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88、新しい仲間

これで幕間終了。

次回から四章、『武神奉闘祭』編です。


 あっという間だ。


 災害である死龍が現れてから、たった一人のエルフによって討伐が行われるまで。

 一分先には龍は捕らわれ、五分先には龍は縛られ、十分先には決着だ。

 

 龍が弱い、などということは決してない。

 あの龍は幾万の人間が束になったとしても、すべてを薙ぎ払えるだけの力があった。

 下手をすれば、国すら呑み込みかねない脅威であった。

 あの『獣王』ですら、厳しい条件付きとはいえ、瞬殺できずに手こずった龍。その一種。

 仮に彼女以外の街のどの冒険者が戦ったとして、瞬きの間に殺されていたはずだ。


 それをこれだけ早く。

 街ごと周辺のすべての生物が死体に変わってもおかしくなかった。

 だけれども、被害は一部家屋の粉砕程度。

 英雄と呼ばれて然るべき所業だろう。

 だが、



 「あんなのが居たからこの街に化け物が来たんだろ!?」

 「汚らしい怪物め」

 「人間のふりをして、何が目的だ?」

 「出ていけ」

 「そうだ、出ていけ!」

 「化け物め、死んでしまえ!」



 称賛の声は皆無。

 彼女へと向けられる言葉はすべて、呪いを含んでいた。

 おおよそ人間に向けるものではなく、完全に敵に向けるもの。

 守ってもらったという感謝は一切なく、誰もかれもが憎しみの一色。

 それに対して、



 「言われなくても出ていくさ。ただ、それなりのモノを貰ってからね」



 驚愕だ。

 当たり前の要求。

 当然の権利。

 それに対してすら、民衆は『厚かましい化け物』と唾を吐く。

 民衆だけでなく、同業者にも。

 この時、ギルドの支部から出された報酬は凄まじい。

 それなりに贅沢な暮らしをしても向こう十年、余裕で暮らしていける金額

 そして、その金額を用意した時間のかからなさ。

 まるで、『分かっているから、さっさと出ていけ』と言わんばかりに。


 ………


 あり得ない。

 こんなにも異常な力を持つことも。

 それだけの金がすぐに動かされたことも。

 そんな実力者を忌避することも。

 

 ()()()()()()()()()()は、大金と共にそそくさと街を出ていく。

 彼女の命を狙う輩を引き連れて……



 ※※※※※※※※



 「なんで『召喚魔術』は使えると嫌われるんだ?」



 何もかもが終った後。

 たった一人に何もかもを解決された次の日。

 昼を少し過ぎた辺りの時間、四人は何も急ぐ理由もなくなったためにゆったりと旅の支度を整えていたのだ。

 あらかた作業が終った頃に、一番常識を知らない彼の疑問である。

 常識が通じない異世界人にとって、気になるのは仕方がない。

 

 四人もあの夜、騒ぎの中心に駆けつけたのだ。

 強大な魔力が突如として現れ、耳にヤスリで硬い何かを削るような不快な音がつんざいた。

 明らかな異常。

 それを無視できる者はいない。

 即座に飛び出し、最速で駆けつけた。


 だが、すべてが遅れていた。

 高速で動ける前衛二人も、空間魔術を使える魔術師も、現場に着いたころにはヒビによって介入を拒まれたのだ。

 足踏みした次の瞬間、龍と同格以上の魔物が三体顕現。

 彼女の魔術を推測できたからこそ、ヒビを破って戦うことをしなかった。

 だが『召喚魔術』を知る者、知らない者、両方が驚いた。


 

 これほど強力なのか、『召喚魔術』は………



 そう思わせるのに余りある。

 なにせ、あの戦力だ。

 一国の兵力を完全に上回る、脅威。

 そもそもが使える者が限られたレアな魔術ではあるが、一人の人間の領分を超えていた。


 それに、戦いが終った後のこともだ。

 アレは何だろうか?

 救ってもらっておいて、何故あんなにも責められる?

 本人の馴れた態度も、同業者からの避けられ方も、見ていて気持ちの良いものではない。

 だから、疑問だ。

 こんな事が起こり得る魔術なのか、という。


 誰が答えるか一瞬迷い、顔を見合わせる。

 だが、魔術に最も詳しい女が、おずおずと手を上げ、細い声で答え始めた。



 「あ、あの時は、しょ、『召喚魔術』といいましたが、あ、アレには他にも、よ、呼び方があります。『操魔術』とか、『黒魔術』とか」


 

