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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
二章、呪われ王女
32/112

30,貴方の側には

前書きに書くことがなくなってきた………


 『覚醒』とは、魔物のように進化することのない生物、基本的に言えば人類が到れる進化の形だ。

 

 その魂をより自身の特性に沿った形に変化させる。

 精神や肉体も、魂に合わせるように変化が及ぼされ、頑強で敏捷で力強い身体や、能力を最適に扱うための本能なども同時に手に入るのだ。

 つまり、『覚』と共に、肉体も、精神も、魂も、自分のすべてを完璧以上に扱えるようになる。

 

 『覚醒』することで得られる『魂源』など、まさにその特徴の結晶と言えるだろう。

 普通は扱えない『魂の力』を用いて、自身の特性に沿った権能を得ることができるのだから。


 常人と『超越者』にはそういう違いがある。

 だから、『超越者』とそれ以外では、越えることのできない壁が存在するのだ。

 

 『覚醒』というものがどれだけ難しいかが分かる。

 本当に才ある人類が、長い修行で自身を磨き上げ、さらに殻を打ち破る心を持つことで至れる極地だ。

 本来なら、100年に一人『覚醒』に至ることができればいい方なのだ。

 それを、彼女らは今、至ろうとしている。


 だが、そんな簡単にできれば苦労しない。

 彼女らを今は突き動かしているのは、焦燥と怒りという二つの想いだ。

 それでは『覚醒』に至るなど、夢のまた夢である。


 どうしても、『覚醒』には自己が必要なのである。

 しかし、その二つの感情は、彼女らの自己足り得ない。


 一体何が必要なのだろう?


 それは、自分をキチンと見つめ直さなければ見ることができないだろう。

 一旦冷静になって、自分の中の本質を心から受け入れる必要がある。


 例えば、リベールはどのような感情が本質なのだろうか?



 ※※※※※※※※※※※※



 怪物たちの爆心地。


 いくつもの魔術や眩い閃光と、不可視の斬撃が轟音をたてながら激突していく。

 閃光が斬撃を撃ち砕き、斬撃が閃光を消滅させるというやり取りを何度繰り返しただろうか?


 互角だ。


 互角になるまで、使徒の力は落ちていた。

 武器を用いた斬り合いでは、確実に使徒の方に軍配が上がる。

 そして、『魂源』の強さ、つまり力の扱いでも使徒が勝っているだろう。


 しかし、『魂源』と『魔法』の戦いになればまた話が違う。


 力の濃度が違うために、撃ち合いになれば確実に『魂源』が勝利し、だからこそ使徒も『魔法』で光線を防ぐのに百を超える斬撃を用意する。さらに、本体である『聖剣』を斬ろうと思えば千を超える斬撃が必要だ。


 本来なら、使徒の『魔法』は閃光も『聖剣』も斬り裂き、その上で勇者本人を斬り殺すのに余りある斬撃を一息で創り出せる。

 しかし、彼女はかつてなく疲弊していた。

 今の彼女では、魔術はともかくとして、閃光を防ぐのに精一杯で勇者に対して攻めきれないのだ。


 防ぐ、勇者への斬撃、その隙に接近、魔剣で斬る。

 これが使徒の勝ち筋である。


 一方、勇者も苦しい。

 常に気を抜いてはいけない。


 『聖剣』から組み上げた力の制御はすべて一秒未満、しかも雑に撃つだけでは使徒に当たらないどころか反撃の暇を与えてしまい、一瞬でひっくり返されかねない。

 もちろんそれだけではなく、閃光を当てるための布石としての魔術も併用しているのだが、それでも当たらず、すべてを斬り落とされる。

 

 もしビビれ(引け)ば、使徒は距離を詰めて接近戦に持ち込む。

 そうなれば、剣の扱いで劣る勇者では負ける。

 また距離を離すこともできようが、使徒も遊ぶことはもうしない。

 今回は全力で勝ちに来てる。

 意地でも離れようとしないはずだ。


 

 『聖剣』からの光は拡散、爆裂する。

 だが、使徒はすべてを斬り、接近を図る。


 負けない。


 どうしても、お互いが引くことはなく、お互いを殺すために前進し続けている。

 

 接戦だ。

 一秒先、どちらが死ぬのかまるで分からない。

 


 水の魔術、土の魔術、そして『聖剣』。

 どれもが使徒を捕まえようと、音に迫る速度で、何百という手のように使徒を襲うのだが、使徒には通じない。


 あまりにも、厄介すぎる。


 すべてを斬る魔剣、エイルを上回る身体能力とカン、そして『魔法』による感知。

 防ぐ、避ける、倒せない。


 (一体どうしろと?)


