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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
三章、鋼の騎士
44/112

42、vs『獣王』

アレーナちゃんが翡翠の宝石を付けた杖を持っている描写書き足しました。 

めっちゃ書き忘れてた。

危なかった。


 『獣王』ライオスの攻撃は単純明快、近づいてその肉体で敵を屠る。


 飛び道具などないし、小細工もない。

 なら、戦いようはいくらでもあるし、対策も比較的簡単だ。

 

 言葉だけなら。

 

 実際に戦うとなると、それは難しい。

 武器は肉体、しかし、その肉体が何にも勝る凶器なのだ。

 それに、そんなに簡単に対応されていれば、彼はとっくに『獣王』ではなくなっていただろう。


 

 「………!」

 

 

 「トロトロしてんなぁ!」



 正面に居たはずのライオスはいつの間にか真横へ。

 瞬間移動を彷彿とさせる、超速の動きだ。

 これには二人も反応が遅れる。


 

 「ぶっ飛べ!」



 顔面への右のストレート。

 小手調べの牽制だ。

 だが、その拳は弾丸よりもはるかに速く、大槌による一撃よりもはるかに重い。


 それを向けられたエイルは、そんな破壊の一撃を避けない。

 頭突きで相殺し、大剣で首を狙って………


 

 「グッ!」



 吹き飛ばされる。

 ライオスの腕力に負け、後退を余儀なくされてしまう。

 エイルの額からは血が流れていて、しかも視界には星が飛んでいるために少しの間は動けないだろう。

 おかげで剣を振り切ることができなかった。


 だが、ライオスの首筋からも薄く血が流れている。

 もしも、彼が力負けしていなければ、ライオスの首は落とされていたかもしれない。

 相対する戦士の強さとイカレ具合に満足しつつ、もう一人の男に向き合った。


 

 相方が吹き飛ばされた瞬間に攻撃を仕掛けていた。

 巨体の死角を狙った、確実に当てるための剣だ。音もほぼなかったし、気配もうまく消せていた。

 これで相手がただの達人程度ならば、訳も分からずに地面に転がされていたことだろう。

 

 だが、ライオスには通用しない

 ほとんどないというだけで、音自体は聞こえていたし、何よりも匂いを隠しきれてはいなかった。

 それでは奇襲は通じない。


 ライオスは勇者に拳を叩きつける。

 その拳に対して、刃を立てて受け止めようとしたのだが、


 (あ、ダメだ!)


 受け止めようとしたが、受け流す、にすぐに動きを変更する。

 いきなりだったので多少は乱れてしまったが、その判断は正解だった。

 剣と拳が当たった瞬間に岩でも叩きつけられたのか、と思ってしまうほどに重かった。

 しかも、刃を当てたはずの拳には傷一つ就いていない。


 さらに数合打ち合う。

 勇者が一方的に押されており、一撃一撃が剣を砕くには十分な威力だ。

 なんとかいなしてはいるが、剣も、剣を持つ腕も限界が近づいている。

 もしもこれで真正面から打ち合えば、剣と腕の骨を折られていたかもしれない。

 


 ライオスは首に向かって蹴りを放つ。

 その蹴りの鋭さは、刀剣と何ら変わらないだろう。

 下手に受ければ受けた箇所が真っ二つになってしまうような蹴りではあるが、それに対処できない勇者ではない。

 

 もとより、体勢からどこに蹴りを撃つか分かっていたために、その対応も想定していたのである。

 余裕でしゃがんで回避し、お返しとばかりに下から首へ剣で刺突を放つ。

 蹴りを放った後の体勢のせいで、死角ができた下から………



 「おいおい、死角が好きだねぇ!」


 

 それに対して、ライオスが取った行動は………

 蹴りで宙に放った左脚を、全力で引き戻して勇者の居る方に踏みつけを行ったのである。

 


 「………!」



 明らかにあんな速さで脚を戻せる体勢じゃなかったろうに。

 見れば、軸足が半ば地面に埋まっていた。

 蹴りを勢いよく戻すために咄嗟に足を埋めたというのか?

 だというなら、なんという………



 「でたらめな………!」


 

 これには引くしかない勇者は悪態をつきながら下がる。

 下がるしかなかった勇者だが、彼は意地の悪さはなかなかのものだ。

 もちろん、それだけでは終わらない。


 土の魔術で床を軟らかくしていたのだ。

 

 

 「ぬおっ!」



 深くハマり、足を取られるライオス。

 勇者は作った隙を無駄にすることなく距離を詰め、今度は脚を狙う。

 はまった瞬間に床をまた硬め直しているので、出るのにも時間はかかるはずである。


 「おっらあ!!」


 それに、エイルも復帰した。

 ライオスに一撃もらいはしたが、頑丈さにおいてはピカイチの彼だ。

 この数秒でも十分に復帰できる。

 袈裟斬りにしようと大きく振りかぶり、


 二方向からの同時攻撃に対して、ライオスは………



 「甘ぇぞ!」

 


