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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
二章、呪われ王女
26/112

24、あまりに早い勝ち負け

制作のテンポが分からん


 「使徒はどうです?」


 「あ………ダ、ダメです!ふ、吹き飛びましたが、傷を負っている様子はありません!」


 リベールは思わず舌打ちをしてしまう。

 それで魔術師が一瞬、急に出てきた魔物でも見たような顔になったが無視。

 

 しかし、こうなるのも仕方がない。

 リベールは殺せはしないにせよ、もっと手傷を負うとは思っていたのだ。

 それだけ、あの攻撃には自身があった。


 魔術師の適正属性の一つ、時空魔術。

 その中で、数少ない直接攻撃のための魔術、第五位界『空裂』を石に込めて放ったのだ。

 

 これまでの魔術とは異なり、空間に作用するこの魔術は、いうなれば攻撃としての強度が違う。

 実際に、使徒は魔術師の結界を空間ごと斬ったのだが、その際に使徒は集中と魔力を高めてから斬った。

 つまり、干渉するためには前準備が必要だったのだ。

 なら、咄嗟に反応するしかない空間の軋みによる攻撃はきっと有効打足り得ると判断したのだが………


 だから、今回のこれはイケると思った。

 せめて、腕一本でももっていければ、という願望に近しいものすらあったのだ。

 しかし、結果はこのザマで、とっておきは無駄に終わってしまった。


 (マズイ………)


 もうこの手段は使えない。

 二度目の技は効かないから、というものではなく、もっと切実な問題だ。


 (『空裂』はこれまでの魔術とは消費魔力が段違い。石に込めるときも、他の魔術を込めた石に比べてずっと感じる魔力が強かった)


 にも関わらず、一応とはいえ使徒に当てられたのは、他の魔術によるカモフラージュがあったのと、自分の身に危険を及ぼすレベルの魔術は使ってこないと刷り込んできたからだ。


 (なら、残りの魔力量から、余裕を持たせてあと一発。それだけ分しか残されていない)


 そしてその一発が終われば、いよいよ残り魔力が少なくなってくる。

 魔術師の魔力が尽きれば、もう攻勢には出られない。

 つまり、時間稼ぎは終了。そのあと、『転移』で逃げるしかなくなる。


 もっと時間を稼ぎたかった。

 もっと消耗させたかった。


 しかし、もう無理だ。

 これ以上、既存の罠ではそれを達成できそうにない。


 (なら、最後の手段ですね………)


 リベールは覚悟を決める。

 あの使徒に、一泡吹かせてやろう、と。




 ※※※※※※※※※※※※



 

 使徒は、アレ以降急に罠が単調になったのを感じた。


 

 (もう終わりか?面白かったが、仕方ない)



 使徒は残念に思っていた。

 久方ぶりに『超越者』以外からここまでの反撃を受けたのだ。

 これまでずっと『超越者』としかまともに戦ってこなかった、いや、それ以外とはまともな戦闘にならなかったのである。

 かなり珍しいことだったのでもっと長く味わいたかったのだが、もうそれもおしまいだ。


 タイムリミットが来てしまった。


 確かに妨害を受けてきたし、予想外のこともいくつも起こったが、その歩みを止めなかった。

 残念なことに、遅めることはできても、止めることはできなかったのである。


 しかし、これはすごいことだ。


 使徒は心の中で賞賛を送る。

 普通なら、一歩の内にすべてを斬り倒して、何もかも終わってきたのだ。

 それをここまでやってのけるとは………

 あの中での足取りは限りなく遅く、それなりに力を使わされて消耗もした。

 『覚醒』にも至っていない未熟者ができるようなことではないだろう。

 それも、その姿を見せず、気配を感じさせることさえなくやり遂げてみせたのだ。


 

 だから、結界の目の前まで至った使徒には感心しかなかった。



 (結局、これまでに見つけることはできなかった。すぐに見つけて斬るつもりだったのにここまで隠れられるとは思わなかったぞ?)


