07 情報屋さんと鍛冶師
総合PV10000を突破……!
読者の皆様のおかげです、本当にありがとうございます!
今のところフレンド登録したプレイヤーは、あいつらしかいない。心当たりを頭に思い浮かべながら、メッセージを開く。
送り主はやはりアーサーだった。あの三人の中ではリーダーっぽかったし、予想通りだな。もしかしたらシロかとも思ったが。
内容はこうだった。もう一度交渉がしたいから、場所と時間を指定して欲しいとのことだ。どうやらグランドベアと戦って確認してきたようだな。
よしよし、いい傾向だ。信用が少しずつ生まれ始めている。この分なら、あいつらに情報をもう一回売り付けられるかもしれない。
俺は場所を指定したメールを送った。ちょうどログインしてる訳だし、時間については今からでも構わないと書いておく。
返信はすぐに来た。構わないとのことだったので、早速準備を始めた。
◆◆◆
指定した場所は例によって、大通りから一本外れた人気のない裏路地だ。俺は遠回りして、大通り側とは反対方向から近づいた。
壁の陰に隠れてこっそり様子を窺う。もちろん全身は戦闘用の完全装備に着替えて、正体がわからなくしてある。待ち合わせ場所に三人は既に到着していた。メニューを見たり、武器を振ったりしながら時間を潰している。
……普通に近づいても面白くないな。ちょっと驚かしてやろうかな。
俺の趣味、という訳じゃない。いや、趣味も若干含まれるが。できるだけ話の主導権を握っておきたいからだ。その為には思いっきりビビらせてやるか、下手に出ていい気分になってもらうかどちらかだ。俺の場合は、クールでミステリアスがコンセプトだから前者でやっているだけだ。
そんなことを考えながら、【跳躍】を使って屋根の上に登った。そのまま屋根を伝って移動する。そして三人の後ろに回り込み、飛び降りた。
「待たせたな……」
「「「うわっ!?」」」
着地して姿勢を整えると、気づかれる前にすぐ声をかけた。三人ともいい感じに驚いて後退りしていた。
「おどかすなよ!」
「それで用件は……?」
抗議の声を敢えて無視する。そのままこっちのペースで話を続ける。
「くっ……まぁいい。お前から貰った情報だが、実際に大森林に行って確かめてきた」
「ほう……それで?」
「言った通りだった。グランドベアは情報通りの動きをしたよ」
「少しは信用する気になったか……?」
「悔しいけどな」
なぜ悔しがられるのか、釈然としないが……。まぁ問題ない。今度こそ交渉ができそうだな。
「なら改めて聞こう……情報を買うか……?」
「ああ、売って欲しい……しかし」
「しかし……?」
「この前も言ったが、情報料が高すぎる。何とかならないか?」
困ったような顔つきで頼まれた。まさか前回無料で情報提供したことで、味を占めてしまったのか……? それとも俺が使ったように最初は強気でいく交渉テクニックを使ってきたのか。
いや、よく見ると後ろで控えているシロとウルルは、不安そうな顔つきだ。よく考えたら、三人ともあんまり演技のできるタイプには見えないし、単純に資金が足りないから困っているだけかもしれない。
「ふむ……」
どうしたものか……。頷きながらも考える。値段を決めるのは俺の采配次第だ。ここで割引してやるべきか……あくまで値切りは拒否するべきか……。いや待てよ、これはタイミングがいいというか、チャンスかもしれない。
「なら多少考えてやってもいい……」
「おお! 本当か!?」
「それには条件がある……」
「じょ、条件って何よ……?」
もったいぶるような言い方にしびれを切らしたのか、アーサーを押し退けてシロが前に出てきた。まぁ三人の中でもしっかりしてそうだし、別に誰でも構わないけどな。
「フォールラビットの角だ……」
「「「角……?」」」
「そうだ。それを持ってきたら考えよう……」
これでよし。こいつらが角を集めてくれれば、俺は魔法石集めに集中できる。実質的に手分けして集めたことになり、時間も労力も半分で済む。完璧だ。
「よくわからないが……角を持ってくれば、割引してくれるんだな!?」
「そうだ……」
「よーし、わかった! 早速集めてくる!」
「ちょっと、待ちなさいよ!?」
「ま、待って……!」
宣言すると同時にアーサーは大通りの方に走って行ってしまった。シロとウルルが慌てて追いかけて行く。あっという間に三人ともいなくなった。……毎回立ち去る時どう演出しようか考えていたんだが、手間が省けたな。
さて、あいつらが角を集めてくれるし、俺は魔法石を集めに行くと…………待てよ。
「このまま大森林に行くと、鉢合わせる可能性があるな……」
フィールドは広いし、そんな簡単に遭遇することはないだろう。しかし万が一の可能性はある。もし、出会いそうになったら俺が避けないといけないが、その状態でずっと狩りをするのは効率が悪い……というか、やりにくくて面倒くさい。
どうする? アーサー達はフル装備の俺しか知らないし、素顔も知らない。初心者偽装のままで狩りをするのはどうだ?