 呼び名はいくつかある。

 その昔、空間魔術を使える者が魔物を操り、人間に甚大な被害を与えた。

 そんな微かな伝説から、魔物を空から呼び出せずとも召喚魔術と呼ばれることもある。

 だから、()()()()()()()()()()()はかなり珍しい。

 だが、この魔術の本質はそうではない。

 忌み嫌われ、黒魔術などと呼ばれる理由は、



 「も、問題なのは、ま、魔物を操る、ことです……」



 ここが問題だ。

 人類の共通の敵は二つ。

 一つは旅の目的であり、倒すべき対象である、天上教。

 そして、最も人を殺す最悪の生物、魔物。


 それと深い関わりを持つことになる召喚魔術使いを、不吉とする者は多い。

 いや、その傾向は半ば常識にまで浸透している。

 過去を振り返れば、魔物に最も近い存在として、術者としての素養がある者を生贄に捧げたり、虐げられたり、それを理由に人間に仇をなすことも数え切れない。

 


 「そ、そりゃ、怖い、ですよね。怖いから、と、遠ざけたいですよね?あ、あんなの見たら、ふ、普通は関わりたくないですよね?」



 あんなの。

 人間など意にも介さず、身じろぎ一つで潰してしまう化け物の群れ。

 その首魁として、操り、殺す。

 だから遠ざけるのだ。

 


 「そうか……」


 「気になりますか?彼女が」


 

 悩ましげな顔を見せる彼に、リベールは言葉をかける。

 同じような事を考えていただけに、気付くのは早かった。

 


 「そりゃあね。あんなの見たら……」


 

 何もしていないのだ。

 むしろ救い、助け、力を尽くした。

 だというのに、その仕打ちがアレでは納得がいかない。

 自分たちに出来る事などないと分かってはいるが、どうしても考えてしまっていた。

 

 何か出来はしないか、と。


 不可能である。

 無謀である。

 無策である。

 覆す術はなく、変える方法もない。

 石を投げられる所を見ているしかなかった者に、寄り添う事はできない。



 「『守銭奴』ケイト=カーラーに気を許すなってな」


 「? それは?」


 「アイツの噂。油断すれば商人だろうが骨までしゃぶられるってな。悪い意味で相当有名だったよ」



 エイルが冒険者たちに話を聞いた結果だ。

 少し機会ができた時、少し気になった輩の話を聞いておこう、という彼の行動である。

 だが、少しでも散々な評価を受けていたのは驚きだった。

 悪名高いケイトは、街でずっと気味悪がられていた。


 曰く、裏で違法な依頼を受けている。

 曰く、詐術に長け、幾人もの商人が被害に遭った。

 曰く、金のためならどんな汚いことも平気でやり通す。

 曰く、そうやって貯めた汚れた金は、一国の運営資産にも匹敵する。


 同業者から有名な彼女の話は、一箇所に留まる彼女を見た冒険者が残していく。

 民衆に広まるのなど、一週間もかからない。

 だから、不気味に思われ、避けられ、最後の最後で不満が爆発した。



 「ったく、癪に触るこった……」



 ガシガシと頭を掻くエイル。

 気に食わない、癪に障る、というのも当然かもしれない。

 

 一部の者は見逃さなかった。

 召喚魔術を見せた後の彼女の肌の色が変わっていたのだ。

 エルフの特徴の一つでもある、陶器のような白から、焼かれたような黒へと。

 伝説的な存在だ。

 エルフとは程遠い、より魔に近い証とされる力を行使するエルフの変異種。


 ダークエルフ


 エルフは純血主義な傾向が強い。

 排他的で、異というものを何よりも嫌い、頭が固い。

 そういう存在が居ると知った時に、殺そうと刺客を差し向けることも、まああるだろう。


 人には嫌われ、同族には疎まれる。

 本当に、気に触る存在だ。

 どうしても気になってしまうほどに、放っておきたいとは思えない。

 けれども、



 「まあ、終ったことだ。アイツはもう街を出ていったし、俺らが出来ることもねぇ」


 「そう、だね……」



 気にするだけ無駄である。

 向けられた助けを跳ね除けた後なのだ。

 それに、()()()()()での助けを求めてはいない。

 嫌われることに馴れた彼女は、自分の立場を変えようなどとは思っていない。

 変に関わりを持てば、変なおせっかいをしようとするかもしれない。

 そんなものは、ただの偽善だ。

 そして偽善よりも、しなければならない事がある。



 「さあ、さっさと次の国まで行くぞ。足踏みしてる時間が勿体ない」



 構ってはいられない。

 そんな余裕は存在しない。


 

 「…………」


 「次はヤマトの手前だ。その次でヤマトに入って、そんで次には都へ行く」



 旅はまだ終わらない。

 もう少しだけ、もう少しだけ。



 




  











 「いやーごめんね?」


 「君らの旅に参加させてもらうことになったよ」


 「ほら、これ『大賢者』からの推薦状ね」


 「じゃ、これからよろしく、勇者一行諸君!」


 「私の名前はケイト。召喚魔術を操る『守銭奴』のケイトさ」


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