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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
一章、旅の始まり
9/112

7,決闘 中編

最後無駄に長くなるかも。できるだけ均一にしたいんだけどしゃーない。


 受けた瞬間、剣ごと潰される


 その確信があった黒の青年は、退避しか選択肢がなかった。

 だが、ただ躱すだけでは間違いなくニ撃目によって切り裂かれてしまう。

 そこで、魔術を用いて逃げることにした。


 後退の瞬間、床から鋼の壁が出現する。

 第四位階魔術、『鋼鉄壁(アイアンウォール)』である。

 黒の青年が詠唱なしに、瞬時に使える魔術の中で最も位階の高い魔術なのだが、それでも油断はしない。

 さらに三重、四重に重ねがけ、より強固な壁をつくりあげた。

 のだが、


 「むうだだあああああ!!!」


 灰の青年が壁を壊すのにかけた時間は一秒にも満たない。

 魔術によってつくりだしたものは、通常の物質よりも基本丈夫だ。

 魔術でより強いものをつくるためには、魔術の行使に用いる魔力量を増やす、または陣の中で余分に魔力を注ぎ込む場所を見極めて矛盾なく行使することの二つの手段がある。

 特に後者は難易度が高く、魔術は陣に全体に均一に魔力を送り込むことで発動させるのが普通なのだ。だから、未熟者がそれをするとつくった陣が()()()、まともに発動しなくなってしまう。

 黒の青年はどちらも高水準にこなしており、その硬度は通常の鋼の3倍近くになっていたはずなのだ。

 だが、灰の青年はそれを一太刀のもと、両断してのけた。


 (ヤバい………!殺られる!)


 理解した瞬間の決断は早かった。

 黒の青年は、灰の青年の三撃目が振り下ろされる前に、灰の青年の懐に飛び込んだのだ。

 長物に対して、それが使い物にならなくなる距離だ。

 だが、それだけでは終わらない。

 手に持つ剣で、灰の青年が剣を持つ方の腕を切断してのけた。


 血が吹き出し、肉を断つ感触が脳を支配する。

 忌避感に溢れるかと思われたが、もう思考は灰の青年をどう殺すかへシフトしていた。

 

 「いいねぇ!」


 剣の腹で咄嗟に防ぐ。

 灰の青年から受けた蹴りによって吹き飛ばされたが、その目は灰の青年から離れない。

 

 「イカれてやがなんなぁ。俺はまともな戦闘経験のない素人相手だって聞いてたんだがなあ」


 灰の青年は切り落とされた腕を拾い上げ、傷口に押し付けた。

 すると、数秒後には掌を閉じては開け、完全に元通りになったようだ。


 「どんなヤツでも、初めて人を殺すときはビビるもんだ。始めはともかく、今は完全に殺る気じゃねぇか」


 愉快そうに口元を歪めている。

 その姿に、野生の肉食獣を幻視した。


 「お前は俺みたいなロクデナシってことだな!いやあ、勇者様が俺の仲間とは、こんなバカな話があるかよ!」


 灰の青年はそのままゲラゲラと笑い始めた。

 一方、黒の青年は冷徹な瞳で灰の青年を見つめている。どのようにしてコレを殺すか、という目だ。

 

 「楽しいよなあ?俺は楽しいぜ?勇者様と殺し合いなんて、人生そうそうある事じゃねぇからなあ!?」


 灰の青年が再び黒の青年めがけて突っ込む。

 黒の青年は、後退する。勿論、それだけではなく、水の槍や地面の楔で捕らえようとする。

 しかし、効果をなさない。

 先程までは、最低でも頭などの急所は守っていたのだが、今は完全にノーガードで突っ込んでくる。

 

 「まだまだぁ!」


 灰の青年の意思は衰えない。

 限界などないのではないかと思わせる進撃だが、黒の青年はわかっている。

 アレは痩我慢だと、


 (どこが限界かは分からないが、限界はきっとある。吸血鬼の再生能力は種族固有の魔術だからな)


 龍のブレス、バジリスクの石化の魔眼に吸血鬼の再生能力。

 こうした種族が持つ固有の能力は、すべて魔術なのだ。

 『それがそうあること』自体が『表現』の役割を担うため、ごく自然に、まるで息をするように使うことができるのだ。


 だから、あの再生能力も無限ではない。

 むしろ、あれだけ乱用していては魔力の消費は激しくなり、弱体化も狙える。

 

 (我慢比べだ………!)


