03 情報屋さんと中心部
ブックマークしてもらえるなんて……感謝の気持ちで一杯です。
そーっと、そーっと、触れないように気をつけながらグランドベアの横を通り過ぎる。座り込んでいるものの、いつ起き上がって歩き出すかわからない。そして、どっちの方向に行くかもわからない。
いくら気付かれてないとはいえ、早めに離れるに越したことはないのだ。
なんとかグランドベアに触れずにある程度離れると、全力で走った。もちろん【加速】も併用して力いっぱい走った。途中モンスターか何かがいたような気もしたが、見てる余裕はなかった。というか、加速で木にぶつからないようにするのに必死だった。
しばらく走っていると、あのひんやりした感じが切れたのがわかった。どうやら潜伏状態が解除されたらしい。
立ち止まって辺りを確認する。モンスターは特に見当たらないようだ。木に寄りかかって一旦落ち着く。
しかし、危なかった……。あれは初心者装備で相手するような奴じゃないな。おそらく運営側の想定では、森のモンスターを倒して力をつけてからグランドベアに挑む、みたいな流れなんだろう。
「えーっと、マップで見ると……森の中心部まではあと少しみたいだな」
ここまできたら、中心部を確認してから帰るのが当然だろう。何があるかはわからない。もしかしたらグランドベアを倒すのがこの森の目的であって、中心部には何もないかもしれない。
だが、それはそれで利用価値がある。
俺はあくまで情報屋。中心部に何かがあるのか、あるいは何もないのか。その情報だけでも、取引の材料にすることは充分可能だ。
大事なのは、俺が情報を知っていること、俺の手札を増やすことだ。正直、その為だけに探索してたようなものだからな。別に強くならなくても構わない。必要最低限、情報を集めに行けるだけの戦闘力があれば問題ない。
そして、その為にはやっぱりソロ活動が望ましい。さっきはつい、仲間がいないから厳しいとかぼやいてしまったが、基本は単独で行動すべきだ。できるだけ情報は独占しないと。一人でも掲示板に書き込めば、そこで「情報」は「常識」に変わってしまう。
「つまり情報屋に必要な要素とは、迅速! 独占! 交渉! …………この三つだな」
改めてプレイスタイルの確認をし、気合いを入れる。中心部に向かって意気揚々と歩き始めた。
◆◆◆
「うわぁ……すごいな」
森の中心部、多くの木を潜り抜けてきた先。もちろん道なんて存在せず、かき分けるようにして到着した。奥に近づくにつれて木がどんどん密集していくので、通るのが大変だった。モンスターに出会ったら非常に戦闘しにくいだろうな。だけど幸いなことに、一体もモンスターと遭遇することはなかった。
そこにあったのは巨大な湖だった。
池でもなく沼でもなく湖。反対側の岸辺までは、直線距離でだいたい百メートルくらいだろうか。現在の時刻設定が夜なので、薄暗くていまいちわからないが、水は透き通っているのだと思われる。
ちなみにゲーム内時間が夜であっても、真っ暗と言う訳ではない。流石に全く見えないとゲームにならないので、灯りのない場所でもうっすらと見えるように設定されている。
せっかくなのでスクリーンショットを撮影しておく。残念ながら暗くて分かりにくい。できれば昼の景色も撮っておきたいところだ。
「いやー、絶景だな。中心部にこんな巨大な湖があったとは……」
(ゴポゴポゴポゴポ…………)
なんだ、今のは……? 間違いなく泡の音がした。
湖の方を凝視する。岸辺の近く、水面に泡が立っている。泡は徐々に大きくなっていく。少しずつ水面が盛り上がっていき、俺の背丈を超えるくらいの水柱が立ち上がり、はじけた。
「おいおい、なんだこいつは……? グランドベアがこの森のボスじゃなかったのか?」
水柱が噴水のように飛び散り、霧に変わる。その中から現れたのは一頭の馬だった。いや、正確には馬のような生き物だ。全身が綺麗な青色で、しかも透き通っている。前半分は馬の体を持っているが、腹から後ろは魚のような体に尾びれがついた不思議な生き物だ。半馬半魚とでもいうのか。頭の上にゲージが浮かんで見えるから、モンスターなのは間違いなさそうだ。
「いや、なんかそんな話をどっかで聞いたような……」
神話か何かで、そんなモンスターの存在を聞いた気もする。そうだ、名前を見たら思い出すかもしれない。早速鑑定してみた。
─────
???????