 勇者は心の中で愚痴をこぼす。

 そうでなければやってられない。


 

 どれだけ戦ったか?

 攻防の入れ替わりは何百?何千?


 それ以前に、コイツはあの三人と戦ったのだろう?

 あの英雄のように消耗しているのだろう?



 どうすれば殺せるのだ、コイツは?



 衰えなど感じさせない。

 完全無欠の化け物だ。



 「化け物め……!」


 「それを君が言うかね!」


 盛り上がる地面が使徒の足運びを狂わせ、閃光が使徒の肉体を破壊しようと煌き、それらに紛れて小さな水の弾が使徒の急所を狙う。


 「『勇者』は!最強に到れる!潜在能力(ポテンシャル)が!あるんだぞ!」


 「聞いた。でも、そんなに凄いとは思えないぞ!」


 「まだ能力を理解しきれていないだけだ!」


 だが、使徒は『魔法』ですべてを感知し、届く前に斬り伏せてしまう。

 距離を詰めるために勇者に向けて斬撃を放ちながら、進むための一歩を踏み込む。


 「もっと考えろ!お前の力はそんなものではない!」


 「何を言う。敵に向かって何を………」


 「『勇者』とは、ある種の概念兵器だ!」


 振るう魔剣に迷いも躊躇いもない。

 埋め尽くされた視界が魔剣の一閃によって拓かれる。

 満ちた光が蹴散らされ、斬るべき敵がそこに居るのだと理解した。


 「脈々と紡がれ、人々を救ってきた神話がある。それはある種の信仰に近い!」


 「だから、なんだ!何がしたい!」


 「私程度、倒せなくてどうする!」


 だが、次の瞬間にはまた光が満ちている。

 使徒には分かっていた。

 これが目くらましであり、その中に仕込まれている土の魔術が本命だと。

 敢えて光の薄い所に鋼鉄の細い針が投げ込まれており、光だけを斬るつもりで魔剣を振れば、身体に突き刺さることだろう。

 しかし、魔術の気配なら簡単に感知できる。

 分かっているならどうということはない。


 「使徒最弱、『超越者』としては20年ほどしか生きていない若輩だ!お前の力はまだまだこんなものじゃない!」


 「だから、何がしたいんだお前は!」


 二人の言葉は止まらない。

 殺し合いの最中であるにも関わらず、流れる意思は言葉として水のように流れる。

 本来ならばお互い言葉を交わす余裕など微塵もないのだが、それでも黙るようなことはしない。相手も自分ですらも黙らせることができない。


 「世界を変えたいのさ!そのために世界を終わらせる」


 「馬鹿げてる!」


 「ああ!その方が面白いだろう!」


 使徒の言葉がかみ合っているのかは分からないが、わからない分だけ、余計に真剣なのではないかと伝わってくる。

 自身から溢れる言葉なのだとしたら、それは彼女らを知るうえでこの上なく重要な情報だ。


 「教徒たちは、使徒たちは、私たちは見たいんだよ。どんなふうに『教主』が世界を変えてくれるのか………」


 「そんなに大切か、世界を変えることが!」


 「自分の命を懸けてもいいくらいにな!()()()は誰しもがそう思っている!」



 こういう集まりなのだろう。

 天上教という組織は、『教主』の世界を変えるという言葉に釣られて、その様を見たいと本気で考えている破綻者たちだ。

 

 世界中で脅威をまき散らしているのは使徒だけではない。

 名もない一般兵もかなり厄介なのだ。

 突如牙をむき、去り際は消えるように居なくなる。そして、捕まった者は一人残らず()()()()

 一人残らず本気で世界を変えたいと思っているからこそ、ここまでのことができる。

 だからこそ、使徒を介して天上教という組織の狂気と恐ろしさが理解させられるのだ。



 「お前は見れないぞ。そんな光景見ることはできない!今ここで、俺が殺す!」

 

 「何の不都合がある!?私が見れなくても改変自体は行われるのだ!そのために死ぬというのであれば何度でも死んでみせよう!」



 こんなにも恐ろしい兵士がいようか?

