20,激励
めっちゃ悩んだ…………
気持ちとかに矛盾とかあったらすぐ修正するかも
人気のないとある一室。
二人の少女がお茶会を開いていた。
一人はシャーリー、そしてもう一人は魔術師である。
魔術師はいつも暗いが、今はことさら暗い。
今、彼女に現状を話して、魔術師が謝ろうとしたところである。
魔術師は正座し、手と頭を床につけて………
「やめてください!友人にそんなことされても嬉しくありません!」
「で、でもぉ、わた、私が役立たずなばかりに………あの二人が使徒に攻撃されていた時だって、私は全然ダメで………」
「ですから、友人にそんなことされても嬉しくはないと申しました。頭を上げてください」
あれだけカッコつけておいて、おめおめ逃げ帰るしかなかったのだ。
魔術師にとって、それは自刃したくなるほどに申し訳ない話だ。
自身の持ち物である、昔『大賢者』から与えられた杖くらいしか渡せるようなものがないのだが、できればそれは勘弁してくれないかな、と考えていたのだ。
謝罪を止められてしまった魔術師はどうすればいいのかおろおろとして、
すぐにシャーリーの言葉の中に聞き捨てならない単語があることに気づく。
「って、え??」
魔術師はかつてない混乱に陥った。
今までそんなことを言ってくれたものなどいなかったし、特にそれを求めたこともなかったのだ。
人生の中で、友人、など関わりのない単語だった。
「友人、ですか………」
「ダメですか?」
「い、いえ、今まで、で、できたことも無かったので………」
尻すぼみに小さくなっていく声だったが、シャーリーはすべてをきちんと聞いていた。
その上で、承諾されたことをとても喜ばしく思っている。
「と、友達かぁ………は、は、は」
「ええ、私達は友達です」
少しは落ち着いてほしいのだ。
きっと彼女は一人でいたことに対して、思うところがなかったでもないはず。
初めて会った時の態度から分かる。距離を詰めようとしているのに、すぐにその距離を離そうとするので、まるで猫のようである。
こう言えば、少しは持ち直すはずだ。
「なら、よ、余計に申し訳ない………」
だが、だからこそ自分の無力が恨めしい、と余計に落ち込む魔術師。
目の前の友人を助けるために使徒に挑んで、それで何もできないままに負けてしまった。
主戦力の彼らが同時に戦って、手も足も出なかったのだ。
自分があの戦場でできたことなどあったろうか?
リベールも、エイルも、そして勇者でさえ必死になってあの使徒に抗ったのに、自分がしたことなどただ逃げ回っただけだろう。
これでも落ち込む魔術師に、シャーリーは頭が痛くなる。
「でも、使徒は強大だった。あの使徒に挑んで、その勇気をバカにするものなど居りませんよ」
「私は使徒を倒すことを期待されているのです。そ、そのために私の魔術が必要だと師匠に派遣されて………わ、私から魔術を取ったら何が残るんですか………」
シャーリーはどうしたものか、と頭を悩ませる。
件の使徒は、すべてを切り裂き、断ち切る力を持っていた。
あれにどんな魔術をぶつけようと真っ二つされるだろう。
先の戦いでは、サポートすらできずに『超越者』同士の戦いに見ているだけだった自分が許せないらしい。
彼女は魔術が自身のほぼすべてを構成していると言い切るほどに依存している。
ならもう少しだけ、他のことに目を向けてほしい。
「ねえ、アレーナ?」
「は、はい。なんでしょう?」
今にも泣きそうな表情の魔術師。
確かに打ちのめされて悔しいだろう。
自分の力がまるで通用しなくて、不甲斐なさに苦しささえ感じてしまうだろう。
自分がこれまで積み上げたモノをすべてぶつけても、敵の足元にすら及ばなかったのを理解させられたのだ。
しかし、彼女は一度たりとも逃げたい、とは言っていない。
「使徒は、そこに居るのです」
「へっ?」
これから、厳しい言葉を投げかける。
もしかしたら、迫る絶望に心が折られるかもしれない。
何もかも、投げ出したくなるかもしれない。
それでも、言わないと前には進めない。
「皆が皆、貴女の様に強いわけではありません。それを欲しても、大半の者は貴女の強さの半分にも達せずに折れていきます」
事実だ。
魔術師は『大賢者』が弟子として選んだ天才。
これまで、万ではきかない数の人間が彼女のような才能を欲していることだろう。
目の前の、涙目の情けない姿の彼女のそれを………
「貴女はその才能を買われて勇者一行に選ばれ、使徒と戦った」
「で、でも、私は………」
「なら、何をしているんです?今、皆が苦しんで、どうしようか悩んで、守りたいものを守ろうとしている。貴女もこんなことをしていないで、使徒を倒す作戦の一つでも考えてください」
