02 情報屋さんと大森林
とりあえず2話目も投稿します。
後ろの棚からカウンターの上に出されたのは、テニスボールくらいの玉だった。全体が真っ赤に塗られており、数字の「1」が黒で大きく書かれている。
「これは魔法玉というアイテムです」
「魔法玉……?」
「ええ、名前の通り魔法が封じ込められた球体なんです」
俺は指でつつきながら、色んな角度から魔法玉を眺めていた。
「使い方は簡単ですよ。何かに当たると割れて、当たった物に向かって魔法が放たれるんです」
「えっ!?」
説明を聞いて慌てて指を引っ込めた。暴発でもしたらやばい。
それを見てお姉さんはクスクスと上品に笑っていた。
「大丈夫ですよ。まず最初にギュッ、と握り締めないと待機状態になりませんから」
待機状態にして何かにぶつけて初めて発動するものらしい。逆に待機状態じゃなければ、思いっきりぶつけても何も起こらない。びっくりさせるな、全く。
「魔法が出るって、具体的には何が出るんです?」
「その赤い玉は【火魔法】の『ファイアボール』ですね。火の玉が飛んでいく感じです」
「へぇー……この数字は?」
「それは魔法の強さを表してるんです。数字は五段階に分かれていて、数字が大きい方が強い魔法を封じ込めてあるんですよ」
炎が出てくるなら店の中で試すのは無理だな。それにさっき、使うと割れると言っていた。一応確認しておくか。
「これは何回も使えるものなんですか?」
「いいえ、一回使うと粉々に割れて消えてしまうので、使い捨てですね」
やっぱり使い捨てか。それにファイアボールは確か、火魔法の中でも一番初級の技だったはず。ベータテストの時に、何人か使ってるのを見たことがある。
試しに買って使ってみるかな……?
「ちなみにお値段は……?」
「このレベル1の魔法玉ですと、一個100Gですね」
「安っ!」
マジか。俺の手持ちが10万Gだから、百個買ってもまだまだ余裕だぞ。安いのはありがたいが、安物なんじゃないかとかえって不安になるな。
「なんでそんなに安いんです?」
「それはですね、このシラハナには、昔から駆け出しの冒険者さん達が集まりやすいんです。なので応援する意味で、他の都市に比べてどこも物価が安いんですよ」
「ああ、つまり魔法玉くらいなら大した値段にはならないと」
「そういうことですねー」
始まりの町だけあって、そこまで強力なアイテムは手に入らないのだろう。その分、比較的値段が安い訳だ。
「せっかくだからその魔法玉、いくつか買おうかな」
「ありがとうございます! おいくつにしますか?」
「あ、百個で」
「百個ですね、わかりま……百個!?」
棚の方を向いたと思ったら、バッとこっちを振り返った。目を丸くして驚いている。本当に人間としか思えない反応だ。
「本当に百個も買われるんですか……?」
「もちろん百個です」
しつこく確認されたので、こっちも念を押してみた。しかし俺も無策で言ってる訳じゃない。
「その代わり……」
「その代わり?」
「若干お安くして頂けると助かります」
「え? ………………フフッ、フフフ」
お姉さんはキョトンと真顔になった後、また笑い出した。そんなに面白かったかな。
お姉さんは、百個で1万Gになるところを9000Gで売ってくれた。話をよくよく聞いてみると、魔法玉は火魔法だけじゃなく、水、風、土、雷と何種類も魔法があるらしい。それぞれの属性の魔法が飛び出すんだとか。
一応魔法玉がどれくらいあるのか確認させてもらった。魔法玉は威力が一段階違えば、値段も倍になっていくという。どれくらい強いのか気になるところだ。
俺は各魔法のレベル1の魔法玉を二十個ずつ購入した。
「……はい。これでちょうど百個ですね」
「どうもありがとうございます。お手数かけました」
「いえいえ。これを機会にちょくちょく買いに来て下さいね」
最後まで、とても愛想のいいお姉さんだ。……ここまできたらせっかくだからやってみるか。俺は興味本位で質問してみた。
「あの、最後に聞いていいですか」
「なんでしょう?」
「お姉さん、お名前は?」
「私はリアと言います。よろしくお願いしますね」
おお、やっぱりNPCにもそれぞれ名前がちゃんと設定されてるのか。思ったよりさらっと教えてもらえたな。
「おや? …………もしかして」