いやでも、魔法石を取るには雷系の攻撃を使う必要がある。つまりライトニングダガーの出番だ。もし使ってるところを見られたら、そこから俺の正体を連想するのでは? 序盤で属性武器を使ってる奴なんてほとんどいないだろうし、それが雷属性の短剣なんて、なおさら範囲が絞られるだろう。
覚えたばかりの雷魔法を使うのもいいが、命中率に不安が残るし、MPも少ないから連射はできない。
「少し時間をずらそうか」
やむを得ない。バレる可能性は少しでも排除しておきたいし。余計な行動でバレたとなったら、間違いなく悔いが残る。
そうなると何をしようか。ログアウトするには少々早いし、大森林にはいけない。街の中で過ごすしかないが何しようか?
いやいやよく考えろ、俺。こういう時こそ情報収集のチャンスと見るべきだ。どんな事だろうと一番大事なのは、下準備。そしてそれを支える基本だ。
俺の場合は情報収集が全ての基本であり、下準備。街中をうろうろして、噂話に聞き耳を立てるとしようじゃないか。
◆◆◆
「今日も人が多いな……」
ゲームが開始して数日。プレイヤーは思い思いにゲームを遊び始めたばかりだし、人口もかなりのものだ。
『ビリオン』の初回販売数は決まっており、プレイヤー人数も制限されているものの、それでも多く見える。ちなみに俺は奇跡的に購入することができたタイプだ。
眺めていてふと思った。そういえばゲームといえば戦闘だけでなく、生産もできるはず。
「生産職について調べてなかったな」
これは迂闊だった。できるだけ広い範囲の情報を知っておくべきなのに、うっかりしていた。メニューからメモ機能を立ち上げると、以前の聞き込み情報に目を通していく。
「生産、生産……と。あったあった。鍛冶場の場所があったな」
一通り知っておいた方がいいし、少しだけ覗いて見ようか。
鍛冶場は大勢人が集まっている……というほどでもなかった。街の中心に近いが、建物に目立った特徴はない。そのせいか一般のプレイヤーからすれば、特に気にならない場所のようだった。
入る前に、窓からこっそり覗くことにした。大勢に注目されて目立つのは避けたいからな。
入口から回り込み、壁沿いに歩いていく。ちょうどいい高さに窓があったので、そこから様子を窺ってみた。
中は広い空間だった。いわゆる「炉」がずらりと並んでいて、その前が作業スペースといった感じだ。槌や火箸がきちんと揃えられている。
カーン、カーンと金属を打つ槌の音が響き渡り、窓からでも炉の熱気が伝わってくる。かなり本格的な再現度だ。……鍛冶場を見学したことはないけど、多分実際に行ったらこんな感じなんだろうなぁ。
「うおっ!?」
しみじみ思っていたその時だった。突然ボンッ、と爆発音のような大きな音が聞こえてきた。反射的にそっちの方に顔が向く。
「けほっ、けほっ……」
もくもくと炉から煙が上がっており、その前で咳き込んでいる人が一人いた。 立ち上がって周りを見回している。よく見ると女性だった。作業服を着て、頭に巻いたタオルで髪をまとめている。
「何やってんだ。だから無理って言ったろ!」
「おかしいな、今度こそいけると思ったんすけど……」
「何回やっても無理なもんは無理だ!」
丸刈りにした大柄な男性が駆け寄ってきて、女性と話している。どうやら小言を言っているようだ。一方、女性の方は首を傾げるばかりで、怒られていることなど気にも留めていない。
「全くお前は……! いいか、次やったら追い出すからな!」
女性が全く堪えていないのがわかったのだろう。男性はそう言い残すと、自分の作業場所らしき所に戻って行った。対して女性は未だにブツブツ呟きながら考えている。しばらくそうしていたが、頭をクシャクシャとかきむしると、槌を手に取り作業を再開していた。
なんだろうあの人は……?
