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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
一章、旅の始まり
7/112

5,次は動く

話書いてると「この先の展開どうしよっかなー」ってなって、「あ、そうだ!」ってなるから案外アッテコッチ行ってしまう…………


『大賢者』


 悠久の時を生き抜き、これまですべての魔王との戦いにおいて歴代勇者たちの力になり、人類を守り続けた傑物にして、人類の守護者。

 魔術師ギルドを創り、初めて魔術を一から十の位階に分け、現代の魔術の体系を生み出したのも彼だ。

 この世に存在するありとあらゆる魔術を扱うことができ、魔術の王様とも呼ばれている。

 魔術師を志すなら誰もが一度は超えることを目指し、そして諦めていく、魔術師にとっての夢であり、絶望でもある存在だ。

 

 普段は北方大陸の最北端の自身が作り出した神殿で、日夜魔術の開発をしていると言われているのだが、彼は現在、そこにはおらず、南方大陸の大国、ナハトリア王国に身を寄せている。


 その理由は、世界を揺るがさんとしている組織、天上教を滅ぼすための超戦力、勇者育成のためだ。

 

 『大賢者』は弟子は本当に才能あるごく少数しかとらないことで有名である。

 しかも、『大賢者』の課す修行の中で死んでしまう者がほとんどで、どのような修行を課せられるのかはほとんど知られていない。

 そんな彼が、弟子に対してどのように接するのか?

 その答えが、勇者への態度でわかるというものである。


 「かっかっか!ほんの一週間前のお前ならギリギリ死ぬ威力で魔術を撃ったのじゃが、まさか相殺してのけるとは!軌跡の力もあるが、もともとお主には才能があったんじゃろうなあ?」


 何も隠すことなく殺すつもりだったと言った『大賢者』は笑っている。

 修行において、「これで死ぬならそれまで」を地で行く『大賢者』にとって、そんなことなど悪気すら生まれない。

 それが修行を始めて一日目で理解していた彼は、何も言わずに、ただ不満そうな顔をしていつの間にか『大賢者』によって作り出された椅子に座った。


 そして、それがわからないリベールは口を開けては閉じ、未だに混乱の最中にいる。

 視線は彼と『大賢者』を行ったり来たりだ。

 

 「いえ、自分はまだまだです。さっきの一撃だって、第一位階の『火種(ファイア)』でしょう?それを第三位階で相殺とは、上等とは言えません」


 「何を言う?まだ魔術を知って三か月でそこまでいくなら十分わしの予想を上回っておる」


 自然と会話を続ける二人。

 会話に殺すだの言ってたのに自然としているのにリベールはなんとなく納得いかないでいる。


 「こんなの毎日してるんですか?」


 しているなら呆れるしかない。

 いや、もう声と顔に呆れが混じっている。


 「なんじゃ?居ったのか、聖女の小娘」


 「はいはい~、いますよ。しかし、流石は『大賢者』様ですね~。ここまでスパルタなら、勇者様が貴方様の最終試練を合格する日も近いのでは~?」


 「ああ、そうさな。今日はそれで話があったのだ」


 『大賢者』は後ろを向いて、神妙な声音をつくりだす。

 いつの間にか周囲は暗くなっており、どこからともなくスポットライトのような光が集まってきている。

 これは『大賢者』の魔術による演出だ。

 なぜわざわざこんなことをしているかというと、そうした方が面白そうだからだ。特に意味などない。



 「明日、最終試験を受けてもらうぞ!」


 スポットライトが『大賢者』と彼に集まり、しかも『大賢者』は身に纏ったローブをバサリッとはためかせて振り返ってきた。

 ふざけているが、闇と光という相反する属性を同時に、しかも正確にコントロールしているのだ。少し魔術をかじったものでも異常だとわかるほどの高等技術であり、それを演出のために使っているのだから相当バカげているのがわかる。



 「また無駄に高等技術を………」


 「ホント、『大賢者』様はすごいですねー」


 「コラコラ、最終試験については無視か?」


 二人からしてみたらそんなこと言われても、という感じだ。

 最終試験は確かに気になるが、演出が気になりすぎて印象が霞んでしまうのだ。

 大事な内容なら普通に言えばいいのに、変に雰囲気を出そうとしているから、端的に言えば滑ってしまっている。

 当の本人は反応が思ったより悪かったからか首をかしげており、なんでウケなかったかわかっていなさそうだ。

 

 「ま、まあ、別に良い。とにかく最終試験をしても大丈夫じゃ」


 「あ、そういえばなんですが、かねてより疑問があったのです」


 「ん?なんじゃ?」


 「最終試験をクリアするだけでそこまで劇的に強くなるのですか?」

 