購入した品物を受け取りアイテムボックスに入れたところで、ポーンと通知音のような高い音が聞こえた。店内を見回すが他に客はいないし、変わったものもない。
ちなみにプレイヤーは全員、アイテムボックスという異空間にアイテムを収納することができる。収納したアイテムはいつでもどこでも自由に取り出し可能なので、荷物がかさばる心配はない。また、同一のアイテムであれば一種類につき、最大百個まで収納できる仕様になっている。
メニュー画面を開くと、通知が届いていた。
『スキル【割引】を入手しました!』
『スキル【話術】を入手しました!』
『雑貨屋【リア】との交流度が上がりました!』
おいおい、なんだか面白そうな感じの通知が来てるぞ。順に確認していこう。
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【割引】
商品購入時に常に一割引で購入することができる。
*パッシブスキルの為、アーツは存在しない。
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【話術】
NPCとの会話で交流度が上がりやすくなる。
*パッシブスキルの為、アーツは存在しない。
─────
これはツイてるな。今後何を買っても割引してもらえるってことだから、資金面で非常に助かる。便利なスキルだ。
あとは……交流度? 説明には無かったし、ベータテストでも聞き覚えがないな。
メニューからヘルプを参照する。項目を検索していくと交流度が新たに追加されていた。
─────
交流度
NPCへの会話で上下する。交流度に応じて、そのプレイヤーへの会話内容が変化する。
─────
これはつまり、俗に言う好感度みたいなものだろうか。説明がかなりあっさりしていてわかりづらいが、仲良くなればレアな情報をくれたりするかもってこと………のはず。
「上下する」 ってことは下がれば態度が冷たくなったりもあり得るんじゃないか。その場合、【割引】は適用されるのか?
まだまだわからないことだらけだ。情報屋を目指しているからには、この辺の可能性は是非とも裏を取りたいところだが……自分で実験するのはリスクが大き過ぎるな。
「まぁ今は検証は置いといて……【大森林】の探索の方を優先させるか」
俺は街の外に出る為、ひとまず門へと向かった。
街の南側に向かって、ひたすらまっすぐ歩くと巨大な門が見えてくる。そして門の横から延びる壁で、街全体は囲まれてい る。多分モンスターの侵入対策なんだろう。
門の外には見張りらしき兵士が立っていたが、横を通っても特に何も言われなかった。門自体も常に半開き程度で固定されてるし。推測だが、モンスターが街に向かってくるような緊急時に仕事するんだろう。
門を出るとすぐ真正面に【大森林】が待ち構えていた。一応辺りを見回すが、右も左も草原が広がっている。
周りには、同じようにキョロキョロしているプレイヤーが大勢いる。みんな似たような初心者っぽい装備だが、中にはしっかりした鎧や武器を持ってる人もいる。どうやら武器屋でしっかり準備を整えてきたらしい。
「やっぱり武器買っとけばよかったかな」
まぁ一回目の探索だし、あまり長居するつもりはない。実際にどんなモンスターがいるか確かめてから、必要な武器を用意しても遅くはないと考えた。
「それじゃ行きますか……」
森の中は暗くて奥まで見通せない。多少不安になりつつも最初の一歩を踏み込んだ。
◆◆◆
中に入ってみると、思ったより動きやすかった。足元の茂みは多いものの、木が生えている間隔は結構空いているので、長剣なんかは問題なく振れるだろう。
「お? ……来るか」
ガサガサと近くの茂みが揺れた。と思ったら次の瞬間には目の前に白い塊が飛び出してきた。
目の前にいたのは白いウサギだった。それもかなりの大きめの。多分サッカーボールと同じくらいで、頭の中心に長い角が生えている。どうやらこちらに気付いたようだった。
「『鑑定』」
─────
フォールラビット
高く飛び上がり、急降下してくる兎
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鑑定をかけてから、持っていた短剣を構え直す。その間にフォールラビットはプルプルと震えるような動きを見せていた。しかし次の瞬間、思いっきり高く飛び上がった。俺の身長を軽々越える高さだ。最高点まで到達したところで、角を俺に向けて勢いのまま落ちてきた。
