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新たなる世界

 辺りは草原だった。

 見渡す限りの草原、大草原というやつだ。

 遥か向こうには雪を被った山脈が見てとれる。

 見上げれば青空が広がっており、雲が悠々と流れていく。

 太陽は燦々と輝いているが陽射しはそれほど熱くはなく、気温は23度くらいといったところか。

 時たま頬を撫でる風がとても心地良かった。


「じゃねえええええええええっっっっっっ!!!!」


 俺は叫んだ。


「俺の特典どうなったあああああああああ!!」


 俺の叫びは辺りに空しく響いた。


「どうなったんだろうね」


 光はまるで他人事の様だ。


「ごるぁ!じじいっ!聞いてんだろっ!どうなったか教えろおおおお!!」


 叫びはただ消えていくのみである。

 入れ替わりでスズメか何かの鳥の鳴き声が和に辺りに響く。


「うんともすんとも、ワンともニャアとも言わねえな」


「チュンチュンとは言ったけどね」


「そう、チュンチュンとは・・・、ておいっ!」


 俺は光の指摘にノリツッコミしていた。


「まあいいじゃない、もう来ちゃったんだし」


「そうなあ、でもムカつくもんはムカつくってもんだ」


 俺は腕を組み仁王立ちで鼻を鳴らした。

 とはいえ確かにいつまでもこうしていても仕方がない。


「ようし、ここでこうしていても仕方ない、さっさと何処かに向かおうぜ」


 俺はとにかく行動しようと思った。


「何処へ?」


 と光。


「ん?何処に?」


 と俺。

 俺と光は顔を見合わせる。


「ここ何処?」


 俺は光に聞く


「知らない」


「おいっ!知らないじゃないだろ、爺さんから何か聞いてないのかよ」


 何やってんだ?


「だいたい匠のせいだよ、そういうのを聞く前に神様と騒いで送られちゃったんだから」


「へ・・・、そうなの?」


「そうだよ、だから俺だって中途半端なんだからね」


 なんてこったい、自業自得であった。


「あー、悪い」


 俺は光に片手で謝る。


「ははは、別に気にしてないよ」


「そう?ありがと」


 笑顔の光、光はいつも細かい事を気にせず笑って許してくれる、器の大きいやつだ。


「さて、本当にどうしようか」


 そう言った時だった、

 近くの草むらからガサっと音がした。


「ん?」


 俺は何かとそちらを見ると、そこにはプルプルとした半透明な丸いものがいた。

 そうそこいたのは・・・。


「スライム・・・、だな・・・」


「スライム・・・、だね・・・」


 そこいたのは俗に言う所謂スライムというやつだった。

 5匹のスライムがプルプルと揺れている。


「おおおおっ!!マジでスライムだぜ、本当に異世界に来たんだなあ!!


 俺は思わず叫んでいた。


「はは、ははは・・・、ははははははははははは!!」


 いきなり光が笑い始める。


「おいおいどうした?」


 光の方を見るとなんか尋常じゃない感じだった、笑いながらも目が血走っている、こんな笑い方をする光を見たことはなかった。


「お、おい、光?」


「いいいいいいいいいいいいいいやっっっっっはああああああああああああああ!!」


 光は叫び声と同時に剣を抜き、スライム共に切りかかっていった。


「って剣!?いつの間にそんな剣を手に入れたっていうか持ってたの?」


 その剣は鈍く光を放ち、一見して普通の剣ではないことが解る。

 見た目としてはロングソード、いや柄が長く両手で持てるようになっていることからツーハンデッドソード、もしくはバスタードソードというところだろう。

 剣の長さは1m程で幅は15センチ程度の両刃、グレートソードと言う程には大きくはないだろう。

 とにかく光はその剣でスライムを一切り、また一切り、一切り毎にスライムは真っ二つになり溶けて消えていく。

 三度、四度、そして五度目の切りかかりでスライムは全ていなくなっていた。


「すげぇ全部一撃だ」


 スライム相手では何とも言えないが、光が凄いのか剣が凄いのか、それともスライムはやはりスライムということか?


