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情報屋さんは駆け回る  作者: 仮面色
第1章 ニューゲーム
6/25

05 情報屋さんと顧客

なんで急にブクマ数が増えたのでしょうか……

 収穫に喜んでいた、その時だった。少し離れたところから声がしたのは。何やら叫んでいるようにも聞こえる。恐らく戦闘中なんだろう。違う声が聞こえてくるから、おそらく一人じゃないな、これは。


 そういえば、俺はパーティの戦闘って見たことないなぁ……。試しに見てみたら参考になるかもしれない。ちょっと覗いてみようか。


 ただ、あんまり堂々と姿を晒すのは気が進まない。目立ってしまうと、情報屋として支障をきたすからな。



「『ハイジャンプ』」



 スキルで木の上まで登る。そしてそのまま、枝を飛び移って声のする方へと移動し始めた。幸い木の生えている間隔が狭いので、大した距離を飛ばなくても隣の木へと移れる。


 ある程度距離を進むと、徐々に声が大きく聞こえてきた。一旦足を止めて枝の上でしゃがみこむ。一応消音スキルがあるし、気づかれる心配はないだろうが、念のためにな。



「さて……ん? あれは……」



 下を見渡すと、そこにいたのは紛れもなく、前回俺が逃走した相手、グランドベアだった。後ろ足で立ち上がり、大きく腕を振って爪を振り上げている。



「グオオオォォォォ!!」

「くそっ、こいつ強すぎだろ!?」

「だから無理って言ったでしょ!?」

「も、もめてる場合じゃないよ……!? は、早く逃げないと……!」



 そしてグランドベアと相対しているのは、三人のプレイヤーだった。


 一人は大剣を振り回している剣士。動きやすそうな革の鎧を身に付け、軽快に動き回っている。赤い髪をさっぱりと短めに切り揃えて爽やかな感じだ。


 その横の金髪の少女は、典型的な魔法使いだろう。黒っぽいローブを着て杖を構え、ファイアボールをグランドベアの顔目掛けて撃ち込んでいる。


 そして二人の後ろでおろおろしている、髪の長い神官の少女。回復魔法を使おうとしているのだろうが、二人の動きにタイミングが合わないのか、なかなか発動してない。



「うわやべっ!?」

「きゃあ!? ちょっと、しっかり引き付けてよ! 危ないじゃない!?」

「そんなこと言ったって、無理だろこれ!?」

「ふ、二人とも、喧嘩してる場合じゃないって……!」



 グランドベアは剣士を思い切り殴り付けた。剣士は素早く剣でガードしていたものの、数メートル吹き飛ばされてしまう。そして、そのタイミングで顔面に魔法が直撃したことで、グランドベアの注意は魔法使いに向かう。魔法使いは攻撃される前に慌てて後ろへと下がった。


 なかなか苦戦してるようだ。連携も上手くいってなさそうだし、グランドベアの強さよりも彼らがまだまだ弱いんだろう。ここからでも見えるが、グランドベアのHPは二割も減っていない。対する彼らは疲れているように見える。ダメージが結構蓄積しているな。



「グルァァァ!」



 観戦してるうちに、グランドベアに動きがあった。鳴き声と共に、両腕を振り上げ万歳のようなポーズを取った。その体勢のまま、手の爪が光り出す。次の瞬間、両腕を振り下ろした。爪の一本一本から三日月状の光が飛び出し、合計十本の光がパーティに向かって飛んでいく。



「しまっ……!?」

「きゃあ!?」

「えっ!?」



 思いがけない攻撃に怯んだ彼らは直撃を受けてしまった。そして三人ともそのまま倒れてしまう。そのまま動かなくなったと思えば、体が白く光っていく。全身が光って見えなくなったところで、パッとこの場から消えてしまった。


 なるほど……初めて見たが、おそらくあれがプレイヤーの死亡演出なんだろう。徐々に消えていくのは、復活魔法を使う為の猶予といったところか? まぁなんにせよ、彼らは街の教会で今頃復活しているはずだ。



「まぁ単純に、準備と実力不足だろうな……」



 木の上から一部始終を見させてもらったが、初見でグランドベアに勝つのは難しいだろうな……。さっきの爪の攻撃も全然対応できてなかったし。


 ふとグランドベアの方を見ると、固まっていた。いや、正確には爪を振り下ろした体勢からそのままだった。丸まった背中には、傷のようなものが見える。それからすぐ顔を上げると、辺りを見回す。周囲を確認した後、その場に丸くなって寝転んでしまった。HPがゆっくりと増えているのが見える。あれが回復の為の行動なんだろう。



「さっきの動き、あれは……」



 爪を振り下ろした後、数秒だが動きが止まっていた。もしかして、あれは必殺技の後の隙みたいな物じゃなかろうか。そういった隙が設定されてるのか……?



