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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
52/112

50、『獣王』の奮闘


 誰よりも速く駆け、誰よりも多くの敵を倒し、誰よりも目立った『獣王』は、誰よりも早く目標へ辿り着いた。

 人形の群れのほぼ最後尾。

 そこに、奴はいた。

  

 銀一色の全身鎧を身に纏い、大きな盾を持っている集団の、真ん中

 皆同じような背格好だが、ソイツだけは絶対的に違う。


 他の人形共とは違う、一際輝くナニカがあったのだ。

 そして、戦う前から予感がある。


 コイツは、確実に強い…………!


 何百年も戦った『獣王』として、そのカンはある意味彼の最強の武器かもしれない。

 何度も何度も彼の窮地を救った、五感よりも頼りになるセンサーだ。


 そのセンサーが煩いくらいに叫んでいる。

 これまで戦ってきた者たちとは、一線を画す存在だと。

 何か、根本が違うのだ。

 ライオスは敵がそれだけ危険な相手なのだと判断した。



 「テメェが使徒だな!」


 

 駆けたライオスは、挨拶代わりに一撃を喰らわせる。

 爪による切り裂き攻撃だ。

 ただの爪ではなく、ライオスが『魂の力』を用いて強化し、さらにガルゾフが何十という名剣の切れ味を乗せた、鋼鉄ごときなら豆腐のように切り裂ける爪だ。

 その攻撃に対して使徒は、


 手に持つ盾でそれを防いだ。


 傷一つ付かない。

 切れ味だけでなく、『獣王』の腕力も乗っていた一撃をそよ風の如く受けてみせた。

 使徒は余裕な態度を崩すことはない。


 さらに、ライオスは攻撃を重ねる。

 右腕の筋肉はさらに膨れ上がり、使徒に向けて崩拳を放った。

 戦槌の一撃を遥かに上回る破壊力ではあったが、やはり使徒は一歩すら引かない。

 

 さらに蹴り、頭突き、諸手突き、様々な攻撃が使徒に襲い掛かる。

 普通なら、ミンチになっているであろう攻撃の雨に対して、使徒は不動だ。

 

 ライオスの攻撃が弱いわけではもちろんない。

 一撃一撃が地を砕いている。

 攻撃を受けている使徒の足元はひび割れ、砕け、沈没していく。

 彼の力がどれだけ強いか誰でも分かる。


 だが、盾は輝きを失うことすらはなく、体は根でも張ってあるように一歩すら動かない。

 後ろに控えている連中も、それが分かっているのか、本当の人形のように待ち続けていた。

 その攻撃は隕石が降り注ぐような威力なのだが、一切変わらない使徒は恐ろしくすらある。


 

 「終わりか?」



 使徒は巌のような雰囲気で挑発する。

 表情すら変わらず、まるでそこだけ時が止まったようだ。

 その防御は『不屈の砦』の名にふさわしいだろう。

 

 ライオスはニヤリと笑う。

 その表情は、こんな程度で終わるわけがない、と如実に語っていた。

 聞いてはいたのだが、想像以上にその力は強い。

 いっそう戦意を高まらせる。


 

 (硬ってえ………!)



 想像以上だった。

 彼の力は素で普通の獣人よりずっと高い。

 その彼が、ガルゾフの『魂源』で強化を受けた状態で使徒の防御を抜くことができていないのだ。

 

 初めての経験、初めての種類の敵………

 今までになく楽しい。

 今更こんな敵と戦うことになるなんて、予想なんてできなかった。

 まだ、こんな敵が居ようとは………!



 「いくぜ、いくぜ!全開だああ!!」



 ライオスは、自身の世界を広げた。



 ※※※※※※※※※※※



 『魂源』は、一人ひとりオンリーワンの能力だ。

 能力、精神性、才能といった様々な要素から、最も自身に合った能力になる。


 ライオスの『魂源』は、言うなれば『噛砕(ごうさい)』だろう。

 獣の王として、あらゆるものを噛み殺す力だ。

 その牙のにかかれば、あらゆるものを噛み砕くことができよう。


 そして、その『魔法』となれば、その牙の猛威はあらゆる場所へ届く。

 つまり、空間を無視してその牙は対象へ襲いかかる。

 口を開け、閉じるだけで好きな場所へ攻撃することができるようになるのだ。


 さっきの攻撃で、あの盾は全力の攻撃でもビクともしないことは分かった。

 なら、次にすることは決まっている。



 「退け、待機だ」



 使徒が後ろの集団を退避させる。

 真っ向から自分にしか攻撃が来ないと思っているために、声に緊張感はない。

 そして、ゆったりと盾を構えた。


 

 ライオスは使徒に向けて走る。

 四足で、本物の獣のように、そして本物の獣よりも速く、強く、それらしく。

 

