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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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53、形勢逆転


 正面には牙を向く『獣王』、そして背後には若い『超越者』二人が剣で首をはねようとしていた。

 咄嗟のことに、使徒の動きが一瞬鈍る。


 しかし、それは使徒の失敗だ。

 どちらでもいいから専念すればよかったのだ。


 その鈍りは、勝てるはずだった『獣王』との衝突を拮抗にまで抑えられてしまうこととなった。

 さらに受け止められたことで二人の攻撃が首へ直撃する。

 

 そこから生まれた怯みは、『獣王』が使徒を押し飛ばすには十分な隙だ。

 この戦いで初めて、ライオスは使徒に競り勝つこととなった。




 「硬ってええ!!」


 「手が痺れる…………」



 突如割って入った二人は使徒の硬さに驚愕していた。

 二人は見たのだ。

 剣が首に入ったのに薄皮一枚切れていなかったという光景を。

 あまりの人間離れした硬さに、すぐに二人は使徒のデタラメさを確認した。


 だが、待っていることはない。

 二人は自分の『魂源』を開放した。

 


 辺りを眩い光が支配する。

 使徒はそれのことを聞かされていたために、すぐに理解できた。

 あらゆるものを無に帰す『聖剣』だ。


 使徒は盾を構える。


 『教主』から聞いてはいた。

 あの『聖剣』の力は分かっているし、自身の力が破られるとは思わないが、それでも危険であることには変わらない。

 使徒からしてみればエイルの『魂源』は分からないが、最優先は『勇者』だ。

 『勇者』に最大限の注意を払っていると、

 

 

 ガツンッ!と衝撃が走った。



 ノーダメージだ。

 痛手にはまったくならないが、異常事態。

 それは頭に、それも背後から来た。

 気配すら掴ませなかった、隠密による一撃。

 

 後ろを振り向き、隠れていたであろう伏兵を確認しようとする。

 しかし、そこには何も映らない。


 

 (……………?)



 これで完全に警戒が消える。





 「よそ見厳禁」



 使徒はハッとする。

 思わず気が緩んでしまった。

 後悔しても、もう遅い。


 次の瞬間には、使徒の全身は光に飲まれたのである。




 「殺ったか!?」


 「バカ!そういうの言って殺れてるわけないだろ!」


 「あ?なんだそれ?」



 そういうお約束である。

 エイルからしてみれば訳のわからない話なのだが、そういうセリフは敵の無事を約束しているのだ。

 

 『聖剣』はあらゆるものを分解するために土埃すら立たない。

 光が収まるころに使徒がいる場所を確認すると、



 「………………いない?」


 「全部消えたか?」



 何も残らない。

 地面の抉れを残すばかりで、使徒は跡形も………



 「バカ共、来たぞ!」


 「「…………!」」




 ライオスの号令と共に、吹き飛ばされた使徒が飛んできた。

 光による負傷は見られず、純粋に大規模なエネルギーによって後方に飛ばされただけだ。



 「盾は避けろ!硬すぎて破れねぇ!」



 ライオスは素早く指示を飛ばした。

 とにかく今は使徒の身体を狙わなければならない。

 盾はさんざん自分で試してダメだったのだから、それ以外の部分でないと通らない。

 

 

 使徒は三人に向けて近寄ってくる。

 しかも、速い。

 あまりにも速いその動きから、ダメージが皆無であることがすぐに分かった。

 一歩が飛んでいるのかと思ってしまうほど大きく、その勢いは推して知るべきだろう。

 この勢いで行われる攻撃はどれだけの威力か…………

 

 使徒は盾を叩きつけようと押し出す。

 それに対して、対応したのはエイルだ。

 創り出した『分身』と三人がかりで受け止めようとしたのだ。


 

 すでに形態は吸血鬼になっており、エルフ体、人族体が彼を支える。

 三人分の大剣と、一人分の大盾が衝突した。

 

 ギギギ、という金属音と共に()()は拮抗し、動けない。

 『魂の力』で強化した、実質『超越者』三人がかりの抵抗に流石の使徒も押し返すことができず、完全に足を止められた。


 

 これにライオス、勇者は左右から同時に攻撃を仕掛ける。

 ライオスは『噛砕』で、勇者は『聖剣』で襲い掛かったのだ。

 牙には後先考えない量の『魂の力』が込められ、『聖剣』は放出していた光をかき集め、刀身に集中させた。

 ライオスはその自慢の牙を軋ませながら、勇者はその剣を蝕ませるほどに『力』を集中させている。

 『魔法』越しではない、高密度の力が使徒に直接襲いかかったのだ。

 それがこの戦場で最強の一撃となることは間違いないだろう。

 

 それを使徒は、




 その身体で受け止めた。



 

 「はあ!?」 「嘘だろ!!」


 「マジか………!」

 


 おそらく盾こそが使徒の『魂源』であると予想していたために、これには三人とも驚きを隠せない。

 これはいくら何でも、理不尽が過ぎるだろう。

 まさか、全身が盾のように硬化することができるのか?

