東京への道
そんな野江良であったが、唯一好きな科目は日本史。特に室町から安土桃山、江戸時代初期の時代が好きで、その縁で城にも興味を持ち、将来は日本史か城に携わる職に就きたいと目標を持つ。野江良は高校の担任の男性教師に相談し、担任は幾つかの大学をリサーチしてくれた。
その結果、東京都品川区に本部を持つ私立、立正大学文学部の史学科進学を提案してくれたのだ。元々東京に興味を持ち、上京したかった野江良は、出来れば東京都内で、とも願出ていたのである。良かれ悪かれ野江良の狡猾さが叶ったのだ。
だけれど、受験して入学するのではない、内申書などの必要書類を、学校側から大学に提出し、許諾を得た上での推薦入学だ。
しかし、野江良が上京して東京の大学へ進学すると知った定とは、一悶着があった。
上京前のある日の夜、定は野江良の家を訪ね、野江良には、
「勉強があるんだろ」と言ってリビングから席を外させた。定が帰った後から母から聞いた話では……。
「俺はあいつの望み通り、東京に出す気でいる」こう主張する父、息子に対し、
「親は子供に進むべき道を作ってやらなきゃいかん。親が乗ってる車のナンバープレートの番号も知らない奴が、東京でやっていけると思うか? 野江良は純朴で真面目過ぎる奴だ、東京には向かん。考え直せ。あいつを東京には出すな」と、定は主張したそうだ。その話をしながら、母は涙ぐんでいた。
「爺ちゃんもちょっと涙を浮かべてたわよ。子供に自分が進みべき道も気付かせられない親はつまらん、爺ちゃんの持論なのよ」母は付け加える。
それじゃあ、世の中の殆どの親はつまらん、爺ちゃん自身もつまらん、てことじゃないか。野江良の感想。
確かに野江良は、定に立正大学に進学すると伝えた直後に野江良の家に来て、
「母親が乗っているナンバープレートの番号を教えてくれ」と頼んだことがあった。
だがその時、野江良は風邪を引いて熱があり、リビングの火燵で寝込んでいて、知らないと答えた。それを聞いた定は、
「お前もあの車を運転してるんだろ? それは駄目じゃないか」玄関で笑ってはいた。
野江良は十八歳になって直ぐに普通自動車免許を取得し、母の車を借りてはいた。野江良は自分も運転しているナンバープレートの番号も確認していなかった。これは野江良のミスだ。これに母も、
「数字に疎い人間は、そうかもね」と笑う。
定はその時に母に今日の話をしたかったのだろう。が……。
これも野江良にとっては大きなお世話でしかない。瑠美姉の進学には何も言わなかったくせに、何で俺の進路にだけはあれこれ口出ししてくんだよ! ほんと、お節介ジジイで厄介者だ! 野江良の本心。定の手など借りよう気など、あろう筈も、一切なし。野江良はそれだけ定を怨んでいる。
だが、この時点で定は全てを悟っていた。十九年前に他界した妻、シメ子のお告げによって。




