内勤スタッフの受難
何はともあれ、野江良は登録スタッフとして、日雇や短期派遣の仕事を地道にやっていた。支店にも頻繁に仕事の相談で顔を出していたので、内勤の人達にも、この人は原田さん、と、顔と名前を覚えてもらっていた。
社会人としては当たり前だが、野江良は欠勤する日も前もって報告し、遅刻や早退も殆どなく、当時は職場からバックレることもなかったのもあるだろう、支店長や内勤の人から、次からこの仕事があります。ぜひ原田さんに行ってもらいたい、といった仕事を斡旋してくれるメールが、野江良の携帯電話に直接送られてくることもあった。
そういった意味では、野江良に対して支店長や内勤スタッフの人達には、一応の信頼はあった様だ。
その信頼が奏功し、野江良は期限のない長期の職場、東京・武蔵野市に所在する、株式会社河野電機にて、製造部の仕事を斡旋してもらえたのだ。
グッドウィルは日給制の会社、しかも振込ではなく、支店まで態々出向いて手渡で支払われる。野江良はその時に、内勤の男女と少し会話をする関係になっていた。
仕事は携帯電話からサイトにアクセスし、当日ごとに予約しなければならないのだが、面倒臭がり屋の野江良は、予約するのを忘れてしまう。
ある日の休憩中、野江良が予約を入れようとアクセスすると、一カ月後くらいまで予約済みだった。内勤の誰かが入れてくれてるな、直ぐに推測が着く。
後日、仕事終わりに給料を受取に支店に立寄った時、
「いつも予約入れてくれてるの誰」野江良は訊いてみた。すると、
「私。原田さんは拒否らないだろうから、もう入れちゃえと思って」年下の女性スタッフが笑顔で元気良く手を上げる。
彼女はいつも声にも張りがあって、誰とでも気さくに接することが出来る人、の様に野江良には見えている。
「河野電機から直接依頼されてる支店の子から、原田さんはまた予約入れてない、て言われるんだけど、私は、ああ良いの良いの、良い子だから、て返してる」隣にいる声が甲高い年上の女性スタッフが言う。二十代半ばにもなって良い子って……何か照臭い、野江良は思ったが、聞き流す。
そのスタッフは、
「原田君は休む時は休むって言ってくれるから」とも言う。規則をきちんと守る登録スタッフとして、原田君は一定の感謝はされている様だ。
だが別の日に男性スタッフに、
「どうですか、最近」と訊くと、
「どうもこうもないよ、原田君みたいなスタッフばっかりなら良いんだよ」その人は表情も声もうんざりした様子で、かなりお疲れ気味。
「でも、支店長が代わってちょっとはマシになったって」野江良は以前、このスタッフから、今の支店長は怒るよ、と聞いていた。現に野江良も、支店長が電話ではあるけど、何ですかその態度は。お願いする態度じゃないですよね、と、別に怒っていた訳ではないが、声を上げていた光景は見たことがある。
その光景に野江良は、あれくらい強気に出ないと、やっていけないんだろうな、つくづく思ったものだ。が……。
「いやいや、全然だよ。うちらの管理体制がなってないって、抗議の嵐だよ」
「そうなんですね」野江良は頷きながら聞くしかない。
比較的簡単に登録し易い会社の為、遅刻や無断欠勤、バックレを繰返すスタッフが、数多といたのだろう。派遣先の会社は内勤スタッフに抗議するしかないし、派遣元のグッドウィルの社員からも、きつくお叱りを受ける、これではうんざりするのも頷ける。
「ごめんね、長々と」男性スタッフは苦笑した。
「良いですよ、愚痴くらい聞きますよ」野江良が言うと、この前の女性スタッフ二人が、
「大人だなあ」と笑い、次に、
「聞いてあげて」と願われた。
登録スタッフにも不満があれば、内勤スタッフにだって不満があるのは然るべき。お互い様なのであった。




