原田シメ子のお告げ
定が野江良の家を訪ねる数日前、就寝中、定は急にフワッと宙に浮かぶ様な、何とも心地良い眠りを感じる。
「何だ、遂にお迎えがきたのか?」そう思った定の眼前に、今は亡き妻、シメ子がメラメラと数多の蝋燭の炎によって照らされた状態で現れた。
「お父さん、これは現実です。貴方は成仏することも冥福も、また現世に生まれ変わることも出来ません。貴方の前世は、稀代の悪女と呼ばれている、日野富子です。
因みに野江良の前世は、天正遣欧少年使節の一人、唯一棄教したと伝えられている、千々石ミゲル。ミゲルは少年使節として、バチカン市国のローマ教皇に謁見し、スペインやポルトガルを訪問して回りました。でも、帰国した当時の日本は、バテレン追放令により、キリスト教は禁止されていた。ミゲルは棄教したあと、天正遣欧少年使節として活動していた頃を、忘れたかった、とも伝えられています。
そう、野江良はお父さんのことを、忘れたい、断ち切りたいが為に、首都東京に目を向けたのです。
そして貴方の前世である日野富子は、現世にて、多額の金銭の貸し付けや賄賂、米の投機も行うなどし、私腹を肥やし、一時は現在の価値にして、六十億円もの資産があったと伝えられている人物。稀代の通り、現世では殆ど徳を積まなかったのです。その生まれ変わりが、お父さん、貴方です。
他の富子の生まれ変わりの人達も、歴代、徳を積むことは少なかった。そして貴方も。
自分に経済力があるが為に、周りの親族達にも言うようにさせ、碌に徳も積まずに、瑠美、野江良に自分の考えだけを押し付けて、苦しませ、迷惑を掛けてばかりで、歳を重ねてしまったでしょう。特に、野江良を。
なので、お父さんは今後少なくとも百年は、人間に生まれ変わることはありません」
淡々とした口調で告げるシメ子に、
「それは本当なのか!?」定は狼狽する。
「俺がもう一度人間に生まれ変わるには、どうすれば良い? 何か手立てはないのか!?」定の訴えにシメ子は、
「お父さんはもう、自分がすべきことを、お解かりなのではないですか」こう告げて、フェードアウトする。
翌朝目覚めた定の脳裏には、確りとシメ子の言葉と光景が残っていた。夢にしてははっきりし過ぎ。だから、定は野江良の上京を引き止めるのに躍起だったのだ。
自分がすべきこととは……。
原田野江良、この珍しい名前を命名したのは、他ならぬ定自身だ。が、野江良本人には、その事実は伏せていた。それは何故かというと……。
定は必死に過去を思い返した。
「あれか!」定は野江良が誕生する一カ月前、幽体離脱……テレパシー……の様な経験があったのだ。今回、シメ子と会話した様に。
あの年、定は丁度還暦の厄年だった。