「はははははははははっ!!!!」


 スライムがいなくなったにも関わらず光は笑いながら剣を無茶苦茶に振り続け、辺りの草に切りかかっている。


「・・・ちょっ、光どうしたいったい、光?光く~ん?」


 光はひたすら草を刈って楽しんでいる。


「これってトリガーハッピーみたいなものか?トリガーハッピーならぬソードハッピーってか?」


 あれ?でもこいつ切りかかる前から変じゃなかったか?その前から笑い始めてたし・・・。

 ということはまさか狂戦士か?そうなのか?


「あははははははははははははは!!」


 光は相変わらず草刈りに勤しんでいる、まさかの草薙の剣か?


「おいっ光っ!おーーーい!!」


 俺の呼びかけに光の動きが止まり、そしてゆっくりとこちらに振り向いた。


「ぐははははは・・・」


 その顔は新しい獲物を見つけたと言わんばかりの顔であり、涎を垂らしながらとても嬉しそうにしていた。

 その手に持つ物が剣ではなく斧であったならドラ〇エの首狩り族そのものという感じだ。


「っておい、まさかおまえ俺を標的にしてないか?」


「ぐへへへへ・・・」


 俺の言葉に光の顔が嬉しそうにいっそうニヤける。

 俺は嫌な予感がした。


「きゃははははははははははは!!」


 光は甲高い声で笑い始めたかと思うとその手に持つ剣で俺に切りかかってきた。


「っておい!おまっ!それシャレにならねえだろ!!」


 俺は光の凶刃から逃げ始めた。


「ひゃはははははははははははは!!」


 光は剣を振り回し俺を追いかける。

 俺はその剣から逃れるために一生懸命逃げた。

 右に左に、上に下に、自分でも思いつかないような格好で無意識に避けていた。

 辺りは光が草刈りに勤しんだおかげで適当に広くなっており、逃げ回るには丁度良くなっていた。

 だがいつまでも逃げ切れるものではない、次第に光の振り回す切っ先が近づいてきていた。


「おい光っ、おまえいい加減に・・・」


 逃げながら振り向いてそう言った時だった、光の剣が俺の顔の鼻先すれすれを切り裂いていった。

 俺の鼻先から痛みが走り、そこを指で触れると指に赤いものが付いた。

 血だ・・・、光の剣の切っ先が俺の鼻に当たっていたのだ。


「てめぇ!いい加減にしろっ!!」


 俺はムカつき光に真正面から蹴りかかった。

 その足はまともに光の顔に当たり、光はそのまま地面に倒れこんでしまった。

 ピクリとも動かない光、顔を見ると笑いながらも完全に白目をむいていた。


「あれ?おい光、光?」


 俺は光の頬を軽く叩く。


「あははははは・・・」


 光は意識が無いまま力無く笑っていた。

 あ~あ、せっかくのイケメンが台無しな程の顔面崩壊である。

 なんでこいつこんなになったんだ?そういえば車の運転をするときも性格が変わっていたよな。

 車の運転って目と耳と手と足と注意力を同時に神経を使うから脳にリソースに余裕がなくなるという、ハンドルを持って性格が変わる人ってその脳のリソースの余裕が他の人よりも更に余裕が無くなるから性格が変わるという話を何かのニュースで見た気がする。

 というか性格が変わるというより言動が荒くなると言った方が正解だろう。

 なんだかんだで初めての戦闘だ、スライムとはいえモンスターだからそれをみ見て心に余裕が無くなったということだろうか?

