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最後のお告げ

 野江良の夜の過ごし方は、文筆活動と読書、テレビドラマや映画を観たりし、二十三時までには就寝。生活だけは、規則正しい野江良の夢の中にて、また田村乃衣瑠が、テレビ出演、した。

「唐突ですけど、野江良さんはリケジョの私とは違い、日本史がお好きですよね? 文系の人」

「良くご存知で、理系とは真逆」野江良はまだふざけて、リモコンでテレビを消そうとする。

「だから消えませんって」及衣瑠は苦笑したが直ぐに真顔になった。


「私も確りとリサーチしましたので。これまでも歴史上の人物の話をしましたが、今日もまた日本史です」

「また前世が誰々って話ですか」野江良の口振は投げやり。

「違います」その態度に、乃衣瑠はまた苦笑を浮かべた。

「今回は生まれ変わりについてです。野江良さんは後世で、豊臣秀吉の正室、北政所寧々の甥で、後に小早川隆景の養子とる、小早川秀秋に生まれ変わります。俗に言うタイムスリップ。

 

 私は秀秋の正室となる、隆景の兄の毛利輝元の養女、古満こま姫に生まれ変わります。つまり、遠い過去で野江良さんと私は夫婦となり、往時に秀秋に生まれ変わった野江良さんが、小早川家の当主として如何に徳を積み、手腕を発揮するかに懸かっています。

 それともう一つ、秀秋と古満姫との間に、性別は関係なく子を持つことです」乃衣瑠の話に、野江良はうんうんう頷く。


「小早川秀秋と言えば、関ヶ原の戦いの時、西軍から離反して東軍の勝利、豊臣氏から徳川氏の天下への契機となった人物ですよ。

 少年時代は蹴鞠や舞などの芸の道に才能を見せて、貧者に施しをするなど、優れた少年だったみたいですけど、やがて酒の味を覚えると、友人達と飲み明かす日々を送る様になって、秀秋の保護者的立場にあった寧々を悩ませる様になったと伝えられていますね。

 

 また常茶会の場において、乱暴を企てるなどの素行にも問題があった様。

 秀秋は叔母の寧々から五百両、現在の金額にして約五千万円にも及ぶ莫大な借金もしていたそうですけど、それ以外にも客人への借金申込みもしていて、生活は奢侈なものであったとか。

 結局は、一六〇二年、上方から帰国途中で行った鷹狩りの最中に体調を崩して、その三日後に死去したという記録があります。死因は、過度な飲酒によるものだったそうですけど」


「そんなにスラスラと、よく勉強しておいでで」微笑む及衣瑠に、

「好きな歴史上の人物の一人なので。只、秀秋と古満姫との夫婦仲も芳しいものではなかった話もありますね」野江良は苦笑し、面映ゆい。

「それで、伝えられている秀秋の性質のままでいけば、どれだけ徳を積むことが出来るか、後は、仲は芳しくなかった古満姫との間に子供を授かることが果して出来るか、ですね」

「そこにも懸かっていますね」乃衣瑠と野江良は苦笑し、乃衣瑠は話を続ける。


「つまり、原田定さんは今後、三四〇年間は人間に生まれ変わることは……」及衣瑠の目を見て、野江良は頷く。

「ありません」ユニゾンが決まった。

 何故ユニゾンになったかと言うと、及衣瑠には、このお告げを聞いて青ざめている定の姿が見えていたし、野江良には定の姿は見えていないが、この情景を、見ているだろう、と察したからだ。


「定さんは、どうにかならないのか、と仰っています。けどそれは……」及衣瑠はまた再度、野江良と目を合わせた。

「私達の知ったことではありません」二回目のユニゾン。

「でも良いではありませんか……」及衣瑠が言葉を区切ったということは、

「また、人間に生まれ変われるのですから」三回目のユニゾン。

「私達、意思疎通が出来ていますね」

「まあ、この部分に関してだけは」及衣瑠と野江良はくすくす鼻で笑う。


 定は最後のお告げに驚愕……するであろう、途方に暮れているが、二人は知る由もなかろう。突如として定の姿は、及衣瑠にも見えなくなったのだから。第一、これは野江良の夢の中の世界なのだ。

 これ以上、及衣瑠さんを利用してはならない、もう二児の母親なのだから、異次元空間から解放させてあげなくては、野江良は切に思う。


「それでは原田野江良さん、また後世でお会いしましょう」

「そうですね、田村乃衣瑠さん、また宜しくお願いします」

 二人の表情は穏やか。乃衣瑠はカメラに向かって一礼し、野江良もテレビに向けて一礼した。そして最後に、

「ハイバイ」と口にし、テレビに向けて手を振る野江良。

 それに対し乃衣瑠も、カメラに向けて、

「バイバイ」と言いながら手を振り返す。二人は子供に戻った様な無邪気な笑みを見せた。


 翌朝五時近くに目を覚ました野江良は、トイレに行った後、ブラックコーヒーを淹れて煙草に火をつけ一服。脳裏には、この前と同様に、夢の中が鮮明に残っていた。

 紫煙を吐きながら、田村乃衣瑠に対しても自分に対しても、そして、亡き定に対しても、呟く労いの一言、

「はい、ご苦労さん」なこった。


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