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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第1章 ニューゲーム
9/25

08 情報屋さんとパーティ

総合1000Pt突破!


ありがとうございます……!

 予想外過ぎて思わず素の喋りが出てしまった。てっきりもっと情報を集めてくれとか、そういう種類の頼みだと思ってたのに。



「落ち着け……何故そうなる?」



 とりあえず冷静に、いつも通り作った声で話す。



「さっきお前に言われて角を取りに行く時に、もう一回グランドベアと戦ってきたんだ。ついでにな」

「ほう」



 正直、ついでが逆だろうとか、そんな片手間に倒せるのかとかツッコミを入れたいが、我慢しておく。



「だけど全然奴のHPが減らせなかった」

「そうだろうな……」

「それでその理由について、三人で話し合ったんだ。足りないものはなんだろうって」



 まぁ、ここまでの話の流れはおかしく無いな。しかし、足りないものか……。アーサーが剣士、シロが魔法使い、ウルルが僧侶。この構成でボスを倒すとなると、足りないのは……防御役、タンクじゃなかろうか。



「それで結論として、お前を仲間に誘おうって」

「待て」

「ん?」

「途中を省略し過ぎだ……! どうしてその結論になる……!?」



 意味がわからない。俺の職業は盗賊。分類で言えば、アタッカータイプだ。



「だって、倒せないのは火力が足りないからだろ? だったら強そうな奴を誘えばいい!」

「どうしてそうなる……!」

「え?」



 思わずツッコミを入れてしまったが、アーサーはキョトンとしていた。首を傾げながら、いい考えと思うんだけどな、なんて呟いている。思った以上の脳筋な思考だった。つまり、やられる前にやってしまえ、と。そういうことか。


 シロ達の方を見ると苦笑していた。呆れてはいるものの止めるつもりは無いらしい。やはりアーサーがリーダーとして引っ張っていく方針のようだ。


 だが、あながち間違いじゃないんだよな……。俺は徹底的にスピードに特化しているから、敵の攻撃に当たらず戦うスタイルだ。つまり敵の注意を惹き付けながら回避する、いわゆる「回避タンク」の役割ができないこともない。全く意味合いは違うが、勧誘したのは正しいとも言える。


 さて勧誘だが……パーティに入るかどうかって話なら、当然ノーだ。俺はソロプレイの情報屋だ。永続的に誰かと組み続けるつもりはない。だが……。



「一つ聞く……」

「おお、なんだ?」

「他にもグランドベアと戦っているプレイヤーを、見たことがあるか……?」

「あ? あー……そういえばニ、三回見たことあるな。結構あっさりやられてたけど」



 やられてたということは、攻撃パターンに気付いてないか探ってる途中だということだ。おそらく背中の傷痕という弱点にも気付いてない。


 おそらく攻略に一番近いのは俺だ。しかし……もともと目立つのが嫌だからこいつらに攻略させよう、って考えだったが……。パーティで攻略すればいけるか? 攻略者の名前が公表されるとして、パーティ全員の名前が公表されるなんてことはないはず。せいぜいリーダーの名前ぐらいだろう。


 だったら、こいつらにくっついて行ってサポートするのもありかもしれない。



「いいだろう……ただし」

「ただし……?」

「今回限りの助っ人なら参加しよう……。グランドベアを倒す時だけの、な」

「うーん……ずっと仲間になるんじゃダメなのか?」

「ダメだ……。あと当然だが報酬は貰う……」



 いわゆる傭兵のような感覚だ。アーサーはしばらく渋って説得を続けてきたが、俺は意思を曲げるつもりはなかった。それが伝わったのか、ようやく諦めたがかなり残念そうだった。俺のことをかなり評価しているらしい。ミステリアスに演出したのが、今回は裏目に出てしまったかな。


