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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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48、獣天大戦


 アニマは獣人の国だ。


 好戦的な思考、鋭い五感に強力な身体能力を持つ獣人は、一級の戦士の素質を生まれながらに有している。

 育てればそこら中から戦士が生まれるし、国の政策的にも、獣人の性格的にも、そうした環境は調っているのだ。

 確かに、種族としての絶対数が異なるために数では人族の国に劣ってしまうが、良質な戦士が大量に手に入れられるということに違いない。


 勇者一行がアニマの首都に着いてから一週間と少し、天上教は大きな動きを見せた。

 きっと、これを聞いた者はある言葉が頭に浮かんだことだろう。

 最終決戦、と…………


 天上教側のかつてない大きな動きに対応し、国中から集まったアニマ側の兵の数、

 

 約八万人




 そして、大々的に動いた天上教側の勢力、


 約二十万人



 二倍以上の戦力差だ。

 もしかしたら、隠していた天上教の戦力のほとんどを注ぎ込んだのかもしれない。

 それでも説明しきれないほど、この数は異常だった。

 テロ組織がここまでの人材を抱えているとは、世界の敵と認定されるには十分な数だ。

 

   

 決戦の場は首都近郊の平原だ。

 なんの変哲も無く、変わったところもないただの平原。

 何もないからこそ、人を動かしやすく、大群で戦うにはもってこいな場所なのだ。

 

 計二十八万の大進行によって起こる土埃の中で、決戦の時は着実に迫ってきていた。

 次第に緊張は高まっていき、好戦的な者が多い獣人たちは目をギラつかせている。

 だが、一方信徒たちは静かだ。

 人形のような生気のない目がいくつもそこにあり、一糸乱れず整列していた。


 どちらも変わらず恐ろしい。

 猛獣と人形が、万単位で開戦を待っている。

 いつかの『超越者』同士の戦いのようだ。


 一歩一歩と踏みしめる。

 

 もう開戦までは秒読みとなった。

 

 獣人の目はギラギラと、そしてどうやって勝つかを考えながら………………

 信徒たちの目は何も映さず、ただ機械的に命令に従うことだけを考えて…………



 

 ついに、両軍向かい合う




 「野郎どもおおおおおおぉぉぉ!!!」


 『獣王』ライオスは自軍に呼びかける。

 今の彼は失っていた左腕をリベールによって治してもらっており、全快している。

 さらなる活力に満ちている。

 その活力からか、『獣王』の声は本当に軍隊の端から端まで聞こえるのではないかと錯覚してしまうほどだった。

 その力強さが、獣人軍の獣人たちを鼓舞している。



 「目の前の敵を食い破れ!噛みちぎれ!お前たちの大好きな戦場はすぐそこだぁ!」


 『うおおおおおおおお!!!』


 

 そして、信徒軍からは大量の矢が放たれた。

 開戦の合図など完全に無視した不意打ちである。

 使徒の、矢を放て、という声と共に、矢の雨が獣人軍に襲いかかった。  

 しかし、焦る者は誰一人としていない。

 誰しもが余裕を持って、攻撃を待ち受けていた。



 「俺たちは負けない!最強の戦士は誰だ!!?」


 『我ら獣人!』


 

 轟音だ。

 思わず耳を塞ぎたくなるほどの音だった。

 まるで地を揺るがすのかと錯覚するほどのとてつもない爆音だ。



 「お前たちの目の前に居るのは誰だぁ!?」


 『最強の獣王陛下!』



 そこには『強さ』が込められていた。

 最強だと信じて疑わない彼らの期待、希望は、『強さ』として龍のように暴虐に唸っている。



 「お前たちは誰だぁ!!?」


 『最強の兵士、獣人!!』



 『獣王』を筆頭に、降り注ぐ矢の雨を叩き潰す。

 獣人の戦士達からすれば、余裕で対応できる速度だ。

 山なりの軌道で、見え見えの矢など、対応できない獣人はアニマにはいない。

 

