45、戦争前(男)
なんか書けたから更新しまーす
「テメーのせいで散々だったぞ、クソガキ………」
「一緒に暴れた奴が何言ってやがる?テメーが調子に乗ったのが悪かったんだよ」
「全然反省してねぇな?」
「お互いサマだろ?」
どうやらまったく反省していないらしい。
命をかけることに無頓着すぎる二人は、ニヤつきながら廊下を歩く。
エイルはライオスに気に入られ、彼の部屋に招待されたのである。
他三人がいなくて暇で、超一級の酒や食べ物を山ほど備えていると言われれば興味が湧いたのだ。
それ以外にも、聞きたいことは山ほどある。
個人的にも、使徒と戦う者としても、ライオスの持つ情報は金を払ってでも得たいものだ。
長い廊下を進む中で、ようやく奥が見えた。
必要医所に大きな扉で、そこにあしらわれた細工は見るものの目を奪う。
おそらく、ここが目的地だろう。
「ほらよ、ココが俺の私室だ。まあくつろげや」
扉を開ければ、様々なものが置かれている。
酒に、果物、美術品、さらには財宝までもがポンと置かれた頭がおかしい空間だ。
派手好きという人種をエイルは何人も見てきたのだが、それが金を持つとこんなことをするのか、と感心した。
「趣味のワリィ部屋だな」
「なんだと?この良さが分からんとは…………やはりガキか?」
「この部屋見て気に入る奴の方が少ねえだろ」
「へっ!何を言う?こんなにもイカしてるっていうのに」
会話が噛み合わない。
なんでこんなに自信満々なのか、何を持ってこの散乱をイカしてると言えるのか、まるで分からないがツッコんでも仕方ない。
どうせわけのわからない回答が帰ってくる。
「ああ、ああ、いいよ。もうどうでも」
「んだよ、まったく………」
埒が明かない。
彼は話を聞かない人種でもある。
だが、彼は戦いには正直だ。
これから聞くことにキチンと答えるという確信がエイルにはあった。
「で、聞きたいことがあったんだ」
「だろうな。戦いは好きだが、仕事となるとちゃんと別ける。だが結局、戦いを優先しちまうもんな?」
「………………。なんで分かる?」
「調べてるに決まってんだろ?お前は傭兵として有名だったからすぐ分かったぜ」
一応、ギリギリ王らしさもあったようだ。
ただのバトルジャンキーではなく、共闘するであろう相手を調べるくらいの知恵はちゃんとあるらしい。
どことなく見透かされているようで、気に喰わなさは積もったのだが…………
「聞きたいことは、使徒のことだろう?」
「ああ、そうだよ。今この国に居る使徒の情報をくれ。何ヶ月か戦ったし分かるだろ?」
「いや、別に戦ってねぇ」
エイルは驚く。
まさか、そんな…………
この戦闘狂が強敵を前にして戦わない?
空腹時の魔物のような奴だと思っていたのに、意外にも程がある。
「何か失礼なこと考えてねぇか?」
「そんなことねぇ。それよりどういう事だ?お前は絶対に戦うだろ?」
「いや、分かるだろ。俺の左腕を見ろ」
エイルはそこで初めて思い出した。
ライオスの存在そのものがあまりにも鮮烈すぎて、彼の左腕が欠損していることを忘れていたのだ。
そうなると、理由も見えてくる。
「『聖女』を待ってたんだよ。俺の左腕が治るまで、使徒との戦いは禁止されてた」
「それもそうか。じゃあ、それまでは………」
「ああ、あの爺さんに任せてた。主に足止めの時間稼ぎだがな」
数では勝っているとはいえ、手負いの彼が参戦すれば、最悪使徒に殺されてしまう。
それに、共に戦うガルゾフからしても、万全ではない状態のライオスが出しゃばっても足手まといだ。
ライオスだけ死ねばまだマシ、最悪彼を庇ってガルゾフも殺されていたかもしれない。
そこから想定される被害は想像を絶する。
確実に言えるのは、アニマはお終いだと言うことだろう。
「じゃあ、使徒の情報は………」
「それは大丈夫だ。あの爺さんから全部聞いた。そこから予測できる相手の能力もな」
これは大きい。
以前使徒と戦ったときは、相手の力が分からずにいたために後手に回ってしまった。
しかし、今回は相手の力が分かっているだけでなく、歴戦の『超越者』が二人もいる。
『超越者』の数で言えば、五対一。
負ける未来が見えない。
「だが、油断するなよ。俺たちが有利でも、向こうはそれをひっくり返す手がある。じゃなきゃ、ここまで時間稼ぎに付き合った意味が分からん」
「分かってる。それより先に目の前のことだ」
「せっかちだなぁ………まぁ、いい」
ライオスは椅子に座り、ゆったりと背もたれに背を預ける。
脚を組みながら真面目腐った顔をして、彼は端的に使徒の能力を言った。
「硬い」
「は?」
「だから使徒の『魂源』のヒントだ。奴の体はただひたすらに硬い」
端的すぎる。
もっと言えることがあるだろう。
エイルは眉をひそめながら、ライオスに苦言を述べる。
「もっと具体的に言え」
「相手の武器は盾。とんでもなく硬い!」
「さっきとそんな変わってねぇだろ!」
硬いのは分かった。
相手にもあるだろう『魔法』とか、そういう話ならもっとあるはずだ。
「そんなこと言われてもあの爺さん時間稼ぎの小競り合いしかしてねぇんだからしょうがねぇだろ!」
「それは分かるがもうちょっと詳しく話せねぇのか!?もっとあるだろ?どんな『魔法』使うのか、とかどんくらい硬いのか、とか!」
そう言われてライオスは手を顎に当てて考える。
どう説明すればいいかに頭を悩ませ、エイルが少しイラつき始めた辺りで、ようやく声を出した。
「お前、あの爺さんの『魂源』はどんなか知ってるか?」
「………知るわけねぇ。あの爺とは初対面だ」
「なら、そこからだ」
ようやくまともに説明できそうだ。
二人は安心でため息を吐き、タイミングが同じだったために、暗に真似するな、と訴えかける。
仲が良いのやら悪いのやら。
「あの爺さん、ガルゾフの『魂源』は『付与』だ」
「付与?神聖術みたいなもんか?」
「ああ。だが、それよりもずっと自由で、具体的で、効果が強い」
ライオスは立ち上がり、そこらにあった剣を掴む。
彼の戦い方から考えて、剣は使わないはずなのだが、どうやらコレクションの一部らしい。
それなら相当な業物のはずだが、扱いがかなり雑だ。
浪費を娯楽に考えているのだろうか?
