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夢の初対面

 本格的に危険な猛暑、真っ只中の八月の深夜、就寝中の野江良は、奇妙な、夢を見た。テレビの電源も入れていないのに、いきなりテレビがつき、画面には田村乃衣瑠アナウンサーが映し出される。

「こんばんわ、そして初めまして、原田野江良さん、田村乃衣瑠と申します。私のことを観てくださっていた様で、ありがとうございます」田村アナは、報道番組のエンディングの様にお辞儀した。その奇怪な光景なのにもかかわらず、

「初めまして、原田です。田村さんのことは、テレビやコラムで多少なりとも存じ上げてましたけど、また何故態々うちのテレビに映ってるんですか」野江良は冷静。それどころか、悪ふざけでリモコンでテレビを消そうとした。

「この映像は消えませんよ」乃衣瑠は可笑しく、静かに笑う。


「私が野江良さんの前に現れたのは、野江良さんと私との間に、宿命があるからです。その前に、話は逸脱しますが、私がある番組で、無理無理と笑みを浮かべて首を左右に振っていた姿が目に付いたそうですが、私ですら覚えていません」乃衣瑠は声を出さずに笑う。ハハハッと声を出して笑うタイプの人間ではない様だ。

「それはそうでしょうね。僕もその場面しか覚えてませんから」野江良は苦笑、

「細かい所を良く覚えていますね」乃衣瑠も同じく。

 二人共、画面を挟んでの、自然で落着いた口振とやり取り。


「では、本題に入りましょう。私、田村乃衣瑠は、今は亡き原田野江良さんの祖父、原田定さんとお会いしました」

「へえ、爺ちゃんと。どうして乃衣瑠さんにそんなことが出来るんですか? 霊能力でもあるんですか」野江良は若干からかい気味に言う。

「いえ、私には全くその様な力はありません。ですが、私の前世は野江良さんの前世である、千々石ミゲルの妻だったのだそうです。これは、野江良さんの祖母、シメ子さんからお聞きしました」乃衣瑠の言う通り、シメ子は定よりも前に、乃衣瑠の元に現れていたのだった。無論、定は知る由も、ない。


「そうだったんですか。ミゲル夫妻のものと思われる墓地が、長崎県内で発掘調査されたそうですからね」

「はい、ですが野江良さん、時既に遅し、です。現世では貴方と私が夫婦になることは出来ません。何故ならば、私にはもう双子の姉妹がいますので。残念ですが」苦笑いを浮かべる乃衣瑠を見て、野江良の脳裏に大川栄策の『さざんかの宿』が流れた。

 ♫ 愛しても 愛しても あゝ他人の妻 赤く咲いても 冬の花 咲いて 残酷な 虚しい宿 ♫ か……。最後の、残酷な、の部分は野江良の悪ふざけ、替歌だ。


「私は五年前、お腹の中に二つの頭を挿入されました、即ち我が子です。腹部に激痛を覚えましたが、私は自分の意志で双子を出産しました。

 ですが、私に双子を出産させたのは、野江良さんのもう一人の前世である、室町幕府九代将軍の足利義尚よしひさだったのです。

 

 野江良さん、貴方は二人もの歴史上の人物を前世に持っています。ですが、お爺様の定さんは義尚の母、日野富子のみです」

「なるほど、富子と義尚は不仲だったと言われてますから、母親に息子が刃向った結果ですね」

「そういうことになりますね」

 二人してくすくす笑う。

 二人のやり取りを見ていた定の顔は青ざめ、また口が半開き。野江良には見えていないが、乃衣瑠には確りと見えていた。蝋燭のメラメラとした火によって照らされている様が。


 乃衣瑠の発した真相も、これまた定の人生、これまでの前世からくる、お告げだった。

 突如、定の脳裏にまた、ある情景が浮かぶ。それは、乃衣瑠が一般人の男性と、結婚を前提に交際していると、両親に報告しに横浜市内の実家を訪ねた時だ。親子三人は、両親がソファ、乃衣瑠は側のスツールに座っている。

「そう、それは良かったじゃない。やっぱり、野江良さんみたいな純朴過ぎる人には、乃衣瑠は勿体ないわよね」母が父に問いかける。

「ああ、俺もそう思う。東京に擦れていなくて、真面目過ぎる。乃衣瑠とは、性格的に合わないかもな」妻と夫には、あの時のことは確り記憶に刻まれていた。

「そんなことは!……」ない、定は訴えるが、三人には最早、聞こえても見えてもおらず、遅きに失していた。


「のえらさんって誰?」乃衣瑠はこの時はまだ知る由もない。

「良いのよ、乃衣瑠は気にしないで。とにかく良い人が見付かって、おめでとう」

「そうだな、お父さんも安心した。正直、若干の寂しさもあるけどな」

「ありがとう、二人共祝福してくれて」親子三人は幸せそうに微笑む。

 

 因みに、田村乃衣瑠が既婚者であるのは、原田野江良はネット記事を読んで既知していた。双子の姉妹を産んだことまでは存じ上げなかったが。なので、野江良は別に落胆した訳ではなかった。



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