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勇者の冒険 〜勇者として召喚された俺の英雄譚〜  作者: アジペンギン
二章、呪われ王女
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16、強い少女

前作が三話しか出してなかったのにブックマークで負けてる………

書き直して勇者君を一話からTSさせたことにしてやろうか…………


 「それで、勇者様と一緒に………『大賢者』様は面白い方なのですね」


 「ま、まぁ、面白いと言えば、お、面白い人かもしれないです…………」


 次から次へと地獄をもって来る悪魔のような師匠なのだが、言われてみればそう間違っていない評価に苦笑いを浮べる。


 王女とのお茶会も二度目である。

 先日行った一回目は、途中で刻限のことを思い出して、急遽中断ということになってしまったのだが、最後に「また明日待っています」、と言われてしまった。

 いきなり終わらせたのは自分であるし、これをほっぽり出してしまうのは流石に悪いと思ったので翌日も来た、というのが事の次第だ。

 

 ちなみに、この場所には『転移』を用いて飛んできた。

 魔力でマーキングしていたので、簡単にもう一度来ることができたのだ。

 その時、やはりと言うべきか、気の利かない魔術師がいきなり『転移』してきて、今度は王女が悲鳴を響かせることとなり、魔術師が平謝りすることになった所までがセットの魔術師クオリティを発揮した。

 だが、魔術師と王女は今も仲良くお茶会をしているので特に問題ではない。


 それより、魔術師には聞きたいことがあった。


 「お、王女様は、だ、大丈夫なのですか?」


 「もう!私のことはシャーリーでいいと申しておりますのに!」


 「しょ、性分なのでお許しください」


 さらに距離を詰めたい王女は魔術師の態度に不満そうである。

 だが、魔術師は気が小さいのだ。

 王女の目的が達成されるのはもう少し先の事になる。

 いや、それより、


 「大丈夫、とは?」


 「えっと、た、体調の、事です。へ、陛下より呪毒を、あ、浴びた、と」


 魔術師は疑問だった。

 目の前の女性が第三王女のシャーリーなら、人懐こい人柄に反して、こんな人気のない所に押し込められているのか。

 後でリベールから聞いた話なのだが、彼女はやはり自分が想像した通り、皆から愛され、優しい王女であるらしい。

 なら、ここにいる理由はおそらく呪毒。

 呪いは下手をすれば、他者にも乗り移り、害を与えてしまう。その呪いをつくったのが、世界最高の呪術師なのだから、呪いが乗り移ったときはとんでもないことになるだろう。

 実際、たまに来るメイドたちは、魔術的に完全に身を守った上でここに来るらしい。

 

 なら、そんな呪いをその身に受けている彼女は、何故こんなにも元気なのだろうか?


 「うーん、それが、よくわからないのです」


 「えと、それはどういう……?」


 「確かに、私は使徒を名乗る方々に、形容し難いドス黒いモノを浴びせられました。その時はすぐに気を失って、気がついたらここに運ばれて、ずっとこの扱いなのですが………」


 「………ですが?」


 「苦しくもなんともないのに、大げさに悲しまれる、というか、私がまるで本当に苦しそうにしているように思われてるというか………」


 疑問が残る言葉だ。

 しかし、目の前の彼女からは確かに良くないモノが憑いているのがわかる。

 彼女の周りの靄がそれだ。

 そこにはドス黒いナニカを感じることができるし、アレが人に憑いては良くないだろう。

 それがこちらに来る様子もないのは、魔術師が超一流の魔術師であり、呪い自体が近づけないと判断しているからだろうか?


 「ほ、本当に、苦しさとか、い、違和感とかは、ないのですか?」


 「本当に大丈夫なんですよ?」


 謎だ。

 だが、もしかしたら遅効性であるということも考えられないでもないし………


 「考えても仕方ありませんよ。ニヶ月も平気なんですから、今更どうこうなったりしません!」


 「え、で、でも、魔術師として、気になると申しますか、なんといいますか………」


 「まあ、いいではありませんか!私はこうして元気なのです!」


 話を逸らされてしまった。

 でも、実際に魔術師の目から見てシャーリーに異変はないし、この元気が痩我慢であるとも思えない。

 本当に何もないのだろうか?