大森林の???。全??水で???おり、??攻撃を無効?す?。遠??に?水??、近??には突?で??してくる。弱点は??。
─────
鑑定してみたものの、情報どころか名前すらわからなかった。上級モンスターには鑑定が通じないのはグランドベアでわかっていたが、こいつはそれを更に遥かに超えるモンスターらしい。名前がないと不便なので、仮に「水馬」と呼ぶことにする。
岸辺に上がってきた水馬は、そこで立ち止まった。後ろの半身が魚だから、実質前脚だけでバランスを取っている、器用な立ち姿だ。
しかし、そこからのアクションがなかった。立ち止まったまま、特に何をするでもなく、水色の瞳でじっと俺を見つめている。俺との距離は十メートルもない。攻撃しようと思えばできる距離だ。
どうする……? 何をするべきだ?
試しに一歩、前へ踏み出した。それに反応してか、水馬もこちらへ向かって一歩進む。更にもう一歩踏み出す。水馬は警戒するように頭を低くし、こちらを睨み付ける。
「……?」
どうやらむやみに攻撃してくるタイプ、いわゆるアクティブモンスターではないようだ。俺が湖に近づくのに反応している感じだ。湖の守り手のような存在らしい。逆に遠ざかると、何もせずにこちらを見ているだけだった。
このまま撤退すれば、おそらく襲ってくることはないだろう。……しかし、しかしだ。せっかくこんな、森の最奥みたいな場所に来ておいて、あっさり撤退というのもなんだか勿体ない気がする。いまいち納得できない。
……いっそのこと、最初から死ぬつもりで戦ってみようか。
うん、それがいい。そうと決まれば手始めに、どんな攻撃が効くのか、攻撃パターンはどうなのか、あれこれ実験してみたらどうだろう。
よし、検証を始めるか。俺は魔法玉をアイテムボックスから取り出し、地面に置いた。ひとまず属性ごとに全種類を並べて確認。その中から一つ持ってしっかり握りしめると、玉がぼんやり光り出した。これで安全機能が解除された。
右手を思いっきり振りかぶってぶん投げた。自分ではストレートの豪速球を投げたつもりだったが、魔法玉は山なりの軌道でポーン、と飛んでいった。やはり腕力が影響しているのか。こんなことなら、ステータスもう少し上げておくべきだったか。
水馬はゆっくり落ちてくる玉を眺めている。その場を微動だにしない。あと数センチで頭に直撃かと思ったその時。魔法玉は水に呑み込まれた。
いや、正確には違う。一瞬だったのでよく見えなかった。だが、水馬の背後から水が飛んできて、そのまま魔法玉をはたき落としていた。一応何かに当たったから、本来は魔法玉が発動する。だけど、今投げたのは火の魔法玉だった。発火しても一瞬で鎮火されてしまった。
「偶然波が起きた……訳ないよな。水馬の能力なのか……それとも他にモンスターがいるのか……」
何事も無かったように、水馬は俺の真正面に堂々と立っている。この位置からだと背後が見えないな。せめて横から見ないと…………。
「せー、のっ!」
もう一度魔法玉を投げる。ただし今度はさっきと違う。今度は両手に水と土の魔法玉を持って、連続して投げた。またしても山なりの軌道で飛んでいく。そして俺はすぐに左へ走った。
「『加速』!」
加速も使って一気に移動する。ただし水馬に近づく為じゃない。あくまで距離を保ったまま、横に回り込む為だ。真横から全身が見える位置に立ち、水馬をしっかり観察する。
俺が見た時にはもう、先ほどと同じように水がかかって魔法玉が叩き落とされる瞬間だった。だが、今度ははっきり見えた。
攻撃の正体は水馬の後半身、魚の体になっている尾びれだ。尾びれを湖面に浸けた状態から素早く動かして、水しぶきを飛ばしていた。
そしてもう一つわかった。水馬は連続で尾びれを振らないってことだ。なぜなら、先に投げた水の魔法玉は落とされたが、続けて投げた土の魔法玉はそのまま直撃したからだ。かすかだがダメージを受けて、HPゲージが減少していた。