「もし、そうだとしたら……動きにパターンがあるのかも……」



 せっかく目の前にいるんだし、これは確認の機会かもしれない。準備も万全じゃないし、勝つのは無理だろう。だが、このスピードを活かせば、逃げながらパターンを確認することはできる……はず。やってみるか。



「『潜伏』」



 気配を殺して、木の上から飛び降りた。足に力を入れて着地の衝撃を中和する。一瞬ビリッとしびれたが、痛いと感じるほどじゃない。【消音】スキルのおかげでさっきからの行動は非常に静かにできた。グランドベアはピクリとも動かず、目を閉じて寝転んだままだ。


 そのまま近寄る。急がないと潜伏の効果時間が切れる。ぐるりとグランドベアの周りを回ったが、やっぱり目につくのは背中についている大きな傷だった。一面に広がったバツ印のような十字傷。攻撃してみる価値はあるかもしれない。


 腰の鞘からライトニングダガーを引き抜き、逆手に持つ。そして思いっきり振り上げて力いっぱい刺した。潜伏が解除される。



「グルァァァァァァ!?」

「ちっ!」



 グランドベアは瞬時に反応し腕を振って暴れ始めた。急いで離れるが、ギリギリ間に合わない。わずかに爪が腕に掠めるが、なんとか致命傷は避けた。体勢を立て直して、グランドベアを改めて確認する。HPが二割ほど減っていた。


 ボスモンスターともなれば、決して簡単に倒せるような存在じゃない。にも関わらず、たった一撃でここまでHPが減るなんて、普通のモンスター並みだな。やはり背中の傷跡は弱点と見ていいだろう。そうだ、見ると言えば今なら【識別】が使えたんだ。



「『識別』」



─────

グランドベア


大森林のボスモンスター。速度は遅いが、攻撃は重く強い。

弱点は背中の古傷。


─────



 おお……以前はところどころ読めなかった部分が、はっきり読めるようになっている。これで確認もとれた。弱点は古傷だ。後は攻撃パターンに何か法則がないか、確かめたいところだ。ひとまず回避に専念して様子を見てみよう。




◆◆◆




「ふむ……こんなところか」



 しばらく、見極めに徹したことでだいたい分かってきた。あの必殺技らしき攻撃……仮に爪飛ばしと名付けよう。あれは、近くで戦っている間は使う気配がない。相手が一定以上の距離を離れると使ってくるようだ。さっきのパーティに使ったのも、吹き飛ばされて全員が距離を取ってしまったからだろう。


 そして爪飛ばしの発動後、約三秒動きが止まる。これはかなり使える情報だ。停止中に後ろに回り込んで、背中に攻撃を仕掛ける。これを繰り返せば、倒せる確率は大幅に上がるだろう。


 ボスにしては弱点がわかりやすいと思うが、最初のボスということもあるし、そこまで難易度は高くないのだろう。


 他にも、連続で殴り付けてくるとか、腕を大振りにしての一撃とか、三、四種類の攻撃パターンを確認することができた。おそらくパターンはこれで全部……だと思う。


 このままひたすら逃げ回って時間を稼ぎ、隙をついて傷痕を狙う。そういうヒット&アウェイ戦法を使えば、グランドベアをソロで討伐できるのかもしれない。しかし、それでは困るのだ。正確には、困るかもしれない。


 MMORPGでは結構よくあることだが、例えば重要なボスモンスターを倒した時など、全プレイヤーに向けてアナウンスが流れることがある。そのモンスターを倒したことで、新たな街に行けるようになった場合とか。


 その場合倒したパーティ名、もしくはプレイヤー名が公表される可能性がある。最近は個人の権利等でうるさいし、可能性はそこまで高くないが……しかし万が一公表されてしまったら、非常にまずい。影の情報屋ポジションのはずが、トッププレイヤーのような扱いをされてしまう。ソロで討伐とかどんな奴なんだと噂になったら、逆に俺が調べられる立場になってしまう。気にしすぎと言われるだろうが、そこは気にしまくっておきたい。


 という訳で、グランドベアは誰かに倒させようと考えている。問題は誰にするかだが……。まぁ弱点はわかったことだし、その件は置いといてひとまず撤退するとしよう。……なんか撤退ばかりしてる気がするな、俺。



