2、記録
辺りはまるで霞がかかったように、視界が悪く、見通す事ができない。
それに、今の状況もわからないのだ。
周囲を見回すための『目』がある。
何かを聴き取るための『耳』もある。
何かを探り出すための『腕』もある。
そして、動くための『脚』がある。
それだけだった。
不思議なことに、それ以外で『ある』という感覚は存在しない。
『目』で自分を見ようとするが、そこに映るのは『ない』という認識だけだった。バグったゲーム画面みたいにその部分が黒くて見ることができないのだ。
この空間も同様だ。
おそらく、『何もないから、理解する事ができない』のだろう。
暗い虚の中のような場所だが、居心地は悪くない。
ただじっとするだけでは埒が明かないので、『脚』で歩き回る事にする。
長い間歩き回ったが、特に疲れたりはしない。
ずっと、真っ直ぐ歩いていると小さな光が灯り始めた。
…………なんだ?
光に向かって、『腕』を伸ばす。
光に触れた瞬間に、辺りが光を包み込む。
さっきまで『何もなかった』空間が、キャンバスに絵を描くように埋められて…………
※※※※※※※※※※
一人の男がいた。
黒髪黒目の男で、精悍な顔立ちをした男だ。
男は目を閉じて静かに集中し、『力』を自在に操っている。
目に見えないモノであるはずなのに、不思議とそれを感じることができる『力』だった。
「精が出ますね、勇者様」
女の声が響く。
後ろを見れば、白髪赤目の女が立っていた。
大人らしい女性で、年の頃は20代半ばといったところだろうか?
「いや、この位は当然だ。毎日剣と魔力制御の鍛錬を続けなければすぐに鈍ってしまう。それに、魔王との決戦も近い。つい、体を動かしたくなるんだ」
「それも程々にしてくださいね?休む事も重要な鍛錬の一部なのですから」
「ああ、わかっているよ」
この少しのやり取りからも見られるのだが、二人が互いを信頼しあっているのがすぐに分かる。
しばらくすると他愛もない談笑を始め、次第に距離が縮まっていく。
そして、最終的には男と女は互いに抱き合い、言葉を囁やくように紡いでいった。
「あと少し、あと少しだ。魔王の側近もあと2体。あと2体で魔王の力は弱まる。そして魔王を倒せば………」
「ええ、私達の時間を作りましょう。どこかで家を建てて、穏やかな生活を営んで……」
「そうだな」
どうやら二人の男女の時間のようだ。
互いに頬を紅に染め、完全に安心しきっている。
「愛している、―――――――――――」
「ええ、私も愛しています。―――――――――」
※※※※※※※※※※※※
………………………
誰かの記憶だったようだ。
よくわからないが、そこには誰かへの想いと、これまで強くなるために歩んできた軌跡が、俺のナニカに焼き付いた。
流れてきたソレは、まるで元から俺の一部であったかのように馴染むのがわかる。
辺りを見回すと、他にも6つの光があった。
俺の中には、あの光に触れなくては、という義務感が溢れ、自然と『脚』がその方へ向いてしまう。
また一つ、俺は小さな光にに触れる。
※※※※※※※※※
「今だ、行け!―――――――」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
四人の男女がいた。
ひょろりとした槍を持つ男
紅のローブを纏い、長い杖を握っている女
そして、
神官服の白髪赤目の女と、黒髪黒目の男。
四人は紫色の、脚を6本持つ大きなワニと戦っており、それは熾烈を極めた。
槍使いと黒髪黒目の男がワニの動きを食い止め、ローブの女が空中から火や氷、他にもよくわからない黒の塊や白い塊をワニめがけてぶち当て、白髪の女が男達の傷を謎の力で癒していた。
GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!