 そうなればいったいどうやって勝てばいいのだろう?



 (……………………?)




 

 かすかな違和感を感じた者が一人。

 しかし、それを考えている余裕はない。



 使徒が駆け出す。

 考えるための時間など、与えようはずもなかった。

 三人はとにかく使徒の対処を優先させる。

 

 使徒の攻撃手段は、盾と格闘技。

 この二つにさえ気をつけていればいい。

 隠しているのかもしれないが、この二つ以外の攻撃手段を未だに見せない。

 しかし、その二つもまた厄介な武器であることには変わりないのである。



 使徒の盾による攻撃。

 盾を鈍器として扱い、エイルを叩き潰そうとする。

 

 使徒の恐ろしさが垣間見える攻撃だ。

 普通は防御のことも考えて、隙が大きな攻撃はここぞという時にしか使わない。

 だが、この使徒はすべての攻撃にそんな配慮を挟むことはないのだ。

 その体も金剛石より遥かに硬く、傷を負うことはない。


 だからこの時、エイルは避けを選択する。  

 バカ正直に付き合えば、痛い目に遭うのは自分なのだから避けるしかない。

 

 それに、この戦いは三体一だ。



 

 使徒の体が光に包まれた。

 あらゆるものを分解する危険な光だ。

 それを受けて、流石の使徒も一瞬怯む。


 そこでライオス、エイルは追撃を行った。

 首、肘、膝、顔といった鎧の守りきれていない場所を切りつける。

 本来ならば、それだけでバラバラになってしまってもおかしくない。

 その力はとても強く、岩を粉砕できるだけの威力があった。


 使徒相手でなければきっと勝てただろう。



 使徒には傷一つない。

 二人による斬撃は薄皮一枚切ることはできなかった。



 「クソッ!」「……………!」



 使徒は二人を振り払うように盾を振り回す。

 当たらないし、対処も可能だったために余裕で回避することができた。

 それに、これ以上すれば連携の邪魔となってしまうだろう。

 攻撃はまだまだ続いているのだ。


 勇者は二人が攻撃をしている間に、光をチャージしていた。

 彼らの後ろからの『聖剣』が輝きを放つ。



 「ああああ!」



 高密度で大量の光に押しつぶされ、使徒は膝を付いた。

 好機と判断した勇者は、さらに力を汲み上げる。

 とてつもない光に押される中で、使徒は盾を掲げた。



 「……………!」



 なんと、使徒は折った膝を再び立ち上げ、光の中をかき分けて進んでいったのだ。

 ジリジリと、着実に進む。

 無限に近い力を、押し返しているのだ。


 

 (化け物かよ………!)



 そう思ってしまうのも仕方がない。

 それだけ多くのエネルギーが費やされているにも関わらず、抵抗できている使徒がおかしいのだ。

 光の牢獄は使徒に着実に破られていった。

 時間と共に、使徒の闘志が高まっていく。


 そして、



 「喝っ!」



 光が弾き飛ばされてしまった。

 一体どうすればそんなことが可能なのか、全く分からない。

 しかも、使徒が負傷している様子は見受けられず、両の脚で確かに立っている。

 その目に映る強い意志はまるで衰えず、絶対に負けないという言葉にならぬ言葉が聞こえた気がした。




 戦いは続く。

 すでに戦いは三人に限界を超えさせた。


 三人がかりだ。

 三人がかりで、ようやく互角。


 斬れば切れず、叩けば潰れず、焼けば燃えない。

 どんな攻撃も効かない、不変の力。


 なるほど、これは使徒『断裂』よりも数段強い。

 

 全力を出しても、向こうにはまだ上があるのだ。

 限界を超えてもまだ上があるのだ。

 上が、見えないのだ。



 どれだけ変えようとしても、どんな力を出しても、絶対に弾かれる。

 ただただ、徒労に終わってしまう。


 限界を超えて、超えて、超えて、その先に来るのが終わりだろう。

 心身ともに、三人はいつ終わってもおかしくない。


 だというのに、使徒は変わらずに壁であり続けた。

 

 


 「無駄だ。我が肉体、我が鎧、我が盾、我が魂はそんな程度で折れはしない。私は『不屈』そのものだ」



 