 死を恐れず、敵を殺すのに命がけ、その上ここまで足掻いてみせるほどの強さがあるのだ。

 しかも、コレで使徒で一番弱いのだからおそろしい。


 「似た者同士、仲良くはできないかね?」


 「誰と誰が似てるって!?」


 「私と君がだ」


 「どこが!?」


 「人を平気で殺せる破綻者なところなどそっくりではないか!!?」


 嫌に瞼に残る笑顔だ。

 それに、その言葉の悪意に満ちた皮肉など、思わず顔が歪むほど憎たらしい。


 「『勇者』は戦いのない平和な世界から呼ばれるのだろう?それほど時間がたっていないにも関わらず、これまでの攻撃には私を殺しえるほどの殺意があり、人が持つべき容赦がない!経験を積んだ戦士は()()()ことができるが、何も感じないのも、()()()()()()のも違うだろう?」


 「………………」


 図星を突かれ、つい押し黙ってしまう。

 使徒なりの皮肉のつもりなのかもしれない。

 世界を脅かしている自分と勇者であるお前は同類なんだ、という。


 ここに来て、初めて足が止まった。

 


 「いい加減にしろ。遊びが過ぎるぞ」


 「酷いな。それに私は真剣だぞ?本気で殺そうと全力だし、口から出た言葉もすべて真実だ」


 「狂人が………死ね……!」


 「おやおや、ずいぶん嫌われたね。()()()()仲間だろう?」


 「殺し好きのお前と一緒にするな」


 

 勇者は『聖剣』を構える。

 それを見て、使徒も魔剣を構えた。

 もう一度戦いを始めるのだろう。

 勇者は濃い殺気を放ち、使徒はそれを心地よさそうに受け止めている。


 意図も意思も全て聞いた。

 なら、もう止まることはないだろう。

 今度は、どちらかが死ぬまで続けるはずである。


 「死ね」

 

 光が溢れた。


 今度はどう殺そうか?

 

 落とし穴でも掘る?それとも、もっと光をバラけさせるか?いや、魔術の気配は察知されている。

 どうやったら攻撃が当たるか考えるのも面倒になってきた。

 だが、工夫しなければ当たらないし、そこから逆転されてしまうのなら目も当てられない。

 

 とにかく、全力で『聖剣』から力を組み上げる。


 光を、あのフザケた使徒に叩き込み…………



 「………………!」



 ドオオオオオオオオオオン!!!



 (…………は?)


 ありえない威力だった。

 自分の能力なのだから、その強弱の調整など何回も練習したし、覚えている。

 こんな威力は出るはずがない。


 それに、使徒も防ぎきれないと判断してなりふり構わず回避した。

 その表情が初めて驚きに染まる。


 「なんだ………今の威力は?」


 使徒のつぶやきは、まさに勇者の内心を表していた。

 これは、確実な異常であった。

 これまでの倍以上の威力が、ポンと放たれたのだ。

 ノータイムで光線を操れる範囲の威力にまで抑えていたのだから、こんなことはありえない。

 この威力を放とうとすれば、本来なら溜めが必要なはずなのに…………










 「言ったはずです。置物にはならないと」


 凛とした声が響く。

 彼女は静止した勇者の背後からゆっくりと歩み、その隣まで来ると顔を覗かせた。



 白い髪、紅い瞳、驚くほどに可愛らしくて整った顔。

 さらに、いつも浮かべている癪に触る笑み。

 声は真剣だが、その表情までは感情を隠しきれなかったらしい。

 

 見たことのない、不思議な力に包まれた彼女はいつもよりも神聖で、しかし、表情がなんとも言えない。

 だが、その力には力強い意思が宿っており、触れば神聖とは程遠いことが分かる。


 まさか、本当に戻って来るとは思わなかった。

 しかも、とんでもないお土産付きで…………!


 

 「助けに来ました。勇者の側には聖女が居るもの、とはいつ言いましたっけ?」

 

いやーヒロインでしたね!

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