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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
二章、呪われ王女
31/112

29、まだ足りない

ちょっと地味な回です。

箸休め的な?

もっといい展開思いついたら書き直します。


 呼ばれたのだ。


 理屈でも、理論でも、理性でもない。

 起きていようが、寝ていようが関係ないのだ。


 本能


 勇者として、そうあれと定められた者としての本能が彼を呼び起こした。

 理解したのだ。


 助けなければならない。

 ここで動かずに、いつ動くのか?


 突き動かす衝動に身を委ね、気がつけば全力で地を駆けていたのである。

 

 場所など考えるまでもない。

 確実に、そう感じる方向に彼らは居る。


 魂から『聖剣』を引き抜きながら、敵に備えた。

 『聖剣』は輝きを発しながら、さらなる力を蓄えているのを感じる。

 

 (死ぬな………!間に合え………!)



 祈りながら走る。

 今は、そうするしかなかった。

 不安にかられながら、全力で駆ける。


 だが、不思議と確信があった。


 死なない、間に合う


 いくつもの感情がない混ぜになりながら走り、そしてその確信が予知であったことを知るのは、その直後だった。


 とてつもない爆発が起こったような森の中で、使徒はすぐそこにいる。

 それに、ボロボロの仲間が三人。

 振り下ろした魔剣がリベールを捉えようとしていた。


 そんなこと、許すはずもない。


 かつてない疾さで割り込み、見事『聖剣』は使徒の魔剣を防いでみせたのである。



 





 「やはり来たか、『勇者』ぁ」


 使徒は魔剣を押し込む。

 それだけで勇者は体ごと押され、さらに『聖剣』も斬れ込みが生まれていく。

 必死に押し返そうとするが、それでも純粋に力では勝てないために押され続ける。


 負けている


 能力で、言うなれば『魂の力』の強さで。


 しかし、有利な状況を維持させるようなことはしない。

 魔術を展開し、距離を取らせる。

 空中から出現したいくつもの水の槍が使徒を襲うが、それらは一つとして使徒には当たらない。


 負けている


 さらに使徒が距離を詰め、魔剣による突きを喉に当てようとしてきた。

 すんでのところで仰け反って躱し、使徒の無防備な体に『聖剣』を突刺そうとするのだが、次の瞬間には使徒はそこにはいなかった。

 

 ゴウッ!


 突きの音が遅れてやって来た。

 生まれる風に押されるが、『聖剣』で切り裂き、すぐに使徒の動きに集中しなおす。

 だが、その瞬間には使徒は目の前まで迫っており、慌てて『聖剣』を振り下ろした。


 だが、魔剣は『聖剣』の軌道をいなす。

 そのせいで体勢が崩れ、使徒は返す剣で勇者の首を斬り落とそうとした。


 しかし、勇者には魔術がある。

 使徒の足元へから鋼鉄の触手が生え、使徒を捕らえようと蠢くが、すべて両断。

 数十本の鉄の塊が一息に斬り裂かれた。


 負けている


 戦いというものへの経験が足りない。

 対して向こうは遥かに人との殺し合いに、完全に慣れているのだ。

 どちらが不利かは火を見るより明らかである。


 

 「では、コレはどうだ?」


 違和感が広がる。

 世界を塗りつぶす力が発揮され、世界に新たな法則が書き足される。


 濃い殺気だ。

 確実に斬り殺すつもりの、怖気が走る恐ろしい殺気に反応して、即座にその場から回避し、『聖剣』から光線を放つ。

 しかし、それも使徒に届く前に、見えない斬撃に斬り刻まれて消えてなくなってしまった。


 さらなる攻撃を放つ。


 まるで無限を思わせる『聖剣』という盃から、光という水を掬い上げ、ぶつけているのがこれまで使ってきた攻撃だ。

 無限の斬撃に対抗するには、こちらも無限の攻撃で迎え撃つ。


 イメージが重要だ。


 一つに絞っただけなら意外性など生まれないし、防御の手段があるのなら、防ぐことができない方が難しいだろう。

 だから、もっと水の投げ方を工夫する。

 もっとその水滴が飛び散るように投げればいいのだ。


 放たれた光線が拡散する。

 数十の閃光は使徒に向かって降り注ぎ、とてつもない爆発を引き起こした。


 (どうだ………?)


