穀潰しの弁
二〇二一年九月三十日(金)。奇しくも九月最終日。それは青天の霹靂だった。原田野江良の祖父、原田定が急逝。享年九十九。
だが、野江良にとってはこれで終わりではない。逆に始まり。全てはこの爺様のせい。全ての元凶は、このクソジジイだったのだから。
野江良は全ての責任を定に押し付けている。人のせいにすれば少しは気が楽だ。人間には多少なりとも狡猾さが必要不可欠。そう言った意味では、野江良は狡い。ましてや故人に対して……。
原田野江良は三十九歳にして、未だ無職。東京で派遣社員をしていたが、二〇〇八年に起きたリーマン・ショックの煽りを受け、翌年九月に派遣切りされた。
その後は仕事が長続きしなくなり、長くて半年、一ヶ月、二十八歳にもなって、二日でバックレた職もある劣等人に成り下がった。心身共に疲弊し、地元である九州某県の三田井市に現実逃避し、以降は実家暮らしだ。
野江良は小説を書くのが好きで、一作品は電子書籍として出版されたが、その後は皆無。実家で書いた作品を賞へ応募するも、結果はどれも落選……。毎日小説を書きまくる……訳でもない、遠方に在住している友人とたまにメールや電話でやり取りするくらいで、何一つぱっとしない、完全なるニート、穀潰しの生活を送っている。
野江良には先天性の障害、自閉スペクトラム症(ASD)があり、それに伴った二次障害の鬱病持ち。収入は二ヶ月に一度振り込まれる障害者年金……のみである。それでも一応、所得税だけは引落しで払ってはいるのだけれど。
自閉スペクトラム症(ASD)を端的に説明すると、
物事の捉え方や行動パターンに一定の様式があり、それにより日常生活に支障をきたす発達障害である。
通常よりも限局した対象に関心を持ち、常同的(反復的、儀式的な行動、姿勢、発声)な振る舞いを好んで、拘りが強いのも特徴。
その為、咄嗟、予期しない出来事に非常に動揺してしまい、臨機応変な対応が出来ない、苦手。
また、友人関係の構築の仕方が解らない。
本人には悪気はないのだが、場の空気を読めない言動を取ってしまう。
言葉を真に受け取り過ぎて、言葉の裏に隠された意図に気が付かないことが多い。その為、社交辞令を真に受けてしまうことも多い。
などの症状がある。
現時点ではASDの薬はまだ開発されていない。野江良の場合、人から語気強く物申されたり、何か意見を求められても頭の中が真っ白になり、言葉が出てこず、ショックを受けたり、後になって怒り、悔しい思いをする。臨床検査技師の姉、瑠美によれば、それがASDの典型的な特徴だそうだ。
これらが精神的ストレスとして蓄積され、鬱病などの二次障害へと繋がる。だが、瑠美によると、鬱病の薬は飽く迄も補助的な物でしかなく、薬だけでは症状が全て改善されることもなく、寛解へとはならないのが現状……だそうだ。




