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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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59、逃げの一手

?短い?


 どうして使徒に彼らが勝てなかったか?


 理由は二つ。

 使徒の強度が彼らの攻撃を余裕で受けられるほど強かったこと。

 そして、使徒のパワーが三人全員を束ねたよりも強かったこと。


 確かに使徒は想像以上の化け物ではあったが、ここまで一方的にやられてしまったのも原因はきちんと存在する。

 そもそも、戦い方に問題があったのだ。


 先の戦いで、エイル、ライオスは攻撃に対して攻撃で返すことしかできなかった。

 二人が未熟とか弱いとかそういう話ではなく、二人の戦闘センスも、パワーもずば抜けて高いからこその形態だ。

 パワーも才能も『魂源』も最高水準であり、だから攻撃には攻撃で相殺する、というシンプルな戦い方を好んでいたのである。

 というよりも、生まれながらに天才であった二人からしてみればそういうやり方ですべてが解決してきたのだから、それしかできなかった。


 そうでなくとも、五対一の共闘で、各々に決まった役割があったのだから仕方がない。

 後衛の二人を守るためには使徒の進撃を止める必要があった。

 だから、この二人に合わせて彼も使徒には真正面から全力でぶつかったのである。

 協力すれば自然とそういう形になってしまい、前衛の彼は使徒に対して嫌がらせのような搦め手を使うなど頭から抜け落ちていた。

 それをしてくれる人員がいたために考える必要すらなかったと言える。


 だが、今は状況が違う。

 圧倒的窮地にして、絶対的死地な一対一だ。

 この状況で同じような戦い方をすれば確実にひき肉になるだろう。


 だからすべきことは決まっていた。




 「はああああ!!」



 

 『聖剣』の光を拡散させる。

 威力を求めない、ただの目くらましだ。

 日の光よりも遥かに眩い光は使徒の周囲に留まり、攻撃は幾つもの別れた枝のうちの数本のみ。


 さらに攻撃とも言えない攻撃を重ねる。

 狙いは適当だ。

 顔周辺には比較的数が多いが、数発使徒に当たらずに消えるものもある。

 とにかくできる限り視覚を奪うように立ち回っている。


 その攻撃に盾すら構えず受ける使徒だが、鬱陶しそうだ。

 これまでの単純明快で、できた隙を狙った確実に当てる強力な攻撃であった、今度のは当てるつもりがあるかも分からない気の抜けたもの。

 幾ら受けても蚊が刺すほどの感覚すら感じないが、なにぶん数が多い。

 それで感じることが、鬱陶しい、だ。

 それ以上ではない。

 

 もちろん使徒もそのまま攻撃を受け続けるばかりではない。



 「ぬぅん!」



 何度も何度も追い込まれた使徒の体当たり。

 重く、速く、力強い。


 今は力自慢の二人も居らず、このままでは確実に負けてしまうだろう。

 もしも先程のように真正面から受ければ………



 「ッぶねぇ!」


 

 だから逃げるしかない。

 こんな攻撃を受け止めるなど端から間違っていたのだ。

 

 光が溢れ、以前の大火力が炸裂した。

 いきなりの強烈な閃光に使徒もたたらを踏む。

 視界が開けた時には敵は遥か先に居たのだから、まんまとしてやられたことを悟る。


 『聖剣』の光線をぶち当て、その反動で距離を取ったのだ。

 このある種の奇襲に流石の使徒もついていけない。

 これまで弱かった攻撃がいきなり化けたのだから対応が遅れてしまった。

 

 だが、これはあくまで逃げ。

 攻撃を通すために全力で連発させることもせず、ただ距離を取っただけでは有効打にはなり得ない。

 

 使徒の動きは強いが、速さはそれに比べれば確実に劣る。

 速くはあるが、天辺に比べれば二段も三段も負けているのだ。

 つまり、怯んだならばそれは一方的に攻撃を叩き込めるチャンスだった。

 そんな貴重なチャンスがをみすみす逃したのだから、本来ならば叱責ものだ。


 しかし、



 「正解だ………!」



 使徒は小さく笑う。

 『勇者』が自身を倒すための最善手を思いついてしまったのだ。

 確かに今の彼では()()しかない。

 

 『勇者』の顔には油断なく、使徒を警戒し続けている。

 その様子を見て、やはり感じる。

 ついこの間まで戦闘というものを経験してこなかった者の在り方ではない。

 