俺は入口側へと戻り、今度は堂々と入った。思ったよりも人は少ないし、そんなに気にしなくていいだろう。みんな自分の作業に集中していて、特に俺の方に目を向けたりしない。先ほどの男性に近づいていき、話しかけることにした。
「あのー、すいません」
「ん? なんだ?」
「さっき、なんか爆発起こってませんでした?」
男性は強面だが、見た目よりは人当たりが良かった。俺の質問に対して、気さくに返してくる。
「ああ……。あいつの事か。数日前にやって来た来訪者なんだが、ワケわからん事ばっかりやっててな……」
おかげで何度も爆発騒ぎだよ、とぼやいていた。どうやら常習犯らしいな。来訪者ってことはプレイヤーだし。ちなみに男性の方はNPCだ。
生産職なのは間違いなさそうだが、何度も何度も爆発させるとは一体何をやってるんだろうか? 好奇心がうずくな。
「大変そうですねー」
「んー? 何っすか?」
俺は早速件の女性に話しかけていた。初対面だが、さも知り合いかのような口調で話しかける。情報屋にはコミュニケーションも必須の能力なのだ。まあ図々しさとか強引さとも言えるけどな。
「いや、なんか上手くいってないって聞いたから……」
「そうなんすよ! 聞いてくれるっすか!?」
「お、おう……」
詰め寄られて、つい仰け反ってしまった。思ったよりグイグイくるタイプの人みたいだ。勘だが、これは話が長くなりそうな気がする。
案の定、長々と生産について、主に鍛冶スキルについて語られた。チュートリアルだけじゃわからないことが多くて苦労した、とか素材を叩く回数が多くても少なくてもダメ、とか。こっちが質問しなくてもガンガン話題が出てくる。おかげで一気に鍛冶について詳しくなった。
「で、これがあたしが打った剣っす!」
「ほう、これは……!」
驚いた。見せてもらったロングソードだが、武器屋で売っているものより、ほんのわずかだが性能が良かった。ゲーム開始してからの短期間で、こんなものを作れるなんて……見た目はバカっぽいが、意外と一流の生産職なのかもしれない。好きなことに熱中すると周りが見えなくなる、典型的な職人気質みたいだし。
「そ、それでどうして爆発が?」
「爆発っすか?」
何とか話の切れ目に割り込むようにして、質問してみた。話を遮ったので怒るかとも思ったが、特に気にした様子もない。頑固ではあっても怒りっぽくはなさそうだ。
「聞きたいっすかー?」
「え、ええ」
「どうしてもっすかー?」
「まあ……」
「なら仕方ないっすねー!」
自慢気な顔で焦らしてくるから、若干イラつく。いやここは我慢だ、我慢。タダで情報を次々出してくれるんだから、多少のことは目をつむらないと。
「実は今、新たな発想を試してるところなんすよ」
「新たな発想とは……?」
「ズバリ、魔法武器の開発っす!」
なるほど。現在店に置いてある武器は基本的に無属性のものしか無い。俺は魔法石を見せて属性武器を作ってもらったが、あれに気付いた人は、おそらくまだいないだろう。
魔法石の入手方法にはなかなか気付かないだろうし、俺が製作してもらえたのも、【話術】があったおかげだと思う。
「魔法の属性を持った武器を、自分で開発できたらかなり戦闘に幅が広がると思うんすよねー」
「それは確かに」
「だから試しに素材に魔法をぶつけながら打ってみたら、魔法武器になるんじゃないかと思ったんすけど……」
「バカなの?」
ついうっかり、本音が出てしまった。しかし本気でそう思う。炉に向かって魔法なんか撃ち込んだら、そりゃ爆発もするだろうさ。天才的な腕だと思ったが、やっぱり天才なんて人種はどこか常識外れだ。
「バカとはなんすか、バカとはー」
ぶーぶー言いながらほっぺた膨らませていたが、これは怒られるのも当たり前だ。良い子は絶対真似しちゃダメ、ってやつだ。
「いやそんなんで属性武器が作れる訳ないだろう?」
「えっ?」
呆れながら指摘した。すると、不思議なことが起こった。彼女がピタリと動きを止めて、そのまま動かなくなったのだ。おかしいな? 急にどうしたんだ?
