10、新世界の始まり
僕は僕なりのやり方で「ヒーロー」になる。例え皆に認められなくても、戦ってやる。
いつもの稽古が終わり、兄貴から逃げるように部屋に閉じこもる。学校が終わると日課のように兄貴の稽古が待っているんだ。強くなるために、「男らしく」あるために。
「僕…女なのにな…」
男として育てられた。女性らしい格好なんてしたことないし、女友達も居ない。居るのは情に熱い兄貴「スサノオ」とどこかで遊ぶ父親「イザナギ」くらい。
父親は新世界の新たな神を自称してる、僕はどうでも良いんだけど。その流れで僕につけられた名は「ツクヨミ」。幸いにも男女どちらでも見なされる名前でよかった。
「友達が欲しい…」
学校でも特別浮いてるわけでもない。真面目に勉学に取り組み過ぎてその余裕が無いだけだ。まさか「メガネ男装女子」なんて目立つ要素を大っぴらに出来るわけない。静かに、目立たないようにして過ごしてきた。
学校ではいじめとか暴走とか、それを解決する「ヒーロー」だとかで盛り上がってる。兄貴に比べたら可愛いものだけど。
…僕だって、龍忌さんのようにヒーローを自称してみたい。みんなと笑いあいながら誰かを救いたい。その為には、僕も変わらなきゃ。
「…」
部屋にある「鏡」を見つめる。そこには元気のない少女が映っていた。もし話しかけたら、君はどんな反応をするんだろう。
「…君はだれ?」
返事は沈黙。自分自身なんだ、そうに決まってる。
でも、僕は救いを求めて「演じてみた」。
「…私は 『アマテラス』」
今でも忘れない。これは「ジグ」じゃない。
僕の…「理解者」だ。
「それでそのヒカネって人はアイドルになったんですか?」
「まだ悩んでいるらしい ほらあそこで燃え尽きてる」
タツキが指を指す先には、机に突っ伏した人が居た。
「相当悩んでるんですね…」
「どうだろうな 違う事かもよ」
タツキはこう見えて女。全然意識したことは無いけど、それなりに女友達が居る。友達の友達は友達だと思いたいけど、俺だって思春期なんです。距離の掴み方がわかりません。
「ちょっと話しかけてみようかな…」
「良いんじゃないか 文也ならネタにされても良いだろ」
「どういう意味ですか!?」
ツッコミながらも、またとないチャンス。ゆっくり、その人物に近づいて声をかけてみる。
「あの…大丈夫ですか?」
「あっ!おい!」
しまった、話しかけるのを間違えた。ヒカネは窓際の席、廊下側に対極を成すように突っ伏すもう一人に話しかけてしまう。でも良いか、こっちは「男」で新しい友情を育めば…
ガシャン!
机から物が落とされる。対象の人物は、震えながら立ち上がった。
「やった…やってしまった…!」
高い声で、震えながら絶望する。声を聞いて察した、これ女じゃん。
「あなたが驚かすから!!僕は『押してしまった』!!!」
「ご…ごめんって!落ち着いて!」
「こんなに優秀な理解者が…僕以外にも利用されるなんて…!」
少女は酷く取り乱す。なぜそうなるのか、何も想像がつかない。
「『アマテラスAI』は今…全世界にアップロードされた…」
「あまてらす…エーアイ?」
その少女は「ツクヨミ」。世界はまた、新しい方向へ進んでいく。