俺はすぐさまナイフを構える。わずかでもダメージを与えたんだし反撃に備えないと。
しかし、予想外なことが起こった。水馬は湖へと軽く飛び込んだ。水柱が上がり、すぐに見えなくなる。数秒待ったが出て来ない。
「逃げたのか?」
俺はゆっくり湖に近づく。水中を覗いてみるが、何も見えない。すると、岸辺近くの水中に影が見えた。影は一瞬で大きくなり、こちらへ近づいてくる。
影はすごい勢いで水中から飛び出した。
「うおおおおぉぉぉぉ!?」
ザバァ、と水を吹き飛ばし、水馬は俺に向かって突進してきた。頭を少し低くして、頭突きするかのような姿勢だ。
反射的にナイフを前に突き出す。しかし、水馬は構わずに突進してくる。そのままナイフの先端が水馬に当たる。抵抗はなくすんなりと刺さった。だが、水馬は全く怯まなかった。
「あっ、ちょっ、待て!?」
突進の勢いは弱まらない。手首を握ってナイフを押さえる。腰を落として姿勢を低くするが、ほとんど踏ん張れない。勢いに負けて、ズリズリと押されている。まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。実際、俺は腕力にステータスを振ってないから、力に関しては微々たるものだし。
「これ無理だな…………『ハイジャンプ』!」
こういうのは粘っても、無理なものは無理だ。さっさと逃げて、他のアプローチを考えた方がいい。
上空から水馬を見下ろす。押さえていた俺がいなくなったから、勢いのまま転びそうになっていたが、前足二本で器用にブレーキをかけていた。
一つ一つの動作がなめらかというか、本物の動物っぽい感じが、現実かと錯覚させられる。まぁ、現実には半馬半魚なんていないけどな。
岸辺に着地する。振り向くと水馬は戦闘態勢でこちらに向かって構えている。対する俺は一歩でも下がれば湖に落ちるという、まさしく背水の陣だ。
さっきナイフが頭に刺さったはずだが、水馬には傷も何もなかった。HPも全く減っていない。やはりあの水のような体は、物理攻撃が効かないと見ていいだろう。
「やっぱり魔法攻撃じゃないとダメかな……」
俺は魔法使いじゃないし、使える手段は魔法玉しかないな。さっきから火、水、土と試してきたが、これはおそらく効かないだろう順だ。
湖にいるし、体が水で出来てそうだし、どう見ても水属性と思う。だから本命の魔法玉を取っておいた。そう、雷の魔法玉を。
水馬は前足で地面を掻いている。まるで牛のように今から突っ込むと言わんばかりだ。一方、俺は雷の魔法玉を握りしめ、足を上げてピッチャーのように振りかぶった。
一瞬の緊張。俺と奴が動いたのはほぼ同時だった。走り出すと同時に、俺は力一杯ぶん投げた。まぁ、やっぱり俺の投げた玉は山なりだったが、それでもなんとかまっすぐ当たる軌道で飛んでいった。
魔法玉は水馬の頭に当たったところで軽く跳ね、バチバチと電撃が放出される。電撃はみるみるうちに水馬の全身へとまとわりついた。水馬は体を強ばらせて一瞬跳ねたところで、若干後退りした。
「おおお……!? これは……」
今までの攻撃に比べれば、効果がはっきり見える。見た目通り雷属性が弱点なのは間違いない。だが誤算だったのはあまりにもダメージが少ないことだ。弱点属性の攻撃を喰らったはずなのに、HPがほんのわずかしか減っていない。
単純に防御力が高いのか、それとも魔法玉が大した威力じゃないのか。……おそらく両方だろう。いや正確には俺自身が弱すぎるんだ。
実際、たったレベル3でここまで到達してしまったが、運営側もこんな低レベルでたどり着けるとは思ってなかっただろう。しかもソロで。