 捕まるのが先か、逃げ切れるのが先か。

 終わりが見えるからこそ、活力が漲る。

 負けてたまるか、と思えるのだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※


 捕まらない。


 紙一重で距離があく。


 捕まえる。


 剣の切っ先が指一本分にまで迫る。


 鬼ごっこは予想以上に長引いた。

 黒の青年は攻撃よりも、目くらまし目的の魔術を使い始め、より足を遅めるための土属性の魔術の割合を多くした。

 それなりに多くの魔力を消費したが、灰の青年も同様に動きが鈍っているのが分かる。

 身体強化にかかる魔力は、魔術を使うのにかかる魔力よりも少ないために灰の青年の方が魔力量は多いが、彼は魔術師ではないのだ。特に問題ではない。


 そして、自身の魔力量と相手の動きから、もう十分だと判断する。


 「『貴方は足を滑らせた。重ねた罪科は貴方を縛り、向けられる怒りは貴方を突き刺す。かつての期待も今はなく、』」


 「!!?」


 灰の青年は身体にムチを打ち、黒の青年へ駆けた。

 風のように速い疾走であるが、それでも始めよりは遅い。

 黒の青年からすれば、対処は簡単である。


 「ッ!並行詠唱!?ずっと思ってたが、なんて小器用なんだ!」


 詠唱で本命の魔術を構築しながら、牽制のための弾幕と、動きを阻害するための楔は緩めない。

 並行詠唱と呼ばれる高等技術だ。

 複数の魔術を同時に構築してみせる、限られた魔術師にしかできない、すべての魔術師に共通する奥義の一つ。


 「『貴方を責める者ばかり。今はただその罪科を雪ぐため、水の中に沈んでください。皆のために、ただ苦しんで』」


 「クソォッ!」


 「『溺れる聖者(ドロウンセイント)』」


 莫大な水が生み出された。

 水はまるで意思を持つかのように、灰の青年を捕らえるために動く。

 あっという間に、水の牢獄が創られた。

 中央には灰の青年が溺れている。

 第七位階魔術『溺れる聖者(ドロウンセイント)』。水によって敵を封印する高位魔術。

 封印のために創られた水は対象に絡みつき、力まかせでは外す事ができない。

 魔術で創った水は普通ではないのだ。

 もし、彼が魔術を隠し玉としてとっていて、魔術によって凍らせたり、蒸発させようとしても、込められた魔力の違いによってどうこうすることができないだろう。

 相当な量の魔力を込めたのだ。

 灰の青年から感じる魔力量から考えて、脱出は不可能。



 黒の青年は勝利を確信する。

 思わず、膝をつく。当然だ、かなりの魔力を消費した。

 強敵であったが、何とか勝つことができたのだ。

 気絶するまで閉じ込めて、それから解除するために彼を見て……




 




 いない



 

 いない、いない、いない、いない!


 なぜ?どうして?水は相手の魔力に反応する。

 たとえ一瞬抜け出せたとしても、すぐに魔力に反応して襲いかかるはずなのだ。

 襲いかかる対象を設定するために、相応の時間、相手の魔力の質を観察していた。陣の構築も完璧だった。

 動作不良は考えづらい。

 なら、どうして…………


 あ、しまった


 魔力が 混じりもの

        やらかした

   完全に頭から抜けてた  変わったじゃないか


 魔力の質




 「俺の身体は特別製だぁ」


 背後から、声がした。

 恐る恐る振り向くと、そこにはずぶ濡れになった灰の青年の姿がある。

 これまで冷徹に灰の青年を翻弄するための策を練っていた黒の青年は、あまりにもな出来事に初めて思考を停止させた。


 「エルフに、人族、そして吸血鬼。他にもいくつか混じってるが、特に濃いのはこの三つ。俺は、その三種族の特性を引き出せる」


 見れば、その耳は尖り、長くなっていた。

 まるで、エルフのように


 「特性を切り替えれば、俺の魔力の質は微妙に変わるんだ。こういう状況は無くはねぇからな。魔力の質で判別する魔術をコレで撒くこともできる」


 もう、体が動かない。

 逃げなければ、だが、一歩踏み出す前に倒れてしまう。

 もう、この先など想定していなかったために、体力も魔力も底をついてしまったのだ。


 「じゃあな、楽しかったぜ」


 灰の青年の持つ大剣が、容赦なく黒の青年を切り裂いた。

 


 一応ですが、エルフ体になったのはその形態が一番魔力の扱いが上手くなるからです。

 あの水は一応封印するための魔術でできているので中のものを外に出さない性質もあります。

 設定対象がいなくなったからといって拘束力が落ちるだけで中のものを外に逃がそうとはしないので魔力を上手く操って逃げ道をつくる必要がありました。

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