 使徒は思う。

 この『勇者』は………いや、『勇者』という枠組みそのものが、



 ……………………………。


 関係ない思考は放棄する。

 この先はどうなるのか、どんな結果になるのかは分かっている。

 分かった上で挑んでいる。

 『勇者』に時間をかけることは自殺と同じだ。

 試金石としてならそれが正しいのかもしれない。


 しかし、使徒にはそんなつもりは毛頭無い。


 全力でぶつかり、全力で打ち砕く。

 その先にある結末を打ち破る。

 そうやって戦わなければならないのだ。


 例え相手が『勇者』だとしても…………

 例え相手がただの『被害者』だとしても………




 使徒の攻撃。

 恐るべき敵を砕かんとする使徒の一撃。

 埒外の暴虐が『勇者』に向けて振るわれる。


 だが、これに勇者は応じない。

 徹底して逃げ、遠のき、隠れる。


 

 「クッ…………!」

 


 勇者は苦しげな声をあげるが、それに反して動きは悪くない。

 負傷を庇い、最小の動きで使徒を翻弄している。

 風に舞う花びらを捕まえるようなものだ。

 それだけ上手く逃げることができている。


 使徒の攻撃も天辺からは劣るにしても遅いわけではない。

 しかし、『勇者』は使徒の動きに確実に対応し、正しく避け続けていた。

 

 そして動きを鈍める妨害も同時に行われる。

 あらゆる角度から、視界に光が入るようにデタラメに撃ち続けていた。

 山なり、直球、下からなど、あらゆる軌道を描きつつ。

 しかもそれは彼の仲間には当たらない。

 デタラメではあるが、そこには配慮がある。

 

 これに使徒は心の中で称賛した。

 

 『聖剣』は無限のエネルギーを生み出す最強の武器だ。

 扱うのは『勇者』でなくてはならない、一振りで山を両断したという伝説もある超兵器。

 しかし、扱う『勇者』も人だ。

 人の技術が『聖剣』を扱う上で重要になり、一度に制御しきれる限界値もある。

 そのエネルギーを瞬時にどれだけ引き出し、扱うかが『勇者』の戦いの肝になるだろう。


 それを逆手に取って逃げに転じるとは思いもしなかった。

 制御しきれない威力と引き換えに生まれる、耐え難い反動に身を任せて逃れる。

 成し得るには相当上手く力を受け入れるための技術が必要だ。

 それをこうして軽々とこなしている。

 

 牽制にしてもそうだ。

 一瞬でどういう軌道を描いて、どうやって邪魔をするのかを実現する。

 絶え間ない攻撃の中で、『聖剣』のエネルギーを上手く扱っているのだ。



 使徒の攻撃は空を切り、勇者の攻撃は使徒にとっては蚊にすら劣る。

 千日手となり、状況は動かない。


 使徒が近づけば勇者は必ず逃げる。

 そして、使徒がそれを捕える術はないのだ。


 このまま戦えばどうなるか分からない。

 しかし、確実に不利と言える側がいる。



 それは、使()()だ。




 (『勇者』…………!)



 何十という光線を打ち落とす。

 使徒にとっては綿の塊を投げつけられるようなものでしかなく、傷は負わない。

 しかし、視界が光で埋まってしまう。


 足跡と気配を頼りに敵の位置を探るが、目が効くようになったときには遥か後方にいた。

 さらに攻撃が仕掛けられ、このやり取りが何度も繰り返されていた。


 手玉に取られたのだ。

 搦手に弱い使徒ではあるが、それを理解されてしまった。


 周囲を見回せばそのことがよく分かる。 


 動きを誘導され、元の位置からかなり離れた。

 目がまわるほどあちこち巡った戦いのせいで、周りが見えてしなかったのだ。

 完全に使徒はしてやられた。


 使徒には倒れた彼らを人質に取る可能性もあった。

 だから『勇者』はそれも見越して行動していたのだろう。

 牽制と逃げの二つで、完璧に翻弄された。


 気づくのが遅れたのも仕方がない。

 『勇者』の動きが次第に良くなっているのだ。

 時とともに洗練されていくのが目に見えるほど明らかであった。

 

 胸の内にある強い感情。

 押し殺してきたソレが叫んでいる。

 

 なんと心地よい

 なんと素晴らしい

 誰かが己を打ち破ろうとして、強くなる様がここまで美しいとは…………!



 使徒は誰よりも愚直であり続けた。

 誰にも達成される事のない『試練』として、幾万という人間を押しつぶしてきた。

 その彼を、『勇者』が越えようとしている。



 (素晴らしい、素晴らしい………!もっとだ、もっと見せてくれ………!)



 他人の成長に喜ぶなど、考えもしなかった。

 そんなことは一度たりともなかった。

 

 彼の成長は悲願の達成の一歩だ。

 しかし、この溢れ出る感情はそれとは違う別の想いに違いない。

 何故喜ぶのか?

 それは使徒自身にも分からないだろう。


 ただ、使徒は待っていたのかもしれない。

 自分という高く、厚い壁が破られるという瞬間を…………



 「待っているぞ、『勇者』ぁ………!」


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