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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
第四章、武神奉闘祭
93/112

91、ヤマトの王

フィクション故に大抵は許されます。

歴オタの人は目を瞑ってください。



 ヤマト、という大国がある。



 大陸の最東に位置し、周囲は山々に囲われ、海は危険な魔物が集中している、陸の孤島。

 そのために独自の文化を持ち、それを守り抜いてきた、特殊な国である。

 

 例えば、侍。

 他の国で言えば騎士と呼ばれるであろう役職。


 だが、騎士ではない。

 騎士は主に剣と盾を同時に使うのが主流であり、常に重い鎧で身を包んでいる。

 対して、侍。

 鎧も盾も、必要ない。

 刀一本であらゆる戦いを切り抜ける。

 だが強さで劣ることは決してなく、むしろ獣人に並んで、最強の一角に数えられているほどだ。


 獣人、エルフの弓士、ヤマトの侍。

 人間の騎士という主流から外れ、だがそれでも強いと称される三大戦士。

 圧倒的な実力を誇る『英雄』を除いて、全体的に見た場合、この三様が最も上に置かれていた。


 その中でも、やはり侍は異常だ。

 理由で言えば、その数だろう。

 エルフも獣人も、三様の一つとして数えられるには、騎士というものに負けない強さと、知名度がある。

 分かりやすく元を言えば、国家の主力としてあるだけの頭数。

 最低限、必要なもの。


 だが、侍にそれはない。

 厳しい試練を乗り越えねば、侍を名乗ることは許されない。

 知も武も、超が付く一流でない侍は世界のどこにもいない。

 ヤマトの元首である家、スメラギが、建国から定め続けてきた掟。

 コネや癒着でなることもない、真の国人だけが名乗ることを許される称号なのだ。

 もしも、ヤマト一の権力者がなりたいと言ったとして、資格なければ手の内には入らない。

 けれども今、ヤマト最大の権力者が、ヤマト最強の侍なのは、とても有名な話だ。

 

 他には『武神』の伝説。

 ヤマトの武への情熱は世界一とも言われる。

 途方もない時間受け継がれ、性質として備わった一つの衝動にも似た感情。

 獣人が獣の本能を飼っているように、エルフが自然と溶け合うことを至上と覚えるように。

 彼らはごく自然と、高める、強くなるということへの意志が宿っていたのだ。

 

 獣人も強さに対して似た感情を持ち合わせているが、ヤマトの武とは違う。

 同じようで、実はまったく異なっている。

 本能、天然、素、才能、という強さ。

 鍛錬、経験、技、克己、という武。

 その結晶、武が形をもって顕現した、と語られる存在こそが武の神。

 世界最悪の敵。

 天上教八大使徒序列第二位『武神』である。


 ヤマトはそんな『武神』を崇めている。

 世界中が『主』を唯一の神とするが、ヤマトだけは『主』以外を神と認める国なのだ。

 

 その一環として行われるのが祭りだ。

 ヤマト最大の権力者が開催し、ヤマト最強の侍が『武神』へと挑戦するという催し。

 このためだけにヤマトへ訪れるという者も少なくない。

 十年に一度の大祭り。

 殺し殺され、武器、毒、暗器なんでも有りの御前死合。

 武の神への挑戦権を賭けた戦いの場として、世界中からチャレンジャーが集まる戦の場。

 優勝者には『武神』との一対一を行う権利が与えられる。



 今現在、ヤマトは祭りの開催直前の時期に入り、熱気に包まれていた。

 


 ※※※※※※※



 ヤマトは何もかもが違っていた。

 建物、衣類に食事、街の有り様、何もかもが。

 

 だが、蔓延した熱気は特に異常だ。

 来る街、過ぎた街、行くべき街のすべてが浮足立っている。

 何かを待ち遠しくしているように、ヤマトに根付くあらゆる者がソワソワと。

 その焦がれる想いは透けている。

 誰しもが憧れ、期待する存在が、ヤマトにとって最も相応しい形を取って踊るのである。

 十年に一度の最高の娯楽。

 祭りとして、世界最高の武が繰り広げられるのだ。

 

 こんなに素晴らしいことはない。

 素晴らしいことはない、と確信できる。

 愛する君主が、愛する神と踊る日を十年も待った。

 だから、



 「つまらん祭りなんぞ、許されん」



 それを言う男。

 勇者たちの目の前でどかりと座る不遜な男。

 長い黒髪、鋭い目に無精髭。

 歳は二十半ばほどに見えるが、見た目に反して歴戦を思わせる空気だ。

 何人殺せばこうなるのか?

 これまで感じたどんな殺気よりも恐ろしい。

 黒く、激しく、粘り付くような……


 背丈はニメートルを超え、握る大刀が小さく見える。

 手足も長く、男の武器と合わせたリーチはとてつもないだろう。

 他にも、注視すべきはその筋肉。

 オーディールやライオスのように分かりやすく筋肉の鎧ができているわけではないが、その引き締まった体には凄まじい密度で肉が集まっていた。

 明らかに彼らよりも力があるとは思えないが、彼らに勝るかもしれないと思わせる矛盾。

 洗練され、余分を捨て去った肉体だ。

 まるで、男の強さそのもののように。


 

 「わざわざご苦労じゃ。長いこと歩いてここまで来たんじゃろ? 大変じゃったのう、ゆっくり休め」



 男は言う。

 ヤマトを統べる者として、強い意志を持って。

 


 「ゆっくり休みゃあ、戦え。祭りには出てもらう。そうでなけりゃ、戦争も、世界の敵も、天上教も知らん」



 有無を言わせない物言いだ。

 男にとって重要なのは、どれだけ祭りが楽しいものとなるのか。

 どれだけ自分と敵とのお膳立てが素晴らしくなるか。

 他人の死も、亡国の可能性も、世界の危機も、何一つとして興味はない。

 男にとってすべては些事だ。

 


 「ワシの引き立て役、頑張れや」



 不遜、傲慢、驕り。

 気位が高いという話ではない。

 それが当たり前かのように、男は宝玉のような誇りを背負っていたのだ。

 圧倒的な覚悟と共に。



 「はじめましてじゃ、勇者さんら。ワシはテンリ。この国背負うとる、テンリ・スメラギじゃ」

 


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