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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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67、不屈の男



 「……………………!」



 アレーナの手から稲妻が走る。

 バチッという音と共に、それはリベールの首に突き刺さり、彼女の意識を遠くへ連れ去った。

 極小で感知され難いよつにかつ、殺さずに無力化できる絶妙な加減の魔術だ。


 エイルも反応が遅れ、気がついたらもう手遅れになっていた。

 アレーナの凶行を止めるべく、駆け寄り、リベールと彼女を引き剥がそうとするのだが……………



 「ふ、ふふ…………」



 途中、エイルが触れる前に、その手は弾かれてしまった。

 

 硬いナニカがそこにあったのだ。

 エイルはその見えない壁に阻まれて、先に行くことができない。

 アレーナが作り出した、不可視に結界である。

 大量の魔力を凝縮させて構成され、その硬度は並の魔術師が作り出す結界の限界を遥かに超えている。

 

 しかも、先に行けないだけでなく、彼に深刻なダメージを与える武器でもあった。

 彼女の魔力で作られた結界は、いくらでも彼女の魔術を仕込むことができる。



 「ガッ……………!」


 苦しげなうめき声を漏らす。  

 思わず白目を剥き、思考が一瞬飛んだ。

 予期しない攻撃に怯んでしまったのである。

 しかも、それは彼の受けた経験の少ない攻撃だった。


 選んだ魔術は、同じく雷。

 その壁には高圧の電流が流れており、触れたエイルの体を感電させた。

 エイルに関してはその電撃で焼き殺すつもりの威力ではあったが、彼は気を失うことさえしない。



 「おおおぉぉおぉお!!」



 だから、それで止まるエイルではない。

 怯みながらも、手に持つ剣でアレーナが作ったであろう結界を剣で思い切り斬りつけた。

 

 『魂の力』も用いて、あらん限りの力でだ。

 いくら硬くても、アレーナの結界にコレを受けきれるだけの性能を引き出せない。

 魔力の結界では上限を超えられない。


 

 

 

 しかし、



 「なに………!?」


 「はは、は……………」



 刃が先に進まない。

 力を込めれば込めた分だけ、同等以上の力で押し返されていくのを感じる。


 アレーナの乾いた笑い声が耳にまとわりつくようだ。

 目にはエイルが映っているようで、本質的にはそうではないような気がした。

 味方としてでも、敵としてでもないようなその態度に腹が立つ。

 癪に触るこのフザケた女に一発入れなければ、と取り敢えずはムカつく使徒は脇に置く。


 エイルはアレーナの結界を破るために、さらなる力を込めて、大剣を叩きつける。




 「おおおおおぉぉおお!」



 埒外の力が込められている。

 大岩だろうが、業物だろうが、人だろうが、受けたら壊れるだけの怪力。

 その力を前にしても、アレーナは余裕を崩さない。




 (無駄、ですよ…………)


 

 その結界の表面には、衝撃を吸収する術、衝撃を減退する術、衝撃を反転する術をかけている。

 これを彼に破れる訳がない。  

 これまでたくさん彼を見てきた彼女からすれば、これは確信ではなく事実だ。


 確かに魔力は『魂の力』の下位互換で、魔術は『魂源』に蹴散らされる。

 どれだけ強力でも、魔力で構成された魔術は『魂の力』に触れれば壊されてしまうのである。


 相性やらの話はではなく、摂理の話だ。

 魔力が氷、『魂の力』が火。

 氷でどれほど美しい氷像を作っても、火が触れれば簡単に溶けてしまう。

 だから、魔術は絶対に勝てない。

 

 

 しかし、勝てないだけだ。


 勝てないなら、勝負に持ち込ませない。

 そもそも、ここでの負けと現実での勝敗は違だろう。


 魔力は氷、『魂の力』は火。

 触れるだけで氷は溶けてしまう。

 だが、それも大きさと、火の熱量によるだろう?