 さらに考えこもうとする魔術師であったが、シャーリーは、そんなことより、と違う話をしようとする。


 「あ、そうだ!他の勇者一行の皆様はどのような方々なのですか?勇者様本人も凄く気になります」


 「……………………………………………………………………」


 疑問も何も吹っ飛ぶような話題だった。

 人間関係構築に難がある魔術師にそれを聞くとは、なかなかに惨状である。

 魔術師が微妙に固まっているのを感じて、彼女も地雷を踏んだと感じたようだ。

 久しくなかった冷や汗をかき、少しだけ曇りもなかった笑顔を引つらせている。


 「あ、言い難いことでしたか?それなら別の………」


 「いえ、い、良いんです。話します」


 魔術師も、これまでさんざん王女自身の話を聞いてきたのだ。

 ここで自分は話しません、では筋が通らない。


 「わ、私達は、勇者様、聖女のリベール、よ、傭兵のエイルさんの四人で、います。はい………」


 「そ、そうですか………『聖女』様は以前からよく聞いております。やっぱり品行方正で、誰にでも優しい方なのでしょうね」


 覚悟を決めた、といった様子で話す魔術師に若干気圧されながら会話を返す。

 何でこんなに人のことを話すだけで覚悟を決められるんだろうか、という疑問が頭に浮かぶが、そこには突っ込まないようにした。


 「は、はい。彼女はとても王女様に似ています」


 「え、私ですか?」


 「は、はい。喋るのが好きで、優しくて、信頼できる人ですよ」


 「そ、そんな、褒めても何も出ませんよ!」


 よし、そのまま煙にまいてやろう、と決心。

 思ったよりも効果が出ていた褒めだったが、むしろ好都合だ。

 このまま、次の話題に………



 「それで、エイル様と、勇者様は?」


 逃げられない。

 別の話にさりげなく変えるなんて高等技術、魔術師には10年早かったようだ。

 どうにかして、リベールやシャーリーのように人の良い所がわかりやすいように紹介しようとする。

 頭を必死に回転させて、熱が出そうなほどにいい特徴をひねり出そうとして………

 

 「エ、エイルさんは、なんというか………………」


 「なんというか?」


 「チンピラ?」

 

 「チンピラ!?」


 怒られた記憶しか出なかった。

 考えれば考えるほどにキレられる記憶しかなく、特徴を上げるならそんなことしか出ない。

 なんとか出た言葉に思い切り後悔しながらなんとかもっと良い言葉を出そうとする。


 「い、いや、違うくて……チ、チンピラっていうのは、そう、い、良い意味で………!」


 「良い意味でチンピラ!?」


 「あの、いや、」


 魔術師はテンパっている。

 混乱しまくっている魔術師だが、王女は冷静に判断し、これ以上喋らせたら墓穴を掘りに掘るだろうと確信して、話題を変えようと決意した。

 そう、あと一人残っている。

 勇者なら、きっと彼女が頑張らなくても褒められるような人物に違いない。


 「じゃ、じゃあ、勇者様はどんな方なのですか?きっと、聖女様とお似合いの、よくできた好青年では?」


 さらに地雷であった。

 魔術師は恐ろしく嫌そうな表情をしており、シャーリーは空気が重くなるのを感じる。

 まさかここにも地雷があったとは………

 彼女に周囲の人間の話を振ったらロクなことにならない。

 いや、いっそ件の聖女の話に持って行って機嫌を直してもらおうか?