 一応、討伐が終わったら成功報酬を頂く契約を結んだ。



「じゃあよろしくな!」

「ああ、よろしく……」



 一応加入の約束はしたものの、こっちはクエストの途中だ。準備ができたら加入するということで、後ほど連絡することになった。




◆◆◆




「ふぅ……」



 一旦ログアウトして一息つく。意外と長いことログインしていたようだ。もう結構夜遅くなっていた。さっさと寝る準備をしようと思ったが……。



「おや? メッセージが入ってるな」



 スマホのメッセージは福町の奴からだった。そういえばプレイに夢中でずっと忘れてたな。学校でも特に話しかけてこなかったし。



『よう、調子はどうだ? ぼちぼちプレイしてるか?』



 ああ……しばらくしたら一緒に遊ぶって約束してたな。だがまだ序盤も序盤だし、若干気が早い気もするが。とりあえず返信しとくか。



『まあ、割と自分のやりたいようにやってるな』

『俺も結構進めてるぜ! 今日なんかでかい熊に会ってな、速攻やられたけど』



 俺が送信すると、返事はすぐに返ってきた。グランドベアにやられたの、お前かい。



『それで、どうだ? 一緒に遊ぶ気になったか?』

『気が早すぎだ。お互いにまだまだ初心者もいいとこだろ』

『そんなこと言わずに頼むぜ。こっちも色々言われてんだから』

『だから早いって。……言われてるってなんだ?』

『あ、いや、何でもない! 気にすんな!』



 あいつは何を言ってるんだ? なんか会話が噛み合ってない気がするが……この様子からすると詳しく話すつもりはなさそうだ。



『とにかく、遊ぶのはまだまだ先ってことだな?』

『そうだな。気長に待ってろ』



 俺としては、もう少しレベルや装備が上がってから合流したい。格好つけたいというか見栄を張りたいし。


 メッセージのやり取りが一段落したところで、部屋のドアがノックされた。といっても、ノックしてくる人は一人しかいない。



「どうぞー」

「ひーちゃん、今いい~?」



 案の定、よーちゃんだった。別の人が入ってきたらホラーだがな。よーちゃんは既にパジャマに着替えており、完全に寝る前の体勢だった。



「どうかした?」

「あのね~」

「うん」

「えっとね~」

「うん」



 いつも通りの、人によってはイライラしてしまいそうなのんびりした喋りで話しかけてくる。弟だからなのか、俺は不思議とイライラしないが。



「実は買っちゃったの~」

「何を?」

「ひーちゃんがやってるゲーム~」

「………………『ビリオン』を買ったの?」

「そうなの~」

「ええぇぇぇぇ!?」



 今年に入って一番の衝撃だった。あの、のんびりやの姉が自分からゲームを買うなんて。しかもMMORPGだぞ。



「よく買おうと思ったね?」

「うん~。これならひーちゃんとも遊べると思って~」

「よーちゃん……」



 やっぱり俺がゲームに夢中になってたからか。中学からずっとそうだったし、寂しい思いをさせてたのかな。そこまでして貰っては俺も黙ってられない。



「わかった……! そういうことなら一緒に遊ぼうか!」

「ううん~」

「ううん……ってなんで!?」



 それが目的のはずなのに、なぜ俺は誘いを断られているのだろうか。



「だって~、私は初心者なんだから、いきなり一緒に遊んでもひーちゃんに迷惑かけちゃうでしょ~?」

「そんなことは……」



 気を遣ってあげたいが、無いとは断言できないのが俺の悲しいところだ。



「だから~、まず友達と一緒にやることにしたの~」

「えっ? えーと、つまりその人と一緒に遊んで、慣れたらってこと?」

「そうそう~」



 ……なんか、寂しさをまぎらわすという最初の目的と微妙にずれてる気がするが。まぁ、本人は楽しそうだし、指摘するのもあれだな。



「わかった。じゃあ待ってるからね」

「うん、待っててね~」




◆◆◆




「確かに受け取ったよ」



 俺は再び薬局を訪れていた。コツコツ大森林で狩りをしまくって、魔法石を必要数集めることになんとか成功した。ライトニングダガーと雷魔法を駆使すれば、思ったよりも早いペースで進み、なんとか一日で集めることができた。


 途中から若干作業みたいになってきて、心が死にそうだったが…………いやいや、RPGの基本は作業をいかにこなせるかだ。こんなことで心折れてどうする、俺。



「じゃあ、これが報酬の魔法弾さね。受け取りな」



 軽く思い出して悲しくなっていたところに、約束の品が出された。魔法弾を十発分。報酬としては少ないが、高威力のアイテムだと思えばいい方だろう。ただ、どれほどの威力かは実戦で試してみないとわからない。無駄撃ちはできないし、タイミングを慎重に見極めないとな。