だから勝てないのは、ある意味当たり前だ。しかし……しかし、だ。もし仮に倒す手段を見つけられたら? 誰よりも早く発見し、その情報を商売に使えたら、俺は凄腕の情報屋として認識されるのではなかろうか。
他のプレイヤー達はまず、グランドベアを発見するだろう。そして倒す為にレベルを上げて装備を用意する。つまり、この水馬が見つかるまでの時間的猶予がしばらくあるはずだ。その間になんとか準備を整えれば不可能じゃない……多分。
そうと決まれば、早速準備を進めなければ。とりあえず、ナイフが効かないのはわかったし、手持ちの魔法玉だけでは不安だ。検証を続けるのは厳しいので、ここは一度撤退だな。
再び突撃の準備を始めた水馬を無視して、やってきた方向へと走り出す。そのまま森の中を駆け抜ける。そして森を出たところで一旦ログアウトした。帰ってきてずっとプレイしているからな。そろそろよーちゃんが様子見に来るかもしれない。
ちなみにグランドベアは同じ場所にまだいたので、もう一回潜伏して通り過ぎた。
ログアウトして軽く体をほぐす。背伸びしてから時計を見ると既に二時間ほど経っていた。リビングに下りるとちょうど夕食の用意が終わるところだ。
「ひーちゃん、ご飯できたよ~」
エプロン姿で食事の支度をしていた我が姉は、笑顔で迎えてくれた。
うちは本来、四人家族だ。しかし現在は、父さんの単身赴任に母さんも付き添っている為、実質よーちゃんとの二人暮らしになる。
だからといって、別に不都合はない。ずっといない訳ではなく、父さんも母さんも時々様子を見に帰ってくるし、連絡も取り合っている。何より、ゲームに集中してても怒られることが無いのが素晴らしい。
「ひーちゃん、ゲームどう? 面白い?」
二人で和やかに食事を摂っていると、よーちゃんに質問された。珍しいな。普段はあんまりゲームに興味なさそうなのに……。
「ああ、まだほんの序盤だけど、かなり面白そうっていうか、やりがいはありそうだな。どうかしたの?」
「ううん。別に~?」
「……?」
俺の言葉に満足したのか、にこにこと笑っていた。違和感はあったものの、特に気にするほどでもないだろう。
◆◆◆
さて、後片付けその他もろもろを終わらせて、再度ログイン。このまま深夜までがっつりプレイの予定だ。
無事にシラハナまで戻ったものの、やることがいっぱいある、というかありまくりだ。とりあえず、状況を整理してやるべきことを書き出してみよう。
・装備品の買い換え
・魔法玉の補充
・情報操作
まず装備品の買い換えだな。本来は装備を整えてから、戦闘に行くのがゲームの基本中の基本だ。急ぐあまりその辺をおろそかにして、森へと踏み込んだ訳だが……予想外の大物に出会ってしまった。という訳で、そこそこいい装備を買いに行くとしよう。
二つ目は魔法玉の補充だ。あの水馬には見た目通りというか、雷属性の攻撃が効いていた。だから今度は、雷の魔法玉だけを徹底して買えるだけ買い占めて挑もうと思う。
……正直、めちゃくちゃ金がかかりそうだ。弱点とはいえ、魔法玉一発で大したダメージは入ってなかったし、何十発当てれば勝てるのか予測がつかない。莫大な資金が必要になってくるな、これは。
嘆いてても仕方ない。幸いなことにモンスターから素材は大量にドロップしている。これを売り払えば少しは資金の足しになるだろう。
三つ目は情報操作だ。これが一番重要で難しい。おそらく、他のプレイヤー達はグランドベアが森のボスだと思ってるはず。しかし、実際には水馬が更に奥に存在している。
現状、水馬のところまでたどり着いたのは俺だけだろう。だが、時間が経てば経つほど、知られてしまう可能性は上がる。誰かが見つけてしまえば、あっさり掲示板でばらされてしまうかもしれない。この情報をどう扱うか……難しいが見極めが大事となってくる。
先ほどログイン前に、ネットで掲示板をざっと探ってみたが、水馬に関する情報はまだ何もなさそうだった。というか、書き込み自体がまだほとんどなかった。皆プレイする方に夢中なんだろう。