◆◆◆



 加速を上手く使って移動すれば、街まで戻るのに五分とかからなかった。相当速くなってるな。


 さて、戻ってきたのは他でもない。グランドベアの弱点の情報を誰かに売り付ける為の客探しだ。しかし、そんな簡単にはいかない。扱う商品が情報である以上、店を開くことはできないし、ましてや道の真ん中で堂々と商売なんてできる訳がない。


 だが、客を探すだけならむしろ、大通りをうろつく必要がある。その為には戦闘用の装備は不要だ。全身を隠す黒いコートに帽子、そして毒々しい色合いのブーツ。これじゃあ怪し過ぎる。もちろん、街中にはでかい鎧をつけたプレイヤーもいるにはいるので、特別目立つ訳じゃない。だが、印象に残るような格好はNGだ。


 よって俺は今、装備を全部初心者用と入れ換えていた。これでどこからどう見ても立派な初心者だ。いや、数日前にゲーム開始したばかりなので、初心者の域なのは間違いないから……なんかややこしいな。とにかく、無害な初心者の振りして見定めている最中だった。



「目ぼしいプレイヤーが通りかかればいいんだが……」



 こんな時こそ俺の自慢…………できるほどでもない特技、聞き分けの出番だ。


 神経を耳に集中して、必死に会話を聞き取る。その間は壁に寄りかかり、メニューを操作している振りをしていた。そんな中気になる会話が聞こえてきた。



「もー! あんたのせいで死んじゃったんでしょ!」

「だからごめんって……。そんな何度も怒るなよ……」

「お、落ち着いてよ。アーサーだって反省してるんだし、ね?」



 この声……間違いない。さっきグランドベアにやられた三人組の声だ。さりげなく目を向けると割と近くにいた。通りの隅であれこれ会話しているようだった。



「だからさ、あれは勢いが足りなかったんだ、きっと! 今度はバーンと行って、ドーンと撃ち込めば勝てるはずだ!」

「意味わかんないんだけど!? あんたがばか正直に突っ込み過ぎなのよ!」

「え、えっと、慎重に薬とか多めに持ってくのはどうかな……?」



 ふむ、だいたいの推測だがおそらく、直情的な剣士にそれを抑える魔法使い、そしておとなしい神官ってところか。性格と役割がぴったりって感じだな。


 ……こいつらにしてみるか? 見たところ悪い連中ではなさそうだ。なんというか……素直なタイプというか。例えば俺が情報を渡したとして、こいつらは素直に信じて活用するだろう。情報を転売するような、悪用方法なんて考えつかなそうだ。


 とりあえず話すだけ話してみるか……。ダメそうだったら別の強そうなパーティを探して売ればいいだけだし。それに敢えて、トッププレイヤーじゃなくて、こういう連中に売った方が面白そうだ。俺の情報のおかげで一流の仲間入りできた……とかなったら嬉しいしな。


 その前に鑑定しておくか。さっきは戦闘を見守るばかりだったからな。



「『鑑定』」



─────

アーサー 剣士 LV6


─────

シロ 魔法使い LV6


─────

ウルル 神官 LV5


─────


 人物、特にプレイヤーを鑑定する場合は詳細な情報はわからない。せいぜい名前と職業とレベルくらいだ。まぁ当たり前と言えば、当たり前だな。そんなホイホイ他人の情報がわかったんじゃ、対人戦なんかやる時に手の内がバレバレになってしまう。


 ふむ。職業は予想通りだし、グランドベアに挑むだけあってレベルもまあまあ……。これならきちんと教えれば、グランドベアを倒すのも難しくないだろう。


 後は、どうやって声をかけるかだが……ん? 考えながら見てると、三人は歩き出した。おれもゆっくりと歩き出し、尾行を開始する。


 しばらく進んだところで三人はあの薬屋の前で止まった。どうやらアイテムを買い揃えるつもりらしい。三人が店に入っていったのを見計らって、俺は隣の路地に入る。そしてメニュー画面から戦闘用の装備を身に着けていく。


 よし、できた。これでどこからどう見ても怪しいプレイヤーだ。あれおかしいな、何も間違ってないのになんか涙が……。


 気を取り直して準備を続ける。後はこちらが『鑑定』されてしまった時の注意だな。彼らが鑑定を持っているかどうかはわからないが、念を入れておいた方がいいだろう。いよいよ【偽装】スキルを試す時がきたようだ。


 メニュー画面から偽装を選択すると、新たに入力画面が出てきた。一部の表記変更というのは鑑定で確認できる項目、すなわち名前と職業とレベルを弄れることのようだ。俺にとっては好都合だ。