「あのー……?」
「今……」
「えっ?」
「今なんて言ったっすか?」
「なんて、って……」
「属性武器って言ったっすよね、魔法武器じゃなくて」
「あっ!?」
まずい……。ここまで言われてなんとなく察しがついた。彼女はさっきから魔法武器と言っていた。おそらくこのゲームにおける名称がわからないから、仮にそう呼んでいたのだろう。
しかし、俺は属性武器と言ってしまった。これはつまり、俺が何か知っていると言ったに等しい行為だ。
しかもその後の対応がよくなかった。俺は今、思わず驚いてしまった。冷静になれば誤魔化すこともできたかもしれないが、これでは更に相手に確信を持たせてしまう。
「なんか知ってるんすね……? 魔法……じゃなくて属性武器の情報を……!?」
「…………」
俺は無言にならざるを得なかった。それにしても迂闊だった。今は一般人モードだったから気が抜けていた。まぁ失敗は仕方ない、切り替えるとしても、この後の対応をどうするかだ。
情報を売ること自体は構わない。問題なのは、この状態でばれてしまったことだ。
状況を整理しよう。現状で属性武器、ライトニングダガーを持ってるのは俺ぐらいだ。もし彼女に情報を渡したとして、そこから俺と|情報屋〈カラス〉が同一人物と結びつけて考えるのは難しくないはず。それで正体が広まったりしたら……まずいな。
「お願いっす! どうか教えて下さいっす!」
「お、おい!」
そうこう考えてるうちに動きがあった。なんと彼女は土下座したのだ。なんとか頭を上げさせようとするが、びくともせずにその体勢を保っている。やはり鍛冶師だけあって、腕力が相当高いのか。
周りがざわざわと騒がしくなってきた。見回すと何人か怪訝そうな顔でこちらを見ている。ヤバい……! 目立つ行為だけは避けねば……!?
「わかったわかった! ちょっとついて来い!」
教えるかどうかさておき、とりあえずここを離れるのが最優先だ。
◆◆◆
「ふぅ……危なかった……」
「で!? 教えてくれるんすか!?」
「…………」
鍛冶場の裏手から少し離れた路地まで連れてきたが……俺が足を止めるなり、再び土下座してきた。そのまま下を向いて喋っている。
極論を言ってしまえば、これはたかがゲームだ。それなのに、そこまで真剣に額を地につけることができるなんて……この人、なかなかの根性だな。周りに人がいないとはいえ、よくやるもんだ。いや、さっきは周りに人がいてもやってたな……。
「お願いっす! どうしても知りたいんす!」
なんというか、このゲームに対する熱意みたいなものが見えた気がする。そう考えると、俺が打算的に感じるな……。
……もういいか。正体を隠してたのだって、聞き込みの際にメリットがあるからだし。バレたらバレたで、この自慢の速度を使って、皆が買いたくなるような情報を実地で集めるだけだ。うん、そう考えたら気が楽になってきた。よくよく考えたら、そこまでデメリットがある訳じゃないな。
「……ちょっと待ってろ」
メニューを操作してしまって置いたライトニングダガーと魔法石を取り出す。これでよし。
「そこまで言うなら、特別に教えてやってもいい」
「本当っすか!?」
ずっと顔を伏せたままだった彼女が、俺の言葉を聞くや否やガバッと頭を上げた。顔に希望が浮かんでるようだ。
「ただではダメだ。情報を買うなら教えてやろう」
「? 教える代わりにお金を払えってことっすか?」
「ま、まぁそうだな」
「了解っす!」
素直に従ってくれて助かった。とりあえずライトニングダガーと魔法石を見せてやった。もちろん入手の経緯も話した。ただし、魔法石の入手方法についてはまだ秘密にしておいた。
「ふおおぉぉ……! ライトニングダガー……? 魔法石……? こんなアイテムがあったんすか……!?」
感動したのか、膝立ちのまま二つのアイテムを掲げて打ち震えていた。……なんか宗教っぽくて怖いな。
「ありがとうっす……! 本当に感謝するっす……!」