俺は体を横にずらしながら、腕を後ろに引く。そして振り抜きながらアーツを使った。動きが事前にわかっていれば、迎え撃つのは簡単だ。
「『スラッシュ』!」
目論見通り、ナイフは向かってくるフォールラビットを一刀両断にした。なんというか、飛んできたボールをバットで打ち返すような感覚だった。
切り裂かれたフォールラビットは、軽い音と共に消滅する。頭の中にアナウンスが流れる。
『レベルが2に上がりました』
よしよし、順調だな。ステータス画面を開き確認する。またステータスが少し上げられるようになっていたので、速度に全振りしておいた。気のせいかもしれないが、体が軽くなったように感じる。
一息ついたところで、茂みから続々とウサギの群れが出てきたので、同じやり方で狩っていく。攻撃のやり方が、基本的に飛び上がって落ちてくるしかないので、非常に楽だな。
そうだ、ついでにあれを試して見るかな。
ナイフで確実に切り裂き、敢えて一体だけフォールラビットを残す。ひたすら回避しながら、ジャンプ時の高さをよーく観察する。そしてアイテムボックスから赤い魔法玉を一つ取り出した。握り締めると薄ぼんやりと光り始めた。
「よく狙って…………今だ!」
飛び上がるタイミングに合わせて、予測した到達点に向かって投げつける。吸い込まれるように、腹部へと命中した。ポヨンと軽く弾んだが、瞬時に二つに割れた。中から火の玉が飛び出してフォールラビットへと向かって飛ぶのが見えた。そのまま空中でフォールラビットは消滅していった。
「あー、こんな感じなのか」
魔法玉の効果を実感したところで、先へ進む。
マップを見ながら、徐々に森の奥へ奥へまっすぐ進んでいく。現在地以外の詳しい情報は表示されないのだが、方角は分かるのでひとまず森の中心部へ向かってみようと思う。
その後、奥に進むにつれて多数のモンスターと遭遇していた。最初はウサギばかりだったが、突撃してくる野犬、火を吐く狐、電気をまとう山猫、巨大な毒蜂などなど多数のモンスターと戦闘していた。
犬や猫なんかはなんとか一撃で倒せたが、狐や蜂はそうもいかなかった。やはり、奥の方にいるモンスターは徐々に強くなるらしい。
ドロップアイテムもいくつか手に入った。兎を数匹倒すと【折れた角】【兎の肉】なんかがドロップした。肉は結構頻繁に落ちたのに対し、角は数本しか手に入らなかった。おそらくレア寄りのにアイテムなのだろう。
そして中でも目を引いたのは、サンダーキャットを倒した時に落ちた【雷の魔法石】だな。
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折れた角
フォールラビットの角。頑丈で滅多に折れない。
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兎の肉
焼いて食べると美味しい。
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雷の魔法石
雷の魔力を帯びた石。雷属性の魔物の体内で生成される。
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卵くらいの大きさの、黄色くてまん丸な石だ。こういうのは経験上、何かの素材になる可能性が高い。森から戻ったら検証が必要だな。
火以外にも、風、土、水、雷と各魔法の魔法玉も一通り試してみた。
『ウインドボール』は緑色の旋風がくるくる回ってるのが見えた。『アースボール』はなんというか泥団子をぶつけたような感じで両方ともいまいちな気がする。属性が苦手なモンスターには効くのかもしれないな。『ウォーターボール』と『サンダーボール』は体感だが結構効果が高かった。あと、見かけが派手で結構カッコいい。
メニューからスクリーンショットの撮影が可能らしいから、上手いこと撮影できれば、いい絵になりそうだ。
「感覚では結構進んだ気がしたが……」
マップを見るとそうでもない。街から森の中心までの距離だと、現在地はだいたい七割くらいの地点だな。本当はモンスターとほどほどに戦ったら、森を出るつもりだった。しかし、ついつい勢いに乗って、こんなところまで来ていた。
