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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
二章、呪われ王女
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19、絶望のニ歩手前

なーんか気分乗んねぇから明日投稿しねぇかも……

なんか、すげぇタリィ………


 「オーディール、様?で、でも、リフセント王様が死んだって………」


 「すまない、少女よ。私が囚われていたために、そんな話が出ていたとは…………その間に生まれた民の不安、哀しみのことを思うと、我が身が引き裂かれる気分だ………」


 本当に悔しそうに英雄は眉間にシワを寄せる。

 やけに饒舌に、そして元気そうに語るオーディールには、目立った傷は見られない。

 使徒との戦闘、そしてあの斬撃によって、負ったろう傷は何処に?いや、そもそも傷なんて………


 そんな強敵が現れたはずなのに、使徒は嗤っている。

 おかしくて仕方がない、という様に顔を歪め、愉しそうだ。


 「『断裂』………ここは退け。私と貴様の実力差は分かっていよう。見逃してやる故、この国から出て行くがいい………!」


 「面白い冗談だ」


 使徒二人で戦ったであろう相手に対して、今は一人しかいないにも関わらず使徒は嗤うことを辞めない。

 使徒は彼の秘密に気づいている。

 だから、使徒は余裕を保ち続ける。


 「実力差?確かに、お前と私とでは『超越者』としての年季が違う。戦えば確実にお前が勝つし、私に勝ち目はない」


 「だったら………」


 「しかし、それはお前が万全であったらの話。あの根暗の仕事も無駄ではなかったようだな。お前は力を使い過ぎた」


 「………………」


 饒舌な英雄が押し黙る。

 この沈黙は肯定のようだ。

 だが、オーディールは焦る様子を見せない。

 あくまでも、優位は自分だという態度は崩さないし、敵を圧倒しようとしている。


 「完全に異次元に追放したのだ。帰ってくるとは予想外だったが、そのための消費はどれほどであった?立っているのも精一杯なのでは?」

 

 「調子に乗るなよ、小娘………!」


 嵐が吹き荒れた。

 使徒の話では衰えている、との話だが、まるでそんな様子は見受けられない。

 それだけ目の前の存在は圧倒的で、暴力的だったのだ。


 「少女らよ、離れていろ………巻き込まれるぞ」


 その警告に、聖女は即座に従う。

 一瞬、魔術師だけが未練がましそうな顔をしたが、すぐにリベールと共に勇者を担ぎ、その場から離れる。

 傭兵ももう既にその場を離れていた。

 

 英雄は手に持つ戦鎚を構える。

 それは柄を含めて3メートルを超え、重さは100キロを上回る巨大な武器だ。

 しかし、それを英雄は片手で簡単に掴みあげ、大きく振りかぶっている。

 鎧越しにも分かる筋肉に、鬼気迫るその顔は、敵を威圧するだけなら過剰なレベルだ。

 ただそれだけで、並の敵なら逃げ出していただろう。

 

 だが、向き合う使徒は並の敵でも、マトモな相手でもない。


 使徒はその禍々しい剣を上段に構え、眼前の破壊の権化に対して迎え撃つつもりだ。

 英雄とは違うベクトルで恐ろしい。

 その表情から、その殺気から、その剣から、敵を殺し尽くすという意思が見える。

 英雄と比べて遥かに小さく、軽い女性の構えであるはずなのに、目が離せない不気味さがあるのだ。



 そして、二人から革新のオーラが這い出る。

 世界を変え、自分の良いように塗りつぶすその力場は辺りを支配し、混じり合い、新たな世界を創造した。

 

 

 「ふんっ!」


 先に仕掛けたのはオーディールだ。

 単純に、その戦鎚で使徒を叩き潰さんと振り下ろす。

 それの一撃は、言うなれば『破壊』そのものとも言えるものだろう。

 『破壊』という概念が詰まった()()攻撃だ。


 それに対する使徒も負けない。

 その一撃に、鍔迫り合いのように合わせて剣を振り下ろした。

 英雄の一撃が『破壊』そのものなら、使徒の一撃は『斬る』の究極だ。

 何者をも斬り殺す、『斬撃』という概念の込められた()()攻撃である。


 

 自身と敵の世界を巻き込みつつ、互いの必殺が炸裂した。

 