 不意打ちへの怒りはなく、そのことへの軽蔑もない。

 ただ、もう少しで全力で戦えるということへの興奮しか存在していないのだ。

 だから、彼らの戦意は時とともに上がり続ける。



 「いくぜ、いくぜぇ!使徒は俺がぶっ殺す!早い者勝ちだぞぉ!!」


 『うおおおおおおおお!!!!』


 「突撃いいいぃぃぃ!!」



 突撃の合図とともに、『獣王』諸共全員が信徒軍に向かって全力で駆けた。



 ※※※※※※※※※※※



 「めちゃくちゃだな、『獣王』…………」


 「それでこそあのオッサンだ………!」


 「………………………」


 

 残りの前衛の『超越者』三人は『獣王』を追って走っていた。

 予想以上に思いっきり突っ走った『獣王』に、勇者、エイル、ガルゾフの三人は続く。

 あの『獣王』の無鉄砲さには何度も呆れてきた。

 放っておけば、数的有利な状況をつくれるのに関係なく使徒に特攻をかけてもおかしくない。

 はた迷惑な男である。



 「さっさと追いつかないと面倒くさいことになるな…………」


 「あのオッサンは、絶対にやるな。女連中もそれまで暇してるだろうし、早く追いつかねぇとな!」


 「いや、別に暇はしてないだろう?」


 「俺にとって戦い以外のことはだいたい暇の判定なんだよぉ!」


 「……………………」



 二人は彼らが使徒に接触するまで、戦争に参加していた。

 リベールは負傷兵の回復役として、アレーナは戦争の後衛として大火力を引き起こす。

 それで、合図でアレーナの『転移』でソコへ飛ぶことになっている。

 使徒さえ殺せれば、戦争は実質勝ちなのだ。

 おそらく、使徒が死ねば信徒軍も退却するはずである。

 

 だからこそ、勇者、ガルゾフの冷静組は使徒以外とは戦わないことを提案した。

 当たり前だが、あまり消耗するべきではない。

 一般の兵士に道をつくらせ、最小限に戦いを抑えて使徒と戦うべきだと言った。

 しかし、『獣王』としての意見は、


 『俺が前に出なくてどうする?』


 エイルもそれに賛同し、結局二人は折れてしまった。

 しかし、今となっては良い手だったように思える。

 そのおかげてここまでの士気を引き出すことができたのだから、悪くない。

 王として、ここまで慕われている者もなかなか少ない。

 目線が兵士たちと同じだからこそ、こういったことが可能なのだ。

 本当に気持ちいい人柄をしているのだろう。



 「使徒は早い者勝ち、って。これじゃあ普通の獣人も戦いを挑むんじゃあ?」


 「そんなのアイツらにゃあ関係ねぇ。強い奴がいりゃ戦う、それだけの話だろ?」


 「………………………………」



 流石、戦闘狂だ。

 例え相手が使徒であっても挑むだろう。

 他の誰かに理解はできずとも、エイルには分かった。

 

 命をかけるというスリルが何よりも楽しい。

 例えどれだけ力の差があったとしても、嬉々として挑むに違いない。

 

 エイルも、他の獣人たちも獰猛に笑っている。

 すぐに彼らが来ることが分かっていた。



 「ほら、来たぜ!」



 三人は信徒達と激突する。

 





 『おおおおおおぉぉぉぉ!!』



 獣人たちから雄叫びがあげられた。

 直後、彼らは信徒軍に接触し、武器と武器がかち合う。


 ガキンッという音が一斉に響いた。

 そして、



 


 信徒軍の先鋭隊を吹き飛ばした。

 

 勇者は悟る。

 獣人軍はおそろしく強い。

 これならきっと、倍以上の戦力差を覆すこともできよう。


 戦力差は倍以上でも、兵士一人ひとりの力の差は三倍以上だ。

 この場に揃っている獣人の戦士は、皆が皆一流と言える者しかいない。


 

