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揺蕩う音符とシンデレラ 〜無能力者の私がなぜか貴族トップの家の次期当主に溺愛される〜  作者: 泉紫織
第2部

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楽師の仕事

 一方、月城の本拠地にて、あの男がある()()に使われていた——。


「副作用はまだ続いているのかね?」

「ええ、そのようです。僕自身、宝条の力が使えないのは意外と不便で困るんですけどねぇ……」

「——そうか。仕方ない。今日も実験に協力してもらうよ。もう一人の能力も実戦レベルにまで引き上げたいからね」


 画面に映る月城和樹と会話を交わしているのは、琴葉の楽師として働いていた、八重樫音夜(やえがしおとや)であった。宝条一史(ひふみ)にスパイとして神楽家へと送り込まれたが、神楽家が月城の下についたことで、事実上月城に囚われてしまったのである。


※ ※ ※

 

 山梨の大戦の数ヶ月前——。


「君には、とある新しい能力を付与する。非常に強力な力だ。君は君のことを厳しく育てた家族に復讐したくはないか?こちらに寝返れば、それが可能になるのだ。悪い話ではなかろう?」

「……新しい能力、ですか?」

「ああ。『精神干渉』の力だ。魅力的だろう」

「それは……とても素敵な力だ」


 音夜はニヤリと笑って和樹の提案に頷く。


「その代わりに、宝条に関する情報をいただこう」

「承知しました、和樹様」

「交渉成立だな」


 宝条家が予想した通り、月城は「能力付与」の技術を持っていたのだ。こうして、音夜は精神干渉の能力を新たに手に入れることになる。月城はかなり前から、能力付与の技術研究を進めてきたらしく、無能力者を能力者に変える実験はいくつも成功例があるとのことだ。そして、音夜はすでに能力を持っている者に新しい能力を付与する実験の被験者第一号として大抜擢されたというわけである。ちなみに、同じタイミングでもう一人、似た種類の精神干渉系能力を付与された被験者第二号も存在する。


 そうして音夜は、大戦直前まで、宝条の情報を月城に流しながら、精神干渉の能力を使いこなせるレベルにまで持って行った。もともと能力者であった音夜にしてみれば、新しい能力を使いこなすのはさほど難しくなかったようだ。


※ ※ ※

 

 大戦前日の夜。音夜は月城和樹に呼ばれ、忠告を受ける。


「今回は奇襲じゃないと意味がないんだ。もちろん、八重樫くんならわかると思うが……。君がこちら側の信用を得るためには、この山梨の戦いに関する情報はあちらに漏らすべきではない。そうだろう?いや、すでに漏らしていたのなら、この忠告も無駄だろうが。その辺りは大丈夫だろうね?」

「もちろん、わかっておりますよ。偽の情報すら流しておりません」

「まあ、全ては明日、明らかになるだろう。命令通り、任務を遂行するように」

「仰せのままに」


 音夜は恭しく礼をする。和樹は音夜が寝返ったと完全には信用できていないためか、大戦で戦果を挙げるよう、とある命令をしていた。——その結果が、あの対隼人戦だったというわけだ。あの戦いは監視がついていたため、余計なことは言えなかったが、それでも、音夜は隼人に伝わるようメッセージを忍ばせて、あの場で会話していた。


「いつも僕が教えていた音楽に対する思想とは全く逆のことを喋ったんだ。隼人くんがきちんとその意図を汲んでくれればいいんだけど……」


※ ※ ※


 そして今に至る。隼人を倒せこそしなかったが、実際に隼人を狙ったという事実を作ることができた音夜は、任務を完遂できなかった罪で完全な信用は得られなかったが、月城の計画をある程度知ることができる立場にまで昇格できた。


 そんな中、月城が音夜を使って新たな実験を始める。宝条の能力をコピーする技術研究だ。この世界において、宝条の光と闇を扱う能力は、他の能力と比べてやはり段違いに強い。月城としては、その能力の全容を明らかにして、技術として再現することができれば、あとは量産するだけで、貴族に対して圧倒的有利な状況を作ることができる。そのために、音夜は宝条の能力者として、実験体にされているのだ。


