ボロアパート14
…こんな事しちゃいけない。
わかってる。
わかってるけど、ダメだと思えば思うほどやめられなくなっていった。
今覗いているあの人の姿は僕しか知らない。
他の誰も知らない…僕だけ。
自分にこんな趣味嗜好があったなんて知らなかった。
どうしよう。
…興奮するんだよ。
初めて覗いたあの日の泣いてる姿が目に焼き付いて離れない。あれから毎日、彼女の生活を覗き見ている。
ふとした時に爪を撫でる癖。
眉を寄せて難しい顔でメイクする朝の様子。
そうそう!彼女、箸の持ち方が綺麗なんだよなぁ。
…寝顔も可愛いし。
でも時々、最初のあの日みたいに泣く日があるんだ。
静かにただ涙を流すだけ。
部屋の奥にあるタンスの上。
写真と小さな箱のような物が置いてあるのに気づく。
綺麗な布に入った骨壷だった。
まさか子供がいたとは。
しかも亡くなってるなんて。
けど、泣いてる姿を見るとたまらなく抱きしめたくなる。
慰めてあげたくなるんだよ。
でも、僕はこの穴から見てるだけ。
彼女に触れる事は出来ない。
だって、触れたらめちゃくちゃにしそうな気がする。
…好きな人にそんな事したくないだろ?
この薄い壁一枚を隔てて理性を保ってるんだ。
なんて、カッコつけた事言ったって結局は嫌われるのが怖いんだよ。そりゃ、自分を覗いて興奮してる奴を誰が好きになる?
とにかくバレないようにしないと。
バレたら終わる。
遮光カーテンを買って常に部屋は暗いままにして、覗かない時は穴を塞ぐようにしていた。
そんな毎日を過ごし、ここから彼女を見つめて数ヶ月が経った。
大学へは初めのうちは通っていたが次第に行く回数も減り、ついに行かなくなった。
……
最近、誰かに見られてる気がする。
気のせいだと思うんだけどなんでだろ?
疲れてるのかな…?
そういえば、お隣の学生さん。
最近見かけないけどどうしたのかな?
ま、私には関係ないか。私なんかに心配されたって困るよね。
また視線…バッ
振り返るけどただの壁。
「はぁ。何もいる訳ないじゃん…。」
ベタなホラー映画のような動きにちょっと笑ってしまう。「ふふっ。変なの。」
……
「あぁっ!今の何!?めちゃくちゃ可愛い…。つーか、バレそうになった?いや、大丈夫…だよな?」
心臓がギュッとなる。
これが恋なのか…?ドキドキが止まらない。
あれ?彼女、こっちに近づいてきてないか?
え?…いや、ヤバい。
バレた…?マズいぞ。
やめりゃいいのに穴から覗くのをやめられない。
今すぐ穴を塞げ!今ならまだ間に合う!