 スライムぐらいでと言えるが、こいつ結構臆病なところがあったのかもな。

 その後、光が意識が復活するまでに5分程かかった。


「あいててててて・・・」


 光は後頭部を手で押さえながら起き上がってきた。


「大丈夫か?」


 俺が心配して声をかけると。


「何があったの?」


 である。


「おまえ何があったのじゃねえよ、いきなり笑いながらスライムに切りかかって綺麗に倒したと思ったら草刈りを始めるし、俺を見つけたら今度は俺に嬉しそうに切りかかってきて俺が切られそうになって危なかったんだからな」


「嘘!?」


「本当だよ、まるでありゃバーサーカーだな」


「えーーーーーーーーーー・・・」


「えーーーじゃねえよ、ほらこれ見ろ、この鼻おまえの剣で切れたんだからな!」


 そう言って俺は自分の鼻を指さした。

 それを覗き込む光。


「うわっ、本当だ、ごめ~ん」


「まったく・・・」


 光は俺に謝りながら両の手を合わせてきた。

 俺はそれを横目で軽く睨むが、光は両手を合わせたまま片目を瞑って笑ってくる。


「まあいいや、なあ、ところでその剣は?」


 光は俺のこの言葉に気付くと顔をニヤっとさせた。


「エクスカリバー」


「は?」


 今なんて言った?エクスカリバー?聞き間違いか?


「なんでそんな物があるんだよ!」


「神様に頼んだから?」


 何故に疑問形なのか。


「はい出たよ始まったよ、チート装備来ましたよ、これじゃ世界バランス崩れちゃうんじゃねえの」


「大丈夫だよ、この世界にエクスカリバーなんて存在しないから」


「へ?存在しないの?」


「しないよ、結局あれは元の世界の中の存在だからこっちには関係ないんだってさ、だからこいつもエクスカリバーって名前を付けただけの剣ってこと」


「なんだ名前だけか、じゃあそれただの剣なのか?」


「違うよただの剣じゃないよ、良く切れて壊れないし鑑定すれば神が鍛えし剣って出るし、装備者は重量を感じないしHPを徐々に回復するし何処からでも直ぐに手に現れて持つことができるし、光属性があって暗闇でも光ってライト変わりにもなるしターンアンデッドも使える便利な剣だよ」


「ぐはっ、完全なチート武器じゃねえか」


 俺は手の平で顔を覆い天を見上げてそう言い、それから腕を下ろした。


「やっぱり大丈夫なのかよ、そんなチート武器があってさ」


「大丈夫大丈夫だって、どんなに強くても結局は一本の剣でしかないって言ってたよ、それを扱う人間の技量がなければどんな名剣も鈍らと変わらないってさ」


「へ~、ゲームとは違う現実なんだってことか、光自身が頑張らなきゃいけないってことか」


「そっ、そういうこと」


 光は得意そうに言う。


「で、おまえはそのエクスカリバーで俺に切りかかったと」


「あははは・・・」


 笑って誤魔化す光であった。

 

「ったく・・・、まあいい、さて本当にどうするよ、何処に向かえばいいんだろうな」


 俺は話を変えた。


「そうだね、どうしようか」


 光と二人で思いあぐねる。

 二人であれこれ考えていると、何処からか何か聴こえたような気がした。


「今何か聴こえたか?」


 俺は気のせいかとも思ったが光に聞いて確認してみた。


「うん何だろう、何か分からないけど何か聴こえたよ」


 俺と光は静かにして耳をすましてみる。


「あっちから聴こえてこない?」


 光が物音がする方向を指さす。


「確かにあっちからだな、よし確かめてみようか」


「だよね、確認しないとね」


 光は妙に嬉しそうである。

 こいつ大丈夫か?また狂戦士化するんじゃないのか?


「早く行ってみようよ」


 考え事をしてなかなか動こうとしない俺を光は急かしてくる。


「分かった分かった、だけど何があるのか分からないから静かに行くぞ」


「お~け~」


 光は片目を瞑って笑顔で親指を立ててきた。

 ったく呑気なもんだ。

 とにかく俺と光は物音がした方向に静かに移動することにした。

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