 

 以前より、『大賢者』によって聞かされていたのだ。

 最終試験に合格すればこの国の騎士団長といい勝負ができるようになる、最強に至ることができる、などと。

 今の実力から考えれば到底想像できない領域である。

 しかも後者の「最強に至る」というのは、目の前の『大賢者』よりも強くなれるということだ。

 それができると信じられるほど、自分の力を妄信していない。


 「そういえばそうですよねー。詳しくは知りませんが、歴代勇者様たちも魔法で地を割ったり、剣で山を割ったり、今の勇者様には出来そうもないことばかりです」


 「できる」


 他でもない『大賢者』がそれを言ったことに二人は驚きを隠せない。

 『大賢者』は力に対して嘘は言わない。

 世辞も嘘もおべっかもなく、他人の能力に関しては的確な判断をしてのけるのだ。

 実際に弟子を取る際にはそうやって才ある者のみを引き抜いている。


 「いや、そもそも儂より強くなってもらわねばならんのだ。使徒第八席『断裂』から第四席『呪い人形』までは正直問題ない。お前が真に勇者となり、仲間が三人いれば全員倒せる。しかし、第三席『鍛冶神』、第二席『武神』は手に負えん。儂でも『武神』と勝負すれば互角じゃの」


 気が滅入る情報であったろう。

 途方もないような話に、あからさまに気を落としてしまっている。


 「『使徒』ってそんなに強かったんですね………」


 「当たり前じゃろが。世界に手が負えんからお主を呼んだんじゃしの」


 「これまで具体的には教えてもらってませんでしたから」


 『大賢者』はやれやれ、といった感じた。

 リベールは「そういえばそんなに具体的には言ってなかったなー」と頭の中で反省(?)していた。


 この世界の人々にとって、『大賢者』と『武神』が互角であるという話は有名だ。

 昔、とある国の大草原で二人は一ヶ月もの間戦い続け、草原どころかその周辺にあった沢山の山や川を()()()のは今もなお語り継がれている。


 「話が逸れたな。とにかく、明日、お主には最終試験を受けてもらうぞ」


 「はい、すみません………それで、試験の内容は?」


 「それは明日のお楽しみというものじゃ。明日の正午に修練場で始めるから、それまでしっかり休んでおけよー」


 

 意地の悪い笑みを浮かべ、『大賢者』はその場から、まるではじめからいなかったかのように消えてしまった。 


 「………………」


 「どっか行っちゃいましたね?」


 残された二人は何をすればいいのか分からない。

 顔を見合わせた二人は、


 「ああ、言っておかないといけないセリフを忘れていました」


 「何だ?」


 「頑張ってください。応援してますよ?」


 にぱッと笑いかけるリベール。

 笑いかけられた彼は、その美しさに一瞬見惚れ、思考が飛ぶ。

 微妙な空気が流れ始めた。

 リベールはどことなく居心地悪そうにしており、その体を落ち着きなくモジモジと動かしている。  

 やがて彼の方から向き直り、真剣な顔で彼女に問うた。



 「そういえば、ずっと聞きたかったことがあるんだ」


 「なんです?」


 「お前は聖女としての役割を投げ出したくはないのか?こんな訳のわからないヤツに自分の全部を預けて、イヤじゃないのか?」


 他人を心のどこかで信頼する事ができない男。だが、契約によって無理矢理信頼できる女を得ていた。

 女は男に逆らえず、虚偽も害を加えることもできないのだから、信頼するにはこれ以上ない。

 しかし、どうすればいいか分からなかったのだ。

 さっき以上に微妙な空気が流れる。

 今度は立場が逆で、彼の方が居心地の悪さを感じている。


 「そうですね〜。正直ないです」


 「何故だ?普通イヤだろう?明らかに生贄じゃないか」


 「確かにそうですが、聖女は私の役割ですから」


 理解できない。

 彼の顔にはそう書いてあったが、彼女は薄く笑みを浮かべる。


 「正直、イヤになったかもしれませんけど、今はイヤじゃないですし、むしろやりたいんですよ?」


 「何でだ?」


 何を分かりきったことを、と言う声が聞こえそうなほどに自信に満ちた顔だった。

 彼女は歌うように軽やかに答えを出す。


 「それは貴方だからです」


 それこそ意味が分からない。

 こんな自分だからイヤじゃないのか聞いたというのに………


 「分からないなら、考えておいてください。分かったら、ご褒美にキスでもしてあげますよ」

 


 そう言って、彼女は立ち去っていく。

 ただ一人、彼はその場から動けないでいた。


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