れ隠しで顔を背けたまま言う。


「……話は変わるが、そろそろランチにしないかい?」


 ナタリーは緊張がほぐれ、つい吹き出した。





 港町でランチとなれば、浜焼きに海鮮丼だ。ナタリーは新鮮な魚介に舌鼓を打ちながら、エミリオに仕事での悩みを打ち明けていた。

 直属の先輩であるアイリスは相変わらず冷たいが、彼女のいう意見も一理あり、なかなか案が通らない現状が続いていた。


「公共空間をより良くするための新たな取り組みってよく分からなくて。抽象的すぎて何もアイデアが浮かんでこないというか」


 網の上の牡蠣をひっくり返しながら話す。

 この時期は牡蠣が美味しい。生のままだと危険だから、よく焼くように店の人に言われた。

 エミリオも向かいで焼き上がった帆立を開きながら、アドバイスを口にする。


「公共空間と一口に言っても色々な場所がある。道路や公園、広場に美術館、図書館など様々だ。まずはどこか一箇所に視点を定めて、その場所で生じている不具合や問題を見つけ出してみてはどうだろう」


 確かに特定の場所に焦点を当てて考えるアイデアは良いかもしれない。


「道路、公園、広場、美術館、図書館…………そうか、図書館も公共空間の一つなのね」


 どうして気づかなかったんだろう。

 王都図書館ではフェリシアが働いている。


(彼女が働きやすいような環境作りを考えれば良いのよ)


 現状まだ彼女に謝ることさえできていないけれど、彼女のためにできることがあるなら尽力したい。

 彼女のような人たちも、翳りなく笑顔で暮らせたり、働けたりする世の中にしたい。

 ナタリーの仕事なら、それが可能だ。


(そうね。図書館に集中して、色々な人が利用しやすくなる仕組みを作れば……定期的なイベント開催とかも良いかも!)


 頭の中でアイデアを精一杯出していくナタリーに、エミリオがくすりと微笑む。


「ナタリー君だからこそできることがきっとあるはずだよ」

「私だからこそ……。私にできるのかしら……」

「できるさ。やってみればいい。失敗しても、得るものはある。行き詰ったらまた私を頼れば良い」


 エミリオの励ましに背中を押され、ナタリーは決意を固める。


(やってみよう。私をそのまま見つめてくれたフェリシアに、もっと素敵な毎日を過ごしてもらうために)


 まずは、謝らないとだけれど。

 それに失敗しても、その先でエミリオが励ましてくれるのならば、へこたれないで居られる気がする。


「エミリオ先輩がいるなら確かに心強いです。私、頑張りますね」


 ふん、と気合を入れたナタリーを見つめ、エミリオは優しく目を細めた。


「ああ、そのためにも海鮮で栄養をたっぷり摂りたまえ」

「はい!エミリオ先輩もたくさん食べて下さいね」


 ナタリーは早速焼き上がった牡蠣を網から二人の皿へと移した。



 




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