 使徒は悠然と構える。

 来る獣が何をするか分かるから、前に出る。

 重歩兵のようにゆっくりと歩を進めた。

 


 二人は直後、激突する。



 爆発したような音が鳴り、二人の衝突は衝撃として周囲に駆け抜けた。

 牙と盾がぶつかったのだ。


 ただの物と物のぶつかりではなく、『力』と『力』がぶつかりあった結果だ。

 生じたエネルギーは暴れまわり、衝撃という体をとって形を成したのである。

 ぶつかった『力』が強大でなければこうはならない。

 二人の強さは、周囲の者など数合わせにもなり得ないほど隔絶していた。


 信徒たちはこの二人の戦いを無視する。

 使徒が最初に引き連れていた銀の鎧の集団以外はこの二人の戦いを見向きもせずに前へ走り出す。

 獣人たちが来るにはまだ少しかかるだろうが、しばらくは一対一の戦いになるだろう。


 

 そして、二人は拮抗している。


 一見負けもせず勝ちもせずなのだが、実質的に負けているのはライオスの方だろう。

 依然として盾に傷は付かず、そしてガルゾフに強化してもらっている身で力は拮抗だ。

 しかも、相手はまだ手を隠しているだろう。


 埒が明かぬと、盾に攻撃して自分を弾き飛ばす。

 一旦距離をとったところで、猛追。

 

 牙をあらゆる方向から噛み付く。

 ライオスは牙にとてつもなく硬い何かを噛んでいる感覚に襲われる。

 ただ闇雲にするだけではきりがない。

 削ることはできようが、砕くことはできそうになかった。

 

 何という硬度だろうか……………

 ガルゾフが硬い硬いと言っていたが、ようやく真の意味で分かった気がする。

 流石は『不屈の砦』というだけある。

 


 さらなる追撃。

 空間を無視して、喰らう。


 幾千という牙が使徒を襲うのだが、やはりその盾になんの変化も訪れない。

 嫌な音が立つのみで、ライオスの牙では攻めきれていない。


 (なら……………)



 同じ箇所への連撃を試す。

 ギャリギャリという音が鳴り………


 「もいっちょ!!」


 さらにその箇所へ蹴りを放つ。

 連撃で突破を図る。

 しかし、

 


 「フゥゥッ!」



 使徒に押し返された。

 使徒はライオスの巨体を軽々と弾き飛ばす。

 

 ライオスはクルクルと宙返りをしながら着地した。

 勢いは殺したために、ノーダメージだ。

 



 退く。

 なかなかに硬い。

 『大賢者』すら殺しきれなかったと言われても納得だ。


 巨体に似合わず俊敏に後退し、使徒の追撃に注意するのだが、やはり使徒は動かない。

 流石に疑問を覚えたライオスは、使徒に距離を詰めつつ語りかける。



 「おいおい、追ってこねぇのか?それにさっきから防いでばっかじゃねぇ、か!」


 

 攻撃しながら喋る。

 牙で、爪で、拳で、足で攻撃を続ける。


 ライオスは強者が好きだ。

 こうして敵と悠長に話をしようとするのもその表れなのだが、今回は功を奏したと言えるかもしれない。

 使徒は話に応じる。

 勇者たちが来るのにいい時間稼ぎになるのだが、彼にはその気はまったくない。



 「お前はお呼びじゃないからだ」



 攻撃を受けながら、余裕で言葉を返す。

 受けながらも、ライオスの攻撃に対応していた。


 これに対し、ライオスに不快感はない。

 前回の使徒は話に応じなかったし、ガルゾフが居たために悠長はできなかった。

 だが、こうして応じたことにライオスは喜びを隠さない。


  

 「ほう?」


 「私の目的は『勇者』だ」


 「アイツを?エイルのバカガキからも聞いたが、お前らはアイツがどうにも欲しいらしいな?!」



 牙を盾で受ける。

 さらに使徒は盾を薙ぎ、攻撃も行う。


 ライオスはそれに余裕で躱し、さらに攻撃を続ける。

 


 使徒からはなんの感慨も見えない。

 情報を隠すこともしないようだ。

 使徒は表情も変えずに淡々と話を続ける。


 スムーズに対処し続ける使徒を見ると、それは何百年にも及ぶ鍛錬の果なのだと分かった。

 ライオスのように本能で動くのではなく、そこには確かな『理』を感じる。

 

 使徒は盾をライオスに叩きつけながら続ける。



 「『勇者』は必要なピースだからな。我らが宣戦布告したのも、『勇者』が召喚される準備ができたからだ。リチャードからは、いや、奴は言わんな…………」


 「ピース?リチャード?」


 「我らの目的は聞く必要はないが、リチャードは使徒だ。お前たちが殺した、な」



 盾を使った体当たりに、ライオスは背後に飛んで躱す。

 そこからさらに首に向けて空間を無視した牙を飛ばすのだが、すぐに振り返って盾で防がれた。


 攻防と会話は続いていく。


 穏やかな会話だが、戦いはまったく穏やかではない。

 重なる度に、ついでで地形が変わり、一般人では近づくことのできない地獄と化しているのだ。


 盾での体当たりも、牙による噛み付きも、盾のぶん回しも、体術による攻撃も、どれもが普通なら必殺だ。

 