 勇者の『聖剣』とは違い、英雄の戦鎚は欠けることすらない。

 そして、使徒の剣も、その『破壊』に対して刃こぼれも起こさない。


 一見、超戦力たちによる互角の戦いに見えるが、実際はもっと状況が悪い。

 英雄が、使徒に互角だったのだ。


 「落ちてるねぇ、力。私程度と互角にまでなるとは、痩せ我慢も大概にしろ」


 「黙れ!貴様の言葉を聞き入れるための耳など私は持っていない!」

 

 戦鎚を振り払い、使徒を突き放す。

 今度は両手で追撃を行う。

 だが、それも埒外の猛撃であった。

 戦鎚一つからは、いや、一人では決して行うことができない、全方位からの破壊が使徒を襲う。


 しかし、使徒も尋常ではない。

 全方位の破壊に対して、使徒は全方位の斬撃をもって対抗する。

 ギャリギャリという嫌な音が鳴り、使徒と英雄の攻撃はまたもや拮抗している。 


 「チィッ!」

 

 オーディールは舌打ちも隠さない。

 予想以上に消耗していたことと、不甲斐ない自分への苛立ちだ。

 この状況では、自分は不利だ。

 その確信があるから、焦っていた。


 何度も何度も撃ち合う。

 戦鎚と剣がぶつかり合い、その度に余波によって地面を抉っていった。

 だが、何度やっても戦況は動かせない。

 超高速で行われる攻防には終わりが見えず、何十、何百の撃ち合いの内に、英雄は苛立ちをつのらせていく。


 「どうした!攻撃に焦りが見え始めたぞ!」


 「黙れ………!」


 かなり良くない状況だ。

 敵を切り崩せず、いたずらに力を消費していくのだ。

 消費している自分と、万全に近い使徒ではどうして力の差が埋まってしまう。

 このままでは、負けるのは…………





 「次で、決着をつける………!」


 「いいぞ!私も次でお前を両断してやろう!」


 

 オーディールは埒が明かぬ、と自身の全力で使徒を叩き潰すことにした。

 使徒も、それに応えるように大いに嗤う。

 互いの全力の一撃で、目の前の害敵を打ち滅ぼすつもりだ。


 距離を取る。


 二人の力が高まり、破裂しそうだ。

 爆発しそうな爆弾がそこにあるようで、周囲の生命体は本能から危機を察知し、より遠くへ逃げる。

 次の一撃でこの地は大きく変わるだろう。

 優に地形を変えられるだけの力を持つ二人が、全身全霊で放つ一撃だ。

 おそらく、次でどちらかは………



 「いくぞ………!」


 「来い!」








 「す、すみません………」


 二人以外の誰かの声が聞こえた。

 高まった集中が、大きく削られたのが分かる。

 英雄が振り返れば、先程の青髪の少女が………



 次の瞬間、二人は始めから居なかったかのように消えた。


 

 使徒は一瞬呆然としたが、すぐに理解する。

 これは、『転移』だ。

 理解した瞬間に、その場で寝そべり、目を瞑って、緊張を解く。



 「……………………」


 使徒は、とにかく次の襲撃はいつにするかを考えるのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※

 