壮絶な断末魔が響き渡る。
しばらくはのたうち回ったワニだったが、次第に動きは弱まり、やがて完全に動かなくなった。
一進一退の攻防の果てに、最後の最後でローブの女の最大の一撃がワニに直撃し、黒髪黒目の男がその手に持つ剣でワニの息の根を止めてみせたのだ。
この戦い間、やけに黒髪黒目の男の持つ剣に目が引き寄せられた。
白く、美しい剣で、素人目からしても相当に位の高いものだとわかる。
「魔王の側近、『悍ましき』ドロレストレアンは強かったな」
「魔王の側近なんてみんな強いですよ。一体一体が国を亡ぼすことができる力を持っていますからね」
白髪の女が黒髪黒目の男のボヤキに答える。
黒髪黒目の男はそのどことなくパッとしない顔を歪めていた。
「こんなのがあと5体もいるなんてね、よく人類が滅びないもんだよ」
「コラ、なんてこと言うんです」
槍使いがぼそりとそんなことを漏らすと、白髪の女がそれを窘めた。
女は17,8ほどで、それなりによく発展した身体つきをしている。
「どうでもいいから、とりあえず今は早く帰りたいわ」
ローブの女がけだるげに提案する。
全員が顔を見合わせ、そうだな、と意見を合わせた。
彼らは死闘の後で、確実に疲れたと顔に書いているのがわかるほど目に見えて疲労しているのだが、その雰囲気はどことなく浮ついている。
「なあ、俺らは、魔王の側近を倒せたんだな」
「なによ、改めて?」
「だってさ、世界を恐怖どん底に叩きつけた魔王の、その側近の内の一体を倒せたんだぜ?」
槍使いは諸手を広げ、朗らか言ってのける。
これが浮ついていた原因だった。
世界の敵の主戦力の一角を倒してのけたのだ。
魔王を倒すという目標を掲げる人類からしたら、これは目標達成のための大きな一歩であったと言えるはずだ。
「まだ始めの一体よ、まだまだこれからなんだから油断しない」
「その口元は何だ?ニヨニヨしてるぞ?」
「はあ!?」
槍使いとローブの女はそのまま口喧嘩を始めてしまうが、黒髪黒目の男と白髪の女はそんな二人を微笑まし気に眺めていた。
槍使いが言ったように、魔王の側近を倒したという事実の歓びを噛みしめているかのようだった。
「まあまあ、その辺にして………」
「いいではありませんか、今は喜んだって」
二人は割って入られたことでようやく喧嘩をやめた。
意見を支持してもらえた槍使いはローブの女を見下ろし、あからさまに挑発している。ローブの女は掴みかかりそうな表情を浮かべて槍使いを睨みつけているが、白髪の女がなだめてなんとか抑えさせた。
「とりあえず、今はこれを喜ぼうよ」
「ええ、あと5体。そして魔王。この調子なら、すぐに全部倒せますよ」
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「ああ、だから言ったろうに………」
黒髪黒目の男が、女の死体の前で呟いた。
男は女性と見間違わんほどの顔立ちをしていたが、今はその顔を歪ませている。
赤い髪の女の死体は下半身が無くなり、それ以外の、上半身にも無数の穴が開いているのが見える。
きっと、とてつもない苦痛が死の間際に訪れたに違いない。
しかし、女の顔は安らで、まるで眠っているかのようだった。
「勇者様………」
白い髪の女が後ろから黒髪黒目の男を抱きしめた。
その涙が枯れるまで、いつまでも………
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「貴方を、愛してる」
「俺も愛してるよ……………」
「じゃあきっと、この子は……………」
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「きっと、きっと魔王を倒せるさ!」
「俺たちは、まだ負けてない」
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「やった!俺にも魔法が使えたぞ!」
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ああ、あと一つだ。
数年のようにも、一瞬のようにも思えたが、この記憶の旅も終わりを迎えそうだ。
一つの記憶を見るたびに、俺の中のナニカが流れ込んで来るのがわかる。
そこに映る記録の一つ一つが、歓び、悲しみ、怒り、絶望が詰め込まれた人生そのものだった。
見れる景色にこそ限りがあるが、伝わる感情はその限りではなかったのだ。
何もかも、何もかも、何もかもが気分のいいものではない。
俺の中で、俺の知らないナニカが足されていくのだ、到底気持ちのいいものであるとは言えないだろう。
でも、なんとなくだが、すべて見ないとここから出れないのはわかってしまうのだ。
正直もう嫌なのだが、最後の光に手を伸ばすことにした。
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