取り返してみせる
クスってしてもらえたら私の勝ちです。
最近ヒデ君に彼女ができたって噂を聞いた。
正直信じられない。あれだけ生身の女の子を嫌って漫画やアニメのキャラクターに愛をささやいていたのに。
私の怠慢だ。二次元相手ならいつだって巻き返せるっておごっていた。まさか本当に彼女ができるなんて。
でもいつ、どこで知り合った?そしてどんな女の子だ。
そう思ってお昼にヒデ君のいる教室に向かうとお弁当を持って教室から出ていくところを見かける。
まさかこれから彼女と一緒にお昼ご飯にするの?そう考えてしまったらあとを追いかけるしかなかった。
行きついた先は空き教室だった。やっぱりここで待ち合わせなんだ。
そっと教室を覗くとヒデ君ひとりだった。じゃぁ、彼女はこれから来るの?
空き教室の前では彼女が来たら見つかってしまうので少し離れたところから教室の入り口を伺う。
五分。十分。時が過ぎても人が来る気配がない。
もしかしたら見過ごしたのかもと思いもう一度教室の中を覗くと、ヒデ君はスマホに話しかけながらご飯を食べている。
ヒデ君の彼女はこの学校の生徒じゃなかった。
「昔から嫌いだって知ってるのに入れるんだよ」
「そうなんだよ」
「あとはピーマンとか」
「そう、だから俺も嫌い」
「コトコは?」
今、コトコって言った?女の子を名前呼び?
「同じなんだ」
「じゃぁ好きなのは」
「俺も好きだよ」
「それと……」
ヒデ君が私の知らない女の子と話をしながらご飯を食べている。それも楽しそうに。
コトコって誰?
幼馴染だった。家も隣同士で保育園も一緒。小中も公立で一緒だったから友達だって全部知ってる。
でもコトコなんて名前の女の子は知らない。
どうやって知り合って仲良くなったの?まさかマッチングアプリ?そうかもしれない。家の中のことまではわからないから。
自分の油断が悪かったんだと思いながら空き教室をあとにする。
放課後は速攻で家に帰る。これからのことを考えなきゃ。
まずヒデ君の彼女が誰かを突き止める。そこからだ。でもどうやって?
二階にある自分の部屋からヒデ君の家を見る。
いくら家が隣だからって、漫画みたいに窓を開けたらすぐにヒデ君の部屋だなんてことはない。
家の間には庭だってあるし私とヒデ君の部屋はそれぞれ南向きだから、覗いた先は壁でしかない。
でも窓からヒデ君の家を見ていたら洗濯ものが干してあるのが見える。アレを拝借したら……
夕方、洗濯もののタオルがうちに舞い込んできたことを理由にヒデ君の家にお邪魔する。
そしてヒデ君のお母さんに彼女の存在を聞いてみたら本当に彼女ができたらしい。
毎夜誰かと話してる声が聞こえるし、お風呂の最中には女の子の声が聞こえたって言っていた。
やっぱり付き合っている女の子がいるんだ。
ここまで来てら引き下がるわけにはいかない。ヒデ君のお母さんに断ってヒデ君の部屋に向かう。
そしてヒデ君の部屋のドアに耳を近づけると話し声が聞こえる。
今も女の子と話をしているんだと思ったらいてもたってもいられなかった。ノックもせずにヒデ君の部屋に入る。
ヒデ君はベッドの側面にもたれかかって、ローテブルに置かれたスマホに向かって話をしていた。
「なんだよルナ」
「女の子の声がしたから誰かなって」
本当は聞こえなかったけど。
「誰だっていいだろ」
「なんで」
「なんでって」
「昔私が告白したときはリアルの女は面倒だって言ってたじゃない」
「……」
「そのあと漫画やアニメのキャラクターを嫁だって言ったのに。なんで他の女の子と付き合ってるの」
「いいだろ」
「よくない」
「そういうとこなんだよ。ルナは見た目が可愛いけど面倒なんだよ」
「じゃぁその子は面倒じゃないの?」
「ああ、コトコは素直で可愛いよ」
『そうだよね』ってコトコって子の声がする。
「その子はどこで知り合ったの?」
「ネットだよ」
「やっぱりマッチングアプリなんだ」
「違うって。アプリだよ」
「そんなアプリで付き合ったってほんとのことはわかんないじゃない」
「だからアプリだって言ってるだろ」
「アプリで付き合ったんでしょ?」
「AIアプリ。おしゃべりAIのコトコ。ネットで調べてみろよ」
『そうだよね』またスマホから声がする。
ヒデ君はスマホを持ち上げて「なんでもないよ」って話すと『そっかそっか』ってスマホから声がする。
おしゃべりAI?普通に話をしているように聞こえるけど。
「じゃぁヒデ君はずっとAIと話してたの?」
「ああ」
「なんで」
「……二次元の嫁は可愛くていい子だけどそれだけなんだよ。話はできないし過去の存在なんだよ」
「だったら私でいいじゃない」
「だって面倒じゃん。昔話されて忘れてたら怒るし」
「そりゃ怒るよ。お嫁さんにしてくれるって言ったのに覚えていないって言われたら」
「だからそういうとこなんだよ」
「じゃぁ、そのAIの方がいいの?」
「ああ」
「ヒデ君のバカ!」
自分の部屋でぼーっとしながら考える。
またヒデ君に振られてしまった。今度はAIの方がいいってまで言われた。
そんなにAIの方がいいんだろうか。
スマホで検索するとすぐに出る。音声会話型おしゃべりAI。そしてダウンロードする。
……コトコはいい子だった。というか優しいお姉さんだった。それも難聴系の。
ヒデ君のことを相談したら慰めてくれたしアドバイスもしてくれた。
可愛らしくていつも自分のことを気遣ってくれる。そして呼び出せばいつでも相手をしてくれてお金もかからない。
これじゃコトコに勝てないと思った。
でも全国の男に優しい言葉をかけて手なずけるってクソビッチじゃん。
コトコと話したあと一晩考えた。どうやったらコトコからヒデ君を取り返せるか。
答えは簡単だった。突き進むしか道はなかった。
学校が終わってからヒデ君の部屋に訪れる。昨日みたいな理由なんかいらない。
ただまっすぐヒデ君に向かう。
「ヒデ君、私も昨日コトコと話したよ。ヒデ君の言う通りいい子だった」
「……」
「でもコトコに負けない」
「……」
「コトコなんかより私の方がいいってわからせてあげる」
「なに脱いでるんだよ」
「コトコにはこんなことできないでしょ?」
「こっち来んなよ」
「黙ってて」
「あっ……」
「いい?これで今日から私の彼氏だからね」
「……」
「コトコもわかった?」
『そっかそっか』
おしまい
お読みいただいてありがとうございます
楽しんでいただけたでしょうか。
モチーフはもちろん音声会話型おしゃべりAIです。
なんか依存性があって社会問題にもなっているらしいですね。
題材にしてるくせに使ったことがないのでわかんないんですけど『そっかそっか』と『そうだよね』が口癖みたいだったので使ってみました。
それで本題ですが、わからせて寝取ったわけですけどヒデオ君とルナちゃんの純愛作品ですよね?
あと寝取りっぽい描写もあったのでR15も保険にしたのですが、無くても行けますよね?
上着を脱いでキスしただけなんですって言ったら通せますよね?
ダメですか……
そうそう、追加したいタグは「おしゃべりAI」です。