ここまできたら、行けるところまで行きたい気持ちはあるな……。
学校から帰ってきてからずっとログインしてるので、二時間ほど探索してる計算になる。ここらで一旦ログアウトして、休憩にするべきか。まだまだ余裕だが、長時間VR機器を使用すると警告が発生することもあるからな。
そう思って周辺を見回す。モンスターが付近にいないことの確認だ。街中ならメニューを操作すれば、いつでも好きなタイミングでログアウトできる。
だが街の外でログアウトする場合、戦闘中ではないことが条件となる。具体的にはモンスターに認識されていないことだ。
そう思って周りをみたが……ちょうど何もいなさそうだな。安心したその時だった。
「なんだ、今の?」
ズシンと重い音が響く。振動で地面がわずかに揺れたような感覚がした。
「方角的にはあっちだな……」
森の奥からズシン、ズシンと断続的に響いている。一定のリズムからして、これは足音じゃないか?
突然、茂みからビッグホーネットが飛び出してきた。こっちに一直線に飛んでくる。俺は慌ててナイフを向けて構えた。このまま突撃してくるつもりかもしれない。
しかし、ビッグホーネットは俺を無視して通り過ぎると、そのまま何もせず後ろへと飛び去っていく。
同様にファイアフォックスやサンダーキャットも茂みから現れて、俺の足元をすり抜けるように走っていった。どいつもやはり、どこかを目指しているというより、何かから逃げているような印象を受けた。
戸惑っている間にも音はどんどん大きくなり、こっちへ近づいてきた。すぐ近くの木が何本もガサガサと激しく揺れている。
俺はとっさに木の後ろに隠れていた。できるだけ身を縮めて姿が見えないようにする。そのまま、そうっと頭だけ出して音の方向を窺う。
木々を掻き分けて向こうからやってきたのは、大きな熊だった。全身が真っ黒で、腹の真ん中に白い三日月模様がある。巨体を揺らしながら、二足歩行でゆっくりと歩いてくる。三メートルを超えるだろう巨体からは、本物の熊のような威圧感を感じる。……現実世界で本物の熊を見かけたことはないけどな。
さっきからずっとモンスターと戦い続けていたが、こんなモンスターは見たことない。試しに鑑定してみるか。
─────
グランドベア
大??のボ??ン?ター。?度は??が、?撃?重??い。
??は?中の古?。
─────
「何だこれ……!?」
説明が穴だらけで、全然読めない。モンスターに鑑定を何回も使っているが、こんな現象は初めてだ。
グランドベアはゆっくりのそのそ歩きながら、辺りを見回していた。鼻を鳴らすような動作が目につくけど、匂いを感知してるのか? 身も蓋もない言い方するなら、AIがセンサー感知で周辺を調べているのを、匂いを嗅ぐ動作で表現してるって感じか。
かくいう俺は、じっと身を潜めていた。正直すぐ撤退したいところだが……難しい。なぜなら、グランドベアは俺のいる木のすぐ前に座り込んでしまったからだ。俺からだとグランドベアの脇辺りがちょうど見える位置だ。
さて、どうするべきか……考えられる選択肢はいくつかある。
一つは戦うこと。
だがこれは厳しい気がする。ただの勘だが、グランドベアなんて名前のモンスターが通常のモンスターとは思えない。説明文の見えない部分だが、ボスモンスターと当てはまるのかもしれない。
俺はさっきからモンスターを狩ってたものの、まだレベル3だ。モンスターにレベル表示はないが、換算すると俺の倍くらいある……と思う。いくら最初の街のそばとは言っても、ボスだったら相当強いだろう。
こういう場合、というかRPGの基本は仲間と協力して強敵を撃破することだ。だが、今の俺は完璧にソロだ。ぼっちだ。助けを呼ぶようなフレンドもいない。充分な装備も道具もない。魔法玉だけは大量にあるが、これだけでボスに勝てるとは思えない。
ないない尽くしが過ぎる。戦う案は却下だな。
もう一つは、逃げることだ。これならいける気がする。一切振り向かず、後ろを見ずに全力疾走。素早さに極振りしている俺なら何とかなりそうだ。いや待てよ、熊って結構足が速かったよな……? もし、追いかけてきた場合、いわゆるトレインというか迷惑行為になるのでは……?