 (エイルさん…………貴方では、破れない…………)



 アレーナの作った氷像はかなり大きい。

 そして、エイルの熱量はそれほどでもない。


 使徒のような、焼けるほどのありえないレベルとは程遠い。

 あの触れるだけですべてをめちゃくちゃにするような化け物とは違う。


 しかも、衝撃に対する魔術を三つも重ねた。

 これで火もかなり弱まる。

 


 つまり、破れない。




 「おおおおぉおお!!」


 「む、無駄、です…………」



 さらに魔術を使う。


 炎の槍がいくつも現れ、エイルの周囲に並んだ。

 それがこれからどうなるか、誰が見ても分かる。



 「クッ…………!」



 突き刺さる。

 

 炎をわざわざ槍状にするのは、そうすることで『貫通』という特性が生まれるからだ。

 アレーナの超一級の魔術は、無くなるまでもなく『魂の力』の鎧を貫く。

 確かに弱まってはしまうが、その熱と刺突はエイルにダメージを与えていた。


 これでは無力化することはできない。

 彼が頑丈なことはよく知っている。

 これではまだまだ足りないのは分かっている。



 「まだまだああぁああ!」



 止まらないだろう?

 そんなことは想定内だ。




 「ああぁあ!?」




 地面から生えた鉄柱がエイルの腹を抉る。

 血がつたり、内臓が傷付いたのが分かった。

 このままではいけない。


 エイルは『分身』を使って脇腹に刺さった鉄柱を切り取り、再生能力で傷を塞ごうとして、

 



 「ふ、ふふふ、ふ……………」



 バチチッ!



 刺さった鉄柱からエイルに、アレーナの電撃が襲いかかった。


 直接中に流れた電撃は、ただでさえ傷付いた内臓を焼き、血管から全身運ばれる。

 あちこちから煙が出て、肉が焼ける匂いと、焦げた匂いが入り交じる。

 そして、彼が初めて剣から手を離したのを見た。

 

 死にはしていない。

 彼が頑丈なのはよく知っている。

 殺すくらいでないと、彼が意識を失うことはないと分かっていた。

 だが、確実にもう動くことはできない。

 彼でも致死に近いダメージを負ったはずだ。










 

 与えていた、はずだった。




 「おおおおおぉおお!!」


 「え?なっ!?」



 止められない。

 致死に近いダメージを受けても、彼を止めるための要因にはなり得ない。

 落ちた剣をすぐに拾い上げて、振りかぶってから全力で叩きつけてきた。

 その目には絶対に負けない、という意志が見え、意識を失う様子など微塵もなさそうだ。

 彼の戦意は少したりとも衰えていない。



 (そ、そんなバカな…………!)



 ありえない。

 あれだけ喰らえば意識を失うどころか、死んでいたっておかしくなかった。

 身が焼け、穴が空き、雷が流れる苦痛に何故意識を失わない?

 自己を守るためにも、本能的に苦痛をカットするために起き続けるはずなのだ。


 だというのに、何だこれは?


 どうして?

 なぜ?

 

 まったく違うはずなのに、そこに使徒の姿を思い出す。

 止まらないのだ。

 何をしても止まらない、この姿が……………


 

 恐ろしい



 「ひっ…………!」




 術者の動揺で、魔術が揺らぐ。

 極めて精密で、大きく、それゆえに頑強であったそれは次第にたわんでいった。


 だから余計に焦る。

 焦るから、さらにズレは大きくなっていった。

 これまでエイルと拮抗させていたアレーナの手腕は見事であったが、それも崩れてしまった。


 不安を紛らわせるために、気絶したリベールを強く抱きしめる。

 甘い香りと、柔らかい肌に髪はアレーナの焦りを落ち着けるには悪くない薬であった。

 しかし、エイルの刃は彼女が修正できる範囲を超えて、深くめり込んでいる。

 それで効果が表れるよりも結界を壊させるほうがきっと早い。


 目を瞑り、後ろに下がる。

 できるだけ恐怖から逃げ、頭に存在を思い出させないようにするために。

 リベールを引きずり、できるだけ後ろに下がるが、すぐに限界は来てしまった。

 彼女自身が創り出した、閉じた世界の端。

 

 そこにたどり着いた瞬間、もう諦めるしかなくなった。




 壊せる




 そう確信した瞬間だ。




 「………………!」


 「えっ!?」




 振り向いた。

 

 二人は、勝負の途中であったにも関わらず、使徒とガルゾフの方へと目を向けたのだ。

 いや、そうせざるを得なかった。


 あまりにも極大な力だった。

 これを前にして視線を向けない奴が居るとするならば、そいつは危機を感じる本能が欠落した狂人だ。

 それだけ本能的に見た。


 何もかもを忘れて、ソレを見た。



 使徒が、

 あの使徒が、



 完全に停止していたのだ。





 


 「うう……………あれ?寝てた?」

 

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