 

 そこには、剣を振り払う無傷の使徒がいた。

 まだだ、足りない。

 あの英雄のように、全方位から包むように攻撃しなくては………


 

 ボーっとしてはいられない。

 立ち止まっては斬撃の餌食だ。


 とにかく走り回り、『聖剣』による攻撃を放つ。

 手数で上回らなくては、この使徒には勝てない。




 だから、そのことについては驚きもしないし、そんな暇もない。

 いまするべきことはどうコレを攻略するか考えることだ。






 

 「勇者様!」





 マズイ………

 

 魔術と『聖剣』で同時に攻めようと思った勇者だったが、方法を切り替え、目くらましを目的にして極太の光線を『聖剣』から放つ。

 その隙に、動けない三人を抱えてその場から走った。



 「おろしてください!私も戦えます!」


 「ダメだ。お前らはもう戦えない。俺に任せて、動けるくらいに回復出来たらさっさと逃げろ。今も攻撃を受けてるんだ」


 勇者が走る跡には、彼の足跡以外に斬り刻まれた痕跡が生まれている。

 地面や木の残骸、たまたま通りかかった鳥や魔物が斬り裂かれているのだ。

 もし一秒でも止まれば、彼らは全員スクラップになることだろう

 

 「わ、私たちは、使徒とやりあえたんです。サポートくらい、出来ます………」


 「自分の状態を考えてから言え」


 魔術師の黙って見ている気はない、という声を切り捨てる。

 今のお前たちでは置物にしかならないからすっこんでいろ、とその冷たい目が、声が、態度が物語っていた。

 勇者はあくまでも冷徹な判断を下す。


 「私は神聖術が使えます。置物にはなりません」


 「無理だ。あの攻撃を知らなかった時とは状況が違う。お前をそばに置けるだけの余裕はない」


 勇者も、彼女らの心情はよくわかっている。

 黙っているだけではなく、自分たちもアレと戦いたいのだろう。

 無力ではないということを証明したいのだろう。


 しかし、認められない。


 「分かれ、足手まといだ」


 言ってはいけない言葉だった。

 それがどれだけ彼女らを傷つけるのか、そんなことは分かっている。

 相手の気持ちを考えるのにはそれなりに自身があるし、そもそも、そうでなくとも彼女らと接したらこんなことは簡単に理解できる。


 しかし、そんなことより命が大事なのだ。


 勇者は体勢を変え、新しい行動をしようとしているのが分かった。

 おそらく、投擲の構え………


 「待ってください!まだ話は………!」


 「黙ってろ、舌噛むぞ!」


  

 勇者は思いきり三人をぶん投げた。

 あとには勇者しか残らない。



 勇者は『聖剣』を構え、これから来る怪物を待つ。


 


 ※※※※※※※※※※※※



 「クソっ!」


 リベールは聖女とは思えないような言葉を吐き、悔しさに地面を殴りつける。何度も何度も、血が出ても殴り続け、それでも止めるに止められない。

 魔術師も彼女と同じ気持ちだったのだ。

 足手まとい扱いされ、こんな風に投げ捨てられた彼女は、内心猛り狂っていた。



 しかし、勇者の言葉は悲しいほど正しい。

 


 魔術師の魔力はほぼ空、リベールの聖気も底をついた。

 二人は後衛であり、近接格闘の心得などあるはずもない。

 エイルは気絶しているから助力の乞いようもない。

 





 「で、どうやってあの使徒を殺すんですか?」


 だが、そんなことなど関係ない。

 あの使徒を殺したい。

 今戦わずして、いつ戦うのか?

 言葉におそろしい殺気が込められていた。


 「もう作戦などありません………」


 その怒気に呼応するように、リベールは殺意たっぷりの笑顔で答える。



















 「『覚醒』以外にありますか?」



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