 かくれんぼは使徒の負けだ。

 ヒントは多くあったし、ここかなと思う場所には寄り道もした。

 だが、影も形も見られない。

 結界に着くまでに見つけられず、その身体に刃を突き立てたかったのだが仕方がない。




 結界を斬り裂こうと近づくと、いくつものように攻撃が飛んできた。

 しかし、どれも使徒の身には届かない。

 直前で斬り落とされ、後には何も残らなかった。


 あのやけに重い一撃もあったが、あると分かっているのなら、常に準備しておけば問題ない。

 ただ防ぐ分にはそう苦労はないのだ。

 あの時はあんなに重いとは思わず、しかも目に見えなかったから踏ん張るのが遅れただけで、剣で受けた時点で防げることは確定していたのだ。

 

 魔術と『魂源』とでは、事象変化に対する優先度が違う。

 というのも、用いるエネルギーには上下関係があるからだ。

 魔力とは、すべての生物に存在する魂から漏れ出た力が肉体に溜まったものである。

 その、魂から肉体へ移る過程において、どうにも力は()()らしい。

 普通は扱えない『魂の力』を扱えるように肉体が変化させているために、力にムラが出るのだ。

 よって、魔力は『魂の力』に負けてしまう。

 だから魔術と『魂源』が衝突すれば、『魂源』が勝つ。


 力押しの魔術によって『超越者』は殺せない。

 どんな魔術による攻撃でも、『超越者』にとってはすべてが防ぎきれるからだ。

 故に、『超越者』を倒すには嵌める魔術が必要なのだが、実に惜しかった。

 あの手数と種類の多さには、危うく怪我をするかもしれなくなる場面もなくはなかったのだ。

 それだけでも感服に値する。


 しかし、先ほどまでは多彩な魔術であったのに、やけに少ないというか、単調というか………

 いや、そんなことはどうでもいい。


 この結界を斬って、ゲームセットだ。


 使徒の『魂源』、それは使徒のコードネームと同じ『断裂』と名付けられた。

 使徒に基づく、剣の才能や斬ることの執着、そして殺しへの愛の具現である。

 

 その結晶の魔剣にはその表れがあるのだ。

 装飾のなさは、ただ斬り殺すことだけを求めた結果だ。

 感じる禍々しさは、殺してきた命の多さと、殺しへの異常な愛という歪さの結果だ。


 だから、結界の強度がどれほどだろうが、防ぐ術などない。

 

 剣を無造作に振る。

 ただそれだけで、すべてを斬り拓く一撃となるのだ。

 軽く振るうだけでも切っ先の延長10メートル程先の結界(しょうがい)を斬るのなんてわけもないだろう。本気で振るえば、いったいどれだけ先の物が消えるかわからない。

 世界最凶の斬撃に、聖女ごときの結界など抵抗できる余地などどこにもないのである。


 





 「………?なっ!?」




 そこには、罅一つない結界があった。


 壊れていない?斬れていない?

 まさか、そんな………!


 使徒はさらに攻撃し続ける。

 魔剣で、『魔法』で、結界を壊そうとするが、しかしソレは壊れない。

 同じ場所を連続斬っても、広範囲を斬っても、結界に変化は訪れなかった。


 こんなことはありえない。そんな道理はどこにもない。天と地が突然ひっくり返ったようなものだ。

 いや、もしかしたら…………


 (まさか、『覚醒』か!?私と同じ『超越者』に?こんな土壇場で?ありえない!)


 ありえない。

 そんな都合のいいこと、起こるはずがない。

 なら、これまでが回りくど過ぎるだろう?


 だが、自身の持つ知識から、『覚醒』に至る理由を思いついてしまった。

 これなら、新たなる『超越者』が生まれたことは不思議ではない。


 (いや、あり得る………彼女らは勇者の仲間だ………それは、どうしようもなくあり得てしまう…………!)


 もし、結界がこのまま壊せないのであれば、非常にマズイ。

 英雄が回復しきるまで粘られれば、任務を果たせないではないか。

 それは、死よりもよほど恐ろしい。


 使徒が壊せないほどの結界だ。

 なら、術者はほとんどの力をこの結界に割いているはず。

 この場合の最適は…………


 (本人を狙う。早く見つけなくては………!)


 使徒は、即座に地を蹴り、その場から離れた。

 初めて焦りが胸の中で弾けたのだ。











 「だ、大丈夫ですか?リベール?」


 「問題………ありません。この程度………」


 リベールに魔術師が心配そうに寄り添う。

 かなりの無茶をしてしまった。

 あの使徒に結界を壊されないようにするのに、いや、壊されたのに気づかせないようにするのはかなり無理をしなければならなかったのだ。


 切り裂いた瞬間から修復していったために、まるで傷一つ負わないように見えたに違いない。

 

 危ない賭けだった。

 もし、直接斬っていたのなら、手ごたえで気づかれていたかもしれない。

 もし、もっと速く、大量の斬撃で斬り裂こうとしたのなら、修復速度が間に合わなかったかもしれない。


 しかし、そうはならなかった。


 あの使徒は、斬ることに関してはかなりの自信を持っている。

 斬れるのだから直接斬らなくても、少し離れたところから斬るだろうと思っていた。

 ゴミをそこにあるゴミ箱に捨てるのに、わざわざ歩いて近づくのではなく、その場で投げ捨てるのと同じだ。

 

