14,今回の目標
物語を描き切りたいんだけど、その過程がとんでもなく面倒に感じる今日この頃。
寝て覚めたら全部書き切れてるなんてことないかなぁ
勇者一行四人旅は問題なく順調に進んだ。
途中で襲ってきた魔物は男二人のどちらかが対応すればそれで事足りたし、体調を崩すような者も一人もいなかった。
強いて言えば、彼らが毎晩行う模擬戦が盛り上がりすぎて殺し合いに発展しそうになったり、魔術師の態度にキレたエイルに思わず彼女が魔術をぶち当ててしまったことに……
魔術師が完全に勇者に対して見切りをつけたことだ。
魔術師は勇者に対して一切関わろうとしなかった。
喋ろうともしなかったし、視線を合わせようともせずにこれまでの旅を続けていたのだ。
これには流石のリベールとエイルも気づいていた。
リベールは何とかして二人の中を取り持とうとしたが、勇者に対して嫌悪を抱く魔術師にはそれも無意味に終わってしまう。
エイルはやはり魔術師への態度は変わらない。
いや、明らかに魔術師が勇者に関わろうとしなくなった日に、魔術師に対して僅かながらの納得の感情を抱いていたのだが、それを表に出そうとしなかった。
リベールだけがパーティーの仲を良くしようと奮闘していたのだが、同意だけで頑張っているかよくわからない勇者、魔術師が気に食わないエイルに、一向に傭兵への恐れを無くさない上に勇者への謎の嫌悪で満ちている魔術師の三人を仲良くさせようとするには二週間では到底足りなかった。
こんなパーティーで果たして大丈夫だろうか、と心から疑問に思うリベールだが、とにかくパーティーが崩壊しないように気を配ることに注力するしかなかった。
そして、そんなバラバラな一行は、計一ヶ月の旅路を終えてリフセント王国に到着したのである。
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リフセント王国は、中央大陸にある世界最大の国だ。
その領土における気候は年中を通して穏やかで、極端な自然災害は滅多に起きない。
さらにはその大地も恵みに満ちており、農業においても彼の国に比肩するほどの技術を持つ国は存在しないのだ。
そんな好条件な土地には自然と人が集まるようになり、より技術は発展し、より大きな国に成長していった。
だが、それだけではこの国は生まれていない。
ただ人が集まるだけなら、やがていくつもの異なる共同体をつくりあげられ、より多くの土地や財を求めて戦いを繰り返すことになってしまうだろう。
もしかしたら、今もなお、肥大な土地を求めていくつもの国が終わらない戦いを続けていた、という未来があったのかもしれない。
だが、そうはならなかった。
なぜなら、多くの人々を即座にまとめ上げ、その広大な土地を治めきった優秀な一族がいたからだ。
その一族の名は、リフセント。
遥か昔から、今に至るまで、悠久の平和をもたらした強き王の一族である。
「わざわざご苦労であった、『勇者』殿、他の方々」
勇者一行はリフセントの王の元へ訪れていた。
長い旅を終えて、無事にリフセント王国へ辿り着き、こうして王様への謁見を果たせたのである。
勇者一行へ世辞の言葉を送っているのは、リフセント王国現国王、ディンゼル=バベル=カーラ=リフセントだ。
上に立つ者としての智慧と寛容さを感じるナハトリア国王とは違い、彼は殺気に近い圧を感じることができる。
仮に前者を王者とするのなら、後者は覇王という表現が似合いすぎる男であった。
その覇王に付き従う家臣たちも、歴戦の猛者のようだ。
その場の騎士たちは、歴戦の雰囲気を醸し出し、文官たちでさえそれなりの空気を纏っている。
彼と対峙している勇者一行の様子はそれぞれだ。
目を見て正面から向き合う勇者
感じる圧に好戦の本能を刺激されている傭兵
恥のないように敬意と節度を示す聖女
圧にあてられて今にも気絶しそうな魔術師
彼らを睥睨するその姿は、まるで魔王のようであり、傍から見ればなんとも皮肉な様子に見える。
まあ、もちろん、実際はそんなことはないのだが。
リフセント王は興味深げに勇者一行の面々を観察する。
海千山千の彼の目には、まるで輝かしい宝石のように見えていたのだ。
その才に満ち、未来を牽引するであろう若者たちのことを考えると、多少なりとも溜飲が下がるというものである。
「見れば分かる。そなたら全員が輝くような才を持ち、それを弛まず磨き上げてきたのだな。以前の世界会議で決まったことだが、我が国で召喚を行って、せめて『勇者』殿の成長の過程だけでもこの目で見てみたかったものよ………」
「恐縮です、陛下。これからも己を磨き、陛下の、ひいては世界中の人々の期待に応えてみせます」
「いい心構えだ。常にそれを頭の片隅に置いておけ。役目の重みを忘れれば、あの使徒どもに殺されるぞ?」
「忠告、痛みいります」
王は勇者を気遣い、勇者もその気遣いに敬意をもって返答するというありきたりな社交辞令である。
ここに来る前にリベールと練習を重ねた甲斐があったものだ。
ちなみに道中の王と対峙した時の練習だが、リベールの判断でエイルと魔術師は黙っているように指示されていた。
二人の性格からしてこういう場には恐ろしく向いていないと判断されたからである。
一連の所作を終えたところで、リフセント王は雰囲気を切り替えた。
