3、緑(りょく)の亀
アイツらが羨ましい。仲は悪いのに暴走してしまう奴らを救ってしまえて居るのだから。
「俺だって…」
拳をいくら強く握ったって、俺には救う力なんて無い。
「妹」さえ救えない俺に、誰かを救えるワケ無いんだ。
「イジメ」なんてものは、最近ではあまり見かけないし「ジグ」が認められてから大分良くなったのだろう。それでも人のストレスは無くなったりしない。小さな不安の積み重ねで「暴走」を果たす人も多い。
現にこのように、俺の目の前で暴走する生徒が居るんだ。
「またか…」
俺に悪気があるワケじゃない。憎むべきはこの体格と顔だ。俺がどれだけ優しくしてるつもりでも皆怖がってしまう。実際は人を殴った事もないのに「殺し屋」って呼ばれた事もある。あの時は流石に泣きそうになった。
まぁ、今も若干泣きそうではある。俺にぶつかって転んで、大丈夫か声をかけようとした矢先に姿が変わってしまった。臆病そうな少女だったし色々溜まっていたんだろう。俺が「切っ掛け」になるのはいささか不愉快なのだが。
「あっ!また暴走させてる!」
そして見つかるんだ。緑の髪を靡かせた少女に。
「お前あれほど気をつけろって言ったのに!」
この学校で暴走を鎮める奴らの一人、「龍忌」。口は悪いが、誰よりも暴走を鎮める事を考えているであろう少女だ。そんな偉い少女に俺は深々と頭を下げる。
「すまねぇ!事故とはいえ俺の責任だ!」
「言い訳は後で聞いてやる さっさと退け!」
情けない、俺の半分くらいしか身長の無い少女に頭を下げて逃げるなんて。俺だって、何か力になりたいのに。下唇を強く噛み締めながらその場を去ろうとする。
実は俺にも「ジグ」は居る。でもこの状況だとまるで役に立たないのだ。
「くそっ…意外と手強い…!」
後ろで龍忌が苦戦している。漢なら助けてやれよと自分を鼓舞するが、どうにも出来ないんだ。下唇からは血が流れ始めていた。
(ならせめて…「守る」だけでも…!)
俺はジグに問う、アイツの手助けをしたいと。
「…」
言葉は返ってこない。「イカメン」らしいや。
それでも力は貸してくれる。イケメンな亀で「イカメン」だ。
「おおおおおお!!」
大きく叫びながら龍忌の元へ戻る。驚いた様子の龍忌だったが、すぐに戻った意味を察してくれた。
「共闘してくれるのか 足引っ張んなよ?」
「俺は…守る!」
イカメンの力を得た俺は、甲羅のような盾を至る所に装備した状態になっている。攻撃の手段は「無い」。だがその硬さは折り紙付きだ。
「守ってくれるだけでも嬉しいもんだ!」
暴走した怪物の攻撃を受け止める。そしてその隙に龍忌が、大きい大剣で「俺ごと」吹き飛ばした。
「いい防御力だ!後でストレス解消のサンドバッグやってくれない?」
「…絶対いやだ」
吹き飛ばされても俺は無傷。怪物はかなりのダメージを喰らったのか動かなくなってしまった。
その怪物の背中から「手」が生えた。俺はその手を引っ張り上げる。
「なんだ お前が協力したら楽勝じゃんか」
「俺なりに葛藤があったんだよ…」
怪物は消え、臆病な少女に戻ってくれた。何とかこのやらかしは解決出来たみたいだ。
「ところでよ お前のジグも便利に使えそうなんだけど…一緒に『暴走した生徒を鎮めるためのスーパーヒーロークラブ』に入らない?」
「名前なっがいしだっさいな!」
「何だと!アタシが考えた名前なのに!」
確かにコイツの行いは「ヒーロー」への強い憧れから成っている。しかし誰しもがヒーローになれる筈が無いのだ。
「俺は…やめとくよ 守る事しか出来ない奴に誰かを救う事は難しいからな 今回はお前が居てくれたおかげだ」
断られ、あからさまに苛立っている龍忌。
「お前が居れば救える人も増える!ヒーローってのは『助け合い』なんだから一人で抱えるな!」
助け合い…か。こんな俺でも力になれるのかな。
「…本気で言ってる?」
「ああマジだ 仲間にならないならせめてサンドバッグにだけでも…」
「サンドバッグよりは仲間の方がマシだ…」
「仲間兼サンドバッグ」
「やっぱこの話無かった事にして貰おうかな!?」
どうしてもサンドバッグにしたいのかコイツ。でもコイツの言葉で、俺の悩みが少し軽くなった気がする。
「そういや名前知らないな 『サンドバッグ』で良い?」
「良いワケないだろ!俺は『カヘ・ドゥーサ』だ」
「あ…外国の方?」
「まぁ…名前だけみたいなもんだ」
野球部のような坊主頭を掻きながら、俺を認めてくれる存在に少しだけ心が躍ってしまった。
「ものはついでなんだが…俺の悩みを聞いてもらっていいか?」
「悩みの解消は大事なことだな 髪を伸ばしたいんだろ」
「違うわ!」
ロングヘアーに憧れた頃もあったけど…そう説明しようとした時、携帯が鳴る。
「兄様 今いずこへ?」
妹の『メビ』からの着信だった。そして俺の、大きな悩みの一つがこの「妹」なんだ。