それはまずい、非常にまずい。
俺が目指しているのは、ミステリアスでクールな謎の情報屋。こんなサービス開始したばかりの段階で、目立ってしまうのは最悪だ。万が一、他のプレイヤーに出会ったら、あとで掲示板に書き方されるかもしれない。はためい
という訳で、撤退案にも不安が残る。
戦闘も撤退もリスクがでかい。もういっそ、わざと死んで戻った方がいいか……そう思った時だった。またしても、脳内に通知音が響いた。慌ててメニュー画面を確認する。
『スキル【潜伏】を入手しました!』
『スキル【消音】を入手しました!』
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【潜伏】
五分間気配を消し、モンスターに見つからなくなる(プレイヤーには効果無し)。モンスターに触れると解除される。
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【消音】
自身の行動による音が発生しなくなる(声は無効不可)。
*パッシブスキルの為、アーツは存在しない。
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なんだかスキル構成が、情報屋というより暗殺者に近くなってる気がする……。ま、まぁそれは後で考えるとして、これは今の状況にぴったりのスキルだ。追いつかれないように逃げるではなく、見つからずに逃げられる可能性が出てきた。
グランドベアは変わらず座り込んでいる。じっと見ていても動く気配はない。耳をすませてみても、周囲から何の音もしてこない。他のモンスターはグランドベアを恐れて寄ってこないし、他のプレイヤーもここまで来る気配はない。
というかむしろ、俺がレベル低いのに奥まで来過ぎたんだ。助けも望めないし、ここは一つ【潜伏】を試してみるか。
「『潜伏』」
一瞬、体がひんやり涼しくなった気がする。譬えるなら、暑い場所から冷房の効いた部屋に入った瞬間のような、爽やかな涼しさを感じた。
「あれ? 透けてる?」
見下ろすと俺の体は透けていた。と言っても、透明と言うほどじゃなく、すりガラスのような、いつもより自分が薄く感じるような、幽霊にでもなったようだ。
その状態のまま、思いきって勢いよくグランドベアの目の前に飛び出した。驚いたことに、着地時に全く何の音もしなかった。茂みの葉っぱが揺れる音とか、地面と靴がこすれる音とか、そういう音が全くしない。これが【消音】の影響か。
【潜伏】と合わせると、本当に幽霊みたいな感覚だ。まぁプレイヤーには見えてるらしいし、物をすり抜けたりはできないらしいけどな。もしかしたら、そういうスキルもあるのかもしれない。
ともかく、文字通り目と鼻の先にいるグランドベアは俺の存在に全く気がついていないようだった。座り込んで、時折周りをキョロキョロ見回している。
試しに目の前で手を振ってみた。かすかに風が来るのに反応したようだが、それだけだ。見回すばかりで、特に行動を起こすことはなかった。
これで安全に逃げられる。効果時間も五分とあんまり無いし、さっさと街まで撤退を…………いや、待てよ?
「もしかして……このまま奥に進めるかも?」