 リフセント王城


 そこのある一室で、勇者一行とリフセントの英雄が揃っていた。

 オーディールは悔しそうにしているし、勇者一行の雰囲気は悪い。

 エイルはイラついているし、リベールは勇者のことで気が気じゃない。魔術師はいつも暗い雰囲気をさらに暗めていた。

 そして、勇者は眠っている。

 傷こそはリベールが完璧に治してみせたのだが、負ったダメージが深すぎた。

 数日もすれば目が覚めるだろうが、それでも心配なのは心配なのである。


 「申し訳ない…………私が不甲斐ないばかりに…………」


 オーディールは頭を下げた。

 しかし、それでどうなるという訳でもない、と分かっている傭兵はそれを押しのける。


 「そんなことはいい……!それより状況の確認と、使徒の使った力が何なのかを教えろ!」


 普段ならリベールが言葉遣いを窘めるところだが、その彼女もそんな気力はないようだ。

 ただ、オーディールを見つめている。


 「ああ、先ず始めに、私は使徒に挑んだのだ。『断裂』と戦い、始終私が押していたのだが、後ろからもう一人にやられてこのザマだ」


 「伝説の英雄が後ろから、とはな………」


 エイルが吐き捨てるように言った。

 その言葉に、オーディールは悔しそうに顔を歪める。

 だが、仕方がなかったのだ。


 「申し訳ない………言い訳のつもりはないが、もう一人の使徒『虚ろなる世界』は世界最高の幻術使い。どうしても奴に攻撃される瞬間まで気づけなかったのだ」


 英雄の握りしめる手から血が滴る。

 その様子を見て、状況を知ったエイルは何も言うことができなかった。


 「まだもう一人居やがるのか………」


 「いや、おそらく無いだろう」


 オーディールはどこか苦しそうに言う。

 苦しみの中にも、嘆きや怒りが混じっている。

 自分が居ない間の使徒の狼藉を聞いていた彼は、ずっと自責の念に支配されていた。


 「私が『断裂』と戦っている間、一度も姿を現さなかった。弱っている私相手ならもっと早くに攻撃されてもおかしくなかったし、確実に私を殺すつもりならそうしたはずだ」


 あのふざけた使徒の発言はどうやら真実だったようだ。

 エイルは奥歯を噛み砕かんほどに、悔しさに歯を食いしばっている。

 後に来る勇者一行相手など、『断裂』だけで十分だと判断したのだろう。

 しかも、実際に十分過ぎたのだから悔しさしかない。


 「なら、あと一つ。使徒がやったアレは何だ?明らかに魔術じゃなかった。あんな感覚初めてだったぜ」


 オーディールは知らないのか、という顔をしたが、すぐに彼らを成長させたのは『大賢者』だと思い出した。

 あの老人なら、自力で辿り着くように説明しなかったのだろうと納得いったのである。


 「アレは、()()だ」


 「魔法?魔術じゃなく?」


 勇者一行はその暗い雰囲気を少し持ち直し、オーディールの話に耳を傾けた。

 コレは、使徒を打ち倒すのに重要な要素なのだと理解したのである。


 「『超越者』はその魂をより高次元のものへと昇華させた者だ。肉体は魂に引っ張られ、魔物の様に体は進化する。目に見える変化ではないが、魔力なしでも素手で鉄をへし折れるほど強くなったり、年を取らなくなったり………」


 古今東西の英雄と呼ばれる人物は長命の者が多い。

 寿命が比較的短い人族や獣人のソレでさえ、数百年生き続けている。

 目の前の英雄も、巨人の寿命が200年ほどであるにもかかわらず、それを大きく超過して活躍しているのだ。


 「さらに、『超越者』は自身の魂に基づく固有の能力を得ることができる。『超越者』固有の能力、『魂源』は自身の強い魂を力として引き出したもの。そして、」

 

 異なる世界が広がる。


 無色の何者でもない世界に、まったく別の色が塗られた。

 範囲内にいた三人は違和感に襲われる。


 「我等が使う『魔法』というのは、自身の魂で世界を塗りつぶす方法だ。世界の法則を、自身の法則に変える大いなる力だ」


 三人は畏怖に震える。

 そして、エイルと魔術師は、この力さえあれば、と。


 「だが、私がこれをできるようになったのは『超越者』になって五年かかった。おそらく、今のお前には無理だろう」


 「なら、どうする?アンタは今………」


 「敵の術中から脱するのに力を使い過ぎた。そして、使徒は目の前に居る。時間が足りない」


 「…………………」


 力を完全にするには一週間はかかるとのことだ。

 その間、使徒が待ってくれるはずもない。

 それに、『大賢者』とも連絡がつかない。

 魔術師が『大賢者』に何度か連絡用の魔術を使ったのだが、いっこうに音沙汰がない。

 他の国の『超越者』も、天上教の下っ端の各地で行われるテロや使徒の対処で忙しい。

 つまり、今ある戦力でなんとかするしかない。


 「一日で何か、対処を考えよう………今はそれしかできない」


 「クソッ!」

  

 エイルはドアを叩きつけ、出ていってしまった。

 

 「では、私も失礼する」


 オーディールも部屋を静かに出た。

 部屋には、リベールと魔術師、眠っている勇者だけだ。

 

 

 「リベール………私は…………いえ、すみません………」



 魔術師も部屋を出る。

 残ったのは二人だけ………



 「………………………、私は……………」



 誰よりも、無力感に打ちのめされたのは………

 

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