表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
74/112

72、反抗と歯痒さと裏切りと


 「天晴だ…………」


 使徒は讃える。

 この英雄は、最期まで他を求め続けた。

 守り、救うことを至上とし、そのために自身の命など簡単に捨ててみせた。

 まさしく、英雄の名にふさわしい男だった。



 「案ずるな、私も()()()()()()()()()()。お前の死は、決して無駄ではない……………」



 ここには居ない彼への報告。

 安らかに眠る彼の供養と、彼への敬意を示す品としてはこれで十分なはずだ。

 死のその時まで、シンシアから聞いていた『優しいガル爺』のままだった男の冥福を心から祈る。

 そして、



 「…………………………!!」



 光り輝く剣を持つ彼は、使徒に襲いかかる。

 周囲はまばゆい光に覆われて、何も映らない。

 『聖剣』の光を利用し、これまで使徒を幾度も翻弄してきた目潰し。

 しかも今回は、向こうには使徒を傷付ける術を持ち、攻撃のために仕掛けている。

 怒りを堪えながらも、よく切り替えて完璧な奇襲をかけられたものだと感心した。


 しかし、ただそれだけ。


 この切り札を見せた以上、彼だけではどうしようもない。



 「なっ……………!」



 彼は壁に激突した。

 正確には、使徒が操る人形たちが作り出した、盾を重ねてできた要塞に。

 使徒は彼が来るであろう方向を予測し、そこに人形の防御を広げたのだ。

 その硬さは、使徒一人の時よりも遥かに上。

 『魂の力』で盾の防御が連結され、擬似的な巨壁となったそれを、『聖剣』でさえも破ることはできなかった。

 そして、



 「無駄だ」



 使徒の誰へ向けたか分からない言葉。

 だが、確かな自信と共に放たれる。

 光で埋め尽くされ、何も見えなくなっているのだから、理解でしたのは言われた本人だけだ。

 大剣の効果で、気配を消したエイルだけが、この言葉をしかと受け止めた。



 「来ると思った」


 「化け物が…………!」



 この状況で来ないはずがない、と思っていた。

 この光に合わせて、攻撃することができる男だと知っていた。

 冷静に近づき、その激情を使徒に叩きつけるための一連として、完璧だったろう。

 

 だが、効かない。

 残念なことに、エイルでは使徒の体に傷を付けることができない。

 この場でそれができるのは、勇者だけだ。



 「判断力も、やはりいい……………」



 使徒は盾をエイルに向けて叩きつけるが、そこに人を潰した感触はない。

 うまく避けられたようだ。

 自分も見えていないはずなのに、使徒の動きを即座に察知して逃げおおせたらしい。

 感覚に関してはずば抜けたエイルだからこそできたことだ。

 

 次第に光がなくなっていき、白が完全に抜けた時、ようやくあの二人が使徒からかなり離れた所に居たことがわかった。




 「おい、何だアレ?」

  

 「俺が知るか…………ただ、使徒が増えた」


 「意味が分からねぇが、それは見りゃ分かる」




 おかしな光景だ。

 おかしく、不思議な悪夢だ。


 あの使徒が、あんな化け物が、今は十三人居る。


 目をこすっても変わらない。

 寸分違わず同じ大きさ、同じ装備、同じ顔をしている。

 しかも、硬さも変わらないかもしれない。

 分身の群れの防御を『聖剣』で斬っても弾かれてしまった。


 これが使徒の奥の手。

 最悪、純粋に戦力が十三倍にまでなってしまう、ありえない反則(チート)

 ゴーレムである使徒だが、その本体は彼の魂。

 この十二体は、その魂のない抜け殻でしかない。

 だが、ただの抜け殻ではないことは、誰にでも分かる簡単なことである。

 言ってみれば、使徒本人が人形を操るように、その最高の肉体を操作しているのだ。

 『魂の力』を原動力として動くそのスペアたちは、本体と何ら変わらないパワーを発揮する。


 二人は戦慄を隠せない。

 ガルゾフの死への怒りで盛り上がった戦意がへし折られそうだ。

 

 一人でもアレだったというのに、一体どうやって十三人を相手取るというのだ?

 マズイなんてものじゃない。

 ここから逆転なんで、考えようもない。


 死


 その一文字が、脳裏をよぎる。

 

 だが、




 「どうやって勝つ?」




 それでも、戦う。




 「何か作戦あるか?」


 「…………………多分、お前の『魂源』と同じだと思う。『魂の力』を分け与えて、擬似的な自分を作ってるんだ」


 「なら?」


 「耐えきれたら勝てる」



 見も蓋もない。

 言われてみればそうだが、それで勝てるなら全部勝ててる。

 ていうか、さっきまでそれで勝とうとしていた。

 だから同じように、戦う。

 今の使徒は、いわば十三人分のエネルギーを消費しているのだ。

 だから耐えるという選択は、最善に近いはずだ。

 

 その言葉にエイルは獰猛に笑う。

 ほぼ無策に等しい、ただの十三対ニをする。

 この窮地を前にして、怯む暇などありはしない。

 とにかく今は、ありったけの戦意で絶望を押し返さなければならないのだから。


 負けたいとも、死にたいとも考えてはいないのだ。

 だから、思考は停止しない。

 勝つための意志も、生き残るための活力も、失うことはない。



 「やはりいいな………お前たちは………」



 折れないのだ、彼らをは。

 そのことがたまらなく嬉しい。

 

