狐さんと白くキラキラと輝く宝石
村の外れ、深い森の奥に一人で暮らす熊さんに、一人の狐さんは言ました。
「くまさん、くまさん。きょうも、はたらきものだね」
熊さんは鋭い爪がついている大きな手で斧を持ち、薪を割りながら答えます。
「もうすぐ、冬になるからね。暖炉に使う薪を割るんだ」
「そうなんだ、そうなんだ。はたらきもののくまさんには、これをあげましょう」
狐さんはそう言って、白くキラキラと輝く宝石を熊さんに手渡しました。
だけど熊さんは知っています、この宝石が葉っぱでできていることを。
「ありがとう狐さん。大切にするよ」
その様子を見た狐さんは、嬉しそうにピョンピョンと、森の奥に姿を隠しました。
熊さんは宝石を家に持ち帰り、沢山の葉っぱが詰まった宝箱の中にしまいます。
赤や黄色に色付いた鮮やかな葉っぱの上に、白くキラキラと輝く宝石は、まるで冬の訪れを知らせる綺麗な雪の結晶のようでした。
熊さんはその綺麗な宝石が大好きです。だけれど、朝になると、まるで雪の結晶が溶けてしまったかのように、宝箱の中には葉っぱしか残りません。
熊さんは少し寂しく思いながら、今日も一日働き者になるのでした。
村の外れ、流れのはやい川で一人魚を捕る熊さんに、一人の狐さんは言ました。
「くまさん、くまさん。きょうも、はたらきものだね」
熊さんは鋭い爪で狙いを定め、水中に揺らめく魚を目掛けて腕を振り下ろしながら答えます。
「もうすぐ、冬になるからね。外に出られなくなるから食べ物を貯めておくんだ」
「そうなんだ、そうなんだ。はたらきもののくまさんには、これをあげましょう」
狐さんはそう言って、白くキラキラと輝く宝石を熊さんに手渡しました。
何度も貰った宝石は、熊さんの宝箱には残りません。
「ありがとう狐さん。大切にするよ」
その様子を見た狐さんは、嬉しそうにピョンピョンと、森の奥に姿を隠しました。
熊さんは宝石を家に持ち帰り、沢山の葉っぱが詰まった宝箱の中にしまいます。
たとえ朝になれば消えてしまう宝石でも、熊さんにとってこの輝きを眺める時間が一番でした。
何よりも大切で、かけがえのない宝物です。
窓の外には白くキラキラと輝く雪の結晶が舞い始めました。
明日には雪が降り積もり、働き者の熊さんはお休みです。
村の外れ、深い森の奥に一人で暮らす熊さんは、暖炉の前で暖かいココアを口に含みます。
働き者でなくなった熊さんは、一人ぼっちになりました。
コンコンコンと、扉を叩く音が聞こえます。
熊さんはソファーから立ち上がり、湯気のたつココアをテーブルに置いて扉を開きました。
「くまさん、くまさん。きょうは、はたらきものじゃないんだね」
開いた扉から吹き込む凍える風と共に、狐さんが家に入り込みます。
熊さんは扉を閉め、狐さんをソファーへと案内しました。
「もう冬だからね、寒くて働けないから暖かい家で過ごしているんだ」
「そうなんだ、そうなんだ。はたらきものじゃないくまさんと、おはなしがしたいな」
熊さんはコクリと頷き、キッチンで沸かしたお湯で暖かいココアを作ります。
その様子を見た狐さんは、嬉しそうにフリフリと、尻尾を横に振りました。
熊さんは狐さんにココアを手渡し、一緒にソファーに座ります。
「ありがとう、ありがとう。くまさんはやさしいね」
「一人で退屈していたんだ。来てくれて嬉しいよ」
熊さんと狐さんは、沢山沢山お話をしました。
森の奥には怖い怖い熊さんが住んでいます。村の人たちは誰も森に足を踏み入れません。
でも本当は、心優しい、ちょっと寂しがりやな熊さんが住んでいるだけです。
誰も、本当のことを知りません。
マグカップに入ったココアは少しずつ量を減らし、だんだんと暖かさが失われていきます。
だけれど、熊さんと狐さんのこころは、だんだんと暖かくなっていきました。
「そうなんだ、そうなんだ。やさしいくまさんには、たからものをあげましょう」
狐さんはそう言って、白くキラキラと輝く宝石を熊さんに手渡しました。
暖炉の炎の光を取り込んで、いつもより優しく輝く宝石を熊さんは受け取ります。
「ありがとう狐さん。大切にするよ」
その様子を見た狐さんは、ニッコリと笑い、ソファーの上で丸まりました。
窓の外は暗くなり、部屋の灯りに照らされた雪の結晶がしんしんと降り積もります。
熊さんは沢山の葉っぱが詰まった宝箱の中に、宝石をしまいました。
赤や黄色に色付いた鮮やかな葉っぱの上の、白くキラキラと輝く宝石にうっとりしながら、熊さんは夢の中に旅立ちます。
本当は、みんなと仲良くしたいんだ。
でも、僕の姿を見れば、みんな怯えて逃げてしまう。
狐さんがいなくなれば、僕はまた一人ぼっち。
かなしいな。かなしいな。
夢の中みたいに、沢山のお友達に囲まれて、毎日毎日楽しく過ごせればいいのにな。
すっとずっと、夢のような時間を過ごせればいいのにな。
降り積もった雪で、半分が埋もれた窓から差し込む太陽の光を浴びながら、熊さんは目を覚まします。
暖炉の炎は消え、狐さんの姿もありません。
少し寂しくなった熊さんは、手に持った宝箱に目を向けます。
そこには、赤や黄色に色付いた鮮やかな葉っぱの上に、白くキラキラと輝く宝石がありました。
熊さんは驚きます、まだ夢の中にいるのではないかと頬をつねりました。
コンコンコンと、扉を叩く音が聞こえます。
熊さんはソファーから立ち上がり、宝石の入った宝箱をテーブルに置いて扉を開きました。
「くまさん、くまさん。とってもきれいなたからものがあるって、ほんとうですか」
開いた扉から熊さんを見上げるのは、村に住む子供達です。
熊さんはまたもや驚きましたが、すぐに優しい笑顔を浮かべ、こう言ました。
「本当だよ、とっても綺麗な宝物を見せてあげよう」
テーブルに置かれた宝箱を手に取り、熊さんは子供達に白くキラキラと輝く宝石を見せてあげます。
「とってもきれいですね。またみにきてもいいですか」
「いつでもおいで。ずっとここに居るからね」
笑顔になった子供達と熊さんは、少しだけ仲良くなりました。
鋭い爪がついている大きな手で、優しく雪玉を放り投げ、子供達と雪合戦をします。
その様子を見た狐さんは、嬉しそうにピョンピョンと、森の奥に姿を隠しました。