 彼女について話してた時は、どことなく楽しそうだった。


 よし、聖女様の話に………


 「勇者様は、ダメです………」


 硬い声が静かに響く。

 根は暗いが、明るくあろうとしていた彼女が、ただ暗く返したことが驚きであった。

 悩まし気に答えを出すわけではなく、どことなく素に近いように感じられる。

 そういえば、つっかえずに言葉を紡いだのは初めてかもしれない。


 「アレは、自分の命に対して無頓着なんです。まるで人形みたいで、人間には見えない。見たことのない身持ち悪いナニカなんです」 


 かつてないほどスラスラと言葉が出てくる。

 あの時の会話の様子が思い出される。

 自分の命などどうでもいいと真面目に言ってのけた相手の顔、声を。

 本気だったから、あんなのも気持ち悪いのだ。


 「それに、アレは私を信じていません。他の二人と違って、私はアレとは仲よくしようだなんてまったく思えないんです」


 魔術師からしてみれば、人を先ず疑いから入る様子がまるで自分を見せられているようで落ち着かない。

 醜い心が近くに二つもある。

 自分の一つで充分なのに、もう一つなどあるなどもう悪夢でしかない。


 アレの心、とりわけ人への態度が自分と近しいということなどすぐに分かった。

 なにせ、自分と同じような目をしているのだ。

 初めての人間を、仲間になることが確約されている相手でも、先ずは疑い、自分ことはさらけ出そうとしないのに他人は丸裸にしようとする浅ましさ。

 目の前の彼女の様に、見知らぬ誰かに心を開こうとも思うことのできない臆病さ。

 そして、そんな自分を変えることができないもどかしさ。

 そういったものをどうしても思い出してしまうのだ。


 どれだけ魔術に打ち込もうとしても、目標を超えるための志を胸に刻もうとしても、そういう強い部分よりも、弱い部分が心を蝕む。

 自分のことなのだから、悲しいほどに分かってしまう。

 これこそが自分なのだと。

 あの人形と同じ穴の狢の、卑怯な女なのだ。











 「なら、チャンスではありませんか?」



 ?チャンス?

 何のことか?チャンスとは?


 

 「そう不思議そうな顔をしないでください。簡単な話ですよ。あなたが勇者様と信頼しあえるようになれば、貴女は前に進めると思いますよ?」


 「い、いやいや、そんな馬鹿な………」 


 「馬鹿なことなどありませんよ。そんな人物と仲良くなれるのなら貴女はもう少し自分のことが好きになれると思いますけどね?」



 ………………………

 そんな考え方があったとは………

 一瞬納得しかけてしまう。

 しかし、この感情は抑えがたいのだ。


 「でも、私が彼を気持ち悪いと思うのは変わりませんよ」


 「なら、それでいいではありませんか。私は貴女がもう少し自分のことを好きになるための方法を一つ示しただけです。勇者様と仲良くしろと命令した覚えはありませんよ」



 ダメだな…………

 自分はこの方に勝てない。

 もし、私がこんなロクデナシじゃなかったら、この方に忠誠を誓っていたかもしれない。

 この方は少し、察しと人が良すぎるようだ。



 「王女様…………」


 「何ですか?」


 「『呪い人形』の呪毒はとってつもなく危険です。それを持ち運ぶにあたって、事故でそれが漏れれば、ここに来た使徒の身にも相応の傷になる。だから、解呪するための何らかの手段があると思うんです」


 「かもしれません」


 「明日、私たちは使徒に挑みます」


 「厳しい戦いになりますよ」


 頷く。

 そんなことは分かっている。

 あの二人と違って、自分は『覚醒』には至っていない。

 殺される可能性は、とても高いはずだ。

 なら、私にできるのはこれくらいしかない。

 こんな、あって間もない私を気に掛け、一つの道を示してくれた王女様に、なにか返さなければならないだろう。










 「ですが、必ず奴らを倒し、貴女の呪いを解いてみせましょう」


 優しい、尊敬できる王女様へ、臆病な魔術師からのささやかな誓いである。


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