「ありがとうございます」



 受け取った魔法弾をアイテムボックスにしまい込むと、早速待ち合わせの場所へと向かった。




◆◆◆




「待たせたな……」



 街の正門前に行くと、そこには既に三人とも集合していた。アーサー、シロ、ウルルの三人だ。……むしろ三人一緒にいるとこしか見たことないな。



「遅いじゃない」

「ま、まぁ落ち着いて、ね?」



 予想通りというか、必然のごとくシロはツンツンした態度をとり、ウルルがそれをなだめている。性格的にだいぶ違うけど仲がいいよな。



「よし、じゃあさっさと行こうぜ!」



 今日は約束の日。グランドベア討伐に向かう日だ。調べたところ、これまで何組かグランドベアに挑戦はしている。だが奇跡的に討伐成功したパーティはいない。つまり俺達が一番乗りする大チャンスだ。合流すると、そのまま大森林へと入っていく。



「『スラッシュ』!」

「『ファイアボール』!」



 所々モンスターが出てくるものの、特に苦戦することもない。アーサーもシロも一撃で倒せていた。やはりなかなかレベルも上げてあるようだな。その分、回復役のウルルは手持ちぶさたというか、やることが無くてオロオロしていたが。


 まぁ進むこと自体には全然問題はない。ないのだが……。



「(遅いな……)」



 進行速度がかなり遅い。なんというか、のんびり歩いているかのように感じる。だが、そう思っているのは俺だけのようだ。先頭を歩くのはアーサーだが、特に誰も気にしていない。短気そうに見えるシロが文句を言う素振りも見せないのが、その証拠だ。


 本当は原因はわかってる。皆が遅いのではなく、俺が速いんだ。速度特化の影響が顕著に出ている。システムの補正により、体がすごく軽く感じるからだ。俺が錯覚しているだけで、彼らは別に普通の速度で歩いているんだ。



「なぁ、カラス」



 不満というほどでもないが、小さなストレスを抱えながら歩いていると、先頭を歩いていたアーサーが振り返って話しかけてきた。ちなみに俺は最後尾におり、女子二人を挟むように行進していた。


 本来は盗賊の俺が斥候役というか、先行して偵察の役目を担わなくてはならないんだが……まぁここならそこまで厳密に警戒する必要はないだろう。全員初見で入る訳じゃないし。



「どうかしたか……?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと……?」

「ああ、お前自身のことなんだけど」



 俺自身のこと……? あ、そういえば【偽装】があるから、ステータスも不明にしてあったな。それに関することかもしれない。



「情報料は払えるんだろうな……」

「金を取る気か!?」



 試しに冗談を言ってみたら、突っ込まれたというより本気で驚かれていた。いや、女子はやり取りを見てクスクス笑っていたから本気にはしてないだろう。恐れられてると思っていたが、少しは打ち解けられたかな?



「冗談だ……」

「冗談かよ、たくっ……。じゃあ聞くぞ?」

「いいだろう……」

「使う武器は?」

「短剣だ……」

「魔法は?」

「初級ならいくつか……」

「得意な戦い方は?」

「速度を活かしたやり方だ……」

「職業は?」

「秘密だ……」

「なんでそこだけ秘密なんだよ!?」



 そんな大げさに驚くなよ。だって、その方がかっこいいだろ? 他の事は戦闘すればすぐにわかってしまうことだし。



「まぁまぁ、アーサー落ち着いて、ね?」

「そうよ。それより他に話すことがあるでしょ?」

「あ、ああ……」



 多少興奮していたが、女子二人になだめられて落ち着いたようだった。



「パーティの連携についてと、グランドベアの攻略のことか……」

「その通りよ」



 俺達は今日組んだばかりの、いわゆる野良パーティに近い編成だ。職業としては全員バラバラでバランスはいいが、それぞれ適当に戦っては意味がない。


 俺自身は、パーティで最も重要なのは、決めた役割を果たすことだと思っている。もちろん個々の能力が高い方がいいのは当たり前だが、役割をきっちりこなしてこそ真価が発揮されるものだ。これはゲームに限らず、チームプレーは何でもそうだろうと思う。



「俺とカラスが前に出て、シロとウルルが後ろから援護でいいだろ?」



 アーサーがすぐに返してくる。彼の言ってることはシンプルだ。前衛職が敵を引き付けて、後衛職が援護や遠距離攻撃を行う。基本的な戦術と言えるだろう。それに対し、シロはため息をつく。