 音夜と、もう一人の精神干渉能力実験被験者である加納(かのう)が、実験室で対峙する。


「お前はなぜ、八重樫家の長男に生まれながら、家を継ぐことができなかった?厳しい教育から逃げたからか?出来損ないとして蔑まれるのに耐えられなかったのか?」

「……」

「図星のようだな。光の能力を受け継ぎつつも、その威力は大したことない。厳しい貴族教育に耐えられず、音楽の道に逃げ、貴族向けのミュージックバーで遊び歩いていたところを、宝条の当主が救ってあげたんだったか?それからは『楽師』だなんて大層な職業名をつけられて、よかったなぁ、お優しい当主様で」


 バカにするように、加納が話し続ける。能力を少しずつ使っているため、音夜の心は掻き乱されていく。


「おうおう、そんなに苛立たなくていいんだぜ?というか、大丈夫なのか?宝条への忠誠心なんか見せちまって。和樹様が見てるんだぞ」


 音夜は、深呼吸をして平常心を保とうとする。だが、脳裏をよぎる八重樫家の記憶が、それを邪魔する。


『あんたなんか生まれてこなければよかったのよ!この出来損ないが!八重樫家の恥晒し!大した能力も使えないくせに、家名を傷つけることばっかり!』

『お前に家督は継がせない。まったく、長男が家を継げないなど、信じられない話だが。どこほっつき歩いてるんだか知らないが、これ以上八重樫家に恥をかかせるような真似はしないでくれ』


 母の金切り声が、父の呆れた声が、何度も何度も繰り返し再生される。少しのミスをしただけで殴られ、吹っ飛ばされる教育を受けてきた。その光景がよみがえり、思わず目をぎゅっと瞑ってしまう。


 なぜこんな拷問まがいのことをされているのか。それは、音夜が実験で精神干渉の能力を手に入れてから、宝条の能力を使えなくなったからだ。——否、音夜は使えない()()をしているだけなのだが。


 音夜は宝条に忠誠を誓った身。月城に寝返ったフリをして、二重スパイとして動いていたのである。そのために、宝条の能力の情報が少しでも漏れないように、体を張って頑なに光の能力を使わずにいるのだ。


 音夜の新能力付与の実験が成功しているように、加納の実験も成功している。和樹の言うように、精神干渉の能力は非常に強力で、それに打ち勝つのは並大抵の精神力では不可能だ。


 それでも、音夜は忠誠を誓った一史のために、宝条のために、心を読まれないように、重要な情報が漏れないように、ひたすら強靭な精神力で加納の能力を跳ね除けるのだった。


「チッ!余計な情報しか入ってこない」


 加納が苛立ちを見せる。本当は、加納の能力は実戦レベルに達しているのだが、音夜の精神力が強すぎるせいで、月城にとっては加納が弱いように見えてしまっているのだ。音夜は少し同情してしまうが、それ以上に主を守る方が優先だから、仕方がない。


「和樹様、これ以上は無理でございます。お役に立てず、申し訳ございません」


 モニターに話しかける加納。電源が入り、画面上に和樹が現れる。


「……いいだろう。加納くんはさらに能力を高めないといけないな。副作用もあまり出ていないようだし、薬の量を増やそう。——八重樫くんは、光の能力を再び使えるように、訓練を続けたまえ」

「「承知いたしました」」


 音夜としては、一刻も早く一史の元へと帰りたいが、囚われの身としてそれは叶わない。だったらせめて、宝条を守るために動こうと、改めて固く決意する。


 音夜の精神力は、皮肉にも幼少期の厳しい環境で培われたものだろう。救ってくれた一史の役に立つことができるのなら、自分の辛い過去も肯定できるな、と思った音夜だった。


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