 「おりゃあああ!」


 隣を見れば、エイルは襲いかかる信徒たちを次々と切り倒している。

 無言を貫いていたガルゾフも、あっさりと信徒たちを処理しており、心配の必要もなさそうだ。


 勇者も迫り来る信徒たちを一瞬で切り刻む。

 最低限の武器の扱いはできるようだが、やはりそれでも感じていた。

 彼らは戦闘において素人が多い。

 時たま慣れている者もいたが、感覚的に六割以上は経験者ではないかもしれない。

 これならおそらくは……………



 「おおい!ボサッとすんなぁ!」



 勇者の後ろから迫っていた信徒たちをエイルはなぎ倒す。

 大剣で切られた信徒は、上と下で真っ二つになり、中身をぶちまけた。

 勇者はエイルの方に振り向きつつも、正面から来た信徒の首をハネる。



 「今のは気づいてたぞ」


 「ならボーッとしてるように思われることしてんな!」



 エイルは勇者の頭を小突きながら苦言を呈す。

 彼からすれば、明らかに隙ができたようにしか思えなかったからだ。

 冷静に判断できることが勇者の強みの一つであるのに、それを放棄するのは悪手としか言えない。



 「えー」


 「えー、じゃねぇ!俺は、」


 「?」


 「何でもねぇ…………ほら、次来たぞ!」



 さらに信徒たちは向かってくる。

 勇者の注意の隙を埋めようと動いたエイルだったのだが、勇者は彼の予想以上に動いた。


 一人目を剣の切っ先で喉笛をかっ切る。

 さらに一人目を蹴り飛ばして後続の信徒たちにぶつけ、たじろいだ瞬間に彼らの首を切り裂いていった。



 「……………!」


 エイルも一瞬で行われた殺戮に驚く。

 まさか初めての戦争でここまで動けるとは思わなかったのだ。


 これまでの模擬戦や使徒との戦いとはわけが違う。

 常に気を張り詰めて、他人の存在まで意識しないといけない戦争において、一対一の戦闘経験がほとんどな彼には慣れるまでは難しいと思っていた。

 

 それに、多くの敵と接するということは、それだけ多くを殺すという事でもある。

 高揚でも、恐怖でも、そういったものが過度に高まりやすくなるのは当たり前だ。

 この場では勇者が落ち着くまで彼のクールダウンに付き合うつもりだった。


 つまりエイルは、勇者に戦争の経験がないと分かっていたために、フォローをしようとしたのだが、結果はこの通り。

 あまりにも冷徹に対応していた勇者に少し戦慄していた。

 頭がおかしいことは知っていたのだが、思ったよりもさらにぶっ飛んでいるらしい。

 しかし、そういうことなら放っておいても大丈夫だ。



 「ほら、さっさと行くぞ。オッサンに先越されるぜ?」


 「確かに……………」


 

 そして、勇者が大丈夫だったのなら、彼には想定していたよりも余裕ができたということ。

 


 「あ、しまった。一個やっとかなきゃならんことがある」


 「?」


 「ちょっとだけフォロー頼むぜ?」



 エイルは一言そういうと、大剣を大きく構える。

 

 勇者は、いったいどうした事か、と考えながら向かってくる信徒たちの相手をしていく。

 どうやら少しの間だけ、信徒の相手を放棄するらしい。

 戦いの中で急にやる事ができるとは、少し違和感があったのだが…………


 彼を信じている勇者はとやかく言わない。

 彼がやらないといけない、と判断したならそれは大切なことだと信じて、エイルの分まで信徒たちの相手をする。



 エイルも予想通りだ。

 彼ならきっと、こう動いてくれると確信していた。

 邪魔が入らないことをエイルは確信する。

 

 すると、エイルは構えた大剣を





 


 


 ガルゾフに向けて、振り下ろした。


 

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