 エイルの剣を牙で、勇者の剣を爪で受け止めた。




 「はあ!?」「マジか………!」


 

 一瞬止まってしまった二人は、次いで腹に衝撃を受ける。

 二連の蹴りを受け、二人は後方に吹き飛ばされた。

 まともに受ければ内臓がやられてしまっていたかもしれないが、彼らはすんでのところで自ら後ろに飛んだためにダメージは最小限だ。


 勇者の剣はギリギリ大丈夫だったが、エイルの剣は半ばから折れてしまった。

 ライオスは、噛み折った刃を地面に吐き捨てる。


 二人同時に互角以上に相手取っている。

 この時、初対面の四人は当たり前のことを思った。

 アニマの国民には当たり前すぎて、話題にも上がらないような事なのだが、考える。


 強い……………


 速い、力が強い、対応が上手い。

 分かりやすく強いと思える条件を完璧に備えていた。

 


 「いいぜ、お前ら………!そこの灰髪はなかなかだ。経験積んでて、センスもいい。そのくせ好戦的だ。俺らの仲間だな!」


 エイルは皮肉かと思ってしまう。

 確実にセンスも経験も、向こうのほうが上手だろうに。

 しかし、向こうもそうではなく、心から思ったことを言ったのだと分かってしまう。


 「勇者ぁ、お前も悪くないな………戦闘の経験は呼ばれてからって聞いてたのに、なかなかどうしてやりやがる。軌跡の力もあるだろうが、積み重ねたソレはお前の努力家だ。誇っていいぞ?」


 そう言われても、ここまで対応されきると嬉しくない。

 完全に、上と下が決められてしまっている。

 


 「うるせぇ、何様だ………テメェ………!」



 エイルはそれが我慢ならないようだ。

 青筋を立たせながら、剣を構え直していた。

 そして、様子がどんどん変わっていく。


 髪がザワザワと伸び、魔力の質が変わっていく。

 それに、大剣も傷が急速に治るように、その刃が直っていくではないか。

 彼もなかなかに本気の様だ。

 


 「おい、分かってるな?」


 「分かってる。俺はサポートに回ろう」



 本当にここまでする必要ないのに…………

 勇者はそう思うのだが、口にするほど無粋ではない。

 少しのやり取りで、『獣王』と自分との差が分かったために、彼は全力で倒したいのだろう。



 「第二ラウンドだ、『獣王』サマ?」


 「いいね!面白い!胸を貸してやる!」



 ※※※※※※※※※※※※


 

 獣と『獣王』の戦いだ。


 どちらもその戦いようは苛烈の一言に尽き、エイルの大剣とライオスの爪が交差する。

 交わる度にギャリギャリという嫌な音が鳴り、火花が散っているのが分かる。


 苛烈に攻撃をぶつけ合う二人。


 ほとんどがノーガードであり、お互いが攻撃をぶつけ合っている。

 獣人の王であるライオスの身体能力と、吸血鬼としてのエイルの身体能力は高い、なんてものではない。

 人の限界を遥かに超えた肉体であると言える。

 その肉体は、二人は大型の魔物にすら引けを取らないパワーと、脚力の強さを誇っている魔物の足にも負けないスピードを得ている。


 さらに、戦闘の技術もある。

 剣を振る、拳を振る、という動作にも、タイミングや角度、視線すら計算に入れながらも使っているのだ。

 如何にして無駄をなくし、全力の一撃を入れられるかを目まぐるしい戦闘の中で考え続けている。

 

 その点からも、二人はずば抜けていた。

 そも、攻撃をぶつけ合うにしても、どこに攻撃が来るかキチンと正しく予測がつかないとできない。

 一歩間違えれば終わりだ。

 攻撃を喰らえば、ノーガードの二人はもろに相手の一撃をもらい、大ダメージである。

 獣人の王として、傭兵として、戦い続けた経験があるからこその離れ業だ。


 しかし、人外の能力にも序列がある。


 エイルも全力ではあるが、ライオスの全力には及ばない。

 身体能力はエイルは一歩及ばず、経験もライオスに一日の長がある。

 しかし、一歩及ばない彼が互角に戦えているのは、勇者の力添えのおかげだ。


 勇者はとにかくサポートに注力する。


 土の魔術を使って、ライオスの足場を崩そうとする。

 床に窪み、出っ張り、鉄の紐などを創り出し、ひたすらに邪魔をし続けているのだ。

 エイルの邪魔にはならず、ライオスの邪魔になるように移動しながら高速で何度も何度も創り出す。

 

 さらに、エイルの攻撃の瞬間には常にライオスを狙える位置に居るように心がけている。

 全力で何も考えずに攻撃すれば、絶対に不意打ちができるように準備をしながら。


 とにかく、鬱陶しいと思われるように全力で立ち回り続けている。

 これが無ければ、エイルは真正面から叩きふせられてしまっていただろう。


 だから、彼らはお互いの良さを再確認していた。



 (コイツ等………いい具合に互いを信頼できてる。いいねぇ、鬱陶しい。いい感じに厄介だ)


 

 (クソッ………!アイツの補助付きでコレかよ…………このオッサンどんだけ強えんだ?)