「あんたねぇ、それだけじゃ大雑把過ぎるのよ。細かいところまで決めておくのが基本でしょう?」

「実際に戦ってみたら、細かいことなんて忘れちまうって! 状況に合わせて、その時考えりゃいいんだよ。臨機応変ってやつだ!」

「あんたのは臨機応変じゃなくて、行き当たりばったりって言うのよ! それで何回試してもうまくいかなかったじゃない!」

「そんなこと言ったって、ややこしいパターンとか覚えきれねーし……」

「少しは覚える努力しなさいよ!?」



 アーサーとシロの口論が白熱していく。会話だけ聞くと怒ってるように聞こえるが、二人からはそういう雰囲気は見受けられない。これもまた、喧嘩するほど仲がいいことを表しているのだろうか。


 とはいえ、どちらの言うことも正しくてかつ間違っている。細かいパターンは必要だし、臨機応変さも必要だ。


 ふと、言い争いには参加せずオロオロしている小柄な僧侶に目を向ける。



「お前は参加しないのか……?」

「ひゃいっ!? なんですか!?」



 いきなり話しかけたので驚かせてしまったようだ。ビクッと身を強張らせている。まぁ、飛び上がる程という比喩ではなく、実際に飛び上がっていたのは流石に驚きすぎだと思うが。



「二人の会話に参加しなくていいのか? と聞いている……」

「ご、ごめんなさい!」

「別に謝らなくていいが……」

「すみません……」


 慰めたつもりだったが、萎縮してしまった。どうやら、とことん怖がられているようだ。初接触の際に脅かしすぎたかな。


「だから! どういう攻撃がきたら避けるか防ぐかを考えておくべきでしょ!」

「心配ないって! その時になったら勘で避けりゃいいんだから!」



 俺がウルルを宥めているのを他所に、二人の口論は更にヒートアップしているようだった。



「心配するな……。今回は俺が防御役(タンク)をやるからな……」

「「「え?」」」



 とりあえず流れを断ち切る為に、防御役について宣言する。それを聞いた三人は、みんなポカンとしていた。



「あなた、もしかしてさっき速度に自信があるみたいに言ってたけど、耐久にも自信がある訳?」

「いや、速度だけだ……」

「それでどうやって防御役やるのよ!?」



 怪訝そうな顔で質問してきたシロに、淡々と返す。少しは落ち着くかと思ったが、かえって感情が昂ってしまっていた。アーサー達も不思議そうにしている。俺もつられて首を傾げる。もしかして、三人は回避タンクについて知らないのか?


