ありがとうございます、女神様。
いやあ、最初はただのVRMMOの予定だったのになあ…なんでこうなったんだろう。
床には大量のファンタジー小説が散らばり、ついている明かりはPCだけ。そんな部屋で俺はコンセントに接続していたヘッドギアを取り、被る。
ベットに寝転がった俺はそのままヘッドギアの電源を入れると、意識が仮想空間にリンクされていく。
そしてゲームのスタート画面に降り立つ…はずだった。
しかし、『パンッ』という音がすると、それを理解する前に俺の意識は消えた。
ゲームの接続が完了したわけでは無い。
俺は、死んでしまったのだ―――
という数分前の出来事を思い出す。
「…いやだからって、これはないでしょう」
周りを見回す。俺は今、薄く金色に輝く雲の中よう空間にいる。ちなみに、空中に立っている状態だ。
少し横を見れば、神殿にありそうな柱がそこらに浮いている。それが前に向かって続いているので、そちらに向かえということか。
「…仕方ない。行くか。」
保証はないが、とりあえず歩く。本当なら「あれ?これって転生イベント?やったー!」とか言うべきなのだろうが、喜んでいられない。
たしかに、憧れてはいた。しかし、現実はそんなに甘くないはずだ。そもそも、転生するかどうか決まったわけでもないし、いきなり奴隷スタートもあり得る。俺はそんなの嫌だ。
そんなことを考えながら歩いていると、柱が途切れ、開けた空間に出た。
そこにはひとつの天蓋付きベットがあった。ネットで見た貴族のものより豪華だ。白をベースとして、金の装飾がついている。
近寄って覗き込んでみると、金髪の美少女が寝ていた。シンプルな白いワンピースのような服を着ているが、袖のところは大きく広がり、そこだけ青と金の装飾がついている。
「…ん…みゅう」
どうやら起きたらしい。
「…あれ?なんで人間君がここに?」
逆にこっちが聞きたい。なんで家でVRMMOしてたらこんなとこ来るんだよ。ていうか人間君ってなんだ。
「ぶいあーるえむえむおー?…あ!そっか君か〜」
「…心読みました?」
「もっちのろんさ!なんたって私は神だからね!」
神様 が現れた
「失礼だね君。信じてない?」
「いや、信じはしますよ。こんな空間にいるし、妙に感覚はリアルだし。まずゲームの中ならパーカーなんて着てないし。」
「ふむ。察しのいい素直な子は嫌いじゃないよ。そんな素直な君に質問だ。なんでここにいると思う?」
「死んだんじゃないの?」
「正解!死因はヘッドギアのオーバーヒートによる爆発だね。でも、軽いね。未練ないの?」
いや、某コックの真似をしただけだ。
「まあ、未練が無いかと言われたらあるな。」
「前世のゲームのこと?」
「そうだな。それもある」
ソード&ダンジョンズ―――通称SADという名のゲーム。
約二年前にとある会社が世界初開発に成功したVRMMOだ。
名前の通り、プレイヤー達は世界各地に散らばる迷宮、ダンジョンを攻略する剣と魔法のRPGだ。
俺は、そのゲームで最強と呼ばれていた。とあるダンジョンを見つけたからだ。
その名も【決戦の地】。お分かりいただけただろうか。これは本来、当時の俺のようなプレイヤーが入っていいものでは無いのだ。しかし、バグによって地面に潜り込んだ俺は、到達してしまった―――このゲームの全ての敵だけでなく、さらにボスが一体追加された地獄に。
それからというもの、俺は寝る間も惜しんでこのダンジョンに挑んだ。バグによってダンジョンに入ってしまったため、出方がわからないのだ。しかも、死んでも初期地点に戻された。ここを出るためには、ボスを討伐するしかなかったのだ。
途中までは順調に進んでいた。が、このダンジョンはゲーム内全ての敵が出てくるのだ。もちろん、他ダンジョンのボスまで。しかも苦労して討伐できたと思えば、そこらの雑魚のように群れで襲ってくる。まさに鬼畜、いや、それ以上だった。
しかし、俺は課金や公式チート、さらにはバグまで利用して、ついに最後のボス部屋までたどり着いた。この時点で俺はゲーム内ランキング一位だった。そりゃそうだろう。ボス級のモンスター達のドロップ品と経験値がそこらに捨てるほどあるのだから。
そしてボス部屋に待っていたのは、巨大な人形ロボットだった。このゲームにも、一応ゴーレムはいる。しかし、そこにいたのは、全身に歯車やコードが巻きつき、銃やエネルギーブレードのような物を持って佇むまさしくロボットだった。
―――結果、開始2分で死んだ。
ありゃ無理だ。レーザー撃ってくるしエネルギーブレードは防御貫通だし、ミサイルホーミング式だし、小型召喚してきて、そいつらライフル構えてるし。他のモンスター達は微妙に弱体化していたが、あいつは多分全力だろう。
しかし、俺は諦めなかった。負けて負けて負けて負けて負けて負けて負けて―――、一年弱たった頃、ようやく、そいつを倒すことに成功した。ドロップ品を見て叫んだ覚えがある。
それから俺はダンジョンに出てきたモンスター達のドロップ品や弱点についての情報を他のプレイヤーに売りながら、初心者育成用のギルドを設立した。
しかし、この世界はゲームだ。もちろん荒らしも存在する。そんな荒らし達に決闘を挑んでボコボコにしていたら、三つの二つ名(?)がついた。
【最強】
【情報屋】
【機械神】
…結構イタイ。
まあ、そんなことでゲーム内ランキング一位に上り詰めてしまったのだ。
「まだまだ成長段階のやつらギルドにいたのになぁ…」
「まあ、諦めなよ。死んじゃったらどうもできないよ」
「…そうだな」
「しっかぁーし!!」
「うお!いきなりなんだ!?」
「ふっふっふ…。私は"GOD"ナノデー、あなたに異世界でのもう一度の人生を授けましょう!」
…え?
「マジで?」
「ええ、もちろんよ!剣と魔法のファンタジーよ!どう?嬉しいでしょ」
少女は得意げに薄い胸を張り、ドヤ顔をするが…。
「…ヤダ」
「なんで!?」
「いやだって、転生するんでしょ?でも、奴隷スタートだったら?なんの能力も無かったら?性別変わったら?他に転生者がいて、俺より遥かに強くて、すぐにやられたら?そしたらどうするの?ただの罰ゲームだよ」
「…はあ、本当はランダムにする予定だったけど…。まあ、いいわよ。色々サービスしてあげる。」
「なら行く」
「即答ね…。えーっと、じゃあ、身分は貴族の次男で、能力は…ゲームの能力でいいか。あと、他の転生者はあまりいないから安心しなさい。あとは色々スキル追加しておくわよ」
結構ポンポンサービスするんだな。しすぎじゃない?
「…全部取り消すわよ」
「すんませんありがとうございます一生恩に着ます女神様ありがとうございます」
「…じゃあ、設定終わったから、そろそろのはずよ」
仕事が早い。
「心の準備はできた?」
「サービスしてくれると言ったその時から」
「…もう突っ込まないわ。いってらっしゃい」
少女がそう言うと、だんだんと意識が遠のいていく。死んだ時とは違い、ゆっくりと…。
そして、ブラックアウトした視界の中、俺は一つの決意を固めた。
―――また、最強になってやる。
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まず読まずにここを見た人は、読んでください。