「どうしようか……今のプレイヤー名がカラスだから……クロ……バード……いやいや、カラスを連想するような名前にしてどうする」



 首を振って頭から候補を振り払う。……待てよ? むしろ名前はそのままでもいいかもしれない。この名前で情報屋をやって、一般人に変装する時は偽名を使う。その方がわかりやすいじゃないか。よし、このままでいこう。……まあ一応、偽名自体は考えておこうかな。



「カラスと無関係なもの……空……海……海で隠れる…………よし、ヤドカリにしよう」



 そうだ、名前じゃなくて職業とレベルを変えておこうか。あれこれ入力できるかどうかを試す。しばらく試してわかったが、職業とレベルは書き換えるというより、不明な状態にするのが精一杯のようだった。『LV??』のような感じだな。とりあえず不明に設定しておく。


 そうこうしている内に時間が経っていたようだ。路地から顔だけ出してこっそり様子を窺うとちょうど、三人が店から出てきた。


「ゴホン! あーあー」



 意識して少し低めの声を出す。喋り方も少し重々しくした方がいいかな? これぞまさにロールプレイって感じだな。


 こちらに近づいてくるタイミングに合わせて、声をかける。



「そこの君ら……」

「「「!?」」」



 三人ともめちゃくちゃ驚いていた。挙動不審な感じに辺りを見回している。剣士の奴……アーサーなんかは慌てて剣を抜いていた。……街中では戦闘行為ができないから、あんまり意味はないんだけどな。



「…………ひゃっ!?」



 ようやくこちらに気づいたようだ。俺を見て少し後退りしていた。俺も軽く後ろに下がりながら、誘い込むように静かに手招きする。


 三人は顔を見合わせていたが、おそるおそる路地へと入ってきた。アーサーは剣をこちらに向かって構え、女子二人を後ろに庇うようにしながら近づいてくる。


 よし、ここからが交渉……俺の話術の見せどころだな。



「な、何者だ、俺達に何の用だ!?」

「まあ、そう警戒するな……。怪しい者……かもしれないが敵ではない……」



 格好のせいか、相当怯えられてるようだった。流れで怪しさを否定しようとしたが、流石に説得力が無さすぎるのでやっぱりやめておいた。



「敵じゃないって……じゃあ誰なんだ?」

「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないか……?」



 テンプレートなやり取りだが一応やっておく。名前はもう知ってるので、名乗らせるのに意味はない。だがこういうやり取りで動揺したり怒ったりすれば、話の主導権を握りやすくなる。



「ぐっ……俺はアーサーだ」

「シロよ」

「えっと、ウルルです……」



 アーサーは不本意そうだったが、言ってることは正しいと思ったのか素直に名乗った。シロとウルルもそれに習って各々名乗る。



「俺はカラス……情報屋だ」



 そして遂に言ってしまった。他人に向かって情報屋を名乗るのはこれが初めてだ。ここまできたら後には退けない。凄腕の情報屋になる為に頑張らねば。ここが第一歩だ。



「情報屋……? よくわからないけど、怪しいな!」

「つれないな……。せっかくいい情報を教えてやろうと思ったのに……」

「いい情報……?」

「ああ、熊に関する情報……なんてどうだ?」

「「「!!」」」



 効果は覿面だった。三人とも驚いた顔でこちらを見つめている。



「熊って、あの大森林に居るやつのことか……?」

「そう、その熊についてだ……。もし良かったら情報が必要かと思ってな……」

「あんたは何か知ってるの……?」



 よしよし、いい感じに俺の話に引き込まれているようだ。このままこちらのペースで話を進めよう。



「知ってるぞ……。名前とか戦い方とか、弱点とかな……。どうだ、知りたくないか……?」

「な、何だって……! 頼む! ぜひ教えてくれ!」

「ちょっと!?」



 少し話を匂わせると、アーサーはためらいなく頭を下げてきた。それを見たシロがあたふたと慌てている。



「いいだろう……特別に教えてやろう……ただし」

「おお! 助かっ……『ただし』……!?」

「もちろん、ただじゃない……」



 ただじゃない、と言った途端、シロはこっそりメニュー画面を開いて見ていた。おそらく所持金がどのくらいかを確認してるんだろう。今も買い物したばかりだし。



「いくらくらいだ……?」

「まとめて二十万ほどだな……」

「二十万!? そんな大金持ってねぇよ!」

「なら仕方ない……他の奴に売るとしよう……」



 最初のチュートリアルで俺が得られた金額が十万。他の職業のチュートリアルがどんなものかは知らないが、仮に三人ともクリアしたとして最高は多分三十万のはず。武器とか装備を揃えたりで、減ってるだろうからおそらく無理だと思って吹っ掛けたが、予想通りの反応だな。


