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戯け者

 同じく、端くれではあっても社会人となった野江良。同じ寮だった知人からの紹介で、自宅アパートの近くにある、大手デパートの衣料品売場にて、パート従業員として勤務し始めた……。かと思いきや、勤務時間は僅か四時間だ。

 

 大学の頃、学友と引越しのアルバイト経験はあるものの、たった数回のみ。徐々に体力を慣らしていくには良いのかも知れないが、この勤務時間の短さに、

「人間生きていくには、結構金がかかってねえ……」男性部長に冷静に諭され、

「四時間でやっていけるの!?」男性チーフは目を丸くした。当然のリアクション……。独り暮らしとなれば、家賃だけではなく、電気、水道といったライフラインの料金に、生活費だってあるのだから。

 

 何はともあれ、四時間勤務に決まってしまったが、収入は月六万強。野江良は社会人となっても親の仕送りに頼り、立派なスネかじりだった。尚且つ……。

 勤め始めてたったの一年で、精神的嫌悪感を感じ始め、このままの気持ちでここで働いていたら、他のパート従業員の人達に失礼なのではないか……と勝手に思い込み、退店を決意。

 

 次に選んだ職場は、これまた大手で府中駅ビルの中に入る、一〇〇円ショップのアルバイトショップ店員だった。ここでは八時間勤務で、低額ながらも納税は出来る様にはなる。だが……。

 どちらも苦手な筈の社交辞令、尚且つ愛想も必須の接客業。精神的ストレス、苦痛が蓄積されていくのも、野江良にとっては、これまた必須条件が揃っていた。

 この様子では、乃衣瑠に出会えないどころか、最早二人は遠い存在になってしまっていた。


 その一〇〇円ショップの同世代、女性ショップ店員の同僚が、理想の男性について話しているのを聞きながら、女の人からすれば、自分はお話にもならないのだな、野江良はつくづく思うのだった。

 

 野江良の中では、自分には縁がないと諦めていることがあった。それはずばり、カップルとか、結婚。ましてや結婚など、自分はそんな次元にはいない、野江良はこう考えていた。結婚は正に、そういう次元にいないのは、事実その通りではあるのだが……。

 街で若いカップルを見かけると、やっかみでも何でもなく、純粋に、良いな、と思っていた。

 同性ともだが、異性との交際も縁が薄く、殆どの時間を独りで過ごしてきた野江良。

 

 下種な話ではあるけれど、学生の頃や同僚と飲んだ席などで、性的な話題になり、友達のカップル同士でゲームをして負けたら、罰として服を一枚ずつ脱いでいく、とか、セックスでこんなプレーをした、とか、どれも女性から聞いた話。

 

 こんなどうでも良い様な話を思い返すと、唯唯、若い時にしか出来ない遊びだし、楽しかっただろうなあ……と、野江良は感想を抱く。完全なる下心ではあるけれど、自分もそんな遊びをしてみたかったなあ、もっと遊んでおくべきだったなあ、と、憧れと後悔の念も抱いてしまう、野蛮な野江良……。

 野江良には程遠い遊びではあるけれど、別に皆が皆、若い世代にそんな遊びをしている、訳でもないだろうに。遊び方は人それぞれである。


 そもそも、カップルや性的な遊びをするとか、野江良には相手もいなければ、身長も正確に測定して一六五.六センチしかなくて小柄、手首足首は細いだけで、筋骨隆々でもない。

 ルックスも、男前でもイケメンでも……ない。ファッションセンスもありはしない。というより、自分にはどんなファッションや髪型が似合うのかも、全く以て未だに解っていなかった。

 

 それ以前に、意中の人のみならず、女性に積極的に声を掛けるタイプでもない。友達も少なければ、自分から遊びなどに誘ったりするのも苦手。

 学生時代も、部活に励むとかサークルを楽しんで活動する様な学生ではなかった。この様では、恋愛関係になるには、程遠い……。


 尚且つ、人をエスコートするとか、良く機転が利く人間でもなければ、男としては頼りない、人間としても頼り甲斐もないのだから、と、野江良は自己分析していた。

 勿論、人を見て参考にしようとか、ああ、気付かなかった、次からはこうしよう、とか考えはするけれど、孤独な人生的に、時既に遅し……かも知れない、とも思っている。

 

 ファーストキス、初体験も、フニャリンとか言う源氏名の風俗嬢だった。何処の誰かも解らない相手で、完全なる性欲しかないし、最悪……。しかも、料金も自分でアルバイトなどして貯めた金で支払ったのではなく、親の仕送りからで、尚のこと、最&悪過ぎる。


「私はフニャリンです」風俗嬢から源氏名を聞いて、何だその名前は、由来は何処からで何なのだろうか、自分で決めたのか? 笑ってしまいそうだったが、敢えて訊かないでおいた。

 その初体験で解ったこともある。それは、AVでは数多の裸体の女性を観ては興奮してきたが、初めて裸体の女性を肉眼で目の当たりにすると、大した興奮もなく、感動すらも覚えなかった。

 

 風俗嬢の尻、胸を触っても、こんなものなのか、と、野江良は冷静だった。それは相手が恋人ではなかったからかも知れない。

 が、もう一つ自覚したのは、自分は三こ擦り半……早漏だったということ。

 風俗嬢との話は伏せ、自分は男としてお話しにもならないのだと、同僚で年上の女性店員に話してみると、

「自分のことを客観的に見過ぎ、野江良君みたいな男の人がタイプだって女もいるよ」言いながら笑われたが、さてどうやら……、解せない野江良であった。


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