これは、勇者一行としての義務であるとともに、シャーリーのして欲しいことだ。
一つ、こうして最終的にしてもらわなければならないことを示しておく。
彼女が自分で、シャーリーのために何かしたいと考えたときの答えを置いておく。
魔術師は本格的に泣きそうだ。
だが、これと、もう一つのことは言わなければならない。
たとえ彼女を追い詰めてでも、いや、追い詰める必要がある。
「わ、私は………」
「貴女に魔術しかないなら、それを有効活用するために全力を尽くしてください。貴女の怠惰のせいで、いったいどれだけの被害が出るか………」
強引に魔術師の言葉を遮る。
この少女は、自分に対する評価がすこぶる低い。
魔術という部分にしか、自分に価値を見出すことができないのだ
そうなったのは、それしかしてこなかったからなのか、それとも過去に何かあったのか………
その原因についてはすべて分かるわけではないが、それでも多少なら察することもできるだろう。
自身が、魔術以外は大したものではないと思ってしまうようなことがあったはずだ。
が、彼女は彼女が思うほど小さくはない。
「でも、それだけ貴女は凄いんです」
「え?」
「それに、私は貴女の凄さは他にも知っていますよ」
落とせば、あとは上げればいい。
その方がもっとこの後の話を受け入れてくれるはずだ。
彼女は言うなれば、愛に飢えているとも言える。
その愛を与えてくれる相手の条件は、人を信じることが難しい彼女が信じられる人。
そして、与えてほしい愛は、魔術以外を見てくれる人だろうか?
天才的な魔術の才能と人間不信という組み合わせから考えたのだが、かなり正解に近いはずだ。
そして、言葉を交わしていると分かる。
魔術師は、信頼した相手に甘えようとする。
このお茶会もその一環で、とにかく自分では自分の感情を処理しきれなくなったから、うまく対処するための答えを求めてきたのだろう。
なら、その答えを示してあげよう。
もう少し、自分に自信が持てるように………
「貴女は投げ出さない、逃げない、目の前の壁を越えようと努力できる。恐ろしい使徒ですら、貴女は越えようとしている」
否は言わせない。
言動から勝手に推測しただけの想像だ。
だが、こんなものは言ったもの勝ちである。
仮にそんなことはなかったとしても、今自分がそう言い切ってしまえば本当にそういうことにできるかもしれない。
いや、する。
「わ、私はそんな………」
「違います」
バッサリ切り捨てる。
そんなに彼女はひどいものではないのだ。
友人として、そんなことを言わせるつもりはない。
「そう卑下しないで………貴女のいい所なんていくらでもあるのです」
人が怖いくせに、人に寄り添おうとするのだ。
まだ人を見限ってしまったわけでもなく、強く人に寄り添いたいと思っている。
使徒との戦いを語っていた時でも、自分がどれほど危険だったかというよりも、他人の危険の話ばかりしていた。
たぶんだが、リベールはもちろん、嫌いと言っていた勇者に対しても心配しているんだろう。
それだけでも、きっとこの娘は根が優しいのだろうと分かる。
「それに、謝らなくてはならないのは私の方です」
「な、なにを………?」
王女は深く頭を下げる。
優しい彼女に、こんなことをさせねばならないのだ。
これは、自身の不徳であると言える。
「優しい貴女に、貴女達に、私は、この国は頼るしかないのです」
「………………」
申し訳ないのだ。
自身の不甲斐なさを棚に上げて、魔術師に頼るしかない。
自分にはどうしようもないのだ。
「ごめんなさい。厚かましいとは思っています。でも、私達の国を護ってください」
真摯に、頭を下げるしかない。
伝えるべきことは伝えた。
魔術師には、もっと自分を好きになって欲しい。
そして、それを願う友人としての立場とは別に、この国を守って欲しい。
どうなるかは分からない。
でも、
「私は…………必要でしょうか?」
「もっと貴女は自分の価値を知るべきです。求める人は、もっと多くを求めます」
魔術師は、どうすればいいのか分からない。
シャーリーはきっと、自分に伝えたい事があるのだろう。
でも、国を守って欲しい、というのと、もう一つ。
それを、魔術師は知らない。
「それは、いったい何なんですか?」
「それは、いつか分かるはずです」
でも、それはきっとそう悪いものではない。
もしかしたら、自分はもっと…………
「私は、もっと…………」
だいぶややこしいし面倒くさいですね。
ていうか、書いてて思うけど人心に察しいい人多いな…………
まあ、そういう人はラノベっていうか物語によく居るからしょうがない。