プロローグ
「あなたは生きなさい、リズ」
そう言ったラフェリアの笑顔が、リズの瞳に映る。
いつもと変わらないはずの、穏やかな微笑み。
それが、なぜかひどく遠く感じられた。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、もう、同じ場所には立っていない――そんな気がした。
それは――最期の記憶。
行かないで。
行かないで。
私を、独りにしないで。
声にならない叫びが、喉の奥で砕ける。
ただ雫だけが、リズの蒼い瞳を滲ませた。
「あなたは独りじゃないわ」
リズとは正反対の穏やかな声。
「風も、海も、雪も……地球もいるわ」
どうして微笑むの?
どうして泣かないの?
どうして、哀しくはないの?
ラフェリアは微笑っている。
泣いているのは、リズのほうだ。
「泣かないで」
ラフェリアの温かい手がリズの頬に触れた。
確かにそこにいるとわかる温度。
「私は、自分の意志でウィンディアに『生命』を託すの」
その言葉の意味を、リズは理解出来ない。
理解したくなかった。
指先に力を込める。
ラフェリアの袖を掴もうとして、空を掴む。
――不思議な呪文。
ラフェリアの能力が、リズの意識をやさしく、しかし確実に包み込んでいく。
遠のいていく。
音が、光が、感覚が。
眠りたくない。
眠ったら、もう――。
イヤなのに。
わかっているのに。
抗おうとするほど、身体は言うことをきかなくなる。
それでも、ラフェリアより力の弱いリズには、どうすることもできない。
眠りが、すぐそこまで来ていた。
意識が、記憶が砂のように指の隙間からこぼれていく。
「ごめんね、リズ」
その声はひどく近くて、もう届かない場所から響いていた。
「私は、あなたのことも大好きよ。でも……」
一瞬のためらい。
「守りたいの……ウィンディアを。愛しているから……」
沈黙。
リズにはもう、何も出来ない。
「お願いね……彼を……アースを、守って……」
そこでリズの記憶は闇に包まれる。