 いよいよ、その瞬間が来るのかと思うと興奮を隠せない。

 そして、これ以上の試練が来たことはない。

 彼らの試練でありながら、これは使徒自身の試練でもあったのだ。

 そして、この試練を超える超えられないに関わらず、使徒は…………


 だが、何とも楽しい。

 

 使徒となったからには世界の敵として、多くを殺し、恨まれる、呪われたものになると思っていた。

 実際そう遠く違わなかったし、数え切れない命を刈り取ってきた。

 正直、疲れたと感じたこともある。


 しかし、これで良かった。

 この時だけは、すべてが…………




 「我が肉体のスペア十二体。そして本体の私を合わせて計十三。さて、一体いつまで持つかな?」



 いつまで持つのか?

 その答え、この戦いの決着はこれまでの長さが嘘のように、すぐに終わる。



 ※※※※※※※※※※※



 三体の龍たちは地面に転がり、その体を起こさない。

 これは、死んでいる。

 その巨体から来るタフネスと、すぐに傷が治る再生能力を上回るダメージが与えられ続けた結果である。

 

 とてつもない巨体の下には獣人たちの亡骸はなく、龍たちを殺した者が配慮を巡らせたからだ。

 本来ならばもっと早く三体まとめて殺せたのだが、足元の味方たちが龍の攻撃や動きに巻き込まれないようにしながら戦うのは、彼にとって難しすぎた。

 かなり神経を使ったし、ダメージの溜まった体で慣れない戦い方をしたから疲れた。

 しかし、やる事はまだある。



 「よし、次だ………」



 ライオスは焦燥と共に声を漏らす。

 時間をかけすぎてしまった。

 

 途中で何度も意識がそちらへ向かざるを得ないほどのエネルギーを感じたし、逆に小さく小さくなることもあった。

 何が起こっているのか分からない。

 未だに『魂の力』の脈動を感じられるから、おそらくまだ戦いは終わっていないはずだ。

 ガルゾフも向かっただろうから、まだもう少しは大丈夫かもしれないが、それでも危ない。

 

 あまりにも硬いし、強すぎるのだ。

 使徒はこの場にいる戦力すべてを集めたよりも強いかもしれない。

 だから今は少しでも戦力がいる。

 だから、次の現場のために駆けようと………




 「ん?」



 ライオスの感覚は、疲労した今もなお鋭い。

 血の匂いが濃く漂うこの戦場の中でも、見知った者の匂いを嗅ぎ分けることはとても簡単だ。

 だから、突如現れたその匂いに驚く。

 

 この場にいるはずのない、彼女の匂い。

 戦いの最中であるはずなのに、一体どうしてここにいるのか?


 匂いのもとへ駆ける。

 だがそう長い時間はかからず、ライオスからして見れば十秒も必要ない。

 それだけ近くに不可思議は置いてある。


 薄い紫の塊だ。

 それなりの魔力が込められた、おそらくは結界。

 この魔力にも覚えがあるが、今は置いておこう。


 ライオスはその爪で結界を切り裂く。

 鉄よりも硬いそれは、『獣王』の爪の前には紙のように簡単に引き裂かれる。

 中は空洞になっており、ライオスの予想通りに彼女の姿が現れた。



 「嬢ちゃん!」



 白い髪、透き通るような肌。

 今は瞼に閉ざされているが、その下にはルビーのような紅い瞳が輝くことだろう。

 『聖女』と呼ばれた彼女、リベールは気を失っているらしく、自分から動き出すことはない。

 

 何があったのか?

 何故彼女だけこうして今ここにいるのか?

 それを答えてくれそうにもない。

 

 今やる事は、



 「クソッ!」



 リベールの能力は換えが効かない。

 それに、強さ、有用さは馬鹿にならない。

 このまま放置するか、それとも駆けつけるのは一旦止めて、彼女を起こして協力させるか。

 

 

 ライオスは彼女を抱える。

 そもそもこのまま放ってはおけないし、それなら今起こすしかないだろう。

 ただし、走りながら、できるだけあの激地に近きながらだ。

 まだ自分という戦力を向こうへ送れないことに歯噛みしながら、ライオスは走る。

 

 誰も欠けずに戦っていてほしいという、虚しい願いを胸に抱いて…………………




 ※※※※※※※※※※※※



 

 戦地から遠く離れた、どこか。


 一人の女がうずくまり、自らが創り出した結界の中に籠もっていた、どこか。

 

 女の大切な人は置いてきた。

 女が仲良くなれそうな、不器用な人は置いてきた。

 女を正しい道に戻そうとしてくれた、怖くても実は優しい人は置いてきた。


 女は彼らを裏切ったのだ。

 『転移』の魔術で遠く離れた所へ逃げてしまった瞬間に。


 だが、裏切りがそのまま終わってしまうわけではない。

 裏切ろうとした瞬間、とある老人の仕掛けは確かに女を捉え、女を苦しめる。

 泣きながら、逃げてしまった彼女は、どうすればいいのかを考えていた。




 「…………………………」




 発動した『転移』の直前に、あの老人は死んでいた。

 だが、確かに彼は彼女へ向けて囁いたのだ。



 どうしたいかを、今考えろ



 そうして、彼女、アレーナは……………

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