 そして、気づけただろう違和感に気づけずに焦ってしまった。

 その焦りは判断力を奪う。

 いくつもの可能性を無視して、納得いくようなとある可能性に行きついてしまうのである。

 

 生まれた焦りと斬撃への自信が使徒の判断を狂わせた。

 だから、斬れない物が現れたときには、魔術や神聖術ではなく、同じ『魂源』の可能性が真っ先に浮かんだはずだ。

 あり得る理論に行きついてその対策法を考えた結果………


 今頃は結界排除のために弱った本体を狙おうと必死だろう。

 

 なら、見つかる前にもう一仕事。

 この空間から出る前に結界が維持できるように………



 「………!」



 リベールの集中がより深くなる。

 なにも、先ほどの修復は聖女の中にある聖力で行われているわけではない。


 リベールは始めに、結界内に自身が溜め込んでいた聖力を放出し、大気をそれで満たしたのだ。

 大気中には微量に魔力が含まれているのだが、それを塗りつぶす勢いの濃度で、である。

 普通なら、そんな量のエネルギーを個人が用意できるわけがないのだが、リベールは個人ではなく他人を頼った。

 リフセント王国首都の教会に居たすべての聖職者の聖力をかき集めたのだ。


 聖力は信仰心によって得られるエネルギー。

 もっと言うなら、溢れた『魂の力』が肉体によって魔力に変換されず、個人の信仰心によって性質が変化したものなのだ。

 魔力は個人の肉体が必ず異なるゆえに、その魔力も実は指紋の様に微妙に異なる。

 もし大量に取り込もうとすれば、拒絶反応が起きてしまう。


 しかし、聖力は皆等しく神への祈りが換えたものである。

 神への祈りは強弱こそあれど、聖職者のその想いに差は存在しないのだ。

 誰かを救ってほしい、という欲求こそが祈りとなる。


 そして、差がなければ取り込める。

 

 どれほど祈りに対する親和性、神聖術への才能があるかが容量を決めるのだが、それが勇者の相方である聖女に選ばれた彼女ならいったいどれほどの量を溜められるのか。

 その答えが、実際見た通りだ。



 そして、あとは簡単。

 空気中の聖気を基として、結界を直せるように設定する。

 

 空気中に聖気をまいたのは位置を感知させにくくするのと、この時の燃料とするためなのだ。

 今もなお、結界にその特性を付与するために聖気を操っている最中である。

 あと少し、時間が稼げれば、結界は完成し、『転移』で逃げればいい。



 かくれんぼの続きだ。

 


 だが、こちらの勝利は確定している。

 なぜなら、使徒にとって時間が足りなすぎるのと、現在の環境があるからだ。


 もう三分もしないうちに術は完成し、さらに聖気しか感知できないほど辺りはそれに満ちている。

 これは詰みだ。


 (勝負ありです………残念でしたね)

 


 余裕の笑みだ。

 これでそれなりに時間を稼ぐことができる。

 一時間か、二時間か。

 半日あれば相当いいし、できればせめて一日ここに居てほしい。


 「で、では、準備ができれば言ってください。『転移』で逃げれば私たちの勝ちです」


 「ええ、そうですね………」



 安堵の色が溢れる。

 使徒からしてみれば、相手は自身よりもずっと強い、格上の英雄だ。

 

 見境なく襲い掛かる狂人の様にも思えたが、実際に見てみるとずっと理性的だ。

 弱っているとはいえ、格上相手に準備万端な状態で挑みたいに違いない。

 少しの消耗も嫌ったであろうに、これまでの戦いでそれなりに力を使ってしまった。

 これだけでも使徒の思惑通りにさせなかった二人の勝ちであるし、その回復のために襲撃を遅らせれば完璧だ。

 

 さあ、帰って、勇者の目覚めでも待とうか………









 








 



 「ここに居たのか………」


 ずっ、とナニカが腹を貫通して、赤が飛び散った。


 

 「ガッ!!?」


 「えっ?」


 リベールの腹から剣が抜かれ、傷からダラダラと血が流れる。

 魔術師は何が何だかわからず、聖女を見つめることしかできない。



 



 「かくれんぼは私の勝ちだな」


 恍惚とした表情で、使徒は勝利を宣言し、


 二人の敗北が確定した。




 

 

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