カイン視点
加護って憧れますよね。戦いの神の加護とか強そう…。
肌を刺すような寒さと、暖炉から聞こえてくるパチパチという音で目が覚める。
次第に寝起きでぼんやりとした思考が鮮明になってくる。窓の外では雪が降っており、寝具の上から視界を横に向けると、メイドが暖炉に火を焚べているところだった。
「おはよう、メリー。今日はやけに冷え込むね」
「おはようございます、カイン様」
そう言って丁寧に腰を折る彼女は、メイドのメリーだ。切れ長の目をしていて、長い髪は後ろで纏めている。
元々は奴隷だったそうだが、その生真面目な性格と仕事の正確さで今ではメイド長の右腕として働いているそうだ。待遇も良く、月に一度開かれる市場で本を買っては読んでいるらしい。まあ、古代文明の歴史だの高等魔法学の応用だの、僕には到底理解できないものばかりだが。
「カイン様、朝食のご用意ができております。それと、旦那様がカイン様に話があるとのことです」
「わかった。ありがとう」
メリーの話に返事をしながら、着替えを手伝ってもらう。
貴族の服って、一人じゃきれないんだよな。昔にお忍びで街に行った時に着た庶民の服の方が楽でいい。
…まあ、それを父様や兄さんたちに言ったら怒られるだろうけど。
着替え終えたので、鏡で自身を軽く眺めてみる。
朝日を反射してそれ自体が輝いているような銀の髪に、それとは対照的に光を呑み込むような黒い瞳。顔からはすっかり幼さが抜けている。
これが僕、コーラリア=ロウ=カインだ。家は王都の貴族街にあり、領地を持たない、いわゆる宮廷貴族だ。
最後に軽く着替えの途中でついた皺を伸ばして、部屋を出る。
廊下は暖炉がないので、服から露出している顔や手が痛い。
とりあえず、父様が話があるそうだから、一旦部屋に行ってみる。
厳かな雰囲気の扉を軽くノックする。
「父様、失礼します」
「…入れ」
中から返事があったので扉を押し開けると、僅かにキィ…と音が鳴った。
「父様、話があるとのことでしたが、なんでしょうか?」
「うむ。もうお前とロット、そしてグレッグは、立派に成長してくれた。父としては、とても嬉しいことだ」
「はい」
「しかし、だ。おそらく、ロットは光属性、グレッグは地属性の魔法に適性が出るであろう」
…おっとこれは、ちょっとまずいかな。
ちなみに、グレッグとロットというのは、僕の兄弟だ。グレッグが長男で、僕が次男。,そしてロットが三男だ。
父様の話はなおも続く。
「それに対してカインよ。お前は勉学はとても成績がいい。剣術も、それなりにできるが、魔法はどうだ?今まで、何か使えたか?」
そう。僕は、魔法が一切使えない。
この世には、魔法が溢れている。貴族は当たり前に使えて、平民でも少し訓練すれば、誰でも使える。
しかし、平民にたまに生まれる"魔力無し"は、魔法が使えない。魔法の媒体として一人一人の体に流れる魔力を消費するからだ。だからもちろん魔力がない人に魔法は使えない。
しかし、別に僕に魔力がないわけではない。それどころか、兄さんやロットよりも多いくらいだ。
それなのに、僕は魔法が使えない。いまだに、理由はわからない。もしや呪われているのではないかと何度も疑ったものだ。
「カインよ。お前には辛いだろうが………この家を、出てもらう」
「そんな⁉︎」
「もちろん、今すぐ、というわけではない。あくまで、もし、もしだ。お前がなにも適性を授からなければ…家を、出てもらう」
淡々と話す父様。
…こんなの、あんまりじゃないか。
貴族には、とある風習がある。長男に家を継がせるとか、そんなことじゃない。
生まれた子供たちに、神が"スキル"を授けるというものだ。ちなみに、平民が"レベルアップ"して自らスキルを手に入れた、ということもあるらしい。
スキルとは、一人に一つ、神が授けるという超常の存在だ。
しかし、超常と言っても、万能なわけではない。一人一つ、取り替えもできないので、弱いものや役に立たないものが出ることもある。
…むしろ、今はそれこそ出て欲しいものだ。貴族の中では、スキルを授かるのは神に愛された印と言われている。もし授からなければ…。
兄さんやロットはさっき父様が言った通り、地属性と光属性のスキルを授かるだろう。いつも二人の魔法の練習を見ているが、二人はその二属性が得意だ。兄さんは地属性に加えて火属性も得意だし、ロットは剣術が兄弟一上手い。
それに比べ、僕はなんの取り柄もない。いや、あるか。一応、勉学は兄弟一だと自負している。だが、それがなんだ。スキルは魔法関連のものを授かるのが一般的なので、勉学がうまくとも授かるスキルに関係はない。
…このままでは、家を追い出されてしまう。しかし、今更何かできるわけじゃない。
「……わかりました」
「うむ。では、下がってよい。朝食が済んだら教会へ行くから、準備しているように」
「…はい」
どこかぼーっとした頭で、どうすればいいか考える。しかし何か答えが見つかるわけでもなく、気付けば朝食は終わっていた。
そして、もうすぐ昼時という時間で、教会に着いた。地面には雪が積もっており、光を反射している。教会はその光を受けて、神秘的に輝いている。
僕の前には父様が、左右には兄さんとロットが、どちらも何かを期待するように瞳を輝かせていた。
僕とは、大違いだ。
「では、行くぞ」
「「はい」」
僕は、もう返事をする気が起きない。魔法が全く使えないのに、スキルを授かる訳がない。万が一授かったとしても、それもまた使えないのだろう。
父様が中にいた神官に一言二言話すと、少し開けた部屋に連れて行かれた。壁には半分埋め込むようにして柱が並び、真ん中には絨毯が敷いてある。そしてその絨毯を辿ると、祭壇があった。祭壇の上には一つの水晶と女神像が置いてあり、その少し下に階段がある。ちょうど階段の上に立った時に肩あたりに水晶がくるようになっていた。
「…?」
祭壇の上の女神像を見た時、なぜかひどく既視感がした。神話の勉強で何度か出てきたその神は、生命と魂魄、そして輪廻の輪を司るという。その神がヒトの魂にスキルを刻むと聞いたことがある。だが、そんな"見た"ではない。どこか別の、遠い場所で出会ったような…そんな不思議な感覚がする。
腰まで伸びた髪に、シンプルなワンピースのような服。しかしその袖口は大きく広がり、装飾がされていた。
…なんだろう。どこかで見たような…。
しかし遅れて来た神官がグレッグを祭壇に呼んだことで、意識を現実に戻される。
その神官はそれなりの立場にいるのだろう。緩く広がった神官服には、青と金の装飾がされている。
兄さんは緊張した面持ちで進んでいく。そして、神官が水晶に手をかざすように言うと、少し躊躇うような動作をしてから、手をかざした。
すると、水晶から眩い光が溢れ出す。目を開けられないほどではないが、眩しくて目を細める。
光が止むと、空中に金の光で文字が投影されていた。
【大地神の加護】
…え?
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