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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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55、最悪の戦況

使徒さん強すぎでは……?


 龍、という魔物がいる。


 どんな魔物が最強なのか、という話では常に候補にあがり、伝説やお伽話でもほとんど出るといっても過言ではない魔物である。

 

 その理由はなぜなのか?


 それはとても単純。

 強いからだ。

 一体が現れただけで大事態になってしまう。


 例えばAランク冒険者。

 大国にも十人居ない、戦況を一人で左右することができるという超人が、龍一体に対して三人以上動員される。

 例えば国の軍隊。

 最低でも一万以上の人間から構成される師団が、龍一体のために使われる。


 その鱗は鋼の槍を容易く砕き、その爪は人振りで全身武装の人間を何百人も同時にゴミのように切り裂く。

 そのブレスは森を更地に変え、その尾は丘を平らにする。


 他にも、かつて龍を討伐するために軍が三日三晩戦い続けたという話もある。

 逸話なら事欠かない、伝説の魔物だ。

 


 破壊力、耐久力、身体能力、魔力。

 どこをとっても最高級の強さを持つ、分かりやすい化け物である。



 そんなのがたくさん居たら、龍に対処できる者が居ても人間など滅びてもおかしくないのでは?と思うかもしれない。

 しかし、実際はそうではないのだ。

 

 確かにその数は少ないものの、世界全体で千を下回ることはないだろう。

 そんな魔物がもし何十体も同時に暴れれば、何十という国が簡単に滅びてしまう。

 そんなことが起こらないのは、龍が滅多に人の生存圏で暴れないのと、群れる習性がないからである。


 だから、今の状況は異常だ。

 同時に二体暴れたことはあった。

 本当に稀な例ではあるが、そういうことも少しはある。

 しかし、三以上はない。


 紅、翠、蒼の龍。

 炎を司る火龍に、風を司る風龍、水を司る水龍。

 同族でもない三体だ。



 正真正銘、かつてない異常事態。

 


 ただでさえ信徒二十万が居るのに、ここで龍が三体も同時にでるとは、最悪としか言いようがなかった。



 ※※※※※※※※※※


 

 魔物の討伐、素材の採取を生業とする冒険者はその実力をランクで表す。

 その基準で実力をランクで表すのなら、戦士として十分な戦士というのはDランクからだ。

 Cはその中でも才能ある者たち、Bランクはさらに限られた天才。そして、Aはそのレベルを超えた万夫不当の超人、Sは『超越者』と決まってる。


 現在五十万近くいる冒険者の中でも、Aランクは百以下で、Sは空席だ。

 冒険者ではないというだけで、Aランク相当の者は確かに居る。

 だが、絶望的に少ない。


 この戦況に必要なAランク相当の実力者は現在四名。

 この国に元からいる、三人の精鋭。

 そして、外部からの魔術師であるアレーナだ。


 だが、今彼女は居ない。

 龍よりもヤバイ奴を相手にしているから、援護など望める訳もなし。

  

 その三人の優れた所は、獣人の将としての経験から判断が早いことだろう。

 三人は既存の戦力から、一人一体を相手にする策を自分たちの中で即座に採用したのだ。

 一人で龍を倒せずとも、時間稼ぎはできると踏んだ。

 彼らの王が勝つことに賭けたのである。


 使徒が想像以上の化け物だとも知らずに………



 

 「GYAAAAAAAAAA!!!!!!!」



 龍の咆哮が聞こえる。

 『獣王』の号令にも勝るとも劣らない、極大の音だ。

 身体も含めて、どれだけ龍が大きな存在か思い知らされた。

 

 獣の本能が、より鮮明に恐怖を刻みつける。

 


 龍たちの口から大量の魔力が溢れた。

 知っている者はこれが龍のブレスだと分かるだろう。

 理解が持つ広範囲を焼き払う一撃だ。


 おぞましい業火はすべてを消し炭にした。

 放たれた竜巻はすべてを両断した。

 現れた小さな海はすべてを呑み込んだ。


 三人はギリギリ避けられる。

 しかし、他は…………



 口から放たれたブレスは多くの信徒を巻き込みなが、それ以上の獣人たちを跡形もなく潰していった。

 それを見て、三人は歯噛みをする。

 そんなことしか、今はできない。



 「全員、巻き込まれないことだけ考えろ!」



 指示を飛ばすので精一杯だ。

 だが、今はそれが最善であることに変わりはない。

 

 龍の顕現で場は混乱しているのだ。

 この脅威を前に、目の前の敵だけを考えられる者など居るものか。

 とにかく対処できない問題だ、お前たちは気にするな、と気休めを言うしかないのだ。


 獣人たちは腐っても一流が揃っている。

 その指示から、すぐに信徒たちしか相手できないと理解できた。

 下手な援護は足を引っ張るだけだ。

 

 だがそれは勿論、相手も分かっている。



 「な、なんだ!?」「マズイ!」「こ、こいつ等、まさか!」



 信徒たちは武器を手放し、捕まえることに注力し始めたのだ。

 数で押し、少しでも敵が動き難くなるように。

 その目的は分かりきっている。



 「俺たち、諸共………………」



 龍は巨大で、攻撃範囲が広い。 

 獣人を狙うように()()()()()()()が、信徒に被害が及んでも気にも止めない。

 だから、別に構わないのだ。




 「うわあああ!!」「死ぬ気か、コイツ等!」「離せえええええ!!」



 ズゥゥン!



 土埃が舞い、地を揺らす。

 一本の巨大な柱が生えたように見えるそれは、龍の前脚だ。

 その下に埋まる消え去った命など構うことなく、龍は小賢しく飛び回る()をはらうために動く。



 いくらでも、命を使う。


 

 「ぎゃああああ!」「ふざけるなああ!こんな、こんなことが…………!」「やめろやめろやめろやめろ!」「ど、どうして!?」



 踏み潰す。

 薙払われる。

 ブレスで跡形もなくなる。


 

 様々な方法で殺される。

 いくらでも簡単に命を使える彼らは、龍の戦いになるべく多くを巻き込む。

 こんな状況で、指揮など通るはずもない。

 

 雰囲気というものはどんな状況でも重要なのだ。

 はじめの戦意も、龍の脅威と信徒の狂気のせいでかなり削がれてしまった。

 何もかもが獣人たちにとって不利に働く。



 

 「クソおおお!!」



 三人と龍の戦いもひどいものだ。

 

 本来の龍との戦いとはかけ離れた、ギリギリの戦いになっている。


 

 「GYAOOOOOO!!!」


 「チッ!このトカゲがぁ!」



 火龍の尾の振り払いを紙一重で躱す。

 巨体にも関わらず、風切り音が鳴るほどの速さで、当たればひとたまりもないことは誰でも分かる。

 そして、反撃も行うのだが…………



 「GYA!!?」



 龍は大きく仰け反る。

 攻撃を受けて少々怯んだためか、その脚を後ろに移動させた。

 巨大な龍が後退りするだけでも、下にいる蟻ほどの人間たちを潰すには十分なのだ。



 「しまった!」



 反撃すら迂闊にできない。

 とにかく注意を引きつけて、できるだけ生き残る。

 攻撃が味方に向かないようにしながら、この化け物の相手をしないといけないのだ。

 

 今はまだいいだろう。

 だが、いつまで続くか分からない。

 こんなに気を使う戦いを、ずっと集中し続けるなど無理な話だろう。

 

 あっちで手詰まり、こっちで手詰まり。

 解決の糸口は遥かに細い。

 敗色濃厚、アニマ始まって以来の窮地である。




 

 「クソ、クソ!こんな、こんな…………イカれた奴らに………!」



 兵士の一人が言葉を漏らす。

 偽りのない、皆の本音だっただろう。



 こんなはずではなかったのだ。


 『獣王』が先陣を切って戦い、他にも頼れる仲間が周りにたくさん居た。

 信徒たちは数こそ多かったがそれほど強いわけではない。

 勝てる戦いだと信じて疑わなかった。


 だが、結果はコレだ。


 突如として現れた龍という理不尽。

 それを利用して特攻を仕掛ける信徒という死兵共。

 頼りの『獣王』は使徒に突撃してから音沙汰なし。


 

 横を見れば、仲間()()()()()が散らばっている。


 砕けた骨、飛び散った赤茶色、土と紛れた臓物



 同じ窯の飯を食った、共に苦楽を共にした仲間が、今は原型すら留めていない。

 仲間と信徒が混ざり合っている。


 血や地面、その他の何かも分からない嫌な匂いが充満している。

 涙を流しながら顔を大きく歪めた。



 「ふざけるな………!」



 言葉が止まらない。

 こんなことがあってたまるか。

 あんな理不尽のせいでこんなことになるなんて、胸が張り裂けそうだった。


 何をするにも、もうこれ以上のことは望めない。

 一般兵はただ逃げ回るしかないだろう。


 

 「誰か、誰かいないのか……?」



 この状況を一変させてくれる、同じ理不尽は?

 あの龍にも、使徒にも対抗できる戦力は?

 仇をとってくれる、英雄は?


 力への渇望は、英雄への期待に変わる。

 自分ではどうしようもないから、他人がどうにかしてくれないか、という願い。

 

 もうどうしようもないのだ。

 このままでは負けてしまう。


 仲間の仇も取れず、国は滅び、後ろにいる守るべき家族も死ぬだろう。



 「誰か、」



 影ができる。

 上を見れば、あまりにも巨大なその足が彼を、彼らを捉えていた。

 その主は彼らなど気にすら止めず、未だに仕留められない()を睨み続けている。


 逃げようとしても、逃げられない。

 信徒たちによって完全に掴まれ、身動きを取ることができないのだ。

 ただ上を見ながら絶望する。



 「誰か、コイツ等を…………」



 殺してくれ………!



 その言葉と共に、足は地に着き、その下の者たちは押しつぶされた。

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