「例えばこの剣。これの切れ味を具体的に説明できるか?」
「握ったこともねぇ剣をどう具体的に説明しろと?出来るわけがねぇ」
「それが、奴はできる」
付与の能力の応用だろう。
しかし、何をどうすればそんなことになるのか分からない。
そもそも、切れ味を具体的に、というのが難しい。
「奴には、切れ味や耐久性、硬さ、重さ、他にも色々、そういう性質が数字で見えるらしい」
「あ?」
「例えばこの剣の切れ味は40。そこらにある鈍らは10くらいだそうだ」
何とも不思議な力だ。
彼には物を数字で捉えることができる。
だが、それはどう戦いに活かすのか?
「で、それでどうなるんだ?」
「その数字を切り取って、別のものに貼っつけるんだとよ。そうすれば一時的に貼っつけた対象はその性質を得られる」
…………………
理解しにくい。
しにくいが、おそらくこういう事だ。
物体に含まれる性質を別の何かに込めることができる。
鈍らだろうが何だろうが、彼の手にかかれば名剣と同じ性能を得ることができるのだ。
「なんとなく分かった」
「そりゃ良かった。ちなみに、あの時俺たちの攻撃を受け止めた剣も実は業物でもなんでもないただの剣だ。あの爺さんの能力で改変した、な」
「だろうよ。で、使徒の『魂源』とどう繋がる?」
ガルゾフの能力の概要は理解した。
しかし、それをどうすれば話が戻るのか?
「爺さんの能力を使えば、付与する数字は付与した物に上乗せされる。使徒と戦う時も、何百っていう武器や防具の数字を上乗せして戦ってるんだ」
「とんでもねぇ数の武具の凝縮…………それはスゲぇことになるだろうな」
「ああ、戦う時に俺の爪と牙も数字を取られた。その武具はどこをとっても最高を超えた性能をしているだろう。だが、」
「だが?」
「使徒『不屈の砦』には、傷一つ付けられなかったらしい」
そこにどれほどの数字が乗せられたかは分からない。
しかし、確実にその性能はあり得ないと言える理不尽になっていたはずだ。
それに、振るっているのは素人ではなく何百年も生きた伝説だ。
それでも傷を付けられない。
今回の使徒も理不尽極まりないらしい。
「アンタはどうなんだ?そんな奴の防御を抜く自身はあるのか?」
「さあ?やってみるまではどうやっても分からんさ」
「さあ、て………おい」
「大丈夫だよ。それより、覚えとけ」
ライオスは立ち上がり、エイルの前に立つ。
身構えるエイルだったが、それよりも先にライオスは右手の拳を彼の胸に当てた。
「『超越者』っていうのは、心の在り方でいくらでも強くなる。お前が折れず、強くなろうとし続ければ、お前は見違えるほどに強くなれるんだ」
手を振り払うのも忘れる。
何かは分からないが、そこには先駆者から後輩への『熱』が込められていた気がした。
それが期待か、庇護感か、競争心か、何かはまったく分からないが、表現するなら『熱』しか思い浮かばない。
だが、確実にその言葉は『獣王』からのアドバイスだ。
「いいか、死ぬな………!未来あるお前たちが死ぬことを、俺たちは望んじゃいない」
「うるせぇ。手、どけろ」
エイルは『獣王』の手を退ける。
だが、その言葉は彼の頭に深く残った。
「自分の力を疑わねぇかぎり、『超越者』は負けねぇ」
本当に、頭に残ることばかり言う……………
「テメーのくっせぇアドバイスはもういい。さっさと他の事を教えろ。テメーはどんな力ぁ持ってる?」
「あ!先人の教えを何だと思ってる!?せっかくいい事言ったんだぞ!」
「うるせー!知らねー!」
口喧嘩をするように、自分の持つ情報を交換していく二人。
彼らはこの後、酒の飲みすぎで潰れるのだが、それは数時間後のお話だ。