「そこまで喜んでくれると、こっちも嬉しいがな」
すごい喜びようだった。俺の両手を握ってブンブンと振る。見ただけじゃ、どうやって魔法石を武器に加工するとか俺にはさっぱりだが、鍛冶師としては何かしらヒントになったようだ。
情報料として結構多めに払ってもらえたし、こっちとしても大満足だ。ただ……。
「なぁ、ちょっと頼みがあるんだが……」
「何すか?」
「悪いけど、俺のことについては黙っててもらえないか……?」
「どうしてっすか?」
俺は事情を説明した。正体を隠して情報屋をやってることを。口止めが効果あるかわからないが、やれるだけのことはやっておかないと。
「そういうことっすか……。もちろんっすよ。そんな、言い触らしたりしないっす!」
「本当か……?」
「もちろんっす」
てっきり強引な人かと思ったけど、意外と親切ないい人じゃないか。口止めの代わりに、何か要求されてもおかしくないのに、特に何も求めてこなかった。
「あたしはあたしで、鍛冶師のプレイを楽しんでるっす。あなたも同じ、|RP〈ロールプレイ〉で遊んでるのに、それを邪魔したりしないっすよ」
予想以上に人間のできた人だった。なのに何故、炉に魔法をぶち込もうなんて発想が出てくるんだろうな……。
気を取り直して、せっかくだからフレンド登録しとこう、という話になった。隠す必要もないし、本名を教えることにする。
「あたしはキジトラ。見ての通りの鍛冶師っす」
「俺はカラス。情報屋の盗賊だ」
握手に応じた後、キジトラはにこりと笑っていた。
◆◆◆
さて、キジトラが鍛冶場に戻って行った後、俺はまだ路地裏に留まっていた。実は先ほどアーサー達から連絡が入った。
『約束のものが集まったから受け渡ししたい』
とのことだったので、ここで落ち合う予定取るなったからだ。なので、フル装備に着替えて、こうして待ち構えていた。今回は残念ながら、驚かすのは無理そうだな。
数分後、アーサー達が現れた。
「よう、約束の品を持ってきたぜ」
「確認させてもらう……」
メニューからアイテム交換の申請を出す。ここで便利なのは、アイテムと金銭を交換できるということだ。このシステムにより、交渉の際に片方が持ち逃げ、などのトラブルを防止できる。
ちなみに先ほどキジトラにアイテムを見せた時は、このシステムを使ってない。お金を受け取った後、メニューを使わずに直接アイテムを手渡しした。こうすることで所有者の認定が俺のまま、渡すことができたのだ。
さっきもし、仮にキジトラがアイテムを持ち逃げしてたら? 一定以上離れたアイテムは所有者のところに自動的に戻るシステムとなっている。だから安心して渡せた訳だ。
「よし、交渉成立だな……」
アイテムを受け取ったところで、以前言わなかった残りの情報を教えてやる。言ってるそばから俺が持ち逃げするような真似はしないさ。
これでフォールラビットの角は用意できた。後は魔法石を集めに行くだけだ。俺がさっさと森に行こうとしたその時……。
「ちょっと待ってくれ!」
「ん……?」
急に呼び止められた。振り向いて見ると、アーサーは真剣な表情でこっちを見つめている。後ろで控えるシロとウルルも同様の顔をしていた。
「どうした……? まだ何か用か……?」
「頼みがある」
「ほう……」
これは予想外だ。向こうから頼みごとをしてくるとは。だが、これはむしろ正しいのではなかろうか。
「~が知りたい」から、情報屋の俺に調べてくれと頼む。本来はこれがあるべき形のはずだ。いよいよ俺も本格的に情報屋になってきたとワクワクしながら、次のセリフを待つ。
「とりあえず頼みとやらを聞こうじゃないか……」
「それは……」
「それは?」
「そのう……」
「はぁ」
少し俯いていたが、意を決したのかはっきり顔を上げた。そしてこっちをまっすぐ見つめてくる。
「俺たちと……パーティを組んでくれ!」
「…………………………………………はい?」
次の目標は合計1000Ptです。
引き続きよろしくお願い致します。