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ジジイの焦り

 原田野江良は、御年四十二歳にもなって、未だ実家の自室に籠るすねかじり。彼女もいなければ結婚も出来ない……のは、こんな生活では当たり前。家族の洗濯や食器洗いくらいの家事はやってはいるけれど、家事手伝い、とまではいく訳もなし。誠に勿体なく、働き盛りの社会生活に、十二年ものブランクを作ってしまう。

 

 臨床検査技師である姉の瑠美は、まずはリハビリテーションを利用するなどして、グループホームに入居する。とにかく両親の年齢を考慮すれば、実家から出るべきだ。こうなってしまったのは親の責任なのだから、こう提案し、指摘する。

 

 だが野江良自身は、自分が帰郷した当時の年齢は、三十一でありもう立派な大人。これは自業自得であって、本人の認識の甘さ、自覚のなさが招いた結果。自分の資質の問題で親の責任ではない、と、四十を過ぎてやっと認識する。

 今回の精神病騒ぎを経て、また少しだけだけれどアップデート出来たのかも知れない、と勝手に思い込んでいた。それはそれとして、野江良の知らない世界では--


 原田定はあの世へは逝った。しかし、三途の川を渡ることが出来ない、と言うより、お向かいの船が来る気配もないのだ。しかも三年もの間、霧がかるお花畑の川岸にて、ずっと立ちっぱなし座りっぱなしで待焦れているのだが、全く音沙汰なし--

 

 これは一体、どういうことなのか? 俺はこのまま、向こうへは渡れないのだろうか……、不安に苛まれる定の向こう側の川岸に、般若の面を付けた中年女性と思しき、白装束姿の人物が歩いてきた。

「まさか、お前か?」定は年格好と体型から、何となく予測が着いた。

 定の声に女性が面を外すと、素顔も鬼の形相、般若の面など必要ない。定の予測通り、シメ子だ。川岸通しではあっても、夫婦は四十二年ぶりに再会。したのは良いが、表情通り、シメ子は憤慨している。


「やはりお前だったか、俺をやっと迎えに来てくれたんだな」安堵する定に、

「何が迎えですか、まだお父さんは成仏出来ません。野江良に、東京で苦労して仕事をしている、何を言っているのですか。お父さんはご自分の使命もお忘れですか? その使命を果たすまで、貴方はこちらへは渡れません」

「俺の使命?……ああ、あのことか!?」定は目を見開く。


「そうです。早くおゆきなさい!」シメ子は怒り心頭に発して叫んだ。

「何処へ行けば良い!?」

「異次元空間に決まっているでしょう! このまま永久に成仏出来なくても良いのですか! 早くあのお方の元へおゆきなさい!」

「……ああ、解った!」定は後ろを振向く。


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