ということは、まだまだ余裕はあるはず。ひとまず、やれることからやって行こう。手始めに武器の新調からだ。
◆◆◆
ログイン後、まっすぐ武器屋へとやってきた。前回聞き込みで得た情報の中には、武器屋に関する情報も当然あった。なんでも武器の販売は細かく専門店が分かれているらしい。
まぁ当たり前といえば当たり前か。杖を作るのと剣を作るのでは全く工程が違うし、同一の店で作ってる方が珍しいだろう。
という訳で、短剣を手に入れるべくやってきたのが、この店だ。看板には大きく『ワイルド武具店』と店名が書かれている。なかなか大きな造りの店だ。
一応聞き込みでは、剣のことならこの街一番の店だという話だった。しかし、剣に関して他の店の情報がなかったので、街に一軒しかない可能性もあるが……。
とにかく入ってみるか。意を決して入った店内はまさしく武器屋といった感じだった。壁一面にずらりと武器が固定され、あちこち置かれた樽には無数に剣が差してある。
他にも二、三人プレイヤーが剣を眺めていた。見たところ質素な装備なので、最初に武器を買いに来たんだろう。
「いらっしゃいませー」
「ん?」
意外にも、店番しているのは若い女性だった。愛想よく店内を見回している。ワイルドという店名が全く似合わないな。
俺は早速近づき、話しかける。もちろん武器は買うが、その前に素材を買い取ってくれるかどうかの確認だ。
「すみません、買い取りをお願いしたいんですが……」
「かしこまりました。素材を見せていただけますか?」
カウンターの上に角や爪など、いくつか買い取ってくれそうな素材をおく。流石に武器屋で肉とか草は必要なさそうなので、それはしまったままだ。
「うーん、そうですね……このくらいの素材でしたら……まとめて1万Gですね」
「おお……」
予想していたよりも高値で売れそうだ。これなら装備もいくつか揃えられるかも……。そうだ、もう一つ売れそうな物を忘れていた。
「あと、これって買い取りできますか?」
「こ、こ、これは……」
お姉さんは目を見開き、口に手を当てて震えている。なんだ? 何かおかしなこと言ったか?
「あの、何か……」
おそるおそる声をかけると、ハッとしたようにこちらを向いた。本当に感情表現豊かなシステムだな。
「し、失礼しました。驚いてしまって」
「これがですか?」
俺が見せたのは雷の魔法石だった。散々モンスターを倒したものの、たった一個しかドロップしなかったあれだ。名前からして、サンダーキャットからドロップするのは間違いないと俺は判断した。だが何匹も何匹も倒して、結局手に入ったのはたった一個だった。
俺の運が相当悪いのかそれとも貴重な品なのか疑問だったが、お姉さんのリアクションから考えて、どうやら後者らしい。
「これってそんなに珍しいんですか?」
「ええ、それはもう! サンダーキャットの体内で生成されるものなんですけど、滅多に見つからないんです! 今のところ、年老いた個体が持っている可能性が高いと言われているんですけど、必ずしもそうじゃなくてその謎は未だに解明されていなくて……!」
「わ、わかりました。ちょ、ちょっと落ち着いて!」
興奮して早口でまくし立てるお姉さん。グイグイ顔を近づけてくるので、慌てて押し戻す。再び我に返ったようだが、若干頬を赤らめていた。
「す、すみません……つい」
「いえ、価値の高い物というのはわかりましたから」
どうやら俺の予想以上にレアなアイテムだったらしい。情報屋の勘が告げている。これは一儲けできそうな予感がする。おっと、今はそれより資金集めだ。改めて値段を確認する。
「それで、いくらくらいで買い取って頂けますか?」
「………………」