いや、というよりは我慢することを抑えた、と言った方が正しい。
「ああ、口上はここまでにしておこう。ここから先が、そなた等の役目である」
雰囲気をより鋭くするリフセント王。
かなり剣呑な様子だが、勇者の注意は、『役目』という言葉に集まっていた。
エイルも、リベールもその言葉の意味は分かっている。分かっていないのは、リフセント王を見ては目を逸らしを続けている魔術師だけだ。
『勇者』の役目、それは天上教が絡む出来事の中でもより危険な案件、使徒絡みの事件ということである。
「使徒が、この国に現れた。明確な害意を持ってな」
三人は息を呑んだ。
エイルだけが唯一好戦的な笑みを浮かべているのだが、それを指摘している場合ではない。
世界を揺るがす、世界の敵の主戦力の一人が、この国を攻撃しているのだ。
これまで出た被害、これから出る被害を考えれば、きっと目眩がするほどの物や人が壊されることだろう。
本当なら、一刻も早くこの脅威を除かなくてはならない。
「出てきた使徒は、第五席『虚ろなる世界』、第八席『断裂』。周辺の斥候にあたった兵士たちは皆殺し、ついでにその近くの領主たちの首もココに直接持って来た。ふざけてるとしか言い表せん………!」
突如王国に姿を現せた使徒たちはまず手始めに周囲の村を消して見せた。
そこにはただ爪痕しか残っておらず、物理的に村々を消して見せたのである。
存在していた命も含めて………
そののちに、異変を感じ取った領主が調査のために騎士を派遣した。
しかし、帰ってきた者はおらず、騎士だったものが地面のシミになっただけだった。
それでは終わらず、それを派遣した領主を殺害、気まぐれに周辺の領主もついでとばかりに殺し、そのあとになんと首を王城の玉座の間に持ってきたのだ。
使徒が二人。
これは本格的に国を攻め落とすつもりなのか、遊び感覚のおふざけなのか判断がつかない。
通常なら一人で十分な使徒をリフセントに二人派遣していることを見る限り、天上教はよほどこの国を滅ぼしてしまいたいように思えるが、それなら王を殺しても良かった。
いったい、何がしたいのか?
怒りを露わにするリフセント王。
それを余計に刺激しないように、リベールはできるかぎり気遣う声で問いかける。
「オーディール様はいらっしゃらないのですか?あの方が居られれば使徒に遅れなど………」
勇者は聞き覚えのない名前に勇者は首をかしげる。
この国にいる英雄の名前だろうか、となんとなく想像はしたが、当たりだ。
しかも、勇者の想像以上の大人物である。
オーディールとは、リフセントの英雄、オーディール=ベラ=エラメシアのことだ。
彼は希少で、高い戦闘能力を持つ巨人族であり、全員が大柄な巨人族の中でも、平均を1メートル以上上回る大柄な巨人族で、身長は3メートル50センチ。
その体躯から放たれる戦鎚の一振りは砦をも壊すと言われ、何百年もリフセントを守護し続けた伝説だ。
実際、リフセントの軍事が世界最強と呼ばれる所以の一つは彼の存在であり、子供でもその名を知っている。
人類側からすれば『大賢者』に次ぐ戦力と言えるだろう。
しかし、
「おそらく奴なら死んだ」
「へっ?」
間抜けな声を上げるリベール。
だが、仕方がない。
魔術師は勿論のこと、エイルまでもが驚いており、言葉が出ないようだ。
その気配を感じ取り、彼すらも素直に驚いてみせるとは、と勇者も驚いた。
しかし、それも当然なのだ。
多くの敵を打ち倒し、人々を護ってきた伝説の英雄が死んだというのだから、むしろ驚かないほうが無理な話だった。
「同じ『覚醒者』同士の争いだった。負けても不思議ではない」
「で、でも、まさか!オーディール様ですよ!?伝説の英雄なんですよ!?」
「奴は今居らず、使徒は生きている。これが全てだ」
どこか悲痛な雰囲気が流れ出す。
勝てないかもしれない、負けるかもしれない、という無音の言葉が聞こえてくるようだった。
それだけ、オーディールという英雄の存在は大きかった。
「だが、それだけではないのだ」
まだあるのか、と誰もが思う。
聞きたくはないのだが、リフセント王は無情にも言葉を続けた。
「奴らは一つ、我らに要求をしてきた。『勇者を連れてこい。さもなくば呪毒をこの国中に撒き散らす』、とな」
「それは………」
呪毒とは、目に見えず、触れることもできない呪詛を簡単に管理するために形を与えたものである。
これによって、呪術師は呪詛を蓄えたり、逆に蓄え過ぎた呪詛を減らしたり、呪術師以外に売り払ったりする。
だがこの場合深刻なのは、使徒の使う呪毒といえば、ほぼ間違いなく製造元が『呪い人形』である事である。
ただそこに居るだけで世界を侵していく世界最高の呪術師が作った呪毒だ。量など幾らでも用意できるし、その効果もおりがみ付きだろう。
何人死ぬか、わかったものではない。
「呪毒の効果を見せるための実験台として、第三王女、シャーリーはそれを浴びたのだ………!」
怒りで身体が震える。
今の彼女の状態を見れば、王としても、父としても怒らずにはいられない。
それほどまでに、呪毒は効果的だったのだ。
「金ならいくら使っても構わん。知識なら宮廷魔術師どもの魔術の最奥まで見せてやる。装備だってどんなものでも拵えてみせよう」
だから、
「使徒どもを殺せ。皆殺しにしてしまえ……!勇者殿の使徒殺し、その第一歩として我が国が選ばれたことを幸運に思う」