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揺蕩う音符とシンデレラ 〜無能力者の私がなぜか貴族トップの家の次期当主に溺愛される〜  作者: 泉紫織
第1部

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1つの願い

目が覚めると、あたりが真っ暗だった。何も見えない、真の暗闇。ああ、死んだのか。結局、何も役に立てないまま、むしろ迷惑をかけて死んだんだな。


ひんやりしたコンクリートのような床に寝転んでいる状態だ。体が全く動かせない。


少し意識がはっきりしてきて、すぐに死んでいないことに気づいた。体は縛られている上、暴力を受けた痛みが今やっと体に届いたみたいで、そのせいで動かせないだけだ。


さっきは部屋の照明がついていたから明るかったのだろう、目が暗闇に慣れてきて、さっきの部屋と同じ構造であることに気づく。夜になってしまったのだろうか。それとも密室で全く光が入ってこないのだろうか。


閉じ込められて放置された、といったところだろうか。立て続けにいろんなことが起こったせいで、少しだけ落ち着いている。だが、密室だとするとそう長くは酸素が持たないはず。痛くても動いて出口を探すしかないか。


体に鞭を打って身を捩るようにして少しずつ移動する。でも、かなり頑張っても数センチくらいしか進めない。すでに酸素が薄くなってきているような気がする。何度か挑戦したが、すぐに力尽きてしまった。


宝条家には事態は伝わっているはず。緊急発信もしたし、護衛もすでに目を覚ましている頃だろう。珀は……。忙しいから助けにこれないだろうか。


死んでしまう前に、珀に会いたい。そう願った。


「私は……珀様が……。」


少し前から、確実に自覚していた気持ちが、はっきりと形になる。


「まだ……伝えられて……いません。」


せめて、きちんと想いを伝えられたら。心の底から強くそう願う。


すると、頭の中で優しい声が聞こえる。


「歌いなさい。願いを込めて。」


バチっと電流が走ったような感覚になる。歌わなきゃ、という義務感がどこからか湧き上がってくる。え?今歌ったら酸素がなくなってしまう。なんで?


「歌いなさい。届くから。」


また、声が頭の中で響く。琴葉は、ほぼ自然に歌い出していた。


〜*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪


掠れていく声も気にせず、八重樫先生に言われたように、感情を歌に乗せて。願いを音の一つ一つに込めて。


♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫


段々と息が苦しくなってくる。リズムもちゃんと取れない。でも、力尽きるまで!


.•*¨*•.¸¸♬♫.•*¨*•.¸¸♬♫.•*¨*•.¸¸♬♫


淡い蛍のような光が体を纏い始める。さっきも気を失う直前に光が見えたが、なんの光なんだろう。歌えば歌うほど、光が強くなっていくのがわかる。


そして琴葉は、ゆらめく視界の中で最後のフレーズを絞り出して、そのまま眠るように再び意識を手放した。


※ ※ ※


目を開くと、夢の中特有のセピア色の世界にいた。どうしても夢では古い写真のような色の世界しか生み出せないらしい。


激しい違和感がある。見たことのある景色ではないようだ。戦争が終わった後のような焼け野原が広がっている。歴史の教科書の写真で見たことがあるような、そんな世界だ。


光一(こういち)さん!!」


「スミレか、無事で何よりだ。その……家族は?」


目の前の男女が会話を始める。2人とも着物を着ており、現代とは程遠い格好だ。スミレと呼ばれた女性が顔を曇らせた。


「みんな、死んでしまったわ。私がうまく力を使えないばっかりに!守りきれなかった……。」


スミレはそう言って崩れ落ち、泣きじゃくった。まるで映画を見ているみたいに、琴葉はいないものとして扱われていて、それなのにスミレの感情が手に取るように伝わってくる。


「スミレ、神楽(かぐら)を舞うんだ。村の神社はまだ残っているだろう。私が祝詞を読む。正真正銘の神頼みだ。」


スミレがハッとして顔を上げる。2人のことを初めて見たのに、なぜか何をしようとしているか、そしてそれが何を意味するのかがわかった。


スミレと光一は能力者なのだ。それもかなり昔の。そして、スミレは神楽を舞うことで力を発揮できる能力なのだろう。光一の能力は祝詞でバフをかけるものだろうか。本来、能力とは人間の生活が魔形に脅かされ、神に一心に平和を願った時に与えられたと聞いたことがある。


死者を取り戻すことはできない。でも、これ以上被害を出さないように願うことならできる。もう焼け野原になってしまったこの村でも、まだ生き残っている命があるのだ。その尊い命すら失うことは許されない。


スミレがしかと頷く。2人は手を取り合って、神社の方へと走り出した。琴葉もついていこうとしたが、夢の世界で体を自由に動かすのは難しく、見失ってしまった。


なんの夢なんだろう、と考えながらぼーっとその場に立ち尽くしてしまう。段々とセピア色の世界が薄れて消えていくのを、ただ眺めていた。

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