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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
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46、戦争前(女)

何だろ?何か書きにくかった………


 リベールは城下に来ていた。


 城下と言っても、広がる露店に繰り出すわけでも、複を買いに行くわけでもなかった。


 二人が向かった先は、治療院だ。


 戦争で運び込まれた負傷兵を治療するための施設。

 戦争の相手である天上教の兵は、アニマの兵と比べれば遥かに弱いが、彼らには狂気がある。

 仲間の死体を目もくれずに踏みつぶし、次の敵を殺そうと戦う死兵の軍だ。

 それに恐怖を感じない者の方が少ないし、圧倒されてしまう者の方が多い。

 そもそも戦争なのだから、どうあっても負傷兵や死んでしまう者も出る。

 少なくはなれども、無くなることはない。


 アニマは教会や聖職者がさらに少ないために、その少ない兵を癒やすのにも時間がかかってしまうのだ。

 リベールは『聖女』として、苦しむ人々が目の前に居るのに放っておけない、と駆けつけたのである。


 まるで、理想通りの『聖女』のように、負傷兵たちに接していた。

 その仕事ぶりは完璧で、怪我は一瞬で治すし、お淑やかに優しく接するから兵たちは嬉しそうに接する。

 彼女の本性を知っている者からすれば、完全に演じているのが分かる豹変だ。


 

 「ほ、本当に、よくやりますね………こ、こんな面倒くさいこと…………」


 そう呟いたのは彼女に付いて来た仲間のアレーナである。

 他の仲間がこの国に居た『超越者』のおじさんたちに連れて行かれたために一人になってしまった。

 どうしようか迷った彼女だったのだが、リベールに付いていくことにしたのだ。


 「何を言うのです?こういうのが士気の向上に繋がるんですよ。やっておかないとダメでしょう?」


 「そ、そういう所が、ざ、残念、て言われるんです」


 「え?誰です、それ言ったの………」


 リベールの疑義を無視しながら、アレーナはぼんやりと考えていた。

 自分は、使徒との戦いと、街での勇者との語らいでようやく仲間になれた気がした。

 それからエイルもちゃんとギリギリ話せるようになったし、旅も円滑に進むようになったと思う。

 人と仲間と呼べる関係になったことがなかったので、彼らに慣れてしまえば意外と心地よいものだと知れたのは大きな発見だった。

 

 それに、男二人のいつもの様子から、リベールの遊び方を知れたのも大きい。

 こちらがフザケたらちゃんと返してくれる所が彼女にとっても楽しかった。


 ひとしきり喋ったリベールだったが、遊ばれていると感じたのか、咳払いをして話を切った。

 今度はリベールの方から、アレーナに話を入れる。


 「よく仲良くなれましたね。前はあんなに嫌ってたのに」


 「あ、」


 それなりに触れられたくないところだ。

 どうやら仕返しらしい。


 「た、確かにそうでしたが、い、今は、違います。ちゃ、ちゃんとし、信じ、るって決めたので…………」


 「ほう?それはまたどうして?」


 彼女はけっこう意地が悪い。

 ニマニマしながら聞きたそうにしてくる。

 しかも、逃さない、と雰囲気が物語っているので、きっと答えるまでうざく絡んでくるだろう。

 しかたない、と少し恥ずかしそうにして、


 「あ、案外、感情のある人だったんです。わ、私は、彼が、に、人形みたいに見えた気がしたんです…………ぶ、不気味だったけど、そ、そうでもないなって…………」


 「へええぇー…………助けてくれて惚れましたか?」


 「ふあ?」


 「ほ、れ、ま、し、た、か?」


 こういう所が残念なのだ。

 からかうためだろうが、どうしてそうなるんだ?

 アレーナは口をへの字に曲げ、頬を赤らめながら不快そうにする。


 「ち、違います。そ、そんなじゃ、ない、です」


 「ええー?ホントですかぁ?」


 「ちゃうます!」 


 それを言うなら彼じゃなくて…………

 いや、そうではない。


 噛みながら否定したことにアレーナは恥に震える。

 その様子を見て、彼女は満足したらしい。

 フフン、と笑ってそれ以上突っ込まない。


 ムカつく。

 その様子に、あまりにもムカついた。

 なら、こっちからもやりかえす。


 「そ、そういえば、で、ですけど…………」


 「んん?どうしました?」


 「勇者、彼とはどうやって仲良くなったんです?」 


 以前から気になっていた。

 あの勇者とどうやって信頼を積み上げたのか?

 正直に思ったのだが、彼と仲良くなるのは無理だろう、普通。

 それだけ彼は、初見は気味が悪い。

 

 なら、どうやって彼女らは勇者の信頼を勝ち取ったのだろうか?


 旅をする中で、どうやったのか気になった。

 アレと信頼を築くのはかなり難しかろうに、自分が会う前の数カ月でどうやって?

