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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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76、鋼の騎士(起)

起承転結にしようかな?


 エドガー


 三百年と少し前に捨ててしまった名前だ。

 

 ただの人でしかなかった頃の、何も守れなかった、弱い凡人の名前。

 己の分というものを弁えず、何もできはしなかった惨めな男のこと。

 

 今になって、何の意味があるのだろう?

 どうして思い出してしまうのだろう?


 だが、理由はとても明白で、納得のいくもの。

 つい仕方ないと思えてしまう、諦められてしまう、認め難い事実。



 嗚呼、負けたのだ。



 己はまたもや自身の分を弁えず、もっと、もっとと手を伸ばした。

 負けたくなくて、終わりたくなくて、その『魂』を絞り尽くした。

 そして、負けた。


 だからこれは、きっと罰なのだろう。

 一度のみならず二度までも、力という目がくらむほどの宝石を強欲に求めた者の末路。

 

 それがきっと、自分のことなのだ。




 ※※※※※※※※※




 『強い男になれ』



 とある国の騎士団長であった父は、よく彼にそう言っていた。

 自分の息子なのだ。

 騎士団長という肩書を背負う彼からすれば、それを望んでも何ら不思議な話ではない。



 その肩書に見合う息子となるように。

 いずれは自分の跡を継がせるために。

 男として立派になれるように。



 その父の期待に沿えるように。

 強さに憧れ、手に入れたいと思ったために。

 そうならねばと思ったために。



 だから当然、彼自身そうなるために、彼の父もそうさせるために全力を尽くす。

 虐待にも似た訓練をさも当然のようにこなす日々。

 幼い内から吐くまで走り込み、手のマメが潰れるまで木剣を振り、型や技を日が暮れるまで確認した。


 その結果として、彼は強くなったのか?


 答えは悲しいことに、なれなかった。

 彼には、そういう類の才能がまるでなかったのだ。

 

 どれだけ剣を振るっても、どれだけ技を身に着けようとしても、どこかでどうしても淀みが出る。

 理想と呼ばれるモノには程遠く、無駄も失敗も山のように付き纏う。

 美しい動きを、水が流れるように、と例えることがある。

 だが、彼の動きはそんなものにはなれない。

 鈍くて遅くて、つっかえながら、立ち止まりながらの美しさの欠片もない動き。

 

 成長だって早い訳ではない。

 繰り返し繰り返し何度も同じことをしなければ、前に進むことができない。

 目の前にはいくつもの壁が存在し、その壁を一つ超えるのだって必死にならなければ爪すらかからないのだ。


 彼の父も、始めは頑張る我が子を応援していたのだが、それも三年と持たなかった。

 必死に努力する彼、そしてその努力にまったく見合っていない成長。

 見ていて辛かった。

 彼自身、父に言われずとも積極的に剣を持つ。

 努力することを何ら厭わず、自分の意思でそれに時間を使い続ける。

 そんな彼が健気で、悲しい。

 もうこれ以上、彼の努力を見ていられなかった。


 だから、



 「お前には才能がない」



 現実を見せつける。



 「もう立つな、出来損ない。お前は騎士にはなれない」



 その日、エドガーを痛めつけた。

 死なない程度に、そして死の間際まで。

 悲鳴をあげても、倒れても、気を失っても、なお叩いた。

 騎士も、武器も、そして自分の父すらも嫌えるようにするために。


 もう二度と強さを目指さないように、徹底的に折ってしまう。

 変に夢を見れば、もっと辛い夢を見ることになると分かっていたからだ。

 このままでいれば、きっといつか自分の力に絶望してしまう事だろう。

 その挫折はとても苦しくて、死にたくなる。


 だが、それで終わるのならまだいい。

 問題なのは、もしもそれで折れなかったら。

 その先を求めてしまったら、だ。

 

 夢を見てしまう。

 自分の限界を忘れ、分を逸脱してしまうことをするのではないか?

 それができると勘違いしてしまうのではないか?

 そうなると、待っているのは冷たい死。

 

 違ったとしても、夢から覚めてしまう。

 夢を離れて、現実に戻ればあるものは矢張り絶望だけ。

 何をどうしても幸福など存在しない。


 そんな道を、我が子に歩ませたくはなかった。


 不器用なやり方しかできないが、それでも仕方ない。

 それしかできない男なのだ。

 どんな風に思われたとて、別に良い。

 自分の息子に跡を継がせる、というのは一つの夢であったが、夢は夢のままで終わって欲しい。


 だから、武官にさせるつもりはもうなくなった。

 せめて文官でも目指して、そこそこになってくれればそれで良かった。

 別に上を目指さずとも、彼の父は彼の怠惰を赦すつもりだ。

 むしろそう在れとも願う。


 では、何がいけなかったのだろうか?

 どうして使徒が生み出されてしまったのだろうか?




 それは、運が悪かったとしか言いようが無い。

 



 これから彼を襲う不運は、誰にも止められない、巨大な舞台装置のよう。

 何か少しでも違えば、きっとこんな事にはならなかったはずだ。

 歯車の一つ一つは小さくとも、もたらした害は使徒を生み出す。

 災害、いや、人災によって、あの無敵の超兵器、狂気の使徒は誕生する。


 

 全てのきっかけは、一人の少女と出会ったことから始まった。



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