 その中で、ライオスは使徒の言葉に得心いった顔をした。

 

 あの使徒は、リチャードというのか…………

 ライオスは頬を緩める。



 「? 何だ?」


 「いや、奴はリチャードというんだな…………アイツは強かったからなぁ。名前を知りたかった」


 「…………………」



 このとき、使徒は初めて感情を見せた。

 ほんの少し、嬉しそうな顔をして……………



 「二人は悪くない死に様だったようだ」


 「二人?」


 「ああ、二人。シンシアもリチャードも、その死に様は悪くなかったそうだ。『教主』はそう言っていた…………」


 「そうか、シンシアとやらは知らねぇが、アイツの死に際は悪くなかった、ね……………」



 戦いは止まらない。

 ライオスの連撃を使徒は防いだ。

 さらにライオスの腕を掴んで、そのまま地面に叩きつけようとしたのだが、彼の牙のせいで手を離さざるを得ない。



 ライオスは少し神妙な顔をする。

 まさか、殺した相手の話をされて、しかもその相手がそのことを悪くなかったと感じられたのだ。

 少し、それを言葉にし難い。

 それに、仲間を殺されて少しの悲しみは見せてはいるが、怒ってはいない。

 この在り方は見たことがない。



 「普通、怒るもんだろ?仲間ぁ殺されてんだぜ?」


 「彼らは自分の、ひいては『教主』のために命を使った。彼らの命の使い所をどうして私がケチをつける?」



 戦いは続く。

 一進一退だ。

 ライオスの攻撃は効かず、使徒の攻撃は当たらない。



 使徒は何でもないように言った。

 彼はとても、とても強い価値観に支配されているのが分かった。


 仲間を悼みはしている。

 だが、そこには何よりも優先されていることが二つあることが分かった。

 なるほど、使徒は信徒のような人形ではない。

 ライオスは、使徒のことを世界の敵と呼ぶことにかなり違和感を感じた。

 それは、戦士の戦いに誇りを見出す獣人の在り方に近かったからだろうか?

  


 「我らは『教主』と個を何よりも優先している。そこには彼女と互いへの敬意が根底にある。そこへ我を持ち込むのは彼らの選択への侮辱だ」


 「分からねぇなぁ…………」


 「仲間の命が最も大切というのは分からんではない。だが、我らは互いの意志が大切なのだ」


 「ちげぇよ」



 ここで、初めて戦いが止まった。



 ライオスは不思議そうに言う。

 前の使徒から思っていたのだが、どうにも世界の敵という言葉に違和感を覚えてしまう。

 何でこんな奴らが世界を終わらせようなんて考えるんだ?


 ライオスは人生経験が豊かだ。

 これまでで、長く生きてきた分多くの人に触れてきた。

 中には救いようもないゲスも、殺されて然るべきクズもいた。

 だが、コイツも、殺した使徒も、その類では間違いなくない。

 世界の敵と言われれば、確実に()()()()()()だろう。

 だから、思ってしまう…………



 「テメェらは、一体何が目的なんだ?世界を終わらせる、なんてホントに考えてんのか?」



 使徒は、笑っている。

 どこか自嘲したような寂しい笑みだ。

 

 だが、それも一瞬。

 すぐに表情を消し、元に戻ってしまった。






 「戯れが過ぎた。終わりだ」



 使徒は強い殺気を放った。

 ライオスは身構え、対応できるように気を張るが、すぐに驚きが支配する。


 使徒は盾を構えながら、大きく踏み込む。

 ライオスと同じく、その巨体からは想像つかないほど速い踏み込み。

 ライオスのように軽く、速い動きではないが、重く、速い動きであった。


 ライオスは盾を前に出して迫るその姿に、山を見た。

 まるで山がそのまま迫るかのような威圧感に、ライオスは………



 「うおおおおおおお!!!」



 迎え撃つ。

 『魔法』で牙の範囲を拡大しながら、その山を喰らい尽くそうとする。

 その範囲は、使徒など丸ごと呑み込めるほどに大きくなり、これならば、とライオスは牙を向ける。



 すべてを喰らい尽くす獣と、迫る山

 


 どちらが勝つか。

 その『力』と『力』のぶつかり合いは、意志の強さが大きく反映される。

 その点、ライオスは万全だ。

 彼の精神は絶望とは程遠く、どんな逆境にも楽しんでしまう強さがある。

 

 ライオスは勝ちを確信しながら、





 山に、押し負けた。

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