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揺蕩う音符とシンデレラ 〜無能力者の私がなぜか貴族トップの家の次期当主に溺愛される〜  作者: 泉紫織
第2部

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進路面談

 11月下旬。あそこで紅葉が見頃だとかそんな話も聞こえてきて、学園の制服の上にコートを羽織らないといけない気温になった。


「単位制コースのみなさん、今日からひとりずつ、進路面談を行います。貴族であるみなさんは、その役割を果たすことに日々勤しんでいらっしゃるでしょうが、みなさんの役割はそれだけではありません。みなさんは学生なのですから。来年は学園の最高学年になるのです。それはすなわち、受験生ということ。そろそろ進路先を考えて、この先充実した人生を送るために努力を始めなくてはなりません」


 コースの担任がこんなことを言い出した。単位制コースからそのまま聖桜学園大学貴族学部(いわゆる聖桜学園大学部)に進学する人も多いが、別の学部に一般受験で入り直す人も、まったく他の大学に行く人もいる。いずれにせよ、それなりの成績が必要だ。今から頑張らなくてはならないのは本当なのだろう。


 空いた時間にひとりずつ呼ばれ、面談が進められる。一応、対外的にはこの学園は身分関係なく平等に学問を追究することを掲げているため、順番は家柄順ではなく、名前順だ。琴葉は「宝城」姓で編入したため、玉垣の苗字を持つ千広よりも後ろということになる。


 あっという間に千広が面談を終え、教室に戻ってきた。


「あの、どんなことを聞かれたのですか……?」

「んー、まず進学はどうするかって聞かれたでしょ?大学部にエスカレーターで進むか、他受けるかの確認ね。多分ストレート進学は定員があるから、早めに確認しちゃいたいんだと思う。私は能力系の研究職に就きたいから、貴族について学べる大学部進学って答えたよ」


 千広が人差し指をあごに沿わせて説明する。二人とも、あまり将来の話をしたことがないため、千広が研究職を目指していることなど初耳だった。


「将来の夢とか、どんな人物になりたいか、とかそんなことも聞かれた。就きたい職業はあるけど、なりたい人物像なんてないから、なんとなーくで答えちゃったよ。で、あとは学園生活で困ったことはないか、とか何か悩んでいることはないか、とか色々。別にそんなことないし、全部ありませんって答えたらすぐに終わった」


 千広らしいあっけらかんとした回答に、琴葉はくすりと笑う。秋の空は高くて、どこまでも晴々としていた。


※ ※ ※


 琴葉が面談に呼ばれたのは、次の日のことだった。


「琴葉さんは高等部卒業後、どのような道に進む予定ですか?」

「大学部に進学したいと考えています」

「貴族学部ですね、何か突き詰めたい学問は決まっているのですか?」

「私は……宝城家の次期当主の婚約者ですから、その立場にふさわしい政治と経済の知識を身につけたく存じます。今はその……政治のあり方が問われていると思いますので……」


 月城や平民の動きに思いを馳せながら、言葉を濁す琴葉。担任は、そうですね、とやわらかく頷き、次の質問に移る。


「では、将来は宝城家次期当主様を支える生活を送るのですね?」

「そのつもりでございます。婚約者が当主となった暁には、当主夫人としての立ち回りが求められるでしょうから、勉強を欠かさず、日々精進したいです」

「勉強熱心なのはいいことですね。貴族教育を受けていなかった方が編入試験に合格したと聞いて、教員一同本当に驚いたのですよ。今年度の成績も非常に素晴らしいですし。年度末の試験も頑張ってくださいね」


 琴葉は褒められて恐縮してしまう。単位制コースの担当教師は全員貴族だが、担任は特に立ち居振る舞いが洗練されていて、普段から尊敬していたのだ。その人に褒められるのは、とても光栄なことである。


「琴葉さんは、将来どんな人物になりたいですか?」

「私は……普段は落ち着いていて穏やかな、でもいざというときには人を引っ張る力のある凛とした女性になりたいです。もちろん、今の私からはほど遠い姿かとは存じますが……」

「どなたか、理想とする女性が身近にいらっしゃるのですね。そのように自分を卑下することなく、自信を持つことが凛とした女性への第一歩ですよ」


 昨日、千広に面談で聞かれたことを教えてもらってから、回答を少し考えておいたのだ。なりたい人物像を考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは、宝城穂花(ほのか)のこと。穏やかでゆるい雰囲気を纏っているのに、山梨の大戦で本家が襲撃されたとき、きびきびと指示を出して使用人たちの統率をとるその姿は、凛としていて本当に格好よかった。


 あんな素敵な女性になりたい。その思いを込めて答える。口に出したことで、明確なビジョンが見えたような気がした。自分に自信を持つことは難しいが、神楽家にいた頃よりかは遥かに前を向けている。これからも少しずつ、自分を信じるきっかけを増やしていけばいいのだと思う。


「編入生ですし、琴葉さんの立場では何かと目立ってしまうとは思いますが、学園生活で困ったことはありませんか?些細なことでもなんでも相談してほしいのですが」

「噂をされたり、目の敵にされたりすることがないわけではないのですが、大して気にしていません。学徒動員のメンバーはそんなことはありませんし」


 担任はまたもややわらかく頷いて、最後の質問に移った。


「そのほか、何か困りごとや聞いておきたいことはありますか?」

「あの……」


 琴葉は用意しておいた質問をしようとして、少し逡巡した。


「遠慮はせずに、聞いてくださいまし」

「……先生は、貴族という立場の存在意義をどのようにお考えですか?」


 目の前の女性は少し目を見開き、思考をめぐらせる。


「貴族の存在価値、ですか。それはつまり、能力者が実権を握る現政治の仕組みの有用性、ということでしょうか?」


 琴葉は頷く。同時に、内心とてもほっとしていた。貴族政批判とも取られかねないこんな質問をしたら、頭ごなしに叱られてしまうのではないかと考えていたからだ。


「私は能力者が貴族として国のためにその力を使い、政治を執り行うシステム自体は有用だと考えていますよ。この階級制度は能力を別の方向に向けないため、魔形討伐のみにそのベクトルを絞るための檻になっているのです。つまり、能力者がそのまま貴族になる仕組み自体は賞賛されるべきものだと思います。しかし……」


 担任は片眼鏡を押さえて少し間を取り、また話し始めた。


「無能力者が貴族とは認められない仕組みについては、合理的ではないと考えます。あまり引用すべきではないかもしれませんが、以前月城和樹氏がおっしゃっていた、『平民にも政治の才がある者はいる』というのは本当だと思いますよ。その部分に限り、ですが。——才能ある者は身分関係なく取り立てるべきではないかと思うのですが、それを始めてしまうと、あの人は取り立てられたのにどうして自分は、と余計な火種になるのでしょうね。だからこそ、能力者と無能力者ではっきりと境界を引いてしまうのが、結局最善なのでしょう」


 最善ではあっても最高ではないと言いたいのだろう。実に数学の教師らしい回答だった。琴葉は新しい視点に、とても納得感を感じていた。


「ありがとうございます。私にはない視点でした。勉強になりました」


 礼を言うと、担任は優しく微笑む。


「私でよければ、いつでも質問にいらしてください」


 かくして、面談は終わった。席を立つ前に、聖桜学園大学部の資料を渡される。高等部から進学する方法の説明が載っている。もちろん、琴葉の場合は身近にエスカレーター進学者が一定数いるので、彼らに聞けばいいのだが、教室に戻ったら千広と一緒に一応目を通しておこうと思った。


 暖房の入っていない廊下は肌寒く、少し鳥肌が立った。


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