 お互いがお互いの強さを理解できる。

 その中で、三人中二人は戦いを全身で楽しんでいた。



 次の一手を予測し、対応する。

 この繰り返しが何者にも変え難く面白い。


 

 爪の攻撃は大剣の攻撃を相殺する。

 だが、膠着は生まれない。

 ライオスにとっては、生ませてはいけない。

 膠着は勇者に攻撃の間を与えてしまい、それから攻撃を受ければ確実にそのまま押し込まれる。

 

 だからすぐに弾いて追撃をしようとするのだが、勇者の魔術とエイルのカンの良さのせいで当たらない。

 勇者を狙おうとすれば、エイルに後ろを取られてしまい、そのまま斬られるだろう。

 


 一方で、二人も余裕がない。


 戦闘下で発揮される極度の集中と、信頼によって成り立っている共闘だが、一歩間違えれば終わりなのだ。

 お互いがお互いの意図を汲み合い、やりたい事ができやすい環境を整えているからこそ成り立っているために、とても繊細な戦闘だ。

 この集中が切れれば、そこからこの戦闘は崩壊する。

 そして、その集中はいつまでも続くことはない。


 そんな状態は一時的なものであるし、それは緊張から来るものだ。

 ずっと続くという方がおかしい。

 


 だが、エイルは、ただ純粋に楽しんでいた。


 どちらが負けるか分からないギリギリの綱渡り。

 いつミスが起こるか分からないヒヤヒヤ、相手の手を潰した時の爽快感。

 

 こういうのが好きで戦っている。

 集中は楽しみという感情の方が深めてくれるものだ。

 だから、エイルの集中は勇者のものよりも長く、深いものである。

 そしてそれは、『獣王』もまた同じだ。


 

 一人、冷めた者がいるのだが、そんなことは関係ない。

 お互いが同類だと理解しているから、相手の熱にあてられてどんどんヒートアップしていく。

 楽しい、という感情は留まる所を知らない。



 この二人がいつも戦うときは、相手がそうした冷めた相手なのだから途中で終われるのだが、今回は残念なことに同類であった。

 つまり、止める者がいないのだ。



 「おいおいおいおい!楽しくなってきたなぁ!」


 「ああ!?遊んでんじゃねぇぞ、ボケ!さっさと()()出せや、コラァ!」


 「ノリがいいバカは好きだぜ!いくぞ、おい!」



 (え?)


 とんでもない発言だ。

 本気を出す、それに応じる、ということは、『魂源』を使うということ。

 つまり、ここからは……………



 「殺し合いだぁ!」


 

 エイルとライオスから純粋なエネルギーが湧き出る。

 両者共に、周囲の獣人たちを圧倒させるには充分な圧をつくりだしており、それらは凝縮されつつ、エイルのものは剣と体に、ライオスは牙に宿っていく。


 本気の戦闘をする気だ。


 これには皆が慌てた。

 誰よりも、勇者一行の残り三人がとても慌てた。

 貴重な戦力の二人が殺し合うなど、悪ふざけ以外の何者でもない。いや、悪ふざけでもして欲しくない。


 二人とも、単純過ぎる。

 楽しいのは分かるが、それでも殺し合おうとするのはいったいどうなのか?

 いや、エイルと勇者の戦いはたまに殺し合い寸前まで発展するのだが…………


 しかしこういう時には、



 「リベール!アレーナ!」


 「はい!」「は、はい!」


 

 リベールは三人を閉じ込めていた結界を解除し、二人の間に隔てるための結界を創り出した。

 『魂の力』で創られ、自身の『魂源』で強化した特殊な結界だ。

 その強度は折り紙付きである。

 

 アレーナもそれに続く。

 時空を操る魔術による、空間の断絶だ。

 この断絶は通常の手段では決して壊せることはない。


 相当な術者たちによる、強固な結界の重ねがけだ。

 これでそう簡単には破れない。



 「邪魔だ!」  



 破れない、はずだった。

 ライオスはその牙で、なんと結界を喰い破ったのだ。


 そんなバカな、と呆然としていたのだが、その間が命取りだった。

 その隙に、もうすでに二人は止めようがないほどに接近していたのだ。

 

 (マズイ、止められない…………!)














 「遊びが過ぎますぞ、陛下…………」



 二人の攻撃は、剣を持った老人に止められた。

 膨大なエネルギーの宿った攻撃を、二本の剣で止めてみせたのだ。

 『魂の力』を込められてはいるが、業物には見えないただの平凡な剣。


 その剣を握る老人の顔には、勇者は見覚えがあった。


 ナハトリアにいた頃、何度か剣を教えてくれた、世界最強の騎士。

 

 「ガルゾフさん…………」



 ガルゾフ=ヴィクス=アレーム、その人であった。

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