 交渉の基本はまず、最初は強気でいくこと。そこから徐々に妥協する振りして、本当の要求まで近付けていく。本で読んだ程度の知識だが、案外上手くいきそうだ。このままロールプレイを続行しよう。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」



 俺があっさり諦めて帰る振りをすると、案の定呼び止められた。情報を匂わせた時の反応から、グランドベアについて知りたがっているのは明白だったし。



「何だ……?」

「二十万は高過ぎるわ。何とかならない?」



 よしよし、値下げを要求してきた。もう一押しだな。



「なら、十五万でどうだ……?」

「まだちょっと……もう一声!」

「なら十三万だ……」

「十一万!」

「待って!?」



 値切りが白熱してきたその時だった。後ろで控えていたウルルが甲高い声を上げた。



「ウルル、どうした?」



 俺の方を見て震えているようだった。そのままゆっくり指差してくる。



「そ、その人、鑑定が効かないんだけど……!?」

「「えっ!?」」



 なんかおとなしいと思ったら、俺のことを探っていたのか。おそらく彼女の目には鑑定結果がこんな感じで見えてるはずだ。



─────

カラス ?? LV??


─────



 我ながら圧倒的なまでの不審者感。プレイヤーじゃなくてNPCと思われてもおかしくない感じだ。


 警戒しているのか、再び距離を取られてしまった。だがこのままでは話が進まない。強引だが話を元に戻そう。



「そんなこと、今はどうでもいい……十二万で買うのか、買わないのか……?」



 どさくさに紛れて値段を十二万にしておく。この辺が値段の落とし所だろう。しかし、アーサーとシロは疑惑の目で見るのをやめなかった。



「……そもそもあなたの言ってることが本当かどうか、わからないじゃない」

「そうだな、嘘をついて金を騙し取るつもりかもな」



 しまった、警戒されたことで根本的に疑われたようだ。この辺が情報屋の難しいところだ。形の無いものを扱う以上、最終的に最も重要なのは信用だ。


 仕方ない……ここはこちらが譲って、何とか信用してもらおうか。多少損をするのも覚悟の上だ。



「なら特別に、一部情報を無料で教えてやろうか……?」

「! それは……」

「それを確認した後、俺を信用できると思ったなら再び買いに来るといい……」



 その言葉に三人は固まって相談し始めた。小声で話しているので、流石の俺も内容までは聞き取れない。しばらくした後三人は頷き、代表してアーサーが前に出てきた。



「あんたが信用できるかはまだわからない。が、とりあえずその一部情報ってのを教えてくれ」

「いいだろう……」



 先ほど調べたグランドベアについての情報のうち、攻撃パターンを二つ教えてやった。こいつらも戦ってたから実際に見たかもしれないが、見ただけと言葉にして知識として知っておくのでは、対応が違ってくるはず。流石に爪飛ばしと弱点の傷痕については教えてやれないがな。



「なるほど……わかった」

「信用できると判断したら、買いに来るといい……」



 全員とフレンド登録して、連絡が取れるようにしておく。その際、情報は早い者勝ちと釘を刺しておいたが、表情が固くなっていた。おそらくこの後、すぐに確認しにいくんだろう。



「じゃあな……『ハイジャンプ』(ボソッ)」



 俺は別れの挨拶をしながら、一瞬彼らの後ろに目を向けた。視線に気づいた三人は、ほぼ同時に後ろへ振り返る。その瞬間を狙ってアーツで跳躍する。


 手を伸ばして屋根にしがみつく。そのまま力を込めて何とか登りきった。【消音】のおかげで音はしないし。



「あ、あれ? いないよ!?」

「どこ行った!?」



 下から慌てる声が聞こえてくる。ここで下を覗き込んで、うっかり見つかるような真似はしない。あくまで声を聞き取るだけだ。


 冷静になれば、彼らもメッセージを送ればいいと気付くだろう。だが少なくとも、ミステリアスな情報屋の印象を与えることができたはず。



「よし……第一歩としては上々かな」



 後は彼らが顧客になってくれることを祈るばかりだ。誰かに見られないよう、姿勢を低くして屋根の上を歩く。そして少し離れた路地に向かって静かに飛び降りた。

そろそろストックが少ないので、毎日更新は難しくなるかもしれません。

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