しかし、お姉さんは黙って考えこんでしまった。しばらく動きが止まっている。俺はその間に周りを見回す。結構長いことやり取りしているので他のお客に迷惑かと思ったが、特にそんなことはなさそうだった。
剣を見比べて悩む奴、一番上の棚に向かって背伸びする奴、アイテムボックスを確認する奴と様々だ。まだ購入する気は無いらしい。
お姉さんの方に向き直った瞬間、ポーンと通知音が鳴った。
「ん?」
『【アイロ】との交流度が上昇しました』
このタイミングで交流度が上がった? ……ってことは、何か会話内容に変化が生じる? ……今関係ないがお姉さんの名前、アイロって言うのか。店名のワイルドとはいったい……。
「あの、提案があるんですが」
「ん?」
「もしよろしければ、この魔法石を武器に使わせて頂けませんか?」
「んんん?」
詳しく話を聞くと、こうだった。
魔法石とはそもそも、魔法の属性が込められた石のことである。それらは専門家の手で加工し、道具に組み込むことでその属性の効果を発揮する。例えば水の魔法石を組み込んで、水流が出る槍とか。
つまり、アイロさんはこの魔法石を使って属性武器を作らせてもらいたい、ということらしい。
「お願いします! 久しぶりの魔法石で、ぜひ仕事がしたいんです!」
「それはわかりましたが、譲るという訳には……」
そこは譲れない。俺はまだ自称だが情報屋だ。情報を売買するという意味では、商人ともいえる。いくらなんでも、一方的に損する取引をする訳にはいかない。目先の利益だけ求めてはいけない、とも言うが今はまず、装備を揃える為のお金が最優先だ。
「いえ、譲っていただくのではなく、お預かりして加工したいんです」
「それはどう違うんです……?」
「そして加工した武器を、通常の値段であなたにお売りするんです」
「え、それってどういう…………いや待てよ」
そうか、そういうことか! 属性武器は特殊な加工がされている分、普通の武器より値段が高くなる。それは魔法石が希少で、仕入値もかかってしまうという理由もある。
しかし今回は、俺が持ち込んだことで仕入値はゼロだ。それで取引を行えば、実質アイロさんは武器が一本売れて得、俺は普通の値段で属性武器が手に入って得、と両方とも得することになる。
単純に魔法石を買い取るだけでも別に損は無いのだが、俺がその金をどう使うかはわからない。アイロさんからすれば、買い取って属性武器を作っても、それが売れる保証はない。
だから、確実に武器が売れるだろうこの取引を持ちかけてきた訳だ。なかなかに商売上手だと思うが……一つ穴があるな。
「でも、それだと手数料が考慮されてないのでは? 普通の武器より造るのは大変でしょう」
「確かにその通りですね……。でもここでサービスしておけば、また魔法石をうちに持ち込んで頂けるかもしれません。ですからこれは、先を見据えたサービスです」
そう言ってアイロさんはにこりと微笑んだ。なるほど、先行投資ってことか。しかし、俺にとってかなり有利な展開に話が進んでいるが……これが交流度の効果なのか。だとしたら【話術】スキル様々だな。
まぁここまで言われたら、俺としても反対する理由はない。
「……わかりました! このお話、ぜひお受けします!」
「ありがとうございます!」
打ち合わせの結果、ナイフを作ってもらうことになった。【短剣】スキルを活かせるから当然の選択だ。
完成には一日かかるとのことなので、また出直すことにした。ゲーム内の時間は現実世界の三倍の速さで動いているので、現実世界だと今日の深夜には一日経過する計算になる。
いやーお得な買い物ができて幸先がいい。しかも【割引】スキルも持ってるから更に安く買える。
「……ちなみになんで『ワイルド武具店』って名前なんですか?」
「ワイルドは私のおじいちゃんの名前です」
「謎がとけた」
この日はこれでログアウトした。
気が向いたらポイントをお願いします。