 気にはなるのだが、エイルは答えてくれないし、目の前の彼女はその話をすると逃げようとする。

 だから、


 「……………………」


 「に、逃げれませんよ。それに、わ、私たち以外、いないじゃないですか」


 「言わないとダメですか?」


 「だ、ダメってことはないですが、き、気になるので………」


 アレーナの子犬のような視線に居心地悪くなるリベール。

 さっきからかった分、余計に答えなければいけないような気がしてしまう。

 少々迷った後に、彼女は語りだした。


 「まあ、私も彼がそんなに好きじゃなかったですよ?私、役目とかそういうのクソ嫌いなんです。役目である『勇者』のお供なんて嫌でした」


 「え、そ、そうなんですか?」


 「そうなんですよ」


 意外だった。

 こうして人を治している姿からは想像できない毒である。

 それでよくも、今こうして人を『聖女』として癒やしているものだ。


 「じゃ、じゃあどうしてわざわざこんなことを?や、役目が嫌いなんじゃ………?」


 「それとこれは別です。役目として動くのが嫌なだけで、人は助けないと」


 なるほど、と心で納得する。

 彼女は本質が善人なのだ。

 役目が嫌いと言いつつも、こうして人を助けることに義務を感じている。

 自分のようなロクデナシとは、違うのだ。


 「それなら、彼の、ことは………?き、気を許す要素、なんて、な、なさそう、ですけど………?」

 

 「なんていうか、不思議と信頼できたんですよね。不思議なことに…………」


 「……………………」


 「それから色々ちょっかいかけるようになって、それから意外と楽しい人だなって思ったんです」


 不思議な話だ。

 物語ではあるかもしれないが、実際にはないだろう。

 まさか、


 「う、運命って、やつですか?」


 「はあ!?違いますよ!」


 「ま、またまた〜…………」


 「仕返しですね!悪かったですよ!」


 リベールは憤慨しながら謝罪し、アレーナは悪いことをしたかもしれない、と若干後悔している。

 

 少し沈黙が流れる。

 だが、リベールがすぐに誤魔化すように話を続けた。


 「それは別にいいんです!」


 「あ、はい…………」


 勢いに押されたほうが楽だと考え、アレーナは何も言わない。

 突っ込まれた側も突っ込んだ側もダメージを負うとは、なかなか残念な空間だ。

 だが、リベールはお構いなしに話を続けた。


 「なんていうか、心が繋がった、と言えばいいんでしょうか?そんな感じの事が起こりまして………」


 「え?い、意味が、よく…………」


 「彼の精神に私が入り込んだ?というか、多分『大賢者』様の仕業ですね」


 「し、師匠が…………な、何ででしょう?」


 「多分、『覚醒』を促すためです。精神の在り方が深く関わりますから、その精神の欠陥の埋め合わせ、というか………」


 いまいち要領は分からないが、要は心が通じ合ったということだろう。

 抽象的なことではなく、魔術的に直接。


 彼の心を覗き、それでいて彼女も彼を肯定する。

 それによって彼の深い部分に隠してあったナニカを解したのだ。

 それは信頼もできよう。


 「せ、精神、ですか…………」


 「そうですね。自分が強くこうあろう、とするから『覚醒』が起こる。アレはなろうとしてなるものじゃない」


 「…………………」




 アレーナは考える。

 もしそうだとしたら、自分の望むことを考えなければならない。

 使徒と戦うときも、あの理不尽に対する怒りは自分のものではなく、リベールのものだったのだ。


 難しい話だ。

 自分の本質なんて、そうそうわかるものではない。

 いや、認められるものではない。

 自分の中にある良さも、醜さも全部分かっていないとできない。


 彼ら彼女らはそうやって、自分の全部を呑み込んで、強くなった。

 まさしく自分を超越して、進化する。


 さらに何十年、何百年と自身と向き合い、高めていったのが英雄や使徒だ。

 そう考えると、少し違和感を感じてしまうが、今はどうでもいい。


 ただ望めばできることではないのは分かった。

 勇者にしても、抱える問題の進展こそを願ったはずなのだ。

 彼女の師匠もソレが分かってリベールをけしかけた。


 それなら、自分はいったい?

 強くなること?他人を信じること?誰かに認められること?家族のこと?


 いったい欲望(じぶん)はどこに………?




 「………レーナ。アレーナ!」


 「! すみません。ボーッとしてました…………」


 「大丈夫ですか?どこか落ち着く所で休みます?」


 「大丈夫です!だ、大丈夫ですから………」


 

 心配するリベール。

 それにアレーナは思考を別の所にやりすぎたと反省する。

 違うのだ。

 別に焦っているわけでは…………



 「まぁ、大丈夫ならいいです。貴女もこれから戦うのですから、体調管理はしっかりしてください」


 「わ、分かってます…………」


 「そうですか………何かあったら言ってください。私はそろそろ戻りますから、貴女も好きにしてくださいね」



 リベールはパタパタと走っていった。

 また『聖女』モードになって、本性を隠している。

 これを見ると、彼女が皆の役に立っているのが分かるし、見えない所でもそうしているだろう。

 戦いでも、彼女は『超越者』として戦力になる。

 

 

 本当に、自分は必要だろうか?

 あの使徒との戦いも、これからの使徒との戦いも、本当にこのままでいいのだろうか?


 杖を握り締める。

 師匠からもらった、大切な杖だ。

 先端の翡翠の宝石は淡く輝き、心のどこかでそれに縋っていた。

 

 周囲を見ると、たくさんの人がそこに居た。

 たくさんの人が笑い合い、戦いの最中とは思えない。

 勇者たちはきっと、こういう光景を守るために戦っているのだろう。

 でも、自分はこういうのをどう思っていたのか?


 次はもしかしたら死ぬかもしれない。


 その事ばかりが頭に浮かぶ。

 自分のことしか考えられないのだ。

 

 勇者は何の為に戦っていた?リベールが戦おうとする目的は?

 きっと、他人のため……………

 考えれば考えれるほど、彼らとは合わない。

 なら、彼らと何故戦っているのか?


 では、この場ではどうすることが最善なのか…………




 (逃げればいいのでは?)


 

 後ろを振り返る。

 そこには誰もいなかったが、確かに声がした。



 「私は、何がしたいんでしょう?」


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