 通常、タンクとは敵の注意を引き付けて攻撃を受けつつ、味方に被害がいかないようにする囮役の事を指す。だから当たり前だが、攻撃を受ける為には防御力が高いのが基本だ。


 だが別のパターンとして、速度を上げることで攻撃を回避し、ダメージを減らす場合がある。それが回避タンクだ。タンクは防御系が主流とはいえ、回避系がいない訳ではない。


 それらの概念について、移動しながら三人に詳しく説明してあげた。



「へぇー! そんなやり方があるのか!」

「知らなかったわ……。基礎知識は調べてたつもりだったけど、まだまだ知らないことがあるのね……」

「す、すごいです……!」



 三人はそれぞれに感心してくれているようだった。俺としてはよく知る常識みたいなものなので、少々照れくさい。



「だから、アーサーとシロは基本は攻撃に専念していい……。大技が来る場合を除いてな……」



 一応、俺の知る限りのグランドベアの攻撃パターンと、弱点について教えておく。パターンはあんまり多くないし、一通り覚えるのは難しくないだろう。


 打ち合わせが終わったところで、森の奥までたどり着いていた。いよいよ本番といったところか。


 少し開けた所に出ると、お目当てのグランドベアを見つけた。体を丸くして寝転んでいる。



「準備はいいか……?」



 三人の方を振り返って、最後に確認をとる。なんだか俺の方がリーダーっぽくなってしまっているな。



「おう!」

「いつでもいいわ」

「だ、大丈夫です……」



 三者三様だが、肯定の返事を返してくれた。今さら確認するまでもなかったかな。



「よし、俺からいくぞ……! おりゃああぁぁぁぁ!」



 アーサーが剣を両手で握り締め、頭の上まで振りかぶる。そして、掛け声と共に走り出す。そのままの姿勢でグランドベアまで瞬時に近づくと、一気に剣を振り下ろした。



「グルァァァァァァ!?」



 回避されることもなく、斬撃は完璧にクリーンヒットした。思い切り背中を斬りつけられたグランドベアは、思わず苦悶の声を上げる。それが戦闘開始の合図だった。




◆◆◆




「『スラッシュ』!」

「『ファイアボール』!」



 戦いは優勢というか、順調に進んでいた。当初の作戦通りの陣形で攻防が行われている。


 アーサーが近づいて斬りつけ、シロが遠距離から火魔法を叩き込む。アプローチは真逆だが、どちらも確実にグランドベアに命中している。


 だが、当然危険も伴う。ダメージを受けたことでグランドベアは攻撃してきた二人のことを認識していた。アーサーの方に顔を向ける。手の爪を揃えて、腕を大きく振り上げ攻撃の体勢だ。この場合、近くにいたから狙ったのか、ダメージ量で狙ったのかはわからないが、おそらく後者だろう。アーサーに狙いを定め、攻撃を繰り出そうとする。



「ふっ……!」



 俺も黙って見ているばかりではない。攻撃を繰り出される前に、持ち前のスピードを活かして回り込み、何度も何度も斬りつけを行う。ステータスの速度が上昇したことで、移動速度だけでなく攻撃の速度も上がっている。だから短時間のうちにかなりのダメージを出すことができる。


 RPGの戦闘においては、ヘイト値と呼ばれるシステムが採用されることが多い。要するに複数人のプレイヤーがいる場合、モンスターが誰を狙って攻撃を行うかを決定するシステムのことだ。


 戦闘中、目には見えないヘイト値という値が各プレイヤーには設定されている。これはプレイヤーの行動によって変化するのだが、ヘイト値が高いプレイヤーから優先的にモンスターに狙われるようになっている。


 そして、ヘイト値が上がる行動としては高いダメージを出すことや回復などの支援行動を行うこと、そしてヘイト値を上げる特定のスキルを使うことが挙げられる。


 今回の場合、アーサーやシロが攻撃したことでヘイト値が上がり、グランドベアはそちらを狙ってくる。だが、俺が防御役なので、なんとかこちらに注意を向けなければならない。その為、より多くのダメージを稼いでヘイト値を上げようとしているのだ。


 これが、騎士や戦士といった防御が本職のジョブならば、【挑発】などのダメージを与えないがヘイト値を上げるスキルを使う所だが、残念ながら今の俺にはない。だからこうして地道にダメージを稼いで、他の人のヘイト値を上回るしかないのだ。


 案の定、グランドベアの矛先はアーサーではなく、ダメージを与え続けた俺へと変わった。こちらに向かって熊のパンチが飛んでくる。かなり速い。普通に受けたら吹っ飛ばされるかもしれない。


 だが俺には少し速い、程度にしか感じられなかった。腕の動きからパンチが来るだろう軌道をある程度予測する。そして予測地点から少し横にずれる。


 紙一重の距離でかわせたら、消耗しなくて済むしカッコいいだろうが、まだまだそこまでの境地には達していない。せいぜい人間一人分くらいの距離をとって回避した。ブオン、と大きな風切り音と共に、 グランドベアの腕が俺の横を通過していく。わずかながら風圧を感じる。



「大丈夫かー!?」



 アーサーが心配したのか、向こうから声をかけてくる。無理もない。やはりボスモンスターだけあって、攻撃のひとつひとつが重く、強い。一撃必殺とまではいかなくても当たればひとたまりもないだろう。俺は何か言う代わりに、空いている左手を軽く挙げて応えた。


 再び、アーサーが斬りつけにかかる。シロは火魔法だけでなく水魔法、風魔法と手を変えて攻撃を放つ。魔法の再使用時間(リキャストタイム)を少しでも無駄にしない、基本的な戦術だ。


 さて、戦術としては今のところ上手くいっている。俺は防御役の役割を果たせているし、攻撃役も順調だ。唯一ウルルだけがやることがなくて、立っているだけだがこれは仕方ない。基本は回復役だから、ダメージを受けない限りすることがない。俺が攻撃を引き受けているのでアーサー達は無傷だし、俺も回避に成功しているので、ダメージはない。


 細かいことを言えば、たまに攻撃がかすってHPが減るのだが、そこは回復する程のダメージ量ではないだろう。

【速筆】のスキルとかあったらいいのに……

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