 その言葉を否定できない。

 何をしても折れず、壊れずをまさに目の前で体現した者こそがこの使徒だ。

 

 負けるかもしれない……………


 チラと頭をよぎってしまう。

 攻略が不可能なのだ。

 穴のない、完全に繋がった知恵の輪を解いているようなものである。

 

 それがすべてなら…………




 「まだだ、突破口はある」



 ライオスは冷静にそう言った。

 あれだけの力を見せつけられて、ライオスは自身を持って突破口があると言ったのだ。

 二人の視線が自然と彼に引き寄せられる。



 「あんな硬さを突破できんなのか?オッサン」


 「ああ。とは言っても、しんどいことには変わりない」



 使徒は変わらずにライオスを待った。

 しかし、彼の言葉を止めようとはせず、 彼の答えをただ待っている。

 不気味な使徒に舌打ちしながら、ライオスは言葉を続けた。



 「俺がアイツに噛み付いたとき、変な違和感があった」


 「違和感?」


 「そうだ。反応が小さすぎてすぐには分からんかったが、俺もよく知っているものだった」



 エイルは素直にライオスの言葉に耳を傾けている。

 勇者は黙って話を聞きつつ、早く()()が来ないかを待っていた。

 使徒は続けろ、と言わんばかりにライオスを見つめていた。

 ライオスは使徒の態度に不機嫌になりながらもさらに続ける。



 「お前の鎧と体を守ってるソレ、『()()』だな?」



 図星だった。

 使徒の『魂源』の効果範囲は盾のみ。

 それ以外の場所は『魔法』でカバーしているのだ。

 だから、



 「だったら、なんだ?」


 「盾以外は、盾よりも脆いはずだ」



 魂を広げるのは『魔法』、そして魂そのものが『魂源』だ。

 如何にして『魔法』で隙をつくりながら『魂源』を叩き込むかが『超越者』の戦いである。

 それは、『魔法』は『魂源』よりも絶対に密度から性能面で言えば劣ってしまうから。


 だから、『魂源』で叩き続ければいずれは必ずあの防御は壊れる。



 「続ければ、できねぇなんてことはねぇ」

 


 間違ってはいない。

 かなり苦しいが、一応は壁を破るための穴を空けるための方法はあった。

 遠く、長い道のりではあるが、ゴールは見える。



 「だが、それが不可能であることには変わりない。お前たちの力では、私には届かない」



 これまで攻撃が通らなかった分、余計に言葉が響く。

 確かにその通りだろう。

 盾よりも脆いといっても、三人の攻撃が通らなかったことには変わりない。


 何という硬さか…………


 『魔法』が『魂源』を防いでみせるのだ。

 この異常をどうやって倒せばいいのか?



 世界最硬と呼ばれる使徒だ。

 生半可な手は通じないとは分かるが、奥義と呼べる攻撃すらも通さない


 しかし、勇者はニヤリと笑ってみせた。



 「確かに、今のままじゃマズイですね?」


 「不可能と言っているのだ。お前たちでは、私を倒せない」


 「まあ、俺たちじゃあ、無理だろうな」



 勇者に視線が集まる。

 これは何かがある顔だ、と二人は期待する顔で見つめ、使徒はその余裕を訝しむ。

 

 

 「何か、あるのか?策が………」


 「おい、バカ。何もったいぶってる。そんなのがあるならさっさと…………」



 言葉は途中で切られた。


 勇者は突如、『聖剣』で使徒に光線をはなったのだ。

 


 (この程度の奇襲で………)



 簡単に受け止められる。

 そう高をくくった使徒は盾を前に弾き飛ばそうとして、






 「なっ!」



 予想外の威力に、逆に吹き飛ばされてしまった。

 


 ありえない、そんなわけがない、さっきまでとは威力の桁が違いすぎる!

 様々な思考が使徒の頭を巡るのだが、答えが出るはずもない。

 

 さらに数本の光の柱が同時に襲いかかり、無防備だった使徒を焼いていく。

 そして、これまで傷一つ負わなかった使徒に、小さなかすり傷なできていた。



 「…………何をした?」



 問いかけずにはいられない。

 一体どんな手品でこんかことが………?


 答えを求めて勇者を見れば、彼は後ろに向けて親指を立てていた。

 何事か、とライオスとエイルも釣られて見れば、すぐに疑問は氷解する。

 勇者の待ち人が来たという話だったのだ。




 「ナイスアシスト、二人とも」


 魔術師アレーナが切り札足り得る聖女リベールを連